上 下
75 / 212
第12話

親と子2

しおりを挟む
 今や当たり前となっている親子鑑定。疑う疑わないではなく、この子は二人の子であるという証明に必ず行うという家もあるほどだ。

 始まったのは丁度十年前である。

 セナリアンは伯母であるリルラビエ・コルロンドにお願いして、コルロンド邸にコルロンドの魔術師、セナリアンの仲間の魔術師を集めていた。

「集めて何をする気?」
「いい商売を思いついたの!魔法省からは許可を貰っているから」

 この当時、セナリアンは八歳である。

 相談があるの、時間を作って欲しいと、魔法省長であるイヴァン・コフロートに魔鳩が来たことから始まる。

 イヴァンは当時二十三歳。随分若いと感じるが、優秀ではあったのだが、皆に押し付けられたという方が正しい長であった。若い方が長く続けられる、先が短い者が長なんて出来ないなど三十、四十代の者にまで言われ、職員は年上の方が多い。そこに規格外の八歳児。娘と呼べなくもないが、いとこのお兄さんくらいの気持ちである。

「いい話かい?」
「いい話だとは思うけど、迷惑だったらやめようかなって話」
「う~ん?」
「魔法省って人員は足りてる?余裕はあるかしら?」
「ああ、特に問題はないが」
「あのね、親子鑑定を魔法省でやってもらいたいと思って」
「へっ?親子鑑定?いや、セナが出来るのは知っているけど、セナがやるのかい?」
「ううん、私は王家とか胎児とか、ややこしい案件しかやらない。それ以外を魔術師にやってもらうの」
「無理じゃないかなぁ?」
「魔用紙に術式を組み込んでみたの、そうしたらお母さまでもジョンラでもできたの。ねえ、ジョンラ」

 今日はジョンラが付き添っており、誇らしい顔ではいと頷いた。

「ほぉ、専用用紙はセナが作るのかい?」
「とりあえずはね、でも魔法省にも作れる器用な人いるでしょう?持ち出せない部屋でやってもらえばいいし」

 これと出した魔用紙には表にも裏にも術式が見事に組み込まれていた。これは相当、鍛錬が必要だなと思った。

「やってみようか」
「うん、見たい。でもちょっと待って。私だけ見たら怒られちゃうよ、役員を呼ぶからちょっと待って」

 年上の役員三人衆も集まり、親子鑑定だと?と興味津々である。ちなみにこの当時、既にセナリアンは役員である。

「これが父と母の血」

 セナリアンは小瓶に入った血と、自分の血を用紙の丸の部分にそれぞれ血を垂らし、術式を起動し、浮かび上がった血を丸い玉にすると、それぞれに名前を書き、一気に合わせて、用紙に押し付けると父=ミミス・ルージエ、母=ルシュベル・ルージエをセナリアン・ルージエの親と認めるという文字が現れた。

「ねっ?」
「はっ!」「おおお!」「これは」「しゅごい」

 皆、頬に両手を当てたり、目を見開いたりして、驚いている。

「魔力はどのくらい?」
「う~ん、ジョンラ、どのくらい?」
「そうですね、術式を起動するのが一番大きく必要となりますので、一件につき私の魔力が満タン時を百とすると四分の一くらいが消費されます」
「なるほど、転移を考えると、一日一人なら可能ってことか」
「はい、可能だと思います」
「A判定の者なら可能であるな」

 魔法省は魔術師によって、ランク判定が可能である。ジョンラはA判定、ここにいる者は全員A判定以上、セナリアンは判定不能なので、とりあえずSランクになっている。

「ただ、魔力が足りても、不器用な方には玉にして、名前を書く作業が難しいと思います」
「そうだね、お母さまも出来たけど、不器用だから大変だったよ」
「ええ、ミミス様の名前がミミセになったり、ミミジになったり、ひっちゃかめっちゃかになっておいででした」

 皆、セナリアンのお供でルシュベルには何度か会っており、穏やかで甘い顔立ちの美しい女性であったが、私は雑だからてんでダメなの、お菓子を優雅に食べながら、ふふふっと笑っていたのを何度も見ているので知っている。

 魔用紙に魔糸を通すという作業をしていた時には、やってみたいと言ったくせに、魔用紙がぐちゃぐちゃになっていて、不器用なんだからお菓子食べててと、セナリアンに諭されていたほどである。

「私の仲間の魔術師と、コルロンドの魔術師と、あとはやりたい人がいたら、登録してもらって、一日一人一件、三十人体制くらいで、始めたらどうなって思うの」
「やりがいしかないな」
「ええ」「ああ」「しゅごい」
「よかった!試験用も作って来るね、あとは取り決めと罰則かな」

 それから、取り決めや罰則、どういった不正が行われるかなど、話し合いが行われた。魔法省の久しぶりの新事業である。魔法省はこれまでの資金があるため、困ってはいないが、自力で稼いでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のウィル

豆狸
恋愛
王都の侯爵邸へ戻ったらお父様に婚約解消をお願いしましょう、そう思いながら婚約指輪を外して、私は心の中で呟きました。 ──さようなら、私のウィル。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

この声は届かない

豆狸
恋愛
虐げられていた侯爵令嬢は、婚約者である王太子のことが感知できなくなってしまった。 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

謝罪のあと

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約破棄騒動は、男爵令嬢の魅了魔法の発覚で終わりを告げた。 王族は揃いも揃って魅了魔法に操られていた。 公にできる話ではない。 下手をすれば、国が乗っ取られていたかもしれない。 男爵令嬢が執着したのが、王族の地位でも、金でもなく王太子個人だったからまだよかった。 愚かな王太子の姿を目の当たりにしていた自国の貴族には、口外せぬように箝口令を敷いた。 他国には、魅了にかかった事実は知られていない。 大きな被害はなかった。 いや、大きな被害を受けた令嬢はいた。 王太子の元婚約者だった、公爵令嬢だ。

処理中です...