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第5話
浅はかな行いは身を滅ぼす2
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子爵令嬢だったイーラ・コベックはアンソニー・ミジュナ伯爵の後妻となった。伯爵は十三歳年上で、随分前に妻を亡くしており、子どももいなかった。しかし二人にも子どもは出来ず、伯爵は三年後に運悪く流行病から、急速に悪化して亡くなってしまったのだ。
イーラは姉であるミリーナには格下の縁談しかないのに比べて、後妻でも伯爵家に嫁ぐことが誇りだったのだ。
その後、イーラは伯爵家のことは全て夫がやっていたため何も出来ず、補佐をしていた弟夫妻が伯爵家を継ぎ、別邸で暮らしていた。まだ二十二歳だったイーラは豊満な体を生かして、男性と関係を持つようになった。そして友人から噂を聞いていた年下のマージナルに後腐れのない関係だと唆して、一度だけ関係を持った。お互い気が向いた時にと縋ったりせず、こちらに振り向くのを待った。
しかしマージナルからの二度と接触はないまま、リリアンネと婚約。悔しい思いをしたが、リリアンネがリスルート殿下の婚約者になると発表されると、男性との関係を絶ち、今度は婚約者になるために子爵家に戻り、何度か手紙を書いたが、返事が来ることはなかった。
さらにマージナルはすぐにセナリアンと婚約・結婚をしてしまったのだ。でも政略結婚だと聞き、それなら愛人で構わないと思い、夜会で近づこうともしたが、群がる令嬢の中に入ることはプライドが許さなかった。
そこへセナリアンが目の前におり、ならば妻に降りてもらえばいいと思ったのだ。なのにこの有様だ。
「お漏らししたんですって!」
男爵家に嫁いだ身重の姉・ミリーナが騒ぎを聞いてやって来たようだ。
「馬鹿だと思っていたけど、恥ずかしいとしか言いようが無いわね、公爵家に喧嘩を売るなんて!何考えてるの!程度が低すぎて罰する気すら起きないから、慰謝料と謝罪だけって…寛大過ぎて涙が出たわ」
「マージナル様と私は想い合っていたのよ…」
「はあ、妄想もいい加減にしなさい。あなたいくつ?もう二十五でしょう?それよりも自分の顔見てみなさいよ、私より年下なのに年上に見えるわよ。この前、友人にもあれは妹なのかと言われたわよ」
あの夜会に出席していた友人から多分、妹さんだと思うのだけどと話を聞いたのだ。子爵家に戻った際に会っていたが、第三子を妊娠したこともあって会うことがなかった。両親も夫には事情を説明した手紙を送り、妊娠中だからと黙っていたそうだ。戻った頃より太ったこともあるが、顔立ちも老いたように見える。これでは友人も疑問形になったのだろう。
「そんな訳ないじゃない!」
「そんな訳あるわよ、伯爵様が亡くなって遊び歩いたんでしょう?知らないはず無いわよね?」
姉はいつもこうだ、私より何もかも劣っているのに、どうして姉だというだけで偉そうにされなくてはいけないのか。
「どういう意味?」
「いくら相応しい器があっても、魔力を持つ不特定多数と関係を持ったら、体が耐えられなくなって退化するに決まっているでしょう?」
「私には魔力があるわ」
「言ったでしょ、多数の相手だと。あからさまには言わないけど、静粛さを求められるのは、自分のためでもあるの。どれだけ関係を持ったんだか。あんな失態を犯したんだから、表舞台には出られないでしょうから、大人しくしてなさい」
「嫌よ、そんなの」
姉には分からないだろうけど、お洒落したって見て貰わないと意味がない、褒めてもらうまでセットなのよ。
「どうせ出掛けても、お漏らし令嬢と言われるだけよ」
「あれはあの時、急に虫の音がして」
「賢い虫が馬鹿だと忠告しに入ったんじゃない?どうせどこへ行っても恥をかくだけよ、お漏らしって言われて、プライドの高いあなたが耐えられるの?」
「でも私にはこの美貌が」
「もうないわよ!あれだけ見た目が自慢だったくせに、太って老けて、何やってるの?ちゃんと現実を見なさい。夜会で誰かに誘われた?誘われなかったでしょう?」
確かにそうだ、話はしたが誘われることは無かった。姉が出て行って、鏡を見たが、毎日見ていた顔色がくすんで、肌もかさつき、髪の毛もパサついている。誰も言ってくれなかった、夫も亡くなって、子どもも出来なくて、寂しくて少し遊んでしまったのだ。それからマージナル様に一目惚れして、年下を夢中にさせるためにテクニックが必要だと聞いたから。自らの行いがこんな形で見えるようになるとは。
子どもの頃、母の友人で男性に人気があったという女性がおり、随分年上だと思ったら、母と同じ年で驚いたことがあった。あの人も同じだったのかもしれない。
イーラは姉であるミリーナには格下の縁談しかないのに比べて、後妻でも伯爵家に嫁ぐことが誇りだったのだ。
その後、イーラは伯爵家のことは全て夫がやっていたため何も出来ず、補佐をしていた弟夫妻が伯爵家を継ぎ、別邸で暮らしていた。まだ二十二歳だったイーラは豊満な体を生かして、男性と関係を持つようになった。そして友人から噂を聞いていた年下のマージナルに後腐れのない関係だと唆して、一度だけ関係を持った。お互い気が向いた時にと縋ったりせず、こちらに振り向くのを待った。
しかしマージナルからの二度と接触はないまま、リリアンネと婚約。悔しい思いをしたが、リリアンネがリスルート殿下の婚約者になると発表されると、男性との関係を絶ち、今度は婚約者になるために子爵家に戻り、何度か手紙を書いたが、返事が来ることはなかった。
さらにマージナルはすぐにセナリアンと婚約・結婚をしてしまったのだ。でも政略結婚だと聞き、それなら愛人で構わないと思い、夜会で近づこうともしたが、群がる令嬢の中に入ることはプライドが許さなかった。
そこへセナリアンが目の前におり、ならば妻に降りてもらえばいいと思ったのだ。なのにこの有様だ。
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「馬鹿だと思っていたけど、恥ずかしいとしか言いようが無いわね、公爵家に喧嘩を売るなんて!何考えてるの!程度が低すぎて罰する気すら起きないから、慰謝料と謝罪だけって…寛大過ぎて涙が出たわ」
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あの夜会に出席していた友人から多分、妹さんだと思うのだけどと話を聞いたのだ。子爵家に戻った際に会っていたが、第三子を妊娠したこともあって会うことがなかった。両親も夫には事情を説明した手紙を送り、妊娠中だからと黙っていたそうだ。戻った頃より太ったこともあるが、顔立ちも老いたように見える。これでは友人も疑問形になったのだろう。
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「そんな訳あるわよ、伯爵様が亡くなって遊び歩いたんでしょう?知らないはず無いわよね?」
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「どういう意味?」
「いくら相応しい器があっても、魔力を持つ不特定多数と関係を持ったら、体が耐えられなくなって退化するに決まっているでしょう?」
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「嫌よ、そんなの」
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「でも私にはこの美貌が」
「もうないわよ!あれだけ見た目が自慢だったくせに、太って老けて、何やってるの?ちゃんと現実を見なさい。夜会で誰かに誘われた?誘われなかったでしょう?」
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子どもの頃、母の友人で男性に人気があったという女性がおり、随分年上だと思ったら、母と同じ年で驚いたことがあった。あの人も同じだったのかもしれない。
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