【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
36 / 73

お花畑から招集された家族2

しおりを挟む
 ミラビット公爵は、ベルアンジュ殿は長年苦しんだのだから、時間を掛けてゆっくり潰した方がいい。奴らはもがくだろう、過酷な労働や、劣悪な環境は後の楽しみにしておけばいいではないかと言い、マリクワン侯爵も同意した。

「虐待の罰金とマリクワン侯爵家への慰謝料を期限内に払うように」
「お金…」

 ソアリ伯爵家にお金はない、待っていても入ってくる予定もない。

「ベルアンジュ殿の持参金も払っていないのだろう?ならば、罰金と慰謝料くらい、伯爵家なら払えるだろう?」
「あの、その…それは」

 持参金の話をされないまま、結婚したことにラッキーだと思ったままで、慰謝料を支払うことになるなんて思ってもいなかった。

「本来なら、持参金も請求しても良かったのにな」
「私もそう思います」
「もう娘はいないのですから」

 その言葉に、ミラビット公爵もラオルス公爵は、取り繕う相手でもないために、あからさまに眉間にしわを寄せた。

「君にそのようなことを言う権利があるのか?葬儀にも参列しなかったそうだな」
「それは…私たちも、色々ありまして」

 キャリーヌが戻って、ようやく葬儀と思い、参列したいわけでもなかったが、虐待のこともあったために参列して置かなければと思った。問い合わせたが、既に終わっているに決まっているではないかと、返されてしまった。

 そうなれば、もうベルアンジュのことはいいと、思うことにした。

「娘の葬儀以上に、大切なものなど何がある?公爵、分かるか?」
「いえ、それこそ王家の一大事でもない限りは…」
「そうだよな、だが王家で何かあったわけでもない。一体、何があったんだ?」
「その、あの…」

 キャリーヌがアデュエルを探すために、姿を消して、探し回っていたなどと言えば、さらに心証が悪くなるだろう。

「答えることも、出来ないんだな。既に何をしていたかは知っているから、もういい。こちらも調査をしていたからな」

 チェイスはその言葉にさらに何も言っても、駄目なのだと感じた。

「オーバス侯爵にも聞いている」
「オーバス侯爵様ですか?」
「ああ、そこの娘が訪ねてふざけたことを言ったと、かなり不愉快だった聞いている。相当、お怒りだったぞ」
「キャリーヌ…」

 訪ねたことは隠していたキャリーヌは目を伏せ、チェイスは事実なのだと思った。

「払えなかったら…」
「払えなかったら、没収に決まっているだろう?」
「そんな…」
「あなた…」

 さすがにノーマも思わず声が出た。払うお金がないことは知っている。本当はバスチャン伯爵家に援助して貰うのも嫌だったが、キャリーヌのために我慢していた。

「もう帰っていい。虐待をしていたような家族と、本来なら口も利きたくない」
「信じてもらえないのは分かっていますが、虐待ではありません」

 チェイスはそれでも最後に伝えて置きたかった。ベルアンジュは納得して受け入れていたのだから、虐待ではないと思っている。

「衣食住を保証しても、気管支喘息の妹を優先し、学園にも通わせず、具合が悪くても医者に診せない。勝手に姉に子どもを産ませて、望まれてもいない妹を嫁がせようなどと思う者が、何も言っても無駄だ。気色悪い」
「私は、私は、望まれています」

 黙っていたキャリーヌは、その言葉にだけは言い返さなくては気が済まなかった。

「っは、アデュエルだったか?多分、もうこの国にはいないぞ?」
「どういうことですか!」
「お前が迷惑を掛けるから、出て行ったんだよ」
「…な、どうして…」

 わざわざ理由を伝えてやったのに、どうしてと言い出すキャリーヌに、二人はもう話す気はなかった。

「帰ってくれ、期限は守るように」

 一家は王城から追い出され、ソアリ伯爵家に帰るしかなかった。だが、その邸もなくなってしまうかもしれない状況である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

乙女ゲームは終了しました

悠十
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」  ウィンウッド王国の学園でのパーティーで、王太子が突然公爵令嬢と婚約破棄すると言い出した。  王太子は令嬢の悪事を次々と上げるが、令嬢は華麗にそれが冤罪である証拠を上げていく。  アレッタの目の前では、そんな前世で読んだことがあるような『悪役令嬢によるザマァ物語』が繰り広げられていた。  そして、ついに逆上した王太子が国外追放を令嬢に言い渡したとき、令嬢に駆け寄り寄り添う男が現れた。  え、あれ? その人、私の婚約者なんですけど……。  これは、そんな『悪役令嬢によるザマァ物語』でとんだ被害を受けた令嬢の、その後の騒動の物語である。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ◎お知らせ 2022/11/22 『乙女ゲームは終了しました』がコミカライズ化しました! 下記のサイトでご覧いただけます。 素敵に書いていただきましたので、ご覧いただけましたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 レジーナブックス https://www.regina-books.com/manga アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/458000489 2023/05/12 『乙女ゲームは終了しました』第三巻の書籍化が決定しました! 『アレッタの冬休み編』、『マデリーンのリベンジデート編』、そして書下ろし短編『北からの客人編』の短編集となります。 また、書籍化により、該当部分を6月1日ごろに引き下げ予定です。 ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。 2023/06/20 『乙女ゲームは終了しました』の第一巻が文庫になりました。 文庫限定の書下ろし番外編も収録しています。 お手に取ってご覧いただけましたら幸いです。 2023/11/28 『乙女ゲームは終了しました』のコミック第二巻が、11月末日に発売予定です。 お父様が目立つ表紙が目印です(笑) 2024/10/04 『乙女ゲームは終了しました』のコミック第三巻が発売されました! 筋肉成分が多いこのお話。果たして、少女漫画成分が上回ることはあるのか!?(笑) マデリーン編も始まり、乞うご期待です!

『お前よりも好きな娘がいる』と婚約を破棄させられた令嬢は、最強の魔法使いだった~捨てた王子と解放した令嬢の結末~

キョウキョウ
恋愛
 公爵家の令嬢であるエレノア・アークライトは、王国第一王子アルフレッド・ローレンスと婚約していた。しかし、ある日アルフレッド王子から「他に好きな女性がいる」と告白され、婚約破棄を迫られます。  王子が好きだという相手は、平民だけど実力のあるヴァネッサ。彼女は優秀で、その才能を大事にしたいと言い出した。  実は、王国屈指の魔法の才能を持っていたエレノア。彼女は面倒を避けるため、目立たないように本当の実力を隠していた。婚約破棄をきっかけに、彼女は本当の実力を解放して、アルフレッドとヴァネッサに復讐することを決意する。  王国第二王子であるエドガー・ローレンスは、そんなエレノアを支え、彼女の味方となります。  果たしてエレノアは、アルフレッドとヴァネッサへの復讐を遂げることができるのでしょうか?  そして、エドガーとの関係は、どのように発展していくのでしょうか。エレノアの運命の行方は――。 ※設定ゆるめ、ご都合主義の作品です。 ※カクヨムにも掲載中です。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

☆新作【ご令嬢はいつでも笑みを心に太陽を】変人令嬢のお陰で辺境編成は大激変! もふもふよりメルヘンな新妻に辺境伯の偏愛が大変です!

丹斗大巴
恋愛
 【お嬢様はいつでもシリーズ】令嬢物語オムニバス第3部。  社交界で変わり者と噂されているマーガレット。家格も歳も離れた成り上がりの辺境伯との結婚が決まった。辺境警備の責務を一手に担っているクリスチャンは恐ろしく厳しいという人物だったが、実は大の動物好き。小動物のように愛くるしい若妻に一触即キュン♡ あれ…ええと…、ちょっと辺境伯の偏愛が過ぎてまへん? *** 本作はシリーズとなっていますが、それぞれ単体小説としてお楽しみいただけます *** 第1部「婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて幸せです。亡国に瀕したダメ皇子が今更取り戻しにいらしたけれど、出来のいい第二皇子に抹殺されるようです」  国防の秘密を宿す令嬢ミラ。婚約破棄&処刑され、孤児に転生するも、家族と再会し、新たな仲間や恋とも出会い、幸せな日々を手に入れる。一方、亡国に瀕したダメ皇子が過ちに気づき、彼女を奪おうと画策するも、出来のいい第二皇子に抹殺される物語。転生令嬢が第二の人生で幸せを手に入れる、ざまぁのちハッピーエンドの恋愛ファンタジー。R指定の描写はありませんが、万が一気になる方は目次※マークをさけてご覧ください。 *** 第2部「成り代わりなんてありえなくない!? 泣く泣く送り出した親友じゃなくて真正のご令嬢は、私のほうでした」  孤児院で暮す二人の少女の前に、貴族の使者が現れた。どちらかがリーズン家のご令嬢で、ウィズダム伯爵と結婚するために迎えに来たのだという。選ばれたのは大人しく聡明なジューン。自分が選ばれると思っていたエミルは大ショック! ある時、本当の令嬢には三つホクロがあるとわかって……。

(完結)私の夫を奪う姉

青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・ すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。

処理中です...