上 下
33 / 78
第一章前編『英雄爆誕編』(急)なろう系あるある・異世界名物スタンピード

第三十三話「いきなりスタンピード(前篇)」

しおりを挟む

 純白を彩る鮮烈な赤がそこにあった。
 白いシーツに残された小さな赤い染み。
 それは、確かに彼女が初めてであったことを証明するものだ。

 ルティエラは未だベッドで荒い息を吐いている。
 時折ビクンビクンと震える姿が可愛らしい。
 毛布の中からはみ出た白い四肢。それはまるで芸術品だ。
 あの薄い布を一枚剥げば未だ全裸の彼女が横たわっているのだと思うともうたまらない。
 もう一度味わいたくなってくる。

 だが、これ以上は彼女を壊してしまいかねない。
 性豪スキルにより未だ萎えることを知らない俺の一物。
 このまま己の欲望に従い獣のように愛しても、その結果大切な彼女を不幸にしてしまっては意味が無いのだ。
 耐えろ。耐えるんだマイサン。また明日楽しめばいいじゃないか。
 どうどうと猛獣をいさめるような形で自らの息子をなんとか沈静させることに成功した俺は、いとしのハニーへと向き合う。

 うっとりと天上を眺めていた彼女の頭を撫で、軽く口づけをする。
 抱きしめながら頭を撫でていると、向こうもこちらへと手を伸ばし、抱きつく姿勢でキスを返してくる。
 このまま流れで二戦目へと進みそうになる所を抑え、そのまま床につく。

 ……はずだったのだが湿っぽいので一旦二人でベッドから降りる。そしてシーツを洗って乾燥させるのだった。魔法で。
 赤い染みもちゃんと洗ったよ。主にルティエラさんが。恥ずかしいからって。可愛いね。

 そうこうして、二人抱きしめあいながら眠りにつくのであった。
 すやすやと眠る彼女の顔はとても可愛かったです。


 朝になると、彼女がいなかった。
 まさか昨日の出来事は夢だったのか?
 と思い、急いで着替えて部屋を飛び出すとそこには、いつものフードローブ姿をしたルティエラがいるのだった。

 俺の姿を見て、即座に顔を赤らめながら目をそらす彼女。

「お、おひゃようございましゅ……です」

 噛んでるし。

 内股をもじもじさせながら長い髪をいじるその姿は、もうめっちゃ可愛いらしい。
 この反応は……うん、夢じゃないな。

「おはよう。急にいなくなるからびっくりしたよ」
「あ、あわ、あう……その、は、恥ずかしくてつい……」

 顔を真っ赤にするルティエラが愛おしいので抱きしめた。

「あ、あわわ、あぅ……そ、その。誰かに見られたら……」

 戸惑いながらもまんざらではないようで、抵抗の気配は無い。
 なのでよしよしと頭を撫でておく。

「うにゅぅ……」

 向こうからも抱きしめてくる。
 宿屋の廊下でいちゃつく二人。
 そんなことしてれば誰かの目についたりしちゃうのも当然な訳で……。

「あ、アルク」

 部屋から出てきたセルフィに目撃されてしまった。

「もうやっちゃったの?」

 右手でこの世界における卑猥な意味を持つのであろう手形サインをしながら、恥ずかしげもなくセルフィがダイレクトに問う。

「あわ……はわわわわ……あぅ……」

 顔を真っ赤にしながらうつむいて、無言の肯定を示すルティエラ。

「三号さん確定。おめでとう」

 怪しい手形サインをこちらに向けながらにんまりと微かに微笑むセルフィ。
 そうこうしていると。

「んにゅ~……あ、アルクだ~」

 フィルナも部屋から出てきた。

「ア~ルク~♪」

 両手を広げながらこちらにとてとてと駆け寄り……。

「んむ?」

 俺の腕の中にいるルティエラを見て一瞬固まる。

「あ、その……どうぞ」

 俺の腕をそっとどかして距離を取るルティエラさん。
 俺は両手を広げてフィルナを受け止めんと待ち構える。が……。

「どういうこと?」
「ん~……見た通り、かな?」
「うぅ……ポイなの? ボクのこと、ポイするの……?」

 涙目になりながら、捨てられた子犬のように震えるフィルナを俺はそっと抱きしめる。

「大丈夫。そんなことしないから」

 プルプル震えるフィルナをあやして数十分後。
 俺に甘えることでようやく機嫌を直してくれたフィルナ。そしてセルフィとルティエラと共に宿の一階にある酒場兼食堂へと向かう。

 適当に注文をして待っている間、彼女達の話題は昨晩の俺達の行為についてだった。

「で、どうだった?」

 小首を傾げてセルフィが問う。

「ふぇ?」
「あ、それボクも気になる」
「アルクとの夜の営み。初体験」
「はわ、あわわ……」
「アルクすっごい上手だからね~」
「天国が見えたの」
「う、あぅ……その……」

 俺的にもちょっと気になる。
 お楽しみいただけたのだろうか。

「……す、すごい、よかったです」

 やがて、顔を真っ赤にしながら答えるルティエラ。

「でも、よかったですけど……その、死ぬかと思いました……です……」
「あ~」
「わかる」

 三人とも思う節があるらしい。

「ちょっとだけ、やりすぎかも……? です」
「確かに、気持ちよすぎて苦しい時、あるかも」
「ボ、ボクは別に……もっとガッツリ来たって全然余裕で受け入れちゃうけどねっ」
「私も今くらいでいいの。ちゃんと手加減してくれてるって信じてるから」
「わ、私もです。ちょっと苦しいですけど、嫌なわけではなかったのです」

 三種三様の御意見をうけたまわる俺なのだった。
 なにはともあれ、この調子なら三人仲良くやっていけそう、かな?

 料理も運ばれてきて、たらふく食べて。
 なんか忘れているような気がした。
 その時だった。

「ちょっといいかな」

 宿屋の主人が声をかけてきた。

「はい」
「昨日、大量のアシッドウルフの毛皮を持ち込んだのは君たちだったね?」
「えぇ、そうですけど」
「何があったのか、詳しく聞かせてもらえないかな?」

 あれ? 俺、何かやっちゃいました?

「いや、怪しんでいるとかそういうんじゃないんだ」
「というと?」
「素材を届ける際にね。偶然ギルドの中枢メンバーに会ってね。この素材について聞かれたんだ。それでね……」

 マスターが言うには「もしこれを短い期間で狩ったのであれば注意が必要かもしれない。詳しいことを聞いてきて欲しい」と頼まれたのだとか。

 なので、俺はこの間の狩りについてできるだけ隠すこと無く詳細に伝えるのだった。

「なるほどね……複数の魔獣による大群の出現、か」
「珍しいことなんですか?」
「あぁ、めったにあることじゃあないね。何か嫌な予感がする」

 難しい顔をして黙り込む主人。

「……獣魔大乱スタンピード

 その時、ルティエラが小さく声をあげた。

「え?」
「そ、そうです。すっかり忘れていましたです……! 私としたことが……っ」
「どういうことだい?」
「複数の魔獣が群れをなして襲う。あれは小規模とはいえ獣魔大乱スタンピードと酷似しているのです。もしかしたら……」
「なんだって……? それは本当かい?」
「類似性から予測される可能性の話です。けど、警戒すべきかと思われます」
「わかった。斥候部隊を森に放って情報を集めておこう。それと念のため、今日はパグロダの森への依頼は全て中止だ。出入り禁止にしておこう」

 こうして、パグロダの森へと諜報部隊が送られることとなった。

 そして半日が経過した頃。その狼煙があげられた。

 森からあがる赤と黒の煙。
 緊急事態発生の合図だ。

 やがて、ジョサリムの街全体にそれは告げられることとなる。

 獣魔大乱スタンピードの発生。
 群れの向かう先はこのジョサリムの街。

 街の冒険者全員が広場へと集められる。

 依頼は一つ。獣魔大乱スタンピードで発生した魔獣の討伐。

 民の避難は間に合わない。
 いや、間に合わせるためにも、誰かが盾にならなければならない。
 そんな時のために命を賭けるのが冒険者なのだ。

 一つの街の冒険者の数などたかが知れる。
 対して、魔獣の数は圧倒的。

 それでも戦わなければならない。

 決戦まであとわずか。
 夕方から夜にかけて、群れは街へと到達するという。
 暗闇は奴らのフィールドだ。
 そんな不利な状況での決戦。死線。

 周囲の街から援軍は向かっているという。
 だが間に合わない。時間を稼がなければならない。

 逃げるわけにはいかない。街には無力な民がいる。
 逃げるわけにはいかない。ここで逃げても他の街が狙われる。

 一旦引いて次の機会を待てばいい?
 たしかに援軍と迎え撃てば勝率は上がるだろう。

 けれど、民草は逃げ切れない。ここで誰かが迎え撃つしか無いのだ。


 煌々と大地を照らしていた太陽が、遥か彼方の地平線の下へと沈みかけた時。
 赤い空が漆黒の闇へと移り変わる狭間の時間。黄昏時。

 俺達は街の城壁の外で魔獣の到来を待ち構えていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...