魔術師セナリアンの憂いごと

第２３話

向こう見ずな計画４

「へっ、へっ、シャ、シャ、シャーロット様！？」

　ミルルは目を見開き、涙をこぼし始めており、父であるリンダー伯爵が支えながら、赤子の様にハンカチで拭っている。

　一方、オリラはというと、ふおっ！と言って立ち上がったはいいものの、気絶寸前のようで、ライラにグッと腕を持たれて支えられている。足は言われた通りにグッと力を入れているようだが、上半身がグラグラだ。

　ミルルはコルロンドに憧れており、ライラの妹であるオリラも、もちろんシャーロット・マクレガー、カサブランカ・コルロンドに憧れ、尊敬している者である。ジョンラとクレオンはそのことを分かっていて、二人を指名している。

　セナリアンはあらあらと微笑ましく二人が落ち着くのを見ていた。でも皆、なぜ嘘だろうとは言わないのだろうかとも思っている。

「このような身でよければ、喜んでお貸しします！」
「わ、私にそんなお役目、頑張りおっす！」

　ライラはチッ羨ましすぎるわと拗ねており、ライラは自分がと言ったが、確かにオリラの姿に変えることは可能だが、そうなると学園の状況が分からないので、意味がないと言われて、なくなく諦めたのだ。

　リンダー伯爵は姿を貸す間に、なぜかミルルを色々鍛えて置きますからと、鼻息を荒くしている。

「ありがとう、そんな緊張しないで、普通に話してくれていいから」
「はっ、はい！実は私たちもフェアリー・ルピーは、どうかと話していました。ねえ、オリラ」

　オリラはようやく座ったが、壊れた人形のように縦に首を振っている。

「ファウダン侯爵の息子、あと他にも令息が親しくしているのよね」
「はい、ノート伯爵令息、ミトイ子爵令息、コミラン子爵令息、あと名前は知りませんけど平民の生徒が二人」
「そんなに大所帯なのね」

　それは目立つだろう。風紀の乱れも目立つ分、起こりやすくなってしまう。

「そうです。平民の方とどうやって出会ったのかと話しておりまして。私たちはファウダン侯爵令息とは別のクラスなのですが、平民の男子生徒とフェアリーがズカズカ入って来るようなんです。でも文句も言えないって。ファウダン侯爵令息の婚約者は同じクラスなのですが、リーズラー伯爵令嬢は注意できるタイプではないので、見ないようにしているとか」

　役に立たなければとミルルは必死でフェアリー・ルピーのことを思い出していた。

　セナリアンは、リーズラー伯爵令嬢は言いたくても言えない相手なら、関わりたくないと思っているのではないかと考えている。

「確かに風紀が乱れているというのが、一番合うような状態ね。フェアリー・ルピーはどんな子か知ってる？」
「何といったらいいのか、私たちの中ではですけど、偽善者、物語の聖女ぶっているような子です。嫌味を言われても、生意気に見えたのなら、ごめんなさいって謝って、ファウダン侯爵令息が許しているんだからと庇うんです」
「傲慢な態度を取りはしないのね、だから罰せられない微妙なところなんでしょうね。生まれとかは何か聞いている？」
「確か、両親ともに平民で、祖父母に魔力があったから、隔世遺伝で魔力を持って生まれたと、両親は事故で亡くなっていて、魔力があったために学園に通うことになったと話していたと聞きました」

　隔世遺伝はない話ではない、ただ魔力のない両親からは産まれないのだが、そこは端折って話しているのかもしれない。魔術師仲間にもいる、両親より遥かに多い魔力を持つ孫が産まれ、でも両親は持て余してしまうということが起こるのだ。

　学園では魔力のコントロールを学ぶので、他の学校でもいいが、必ず通うことは義務付けられる。

「あと両親は行商をしていたから、故郷がないと話しているのを聞きました！」

　壊れたオリラが復活したようだ。