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もう二度と

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 皆にちやほやされていたのに、遠巻きにされても、何も変わらないまま、シュアンに近寄ろうとするノラは、また翌日もシュアンに声を掛けていた。

「シュアン、ちゃんと話をしましょう」

 立ちはだかったのはグルズ・クリーン。シュアンから事情を聞いており、やらかしたのかと呆れたくらいである。

「マグナー夫人、いい加減にしなさいと申し上げたはずですよ」
「グルズ様まで…」
「正しい道に戻っただけです」
「マグナー家にも通達しましたから、後は邸で聞きなさい」
「えっ、待ってよ、私たちはこんなことで、疎遠になる関係ではないはずよ」

 シュアンもグルズも無視して、部屋に戻っていた。

 邸に帰ったノラはリックスに呼び出された。

「ノラ、いい加減にしろと言っただろう?父上も怒っている」
「どうしてお義父様が?」
「当主である父上に通達が来たからに決まっているだろう。もう離縁しろとまで言われたんだ」
「そんな!」

 離縁だなんて考えたことはない、息子が一人いるが、そろそろ二人目だって欲しいと思っていた。

「なぜ態度を改めなかった?」
「話せばわかるはずなの。番のことで判断がおかしくなっているのよ」
「それは君も分かっていたことじゃないか、番というのはそういうものだろう?だからこそ、君も番が見付かって欲しいと言っていたんじゃないか」
「だけど、あんな人だったから…私はシュアンのために」

 シュアンに相応しい相手になるようにと諭しただけなのに、なぜこんな風に言われないといけないのか。辛い思いをしているのはシュアンなのに、私は感謝されるべきで、怒られることではない。

「君はロークロア公爵の気持ちが、何でも分かるんだな?」
「そうよ!当たり前じゃない」
「じゃあ、彼女の気持ちも分かるために離縁するか?」
「っえ…」
「離縁すれば、リートとは会えなくなるだろう、しかもロークロア公爵を怒らせたともなれば、親戚とはいえ、実家でも立場がないだろう。そうすれば、ようやく気持ちが分かるんじゃないか?」

 リートとはリックスとノラの息子で、3歳である。

「待ってよ、何でそんな話に…リートは関係ないのに、可哀想じゃない!」
「彼女の息子だってそうじゃないか、生後半年だったんだぞ?思い出だってほとんどないだろうに。それをお前が、自分の意見を押し付けて、傷付けたんだろう?」
「それはそうだけど、番なんだから」
「お前は都合がいい時だけ番だと言い、爵位のことはどうした?言っていることが滅茶苦茶だ…」
「どちらにしても彼女が従えばいいことじゃない」

 番にしても、男爵家の娘だとして、公爵家に番は従えばいい話じゃないか。

「自殺にまで追い込んでか…お前のせいだったらしいな」

 リックスは酷く冷えた声で言い、お前などと呼ばれたことのないノラは、初めて夫に恐怖を感じた。

「ち、違うわ!私のせいじゃない」
「不安定な人には何がきっかけになるか分からない、医者でも分からぬのに、偉そうに説教したそうだな?気遣ってやれというわけじゃない、思っていたとしても言うべきではない、そんなことも分からないのか?」
「…」
「もういい、次に抗議が入ったら、離縁になる。いいな?」
「待ってよ」
「当主の判断だ、猶予が貰えただけでも良かったな」

 ノラは気付いていないが、完全に夫婦仲に亀裂の入った瞬間だった。

 その後はさすがにシュアンに話し掛けることは控え、大人しく過ごした。リックスならともかく、マグナー伯爵に言われれば離縁するしかなくなるからだ。

 公式な場ではロークロア公爵として、きちんと接していると自負していたノラだったが、職場も公式な場であるにも関わらず、馴れ馴れしい態度を取っており、訝しげな目で見られていたので、周りはシュアンに突き放されて、正直スッキリした。
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