【完結】あの子の代わり

野村にれ

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皮肉な事実

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 ベルアンジュは死別することになる婚約者に会うことになり、ルイフォードも可哀想だなとくらいにしか思っていなかった。

 正直、嫌な相手でも良かった。

 1人目も病気で療養となって破談、2人目はよりによって私。まだキャリーヌの方がマシかもしれないとすら思ったが、嫌な相手ではなかったら、人格的にキャリーヌを勧めるのは酷だろう。

 待ってもらえないか、抗ってはみたが、縁談自体は正直どうでもいい。

 私はもうその頃、生きてはいないのだから、後は生きている人間がどうにでもすればいい―――そう思っていた。

 ルイフォードにことなんて、ちっとも考えていなかった。まさか好意を持ってくれていたなんて、私の人生にはないと思っていた。

 彼の悲痛な表情に、ただただ申し訳ないと思うばかりだった。

 宣告されたのは縁談の半年前くらいであった。病気と言えばキャリーヌだった世界で、私はなんて皮肉なんだと思った。

「ご家族やお付きの方は?」
「一人で来ました。何の病気ですか」

 16歳で成人とされるために本人に告げることは、問題はない。

「病名は、NN病です」
「NN病…そう、ですか…」
「ご存知ですか」
「はい、死ぬ際に力を失うのですよね…神経の病気」

 図書館で気管支喘息について調べた際に、色んな病気にも目を通した。そこに治療法がない病気の中にNN病があった。恐ろしい病気だと思ったが、まさか自分に降りかかるとは思わなかった。

「そうです。気を確かに持ってください」
「大丈夫です」
「ご家族とも相談をして」
「家族にはまだ知らせたくありません。気管支喘息の妹の付きっ切りですから」

 キャリーヌは病弱ではあったが、症状を落ち着かせる薬もあり、死ぬ訳ではなかった。調子のいい日は出掛けたり、逆に私が熱を出せば部屋から出るなと命令される。

「気管支喘息…辛い病気だと思います。ですが、医師が病気に順番を付けることはしてはいけませんが、喘息とは比べものになりません」
「両親は喘息の妹の方が大事ですから、治療費は払えないと思いますので…」
「待ってください!」

 ソアリ伯爵家はどうなっているのかと思った。

 そもそも侍医がいるはずなのに、呼び付けるのではなく、供も付けずに一人で受診している時点で、貴族としてあり得ない。

「NN病は治験も兼ねて、症状を遅らせる薬がありますが、お金は掛かりません」

 だからこそ失礼を承知で、治療費が掛からないことは伝えなければと思った。

「遅らせる…」
「はい、治療する薬はありませんが、遅らせる薬はあります。服用して、症状を診せていただければ、費用は必要ありませんから」

 大事なことなので、二度言うことにした。

「私はあとどれくらいでしょうか?」
「何もしなければ、一年弱…薬が合えば二年…くらいでしょうか」
「そんなにあるのですか」

 嬉しそうに微笑む姿にリランダ医師は、次の言葉が思いつかなかった。

 取り乱さず、17歳の子が余命をそんなにと言えることは、明らかにおかしいと確定した。

「薬だけは服用してください。入院が必要になれば、受け入れますから」
「ありがとうございます、助かります」
「何でも相談してくださいね」
「はい、お世話になります」

 ベルアンジュは健康が取り柄だと言われた私が、あと僅かしか生きられないことを、どこか滑稽に感じていた。

 キャリーヌではなく、私の方が重い病気で、死ぬと分かった時、家族はどう思うだろうか。どうも思わないのか、だが病気だから贔屓しているという点は、通らなくなってしまうことが面白かった。

 おかげでベルアンジュの心は晴れやかであったのだった。
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