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第19話
綻びのない国なんてない6(ノイザール王国)
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「何かすごく杜撰な冤罪ですよね…部屋は調べられることはなかったですよね?」
「…はい、イヴァンが机に知らない物が入っていたと、私にも申し出ておりましたから。確かに微量の毒だったようです」
答えたのは前国王であるドルシードである。イヴァンも、もちろん覚えている。
あの日、授業を終えて部屋に戻り、机の引き出しを開けると、紙包みがあり、開けると薬のようなものであった。セナリアンが言ったように、杜撰な計画で救われたのかもしれない。マンドレーを警戒していたこともあり、陛下にすぐに届け出ていた。
微量の毒で、即死するようなものではなかったと聞かされたが、実際は違うのではないかと思っていたが、事実だったようだ。疑心暗鬼になっていたのだろう。
「っな!」
「あなたの冤罪はね、出て行くという王太子のおかげで、成り立っただけなの。あなたは自分の手で、なんて思っているかもしれないけど」
「母上に力なんてあるわけないだろう、嫌われているのに」
「っ!どうして、あなたがそんなことを言うの!」
マンドレーはフィラスを睨み付けており、仲が良い親子には見えない。
「母上は調子に乗っていたようだけど、一人で踊っていただけよ」
「兄が隣国に渡ったのも、面倒だったからでしょうね。何も知らないあなたは騒ぎ立てたわね、だから冤罪は冤罪ね。偽証罪と王太子への冤罪」
「そうですね、有耶無耶にすべきではなかった。私は息子にもうここにいたくはないと言われて、どうでもいいと思ってしまったのです。側妃がフィラスを傷付けることはないと思っていましたから、暴くこともしなかった」
「陛下っ!」
ドルシードとって、王妃はイヴァンの母親だけで、マンドレーはずっと側妃だったのだろう。実際、退位したドルシードとマンドレーは一緒に住んでいない。
「別人だろうと思っていたけど、どうでも良かったんだ」
「どうしてよ!私よ、あの時の女性は私なのよ!」
「今更、追及しても仕方がない」
マンドレーは認めたくないようだが、今更どちらでもいい。だが、マンドレーは姉から奪ったとしても、選ばれたという存在が重要だったのだ。
「事実が二つ、もういいだろう。あのような優しい女性なら、王妃とも上手くやってくれるのではないかと思った、姉君であっても上手くいったかは分からないがな」
「私は前王妃なのよ!!」
「公爵家に対して身の程をわきまえた人選だったはず、でも本人がこれではね。下品と言われるはずです」
ドルシードはマンドレーを無視して、フィラスに問いかけた。
「フィラスどうする?」
「兄上の名誉を回復出来るなら、どうにでもします」
「フィラス!私は母親なのよ!」
「うるさい人ですね、なぜそのように大きな声を出すのですか?」
「その方は意見が通らないから大きな声を出しているのでしょう」
「ああ、そうだったのですか。恥ずかしい」
マンドレーはひとまず幽閉とされ、離宮に連れて行かれた。最後まで大きな声で喚いていたが、フィラスはもう聞きたくない言わんばかりに耳を塞いでいた。死を賜るかはまだ分からないが、表舞台に出ることは二度とないだろう。
「それで国王陛下、あなたは綻びのない国を目指してらっしゃる。そのためにあの令嬢が必要ということですね?」
「はい、彼女と王太子が力を合わせれば、私では成し得なかった全てが整うのです」
フィラスの表情は恍惚としており、自身の描く国を想像しているのだろう。
「随分、全属性持ちということにこだわりがあるのですね」
「はい、全てが使えるのです。今は魔力が少ないのですが、これから増えていくと思います。皆にも好かれており、素質は十分です」
「では本当に王家に相応しいか、会わせていただきたいのです。もちろん、魔法省としてです」
「何かするつもりですか」
「何か?例えば何でしょうか?」
「魔力を封じたり」
「しませんわ、お約束します。見張っていただいても構いません」
「分かりました、会わせましょう」
セナリアンとイヴァンはチュリル・ロッパーに会うことになった。
「…はい、イヴァンが机に知らない物が入っていたと、私にも申し出ておりましたから。確かに微量の毒だったようです」
答えたのは前国王であるドルシードである。イヴァンも、もちろん覚えている。
あの日、授業を終えて部屋に戻り、机の引き出しを開けると、紙包みがあり、開けると薬のようなものであった。セナリアンが言ったように、杜撰な計画で救われたのかもしれない。マンドレーを警戒していたこともあり、陛下にすぐに届け出ていた。
微量の毒で、即死するようなものではなかったと聞かされたが、実際は違うのではないかと思っていたが、事実だったようだ。疑心暗鬼になっていたのだろう。
「っな!」
「あなたの冤罪はね、出て行くという王太子のおかげで、成り立っただけなの。あなたは自分の手で、なんて思っているかもしれないけど」
「母上に力なんてあるわけないだろう、嫌われているのに」
「っ!どうして、あなたがそんなことを言うの!」
マンドレーはフィラスを睨み付けており、仲が良い親子には見えない。
「母上は調子に乗っていたようだけど、一人で踊っていただけよ」
「兄が隣国に渡ったのも、面倒だったからでしょうね。何も知らないあなたは騒ぎ立てたわね、だから冤罪は冤罪ね。偽証罪と王太子への冤罪」
「そうですね、有耶無耶にすべきではなかった。私は息子にもうここにいたくはないと言われて、どうでもいいと思ってしまったのです。側妃がフィラスを傷付けることはないと思っていましたから、暴くこともしなかった」
「陛下っ!」
ドルシードとって、王妃はイヴァンの母親だけで、マンドレーはずっと側妃だったのだろう。実際、退位したドルシードとマンドレーは一緒に住んでいない。
「別人だろうと思っていたけど、どうでも良かったんだ」
「どうしてよ!私よ、あの時の女性は私なのよ!」
「今更、追及しても仕方がない」
マンドレーは認めたくないようだが、今更どちらでもいい。だが、マンドレーは姉から奪ったとしても、選ばれたという存在が重要だったのだ。
「事実が二つ、もういいだろう。あのような優しい女性なら、王妃とも上手くやってくれるのではないかと思った、姉君であっても上手くいったかは分からないがな」
「私は前王妃なのよ!!」
「公爵家に対して身の程をわきまえた人選だったはず、でも本人がこれではね。下品と言われるはずです」
ドルシードはマンドレーを無視して、フィラスに問いかけた。
「フィラスどうする?」
「兄上の名誉を回復出来るなら、どうにでもします」
「フィラス!私は母親なのよ!」
「うるさい人ですね、なぜそのように大きな声を出すのですか?」
「その方は意見が通らないから大きな声を出しているのでしょう」
「ああ、そうだったのですか。恥ずかしい」
マンドレーはひとまず幽閉とされ、離宮に連れて行かれた。最後まで大きな声で喚いていたが、フィラスはもう聞きたくない言わんばかりに耳を塞いでいた。死を賜るかはまだ分からないが、表舞台に出ることは二度とないだろう。
「それで国王陛下、あなたは綻びのない国を目指してらっしゃる。そのためにあの令嬢が必要ということですね?」
「はい、彼女と王太子が力を合わせれば、私では成し得なかった全てが整うのです」
フィラスの表情は恍惚としており、自身の描く国を想像しているのだろう。
「随分、全属性持ちということにこだわりがあるのですね」
「はい、全てが使えるのです。今は魔力が少ないのですが、これから増えていくと思います。皆にも好かれており、素質は十分です」
「では本当に王家に相応しいか、会わせていただきたいのです。もちろん、魔法省としてです」
「何かするつもりですか」
「何か?例えば何でしょうか?」
「魔力を封じたり」
「しませんわ、お約束します。見張っていただいても構いません」
「分かりました、会わせましょう」
セナリアンとイヴァンはチュリル・ロッパーに会うことになった。
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