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本人無自覚の出会い編〈7歳~12歳〉
完璧王子は光を見た
しおりを挟む天から聞こえてきた透き通るような美しい声。それが聞こえた瞬間――――――私とブラッドベアの間を、強い風が吹き抜けた。
見ると、さっきまで目前に迫っていたブラッドベアが15メートルほど向こうに飛ばされ、さらには何かに切りつけられたかのように胸に傷を負い、血を流していた。
そして突如現れた白銀の光が、天から降りてくる・・・
「な、ん・・・だ?この光は・・・・?」
思わず声を零してしまう。それほどに美しく、神々しい光だった。
近づいてくるたびにその正体がはっきりしてくる。
そこに居たのは、長いまつげに縁取られた、翡翠をはめ込んだような美しいエメラルドグリーンの眼に、星をちりばめたかのように輝かんばかりの銀の髪。
とてもこの世のものとは思えない美貌を持つ少女だった。その背には純白の羽をつけており、この状況だというのに微笑みを浮かべてこちらを見ている。
「わたしが来るまでよく耐えましたね」
そして彼女はゆっくりと私とブラッドベアの間に舞い降り、こちらを振り返った。
「もう安心していいですよ。私がなんとかします」
言うと彼女はブラッドベアに向き直り、私を庇うかのように立ちはだかった。
危険すぎる逃げろ、といったが彼女はまるで聞こえていないかのように、にこりと微笑むだけでそこをどく気はないようだ。
ガルルルルルゥッッ!!と、怒りの炎を目に宿しながらブラッドベアが低くうなる。そして彼女に狙いを定めて猛進してきた。不味いっ。彼女を巻き込むわけには!
「【龍の巣】」
鈴のような声が、聞いたことのない呪文を紡いだ――――。
それとともに再びさっきと同じ魔力を纏った風が吹き、けれど先ほどの数十倍もの威力で竜巻をつくりブラッドベアを巻き込んでゆく。
もの凄い魔力の密度と制御――――。まさか、さっきブラッドベアを切りつけたのはこの少女・・・?
暫くしてようやく暴風が吹きやみ、閉じていた目を開ける。
自信に満ちあふれた笑みを浮かべている彼女の髪が、風になびき太陽の光に照らされキラキラと輝いている。その姿は大自然に愛され、神々から祝福を受けているようであった。それはまるで・・・「怪我はありませんか?」
いつの間にか彼女が近くに来ていて、しゃがんでこちらを覗き込んでいた。考え込んでしまい、気づかなかったようだ。心配そうなエメラルドの瞳と目が合う。
「あ、ああ。私は大丈夫だが彼がっ。私を庇って、重症を負ってしまったんだ」
私の言葉を聞いて、瞬時に真剣な表情に切り替わった。そして木にもたれかかっているランスの所に行くと、彼女は木からゆっくりとランスを起こし、背の傷を確認した。
すると一瞬何かを考え込んだ後、片手を傷口にかざした。
「【ルポ・ソレイユ】」
まただ。また聞いたことのない呪文。
だがそれに反して効果は高く、ありえない速さで怪我が治っていく――――――――。
普通の魔術師が使う治癒魔法は、止血をして軽い傷を治すくらいだ。そして王宮の魔法師団の団長レベルともなると重傷ものの傷でも塞ぐことが可能。
だが治癒の間は魔力を注ぎ続けなくてはいけない為時間がかかり、何よりとてつもなく魔力を食う。魔力量が多い者でも3回ほど使うと魔力が枯渇してしまい気を失ってしまうのだ。
また魔法で治すといっても、治癒魔法をかけて無理矢理体の修復能力を向上させているため傷痕が残ってしまうし、中には反動で後遺症が残ったりすることもある。
それが常識と思われているなか一瞬と言っていいほどの速さで傷口が塞がっていく様を見た私は、自分の目を疑ってしまった。
呆気にとられて固まっているうちに、ランスの怪我は完全に治った。その証拠か苦痛に歪んでいた顔は和らぎ、血色も幾分か良くなったような気がする。
そして傷痕を一切残さずに完璧に治療したことが、この少女の凄まじさを物語っている。
「これで大丈夫だと思います。他の方は今すぐ命に関わると言うわけではないので、とにかく移動しましょう。この血のにおいに引き寄せられて、他の魔物達が寄ってきたら大変ですから。」
明らかに骨が折れているだろう者たちの怪我を大したことではない、つまりこのくらい直ぐに治せると暗に言いしめたことに私はまたもや驚愕しながらも彼女に了承し、その場を移動した。
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