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第13話
聞こえない悲しき罪4
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「夫人にジスア様のことを応えてはいかがですか」
「いや、それは」
「あなた、どういうこと?」
「随分前に少し関係があっただけなんだ」
「それは通りませんよね。同じ年の子どもがいるのですから、結婚後も続いていた証拠です」
「子ども、子どもを産んだのか!」
マースリは子どもを産んだことを知らなかった。知っている可能性もあるのではないか、ジスアが押し掛けて来た線も拭えなかった。
「待って、ミッシュじゃないと言うなら、ミッシュは…ミッシュはどこにいるの!」
「落ち着いて下さい、ミッシュ様は保護して、健康状態も問題ありません。現在、医院で預かっております」
「早く会わせてっ!」
「落ち着いて、まずは話を聞いて下さい。夫人に罪はありませんが、現状ご夫婦ですよね?聞いていただく義務があります。終わったら会わせます」
「ジスアがミッシュと自分の子を入れ替えたと言うのか!ふざけた真似を!私の子ではない!」
お前に怒る資格なんてないだろうと思いながら、セナリアンは冷静である。
「確かにジスア嬢が入れ替えた可能性が高いです。許されることではありません。何を思って行ったのか、それは分かりませんが」
「ジスアを捕まえれば分かるだろう」
「亡くなっているのです」
「へ?」
「ミッシュ様は孤児院に預けられていました。そして、その後にジスア嬢は投身自殺を図っています」
「罪を悔いたのだろう、当然だ」
「あなたは一度、ジスア嬢を堕胎させていますね」
「あなたっ!」
事実のようだ。堕胎をした医院を見付け、証言を得ることは可能だろう。調査報告の見解は、概ね当たっているのではないだろうか、流石である。
「彼女の存在は夫人からすれば不快な存在でしょう。それでも今回は産みたかったのではないでしょうか、自分の子を。でも育てられない状況になったのかもしれません。孤児院には病気で入院すると言っていたそうです。実家には頼れず、今さら全てを打ち明けることもできなかった」
病気が事実かは病院を使った記録もなく分からなかった。ただし偽名で旅行者だとでも言い、支払いさえすれば、診て貰えないことはない。
「一歳になれば分かったことでしょう。せめてそれまでは、最初で最後でもいいから、父親の元で育てて欲しかったのかもしれません」
出生登録はミッシュでされていたため、一歳の登録でミッシュではないことが判明する。これが入れ替えた後だったら、スアリがミッシュになっていたことだろう。
そして、おそらく亡くなっていなければ、矛先はジスアに向いたであろうことは、気の強そうなジョアンナなら、想像は容易である。
「ハーバリア殿、君は愛妻家ではなかったのか?」
「私はジョアンナを愛している」
「断れない性格のジスア嬢を、耳障りのいい言葉で弄んだのでしょう?君は特別な存在だ、子どももまだ産ませるわけにはいかない、ジョアンナが子を産んでからなら大丈夫だ、もう少し待ってくれ、そう言いましたね?ジスア嬢はそんな日が来ないことを分かったのだと思います」
「でたらめを言うな!」
「ジスア嬢に関しては憶測です、でもあなたの言ったことは事実でしょう?」
話を聞いた隣人はまるで自分のことのように怒りながら、泣きながら話してくれたそうだ。信用できると思ったが、やはり事実であった。
ジョアンナを愛しているのではあるが、従順なジスアがいてこそという部分もあった。背徳感も手放せなかった要因であろう。
「最低だわっ!よくも私に愛しているなどと言えたものね!魔術師様、この子はどうなるんでしょうか」
「私の子では無い!罪人の子だ!」
「魔法省に依頼すれば、親子鑑定書を出せます。陛下に楯突くおつもりですか」
「いや、それは」
正直、マースリがジョアンナがいてもいなくても、スアリをこれから邪険にすることは目に見えている。ミッシュも同じ年の言わば愛人の子がいること、スアリも愛人の子として暮らす未来は、互いにいい環境とは言えないだろう。
「夫人はどうされたいですか」
「正直、始めは憎しみを持ちましたが、息子だと思って慈しんだ子です。それに、この人の言動でジスアさんの気持ちを思うと…でも側に置くのはスアリのためにもならないかと」
自分の子ではないと分かった途端に、スアリのベビーバスケットにすら触れなくなったジョアンナ。ここまで育てても、血はそんなにも濃いものなのだろうか。
「ええ、マースリ様に任せることは出来ませんでしょう。こちらに任せるか、どうするか子爵家でご相談ください」
「承知しました」
「いや、それは」
「あなた、どういうこと?」
「随分前に少し関係があっただけなんだ」
「それは通りませんよね。同じ年の子どもがいるのですから、結婚後も続いていた証拠です」
「子ども、子どもを産んだのか!」
マースリは子どもを産んだことを知らなかった。知っている可能性もあるのではないか、ジスアが押し掛けて来た線も拭えなかった。
「待って、ミッシュじゃないと言うなら、ミッシュは…ミッシュはどこにいるの!」
「落ち着いて下さい、ミッシュ様は保護して、健康状態も問題ありません。現在、医院で預かっております」
「早く会わせてっ!」
「落ち着いて、まずは話を聞いて下さい。夫人に罪はありませんが、現状ご夫婦ですよね?聞いていただく義務があります。終わったら会わせます」
「ジスアがミッシュと自分の子を入れ替えたと言うのか!ふざけた真似を!私の子ではない!」
お前に怒る資格なんてないだろうと思いながら、セナリアンは冷静である。
「確かにジスア嬢が入れ替えた可能性が高いです。許されることではありません。何を思って行ったのか、それは分かりませんが」
「ジスアを捕まえれば分かるだろう」
「亡くなっているのです」
「へ?」
「ミッシュ様は孤児院に預けられていました。そして、その後にジスア嬢は投身自殺を図っています」
「罪を悔いたのだろう、当然だ」
「あなたは一度、ジスア嬢を堕胎させていますね」
「あなたっ!」
事実のようだ。堕胎をした医院を見付け、証言を得ることは可能だろう。調査報告の見解は、概ね当たっているのではないだろうか、流石である。
「彼女の存在は夫人からすれば不快な存在でしょう。それでも今回は産みたかったのではないでしょうか、自分の子を。でも育てられない状況になったのかもしれません。孤児院には病気で入院すると言っていたそうです。実家には頼れず、今さら全てを打ち明けることもできなかった」
病気が事実かは病院を使った記録もなく分からなかった。ただし偽名で旅行者だとでも言い、支払いさえすれば、診て貰えないことはない。
「一歳になれば分かったことでしょう。せめてそれまでは、最初で最後でもいいから、父親の元で育てて欲しかったのかもしれません」
出生登録はミッシュでされていたため、一歳の登録でミッシュではないことが判明する。これが入れ替えた後だったら、スアリがミッシュになっていたことだろう。
そして、おそらく亡くなっていなければ、矛先はジスアに向いたであろうことは、気の強そうなジョアンナなら、想像は容易である。
「ハーバリア殿、君は愛妻家ではなかったのか?」
「私はジョアンナを愛している」
「断れない性格のジスア嬢を、耳障りのいい言葉で弄んだのでしょう?君は特別な存在だ、子どももまだ産ませるわけにはいかない、ジョアンナが子を産んでからなら大丈夫だ、もう少し待ってくれ、そう言いましたね?ジスア嬢はそんな日が来ないことを分かったのだと思います」
「でたらめを言うな!」
「ジスア嬢に関しては憶測です、でもあなたの言ったことは事実でしょう?」
話を聞いた隣人はまるで自分のことのように怒りながら、泣きながら話してくれたそうだ。信用できると思ったが、やはり事実であった。
ジョアンナを愛しているのではあるが、従順なジスアがいてこそという部分もあった。背徳感も手放せなかった要因であろう。
「最低だわっ!よくも私に愛しているなどと言えたものね!魔術師様、この子はどうなるんでしょうか」
「私の子では無い!罪人の子だ!」
「魔法省に依頼すれば、親子鑑定書を出せます。陛下に楯突くおつもりですか」
「いや、それは」
正直、マースリがジョアンナがいてもいなくても、スアリをこれから邪険にすることは目に見えている。ミッシュも同じ年の言わば愛人の子がいること、スアリも愛人の子として暮らす未来は、互いにいい環境とは言えないだろう。
「夫人はどうされたいですか」
「正直、始めは憎しみを持ちましたが、息子だと思って慈しんだ子です。それに、この人の言動でジスアさんの気持ちを思うと…でも側に置くのはスアリのためにもならないかと」
自分の子ではないと分かった途端に、スアリのベビーバスケットにすら触れなくなったジョアンナ。ここまで育てても、血はそんなにも濃いものなのだろうか。
「ええ、マースリ様に任せることは出来ませんでしょう。こちらに任せるか、どうするか子爵家でご相談ください」
「承知しました」
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