ゲコテニ！！～下剋上テーブルテニスLIFE!!～

第２話「檸檬と私と卓球と」

その日、真由香はまた放課後の体育館に向かっていた。

卓球の練習が楽しみで仕方なかった。

梶基次郎との出会いが彼女の心に新たな光を灯し、卓球の玉と心を通わせる感覚が次第に実感として確立していったからだ。


体育館の扉を開けると、かすかに檸檬の香りが漂ってきた。

真由香は顔を上げ、その香りを辿るように歩いた。

すると、やはりそこには和服姿の梶基次郎が立っていた。

彼は真由香に微笑みかけ、優雅な手つきで一つの檸檬を持ち上げた。

「今日のテーマはこれだよ、真由香さん。」

「檸檬ですか？」

真由香は訝しげに尋ねた。

「そう、檸檬。卓球の玉と同じように、これもまた心と通じるものがあるんだ。」

次郎は檸檬を鼻に近づけ、深く吸い込んだ。

「香りを感じてごらん。その香りが君の心をどのように動かすかを感じるんだ。」

真由香は次郎の真似をして、檸檬の香りを深く吸い込んだ。

その瞬間、何かが心に触れるのを感じた。

爽やかで鋭い香りが、彼女の心を鮮やかに染める。

「どう感じる？」

次郎が問いかけた。

「とても…清々しいです。でも、ちょっと切ない感じもします。」

真由香は答えた。

「そう、それが大切なんだ。卓球の玉と心を通わせるためには、こうした微細な感覚を大切にすることが重要なんだよ。」

次郎は頷いた。

「さあ、今日も練習を始めよう。」

その後の練習でも、真由香は次郎の指導のもと、卓球の技術だけでなく心の在り方を学び続けた。

次郎の言葉はいつも深い意味を持ち、彼女の心に響いた。

練習が終わる頃には、体育館全体が檸檬の香りで満たされていた。


翌日の授業中、真由香の隣の席に座る舞友(まゆ)が、不思議そうな顔をして彼女を見つめていた。

舞友はクラスの中でも特に優れた成績を持つ生徒であり、その冷静な眼差しが真由香を少し居心地悪くさせた。

真由香が窓の外をぼんやりと眺めていると、ふとした瞬間に檸檬の香りが鼻をかすめた。

彼女は驚いて振り向いたが、もちろんそこには何もなかった。

隣の席の舞友が、じっとこちらを見ているのに気づいた。

「何かあったの？」と舞友が尋ねることもなく、ただその視線が真由香に突き刺さるようだった。

真由香は気まずさを感じつつも、何も言わずに授業に集中しようと努めた。


放課後、真由香は再び体育館に向かった。

扉を開けると、またもや檸檬の香りが漂ってきた。

次郎はいつものように卓球台の前に立っていた。

「こんにちは、真由香さん。」

次郎が微笑んで挨拶した。

「こんにちは、梶基さん。」

真由香も笑顔で応じた。

その日も次郎の指導のもと、真由香は卓球の練習を続けた。

檸檬の香りが彼女の心を研ぎ澄まし、卓球の技術と心の在り方を一層深く理解する手助けとなった。

次郎の言葉と動きに引き込まれるように、真由香はその魅力を感じ続けた。

「卓球の玉には魂が宿っている。」

次郎の言葉が再び真由香の心に響いた。


その日、真由香は新たな発見を胸に抱いて帰宅した。

檸檬の香りが彼女の心に残り続け、次郎の言葉と共に鮮やかに蘇った。


真由香の様子を見て、舞友はその背後にある何かを感じ取ろうとしていた。

クラスの誰よりも鋭い観察力を持つ舞友は、真由香の変化に気づかないはずがなかった。

そしてその日もまた、真由香の周囲には檸檬の香りが漂っているように感じた。

舞友の目には、真由香の変化が興味深く映った。

真由香が何を見て、何を感じているのか、その答えを知りたいという気持ちが舞友の心に芽生えていた。