上 下
14 / 103
愛してはいけない人

14

しおりを挟む
 ミクサーの配慮不足により、距離を取って見守ることを周知させ、レイラは妊娠八ヶ月となった。

「そろそろ、子どもの物を用意するために、妊娠を伝えてもいいだろうか」
「公になりますか」
「皆に知らせるということではないが…何かあるのか?」
「妹には生まれるまで、伝えないで欲しいのです」

 既に伝えていると思っていたので驚いたが、キア皇国に来てしまうのではないかと、危惧しているのかもしれない。

「だが、いいのか?」
「はい、あの子は心配するでしょうから。必要な方には伝えて貰って構いません」
「分かった、皇太子夫妻には伝えることになるが、口止めをしておく」
「よろしくお願いいたします」

 皇太子夫妻も伝え、狂気の時に授かった子だと正直に話したが、それでも子どもは宝だと喜んでくれた。夫妻にはまだ子どもは出来ていない。

 そして母国には生まれるまで知らせないで欲しいとお願いをした。

「なぜだ?」
「レイラも母君も、獣人の番でした。ですので、妹君をキア皇国に入れたくないようです。心配して来てしまっては、無意味になります」

 可能性はないとは言えない。体の不自由ではない妹が来る方がいい、だが、これまでやって来たという話は聞いていなかった。

 レンバー伯爵家は、獣人があからさまにいる場には行かないようにしていた。第二の被害者を出さない、人に出来る唯一のことだったのだろう。

 それでもレイラは襲われることはなかったが、見付かってしまった。獣人のいる邸で大丈夫かと思ったが、使用人への徹底周知させて、距離を置いて接してはいるが、嫌悪するようなことはなかったという。

「そうか…そういうことならフルヴィア、黙っておいてくれるか」
「ええ、構いませんが…でも生まれて会いたいと思われたら?」
「その時は、我々が向こうに行くようにします。ただレイラには馬車は非常に辛いようで…」
「狭いからな」
「休みながらと言っても、それも不特定多数の人に会うことになりますので」
「何かいい手を考えなくてはならぬな」

 折角、レンバー伯爵家を守るという約束をしたのに、キア皇国で何かあれば意味がない。レイラも責任を感じて、また家族を壊されては堪らない。

「公爵、もし可能ならレイラ夫人にお会いできないかしら?勿論、私が伺うわ」

 フルヴィアは未だ妊娠出来ず、番でないことから大目に見られてはいるが、側妃を娶る可能性はどんどん迫っており、焦る気持ちはある。だが、どうにかしてひとりだけでも産まなくては意味がない。

 レイラが羨ましいと思わないと言えば嘘になるが、フルヴィアにとってレイラは妬む相手ではない。ただ人であるレイラに妊娠の話を聞きたかった。

「聞いてみます。随分、穏やかに過ごしておりますので」

 商会を呼んだりもしたが、レイラには知らない人には会うのは控えたいと断られた。道中で景色を見ることもせず、その後は邸に籠っているのだ。外の世界の獣人には会いたくないだろう。

 浮かれていて忘れていたが、彼女にとってはここは憎しみと恐怖の存在なのだ。医師だけは人であることもあったが、受け入れているようで、見付けておいて良かったと心から思った。

 一部の者にしか知らせず、口止めもしたため洩れることはなく、妊娠は順調に進んでいた。

「フルヴィア皇太子妃が、会いたいと言っているんだが、どうだろうか?」
「あまり親しくはないのですが」
「お祝いと、もしかしたら子どもが出来ない不安があるのかもしれない。それで話を聞きたいのかもしれない」
「お祝い?」
「ああ、とても喜んでらした」

 そしてレイラから了承を貰い、フルヴィアに邸に来て貰うことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

この朝に辿り着く

豆狸
恋愛
「あはははは」 「どうしたんだい?」 いきなり笑い出した私に、殿下は戸惑っているようです。 だけど笑うしかありません。 だって私はわかったのです。わかってしまったのです。 「……これは夢なのですね」 「な、なにを言ってるんだい、カロリーヌ」 「殿下が私を愛しているなどとおっしゃるはずがありません」 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

その瞳は囚われて

豆狸
恋愛
やめて。 あの子を見ないで、私を見て! そう叫びたいけれど、言えなかった。気づかなかった振りをすれば、ローレン様はこのまま私と結婚してくださるのだもの。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

処理中です...