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第一章前編『英雄爆誕編』(急)なろう系あるある・異世界名物スタンピード
第三十三話「いきなりスタンピード(前篇)」
しおりを挟む純白を彩る鮮烈な赤がそこにあった。
白いシーツに残された小さな赤い染み。
それは、確かに彼女が初めてであったことを証明するものだ。
ルティエラは未だベッドで荒い息を吐いている。
時折ビクンビクンと震える姿が可愛らしい。
毛布の中からはみ出た白い四肢。それはまるで芸術品だ。
あの薄い布を一枚剥げば未だ全裸の彼女が横たわっているのだと思うともうたまらない。
もう一度味わいたくなってくる。
だが、これ以上は彼女を壊してしまいかねない。
性豪スキルにより未だ萎えることを知らない俺の一物。
このまま己の欲望に従い獣のように愛しても、その結果大切な彼女を不幸にしてしまっては意味が無いのだ。
耐えろ。耐えるんだマイサン。また明日楽しめばいいじゃないか。
どうどうと猛獣をいさめるような形で自らの息子をなんとか沈静させることに成功した俺は、いとしのハニーへと向き合う。
うっとりと天上を眺めていた彼女の頭を撫で、軽く口づけをする。
抱きしめながら頭を撫でていると、向こうもこちらへと手を伸ばし、抱きつく姿勢でキスを返してくる。
このまま流れで二戦目へと進みそうになる所を抑え、そのまま床につく。
……はずだったのだが湿っぽいので一旦二人でベッドから降りる。そしてシーツを洗って乾燥させるのだった。魔法で。
赤い染みもちゃんと洗ったよ。主にルティエラさんが。恥ずかしいからって。可愛いね。
そうこうして、二人抱きしめあいながら眠りにつくのであった。
すやすやと眠る彼女の顔はとても可愛かったです。
朝になると、彼女がいなかった。
まさか昨日の出来事は夢だったのか?
と思い、急いで着替えて部屋を飛び出すとそこには、いつものフードローブ姿をしたルティエラがいるのだった。
俺の姿を見て、即座に顔を赤らめながら目をそらす彼女。
「お、おひゃようございましゅ……です」
噛んでるし。
内股をもじもじさせながら長い髪をいじるその姿は、もうめっちゃ可愛いらしい。
この反応は……うん、夢じゃないな。
「おはよう。急にいなくなるからびっくりしたよ」
「あ、あわ、あう……その、は、恥ずかしくてつい……」
顔を真っ赤にするルティエラが愛おしいので抱きしめた。
「あ、あわわ、あぅ……そ、その。誰かに見られたら……」
戸惑いながらもまんざらではないようで、抵抗の気配は無い。
なのでよしよしと頭を撫でておく。
「うにゅぅ……」
向こうからも抱きしめてくる。
宿屋の廊下でいちゃつく二人。
そんなことしてれば誰かの目についたりしちゃうのも当然な訳で……。
「あ、アルク」
部屋から出てきたセルフィに目撃されてしまった。
「もうやっちゃったの?」
右手でこの世界における卑猥な意味を持つのであろう手形をしながら、恥ずかしげもなくセルフィがダイレクトに問う。
「あわ……はわわわわ……あぅ……」
顔を真っ赤にしながらうつむいて、無言の肯定を示すルティエラ。
「三号さん確定。おめでとう」
怪しい手形をこちらに向けながらにんまりと微かに微笑むセルフィ。
そうこうしていると。
「んにゅ~……あ、アルクだ~」
フィルナも部屋から出てきた。
「ア~ルク~♪」
両手を広げながらこちらにとてとてと駆け寄り……。
「んむ?」
俺の腕の中にいるルティエラを見て一瞬固まる。
「あ、その……どうぞ」
俺の腕をそっとどかして距離を取るルティエラさん。
俺は両手を広げてフィルナを受け止めんと待ち構える。が……。
「どういうこと?」
「ん~……見た通り、かな?」
「うぅ……ポイなの? ボクのこと、ポイするの……?」
涙目になりながら、捨てられた子犬のように震えるフィルナを俺はそっと抱きしめる。
「大丈夫。そんなことしないから」
プルプル震えるフィルナをあやして数十分後。
俺に甘えることでようやく機嫌を直してくれたフィルナ。そしてセルフィとルティエラと共に宿の一階にある酒場兼食堂へと向かう。
適当に注文をして待っている間、彼女達の話題は昨晩の俺達の行為についてだった。
「で、どうだった?」
小首を傾げてセルフィが問う。
「ふぇ?」
「あ、それボクも気になる」
「アルクとの夜の営み。初体験」
「はわ、あわわ……」
「アルクすっごい上手だからね~」
「天国が見えたの」
「う、あぅ……その……」
俺的にもちょっと気になる。
お楽しみいただけたのだろうか。
「……す、すごい、よかったです」
やがて、顔を真っ赤にしながら答えるルティエラ。
「でも、よかったですけど……その、死ぬかと思いました……です……」
「あ~」
「わかる」
三人とも思う節があるらしい。
「ちょっとだけ、やりすぎかも……? です」
「確かに、気持ちよすぎて苦しい時、あるかも」
「ボ、ボクは別に……もっとガッツリ来たって全然余裕で受け入れちゃうけどねっ」
「私も今くらいでいいの。ちゃんと手加減してくれてるって信じてるから」
「わ、私もです。ちょっと苦しいですけど、嫌なわけではなかったのです」
三種三様の御意見をうけたまわる俺なのだった。
なにはともあれ、この調子なら三人仲良くやっていけそう、かな?
料理も運ばれてきて、たらふく食べて。
なんか忘れているような気がした。
その時だった。
「ちょっといいかな」
宿屋の主人が声をかけてきた。
「はい」
「昨日、大量のアシッドウルフの毛皮を持ち込んだのは君たちだったね?」
「えぇ、そうですけど」
「何があったのか、詳しく聞かせてもらえないかな?」
あれ? 俺、何かやっちゃいました?
「いや、怪しんでいるとかそういうんじゃないんだ」
「というと?」
「素材を届ける際にね。偶然ギルドの中枢メンバーに会ってね。この素材について聞かれたんだ。それでね……」
マスターが言うには「もしこれを短い期間で狩ったのであれば注意が必要かもしれない。詳しいことを聞いてきて欲しい」と頼まれたのだとか。
なので、俺はこの間の狩りについてできるだけ隠すこと無く詳細に伝えるのだった。
「なるほどね……複数の魔獣による大群の出現、か」
「珍しいことなんですか?」
「あぁ、めったにあることじゃあないね。何か嫌な予感がする」
難しい顔をして黙り込む主人。
「……獣魔大乱」
その時、ルティエラが小さく声をあげた。
「え?」
「そ、そうです。すっかり忘れていましたです……! 私としたことが……っ」
「どういうことだい?」
「複数の魔獣が群れをなして襲う。あれは小規模とはいえ獣魔大乱と酷似しているのです。もしかしたら……」
「なんだって……? それは本当かい?」
「類似性から予測される可能性の話です。けど、警戒すべきかと思われます」
「わかった。斥候部隊を森に放って情報を集めておこう。それと念のため、今日はパグロダの森への依頼は全て中止だ。出入り禁止にしておこう」
こうして、パグロダの森へと諜報部隊が送られることとなった。
そして半日が経過した頃。その狼煙があげられた。
森からあがる赤と黒の煙。
緊急事態発生の合図だ。
やがて、ジョサリムの街全体にそれは告げられることとなる。
獣魔大乱の発生。
群れの向かう先はこのジョサリムの街。
街の冒険者全員が広場へと集められる。
依頼は一つ。獣魔大乱で発生した魔獣の討伐。
民の避難は間に合わない。
いや、間に合わせるためにも、誰かが盾にならなければならない。
そんな時のために命を賭けるのが冒険者なのだ。
一つの街の冒険者の数などたかが知れる。
対して、魔獣の数は圧倒的。
それでも戦わなければならない。
決戦まであとわずか。
夕方から夜にかけて、群れは街へと到達するという。
暗闇は奴らのフィールドだ。
そんな不利な状況での決戦。死線。
周囲の街から援軍は向かっているという。
だが間に合わない。時間を稼がなければならない。
逃げるわけにはいかない。街には無力な民がいる。
逃げるわけにはいかない。ここで逃げても他の街が狙われる。
一旦引いて次の機会を待てばいい?
たしかに援軍と迎え撃てば勝率は上がるだろう。
けれど、民草は逃げ切れない。ここで誰かが迎え撃つしか無いのだ。
煌々と大地を照らしていた太陽が、遥か彼方の地平線の下へと沈みかけた時。
赤い空が漆黒の闇へと移り変わる狭間の時間。黄昏時。
俺達は街の城壁の外で魔獣の到来を待ち構えていた。
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