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第2話
彼女の正体は重すぎる1
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リリアンネ・ルージエとの結婚式を終え、正式に王太子となったリスルートは、父である国王陛下の執務室に呼び出された。厳しくはあるが、尊敬する国王であり父である、親子の関係も良好である。
陛下の側近でもあるクーリット・モルガンが案内し、三人のみとなった。陛下が一冊の本をリスルートに渡し、開くように命じると、本から青い炎が舞い上がり、驚いたが熱くは無かった。
そこにはある文があった。
【 シャーロット・マクレガーに敬意と感謝を 】
文献で見たことのあるシャーロット・マクレガーのサインが大きく書かれていた。そして二頁、三頁と捲る、今度はカサブランカ・コルロンドと当時の国王が互いにサインをした書面が収録されている。
ビリジオン・エレメントに忠誠を誓う
―カサブランカ・M・コルロンド
バーリオン・エレメントに忠誠を誓う
―カサブランカ・M・コルロンド
そして四頁。
アイルッツ・エレメントに忠誠を誓う
―セナリアン・M・ルージエ
リスルートが息をのみ、大きく目を見開いたと同時に陛下は言葉を発した。
「セナリアンはシャーロット・マクレガー様の先祖返りだ」
これが秘匿された事実であった。数百年振りの先祖返り、それがセナリアン・ルージエ、いや、セナリアン・グローの正体であった。
「まさかっ!魔力をほとんど感じませんよ」
「操れるからな、我々とはレベルが違う」
長くなるから三人はソファーに移動し、クーリットは陛下の後ろに付いた。
「誰が知っているのですか」
「まず、ルージエ侯爵家と奥方の生家であるコルロンド家の限られた者。王家は先代の国王である父、王妃。高位貴族だと、モルガン公爵夫妻、前王弟ミシェル・ハウソーラ侯爵夫妻、王弟ルビアス公爵夫妻にアイリッシュくらいかの。あとはセナリアンが選んだ信頼のおける仲間。そして友好国のトップ。あとは暗部も知っておるが、まだ話すことは無いだろう」
前国王は王妃であった母が亡くなると退位し、現在は悠々自適に離宮で暮らしている。当時、王太子だったアイルッツは既に侯爵令嬢であったマリアンヌと結婚し、第一子であるリスルートが生まれた直後だった。王妃がいないことで起こる余計な争いを避け、当面はそっと支え続けてくれていた。
セナリアンのことを話した際は、定めだったのだろうと、母はシャーロット・マクレガーのファンだったことから、一目でも会わせたかったと呟いた。
「リリアンネは知っていたのですか」
「いや、知らない。コルロンド家の血筋ゆえにあちらにも権利がある。そしてその本には魔術が掛けられており、共有する者にしか意思疎通が出来ない術になっておるから漏らせるものではない。王家とコルロンド家にだけ受け継がれることになっている。その本もセナが作ったものだ」
仲が良いとは言えないが、嫌っているわけでもないリリアンネになぜ明かさないのか気にはなっており、セナリアンに聞くと面倒事とか頼まれそうでしょう?と言っていたが、実際は伯母であるリルラビエ・コルロンドから、セナリアンは幼い頃からリリアンネより優れないと思わせているのだという。その方がリリアンネのプライドを守り、姉でいられるだろうからと両親とコルロンド家を説得したのだ。
確かに妹が先祖返りとなれば、リリアンネは卑屈になってしまうだろう、比べたり、嫉妬したり、利用しようとしたり、要らぬ憎悪を持つかもしれない。ならば明かさず、比べる対象にならなければいいと、全てに置いてリリアンネの下でなければならなかったのだ。
例えば、リリアンネが伯爵家に嫁いでいたら、セナリアンは以下の爵位の者と結婚しただろう。ただ、リリアンネは奇しくも王家に嫁いだため、相手は誰でも良くなったのだ。何も無ければセナリアンは死ぬまで明かすことはないだろうと聞いた。
「待ってください、マージナルは?知っているんですか?だからあんなに様子がおかしいのか」
「いいや、今のところ言うつもりは無いと言っていたな」
「夫にも秘密なのですか」
「ルージエ夫妻は伝えたらと言っていたが、セナリアン自身に伝えるべき相手ではないと判断されただけだ。政略結婚の相手に何で教える必要が?って睨まれたものよ」
「惨い。ならばリリアンネとの件は全て知っていたのではないですか」
「いいや、セナリアンはあの頃、国外に飛び回っていて非常に忙しかったのだ。魔法省の役員でもあるからな」
「魔法省…役員…」
「元々、自分のことは後回しにする癖もあって、まあ離縁すればいいかくらいにしか思っていない。マージナルの身辺調査は前にしておったらしいしな」
セナリアンはこれまでも自分のことは後回しにしても、何とかなると思っており、全て何とかなっているのだ。
「あああ、今までの言動に納得がいきます」
リスルートは頭を抱えて、これまでのセナリアンの言葉を思い出していた。マージナルが面倒なのも忙しいから、煩わしい女性たちも、セナリアンにとってはしょうもないことであったことを。
「王家の婚約者に据えようとは思わなかったんですか」
「無論それとなく申し出たが、断られた。五歳のセナリアンが何と言ったと思うか」
「五歳ですか」
「私が王家に入れば外から諫める者がいなくなるのではないですか」
「五歳児が」
「ああ、正直、普段は自由に生きたいので王家は堅苦しいのでございますともね。確かにシャーロット様もカサブランカ様も王家には嫁ぐことはなかったからな」
「でもイマーニュ嬢は?」
「イマーニュ嬢は王家とセナリアンが意見の一致した令嬢だった。イマーニュ嬢も勝ち気で勇ましい女性ではあるが、私利私欲で動く方では無いから、彼女なら立派な王太子妃になるだろうとね」
「そうだったのですか、でもリリアンネも候補者に元々いましたよね」
最初の婚約者はイマーニュであったが、魔力のことを考えて婚約者候補が挙げられた中にリリアンネの名前もあったのだ。
「候補の段階で、私を抱えるためでしたら止めてくれと言われたな、王太子妃にもあまり向かないと。でも結果としてお前が気に入った。貴族令嬢と先祖返り、考え方が違うだけで、互いに嫌いあっているわけではないから、安心しなさい」
「リリアンネにもいずれ伝えるのでしょうか」
「いや、必要ない。私は既に国王であったこと、コルロンドとの話し合いで、幼いセナリアンのために、王妃にも明かす方が都合がいいだろうと決まっただけだ」
「承知しました、これまでのように接してはいけないということですね」
「いや、お前は好きにするといい。今日のことも伝えてるということだけ許可を得ている、今はお前はまだ王族の中に含まれているだけだ」
「誓わない恐れもあるということですか」
「可能性はある」
「精進します。学園での成績もわざとだったのですね」
「ああ、それでも同じ学園の一番成績の良かった女子生徒が食って掛かってな。セナリアンは無視していたというのに。セナリアンに評価など必要だと思うか」
実は十四歳の時に一年だけ学園に通ったセナリアン。平均を取り続けながら、学園の視察も兼ねていた。
幼少期からありとあらゆる本を読み、記憶力も良く、魔術師としては敵う相手に会ったことが無いのだ。学園に通わず家庭教師を雇う者もいるため、本来なら通う必要も無かったが、一応通ってみようとなったが、三年通うところを結局、忙しくて寝る時間がないという理由で漏らさない制限を掛けて、飛び級しているが、公には通常通り卒業していることになっている。正直、通い続けても教えることが無いというのが、学園の本音であった。
その一年の間にセナリアンは今でも親しい、現在は結婚しているが、当時男爵家のリクアとその婚約者・子爵家のアドノと友人になった。学園に行って良かったという一番の思い出となった。
しかし水を差したのが、コルロンドの血筋だということでライバル視していたトップの成績だった伯爵家の次女であったキャスリンであった。いくら学園では平等とは言え、セナリアンは侯爵家の人間だ。にも拘らず、キャスリンはセナリアンを馬鹿にし続けるようになったのだ。
ただいくら煽ってもセナリアンは友人でもクラスメイトでもないため無視。リクアにも食って掛かり、伯爵家ということで反論できずにいたが、セナリアンはここは学ぶ場であるのだから、放って置けばいいと全く相手にしなかった。キャスリンは言い返せないほど弱いと判断したようであったが、セナリアンが飛び級する際に、全て証拠として学園と伯爵家に提出した。
学園から停学を言い渡され、伯爵家はひれ伏してルージエ家に謝罪し、キャスリンは独りで勝手に評価は下げたのだ。そして実は地味に仕返しをしていたこともリクアとアドノには話してあった。
実は毎朝、鼻毛が伸びている術を掛けられていたそうだ。しかも徐々に長く多くなるように絶妙な調整をされていた。それを聞いた二人は鼻毛のことを考えればいくら馬鹿にされても腹が立たなくなったという。
陛下の側近でもあるクーリット・モルガンが案内し、三人のみとなった。陛下が一冊の本をリスルートに渡し、開くように命じると、本から青い炎が舞い上がり、驚いたが熱くは無かった。
そこにはある文があった。
【 シャーロット・マクレガーに敬意と感謝を 】
文献で見たことのあるシャーロット・マクレガーのサインが大きく書かれていた。そして二頁、三頁と捲る、今度はカサブランカ・コルロンドと当時の国王が互いにサインをした書面が収録されている。
ビリジオン・エレメントに忠誠を誓う
―カサブランカ・M・コルロンド
バーリオン・エレメントに忠誠を誓う
―カサブランカ・M・コルロンド
そして四頁。
アイルッツ・エレメントに忠誠を誓う
―セナリアン・M・ルージエ
リスルートが息をのみ、大きく目を見開いたと同時に陛下は言葉を発した。
「セナリアンはシャーロット・マクレガー様の先祖返りだ」
これが秘匿された事実であった。数百年振りの先祖返り、それがセナリアン・ルージエ、いや、セナリアン・グローの正体であった。
「まさかっ!魔力をほとんど感じませんよ」
「操れるからな、我々とはレベルが違う」
長くなるから三人はソファーに移動し、クーリットは陛下の後ろに付いた。
「誰が知っているのですか」
「まず、ルージエ侯爵家と奥方の生家であるコルロンド家の限られた者。王家は先代の国王である父、王妃。高位貴族だと、モルガン公爵夫妻、前王弟ミシェル・ハウソーラ侯爵夫妻、王弟ルビアス公爵夫妻にアイリッシュくらいかの。あとはセナリアンが選んだ信頼のおける仲間。そして友好国のトップ。あとは暗部も知っておるが、まだ話すことは無いだろう」
前国王は王妃であった母が亡くなると退位し、現在は悠々自適に離宮で暮らしている。当時、王太子だったアイルッツは既に侯爵令嬢であったマリアンヌと結婚し、第一子であるリスルートが生まれた直後だった。王妃がいないことで起こる余計な争いを避け、当面はそっと支え続けてくれていた。
セナリアンのことを話した際は、定めだったのだろうと、母はシャーロット・マクレガーのファンだったことから、一目でも会わせたかったと呟いた。
「リリアンネは知っていたのですか」
「いや、知らない。コルロンド家の血筋ゆえにあちらにも権利がある。そしてその本には魔術が掛けられており、共有する者にしか意思疎通が出来ない術になっておるから漏らせるものではない。王家とコルロンド家にだけ受け継がれることになっている。その本もセナが作ったものだ」
仲が良いとは言えないが、嫌っているわけでもないリリアンネになぜ明かさないのか気にはなっており、セナリアンに聞くと面倒事とか頼まれそうでしょう?と言っていたが、実際は伯母であるリルラビエ・コルロンドから、セナリアンは幼い頃からリリアンネより優れないと思わせているのだという。その方がリリアンネのプライドを守り、姉でいられるだろうからと両親とコルロンド家を説得したのだ。
確かに妹が先祖返りとなれば、リリアンネは卑屈になってしまうだろう、比べたり、嫉妬したり、利用しようとしたり、要らぬ憎悪を持つかもしれない。ならば明かさず、比べる対象にならなければいいと、全てに置いてリリアンネの下でなければならなかったのだ。
例えば、リリアンネが伯爵家に嫁いでいたら、セナリアンは以下の爵位の者と結婚しただろう。ただ、リリアンネは奇しくも王家に嫁いだため、相手は誰でも良くなったのだ。何も無ければセナリアンは死ぬまで明かすことはないだろうと聞いた。
「待ってください、マージナルは?知っているんですか?だからあんなに様子がおかしいのか」
「いいや、今のところ言うつもりは無いと言っていたな」
「夫にも秘密なのですか」
「ルージエ夫妻は伝えたらと言っていたが、セナリアン自身に伝えるべき相手ではないと判断されただけだ。政略結婚の相手に何で教える必要が?って睨まれたものよ」
「惨い。ならばリリアンネとの件は全て知っていたのではないですか」
「いいや、セナリアンはあの頃、国外に飛び回っていて非常に忙しかったのだ。魔法省の役員でもあるからな」
「魔法省…役員…」
「元々、自分のことは後回しにする癖もあって、まあ離縁すればいいかくらいにしか思っていない。マージナルの身辺調査は前にしておったらしいしな」
セナリアンはこれまでも自分のことは後回しにしても、何とかなると思っており、全て何とかなっているのだ。
「あああ、今までの言動に納得がいきます」
リスルートは頭を抱えて、これまでのセナリアンの言葉を思い出していた。マージナルが面倒なのも忙しいから、煩わしい女性たちも、セナリアンにとってはしょうもないことであったことを。
「王家の婚約者に据えようとは思わなかったんですか」
「無論それとなく申し出たが、断られた。五歳のセナリアンが何と言ったと思うか」
「五歳ですか」
「私が王家に入れば外から諫める者がいなくなるのではないですか」
「五歳児が」
「ああ、正直、普段は自由に生きたいので王家は堅苦しいのでございますともね。確かにシャーロット様もカサブランカ様も王家には嫁ぐことはなかったからな」
「でもイマーニュ嬢は?」
「イマーニュ嬢は王家とセナリアンが意見の一致した令嬢だった。イマーニュ嬢も勝ち気で勇ましい女性ではあるが、私利私欲で動く方では無いから、彼女なら立派な王太子妃になるだろうとね」
「そうだったのですか、でもリリアンネも候補者に元々いましたよね」
最初の婚約者はイマーニュであったが、魔力のことを考えて婚約者候補が挙げられた中にリリアンネの名前もあったのだ。
「候補の段階で、私を抱えるためでしたら止めてくれと言われたな、王太子妃にもあまり向かないと。でも結果としてお前が気に入った。貴族令嬢と先祖返り、考え方が違うだけで、互いに嫌いあっているわけではないから、安心しなさい」
「リリアンネにもいずれ伝えるのでしょうか」
「いや、必要ない。私は既に国王であったこと、コルロンドとの話し合いで、幼いセナリアンのために、王妃にも明かす方が都合がいいだろうと決まっただけだ」
「承知しました、これまでのように接してはいけないということですね」
「いや、お前は好きにするといい。今日のことも伝えてるということだけ許可を得ている、今はお前はまだ王族の中に含まれているだけだ」
「誓わない恐れもあるということですか」
「可能性はある」
「精進します。学園での成績もわざとだったのですね」
「ああ、それでも同じ学園の一番成績の良かった女子生徒が食って掛かってな。セナリアンは無視していたというのに。セナリアンに評価など必要だと思うか」
実は十四歳の時に一年だけ学園に通ったセナリアン。平均を取り続けながら、学園の視察も兼ねていた。
幼少期からありとあらゆる本を読み、記憶力も良く、魔術師としては敵う相手に会ったことが無いのだ。学園に通わず家庭教師を雇う者もいるため、本来なら通う必要も無かったが、一応通ってみようとなったが、三年通うところを結局、忙しくて寝る時間がないという理由で漏らさない制限を掛けて、飛び級しているが、公には通常通り卒業していることになっている。正直、通い続けても教えることが無いというのが、学園の本音であった。
その一年の間にセナリアンは今でも親しい、現在は結婚しているが、当時男爵家のリクアとその婚約者・子爵家のアドノと友人になった。学園に行って良かったという一番の思い出となった。
しかし水を差したのが、コルロンドの血筋だということでライバル視していたトップの成績だった伯爵家の次女であったキャスリンであった。いくら学園では平等とは言え、セナリアンは侯爵家の人間だ。にも拘らず、キャスリンはセナリアンを馬鹿にし続けるようになったのだ。
ただいくら煽ってもセナリアンは友人でもクラスメイトでもないため無視。リクアにも食って掛かり、伯爵家ということで反論できずにいたが、セナリアンはここは学ぶ場であるのだから、放って置けばいいと全く相手にしなかった。キャスリンは言い返せないほど弱いと判断したようであったが、セナリアンが飛び級する際に、全て証拠として学園と伯爵家に提出した。
学園から停学を言い渡され、伯爵家はひれ伏してルージエ家に謝罪し、キャスリンは独りで勝手に評価は下げたのだ。そして実は地味に仕返しをしていたこともリクアとアドノには話してあった。
実は毎朝、鼻毛が伸びている術を掛けられていたそうだ。しかも徐々に長く多くなるように絶妙な調整をされていた。それを聞いた二人は鼻毛のことを考えればいくら馬鹿にされても腹が立たなくなったという。
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