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墓参り1
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マリクワン侯爵家もキャリーヌが実刑になったこと、ベルーナの婚約も解消になったことを聞き、ルイフォードはベルアンジュのお墓に報告に向かった。
だが、涙を流す先客がいることに気付いた。
「失礼ですが、どなたでしょうか?」
「勝手に申し訳ありません。私はカイリ・クリスミーと言います。ベルアンジュ様が娘の友人でして」
挨拶したのは、クリスミー前子爵夫人であった。
「もしかして、ウリちゃんですか?」
「ああ…懐かしい…その呼び名は、ベルアンジュ様だけですね」
その言葉にカイリは涙ぐみ、ハンカチでそっと涙を拭った。
「トーリは変でしょうなんて言いながら、嬉しそうにしておりました。ベルアンジュ様がウリちゃんって呼ぶと、自然に笑うのです…」
カイリは涙が堪えきれないようで、話しては涙を零していた。娘と娘の友人、どちらをも想いながら、涙が零れてしまうのだろう。
トーリ・クリスミーは、ベルアンジュの幼なじみで、唯一の友人であった。
「ベルアンジュから聞いています。結婚式に呼びたいのは唯一、彼女だけだと…」
その言葉に、カイリは大きな瞳を向けて、まっすぐにまた涙を流した。
カイリはそんな日が、トーリが亡くなるまで、当たり前に来ると思っていた。それでも、ベルアンジュがそう言ってくれただけでも、胸がいっぱいだった。
「…すみません、娘も出席したかったと思います」
「失礼しました、私は夫のルイフォード・マリクワンと申します」
ルイフォードは自己紹介をしていなかったことを思い出し、慌てて行った。
「存じております、ご丁寧にありがとうございます。結婚されたことは人伝てに聞いておりまして、ただ私どもは領地にいるものですから、お祝いに行くことも出来ず、いずれ夫と行こうと思っていたのですが…早く、伺っていればと…」
カイリは悔しそうな顔を浮かべ、きっとベルアンジュはとても喜んだだろう。
ルイフォードはトーリの家族との関係は聞いていなかったが、ベルアンジュの悲しませたくないから、知らせて欲しくないという言葉と、カイリの様子から、ソアリ伯爵夫妻とは違って、良好だったのだろう。
「ベルアンジュは、お二人を悲しませたくないと言っておりました」
「そんなこと…」
「きっとお二人には嘘を付くのも、嫌だったのだと思います」
病気のことを話しても、話さなくても、二人を悲しませてしまうと分かっていたのだろう。
「無理にも会いに来ればよかった…」
ルイフォードの目には、その姿がまるで母親のように見えた。本物の家族であるソアリ伯爵家は結局、墓がどこにあるかすら訪ねて来ることすらない。
「実は、ベルアンジュがお二人宛てに手紙を残しています」
ベルアンジュは、何通かの手紙を残して亡くなっている。だが、まだ一通も送られてはいない。
「えっ…」
「お伝えしようか迷ったのですが、一周忌の際に送るようにと何通か預かっており、その中にクリスミーのお名前がありました」
「そうですか…では楽しみにと言っては不謹慎かもしれませんが、届くのを夫と待っております」
「ええ、そうしてやってください」
ルイフォードはベルアンジュの願いは全て叶えると誓っているので、たまたま会ったからと言って、勝手に先に渡す気はなかった。ルイフォード宛ての手紙もあるが、守って読んではいない。
「実は最近、亡くなられたことを知りまして…慌てて、お墓参りに来させていただいたのです。夫も来たがっていたのですが、腰を悪くしておりまして、治ったら二人でまた伺いたいと思っております」
「是非、そうしてやってください」
「ありがとうございます。ベルアンジュ様は本当に優しい方で、亡くなっていたなんて…存じ上げなくて、信じられなくて…」
娘を幼くして亡くしているが、ベルアンジュも早過ぎる死である。
だが、涙を流す先客がいることに気付いた。
「失礼ですが、どなたでしょうか?」
「勝手に申し訳ありません。私はカイリ・クリスミーと言います。ベルアンジュ様が娘の友人でして」
挨拶したのは、クリスミー前子爵夫人であった。
「もしかして、ウリちゃんですか?」
「ああ…懐かしい…その呼び名は、ベルアンジュ様だけですね」
その言葉にカイリは涙ぐみ、ハンカチでそっと涙を拭った。
「トーリは変でしょうなんて言いながら、嬉しそうにしておりました。ベルアンジュ様がウリちゃんって呼ぶと、自然に笑うのです…」
カイリは涙が堪えきれないようで、話しては涙を零していた。娘と娘の友人、どちらをも想いながら、涙が零れてしまうのだろう。
トーリ・クリスミーは、ベルアンジュの幼なじみで、唯一の友人であった。
「ベルアンジュから聞いています。結婚式に呼びたいのは唯一、彼女だけだと…」
その言葉に、カイリは大きな瞳を向けて、まっすぐにまた涙を流した。
カイリはそんな日が、トーリが亡くなるまで、当たり前に来ると思っていた。それでも、ベルアンジュがそう言ってくれただけでも、胸がいっぱいだった。
「…すみません、娘も出席したかったと思います」
「失礼しました、私は夫のルイフォード・マリクワンと申します」
ルイフォードは自己紹介をしていなかったことを思い出し、慌てて行った。
「存じております、ご丁寧にありがとうございます。結婚されたことは人伝てに聞いておりまして、ただ私どもは領地にいるものですから、お祝いに行くことも出来ず、いずれ夫と行こうと思っていたのですが…早く、伺っていればと…」
カイリは悔しそうな顔を浮かべ、きっとベルアンジュはとても喜んだだろう。
ルイフォードはトーリの家族との関係は聞いていなかったが、ベルアンジュの悲しませたくないから、知らせて欲しくないという言葉と、カイリの様子から、ソアリ伯爵夫妻とは違って、良好だったのだろう。
「ベルアンジュは、お二人を悲しませたくないと言っておりました」
「そんなこと…」
「きっとお二人には嘘を付くのも、嫌だったのだと思います」
病気のことを話しても、話さなくても、二人を悲しませてしまうと分かっていたのだろう。
「無理にも会いに来ればよかった…」
ルイフォードの目には、その姿がまるで母親のように見えた。本物の家族であるソアリ伯爵家は結局、墓がどこにあるかすら訪ねて来ることすらない。
「実は、ベルアンジュがお二人宛てに手紙を残しています」
ベルアンジュは、何通かの手紙を残して亡くなっている。だが、まだ一通も送られてはいない。
「えっ…」
「お伝えしようか迷ったのですが、一周忌の際に送るようにと何通か預かっており、その中にクリスミーのお名前がありました」
「そうですか…では楽しみにと言っては不謹慎かもしれませんが、届くのを夫と待っております」
「ええ、そうしてやってください」
ルイフォードはベルアンジュの願いは全て叶えると誓っているので、たまたま会ったからと言って、勝手に先に渡す気はなかった。ルイフォード宛ての手紙もあるが、守って読んではいない。
「実は最近、亡くなられたことを知りまして…慌てて、お墓参りに来させていただいたのです。夫も来たがっていたのですが、腰を悪くしておりまして、治ったら二人でまた伺いたいと思っております」
「是非、そうしてやってください」
「ありがとうございます。ベルアンジュ様は本当に優しい方で、亡くなっていたなんて…存じ上げなくて、信じられなくて…」
娘を幼くして亡くしているが、ベルアンジュも早過ぎる死である。
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