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それは夜を統べるもの
騎士フルカスと黒きアスワド
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一人の男は老人で、これは馬にまたがっていた。腰には剣を帯び、その馬は青白い。
そしてもう一方の男には、皆異質な何かを感じ取っていた。男の服装は黒一色で占められており、立ち居振る舞いは上品だがとてもこんな森の中でするような服装では無い。
「何者だい?冒険者にゃぁ見えないが、グリフォンだったら俺ちゃん達が倒しちゃったぜ?」
ジョンがお道化て言ってみる。敵なのかどうかは分からないが異様なのは確かだ。相手の目的も何も分からず不気味さだけがある。
「おやおや、食いしん坊のグリフォン君はやられちゃったのね。まぁこの辺りには天敵になるような生き物もいなかったみたいだし、この上なく油断してたんだろうね。分かる分かる。ところで、僕たちが何者なのか気になるよねぇ?」
ジョン以上にお道化て彼は言った。顔はニヤついててリアクションもオーバーだ。
「それは、ねぇ?こんな所に馬に乗ったおじいさんと真っ黒な服を着た人がいたら、普通は気になるわ。」
セリエが言う。しかし皆一応の心当たりはあるのだ。ジルベルタをこの世界に連れて来たという黒い男。隣の老人は分からないが、この青年はその黒い男である可能性がある。
「そうだよねぇ。じゃ、自己紹介しようか。僕は黒きアスワド。そんでこっちが。」
「儂の名はフルカス、騎士じゃ。」
両者が名乗った。何が黒いのか、いや、或いはそれはもしかしたら服の事だろうか?彼はアスワドと、そして隣の老人はフルカスと名乗った。フルカスに至っては騎士という役職付きで。
この世界で騎士に任じられたのはジェラールただ一人だ。もしかたらどこか遠い他の国にはいるのかも知れないが、少なくともこの国には彼一人だ。その騎士を、眼前の老人が名乗っている。
異界の者だと、誰もがそう思った。
アルベールはジルベルタに目配せする。するとジルベルタは首を横に振った。どうやらジルベルタを連れて来た者では無いようだ。しかし。
「いやぁ、せっかくシルヴェストル君に魔法の道具を持たせたのにさぁ、君たちったら彼を殺しちゃうんだもん。正直この世界の人間を見くびってたけどそれはそれとしてさ、そんな君たちがどれ程強いのか。ちょっとばかり遊んでもらおうと思ってね?」
肩をすかしながらアスワドが言う。彼の言うシルヴェストルが何者なのかは皆分からなかったが、魔法の道具と言う言葉でピンとくる。
リッチだ。
となると、あの魔術師に魔法の道具を渡したのが彼なのだろうか?皆の疑問は深まる。
「あの魔術師に魔法の道具を渡したのはお前なのか?そうだとしたら一体なんでそんな事をしたのだ?」
アルベールがアスワドに問う。彼の、或いは彼等の目的が知りたい。どうせ碌でも無い事なのだろうが、それでも聞く事には意味があった。
「あぁ、だって素敵じゃないかい?あのまま彼を放っておけば、死者の群れが生者に襲い掛かってたんだよ?最初は規模も小さいかもしれないけれど、ゆくゆくは大軍団となってこの世界の生きとし生けるものの恐怖の象徴になった筈さ。」
嬉々としてアスワドは言った。皆苦虫を噛み締める様な顔でそれを聞いている。当然だ。彼の目的はおぞましいという言葉以外で表せられるものではなく、明確にこの世界の敵足らんとしていたのだから。
「うぇ、最悪。」
「ぞっとしないねぇ。」
ジョンとミリアムが思わずこぼす。そしてアルベールはわなわなと肩を震わせていた。
「何という事を!平穏に暮らす人々の安寧を打ち砕いて、お前たちはそれでも人か!」
アルベールが叫ぶ。怒り心頭だ。
「人、人ねぇ。じゃぁ僕らが人じゃなかったら良い訳かい?良かったねぇ、王子様。僕たちが人じゃなくてさ。」
アルベールの怒りすらも涼風の様に受け流してアスワドは言う。ニヤついた顔を隠そうともしない。
いや、ともすればアルベールの怒りに対してこの男は笑っているように見える。だとすれば人だろうが人でなかろうが相当に屈折した性格の持ち主だ。
「こんな奴等と話す必要なんてなんてないぜ、アルベール。遊んでほしいんだろ?だったら遊んでやるよ!」
ジルベルタが駆け出す。話の内容もそうだが、アスワドの人を食った態度に業を煮やした様だった。真っ直ぐにアスワドに走っていく。
「おやおや、狼少女は我慢が下手かい?いいよ、じゃぁ狼さんは僕と遊ぼうか。」
言ってアスワドも悠々と歩き出す。ジルベルタの膂力を知らないのだろう、アスワドは飄々としているがじきに泡を食う羽目になる。皆が思った。
「おらぁ!
ジルベルタの放った拳は真っ直ぐに速い。人では無いと言ってはいたが人の形をしたアスワドがこれを喰らえば、どこかへ吹っ飛んで行ってしまうのではないだろうかと思えた。
しかし
「お転婆だねぇ、狼さんは。でも、馬鹿正直なパンチには当たってあげないよ。」
アスワドはギリギリまで引き付けたジルベルタの拳に軽く手を添えてその軌道を変える。この世界の人間の与り知らぬことではあるが、これは拳法の動きだ。
「いけないジル、一人では。」
駆け出す四人。しかしその前に立ちはだかる影。騎士フルカスだった。
「お主等の相手は儂じゃ。人間風情がどこまでできるか知らんが、精々死なんように頑張ってくれよ?」
そう言ってフルカスが剣を抜く。その刀身は鋭く長い。馬上から切りかかる事を想定して作られたことは明らかで、左手に持つ盾も下が細く作られている。
ジルベルタの方を見やれば、アスワドへ攻撃を仕掛けてはいるが一向に当たる気配がない。余裕故なのかアスワドはおちょくっている節すらある。
このまま頭に血が上ればジルベルタは致命的な一撃を貰って倒れるだろう。アスワドの気分にもよるのだろうが、最悪殺される事もあるだろう。早く駆け付けたい所だった。
しかし眼前の騎士も危険だ。見た目は老人だが、言葉通り人間ではなさそうだ。対峙しているだけだと言うのに皆汗が止まらない。馬の威容もさることながら、武器の見事さもさることながら、みな眼前の老人が放つ殺気に当てられていた。
これを掻い潜ってジルベルタの方に向かうのは骨が折れそうだった。フルカスに背を向けるのは切られるのと同義だろう。とてもではないがフルカスの目を盗めるとは思えなかった。
であれば、一刻も早くフルカスを倒す必要がある。人馬一体と自負するかどうかはさておき一騎は一騎。こちらは四人いるのだ。しかも全員が魔術を使える。二人が前衛に立ち残り二人が魔術で応戦してもいいし、何となれば全員で一斉に魔術を使ってもいい。
言葉は無いが既に全員が武器を抜いている。初弾、これこそが重要だ。
「ライトニングボルト!」
アルベールが行使した魔術は稲妻の魔術。人でない者に効くかどうかは分からないが初手から威力の高い魔術で攻撃を仕掛けた。
それに伴い仲間達も一斉に動く。フルカスを取り囲むように。
初手をとり、人数も優勢。ともすればこのままアドバンテージをとったまま戦闘を始められるかとも思ったが、しかし。
「魔術とやらか。魔法とは違うようだが、しかしこんなものかね。」
フルカスは盾で受けた。金属で出来たただの盾などでライトニングボルトを受け切れる訳が無いのは明白。魔法の道具だと誰もが思った。そして、おそらくは武器もそうであろうと。
「良い盾を持ってるのね、羨ましいわ。」
セリエがにこりとして言う。しかし当然ながら目は笑っていない。
思わぬ強敵との邂逅に皆が皆天に唾したい気持ちだった。しかし天に唾した所で自分の顔が濡れるだけ。援軍の当てもない今、頼れるのは自分と仲間達だけだった。
そしてもう一方の男には、皆異質な何かを感じ取っていた。男の服装は黒一色で占められており、立ち居振る舞いは上品だがとてもこんな森の中でするような服装では無い。
「何者だい?冒険者にゃぁ見えないが、グリフォンだったら俺ちゃん達が倒しちゃったぜ?」
ジョンがお道化て言ってみる。敵なのかどうかは分からないが異様なのは確かだ。相手の目的も何も分からず不気味さだけがある。
「おやおや、食いしん坊のグリフォン君はやられちゃったのね。まぁこの辺りには天敵になるような生き物もいなかったみたいだし、この上なく油断してたんだろうね。分かる分かる。ところで、僕たちが何者なのか気になるよねぇ?」
ジョン以上にお道化て彼は言った。顔はニヤついててリアクションもオーバーだ。
「それは、ねぇ?こんな所に馬に乗ったおじいさんと真っ黒な服を着た人がいたら、普通は気になるわ。」
セリエが言う。しかし皆一応の心当たりはあるのだ。ジルベルタをこの世界に連れて来たという黒い男。隣の老人は分からないが、この青年はその黒い男である可能性がある。
「そうだよねぇ。じゃ、自己紹介しようか。僕は黒きアスワド。そんでこっちが。」
「儂の名はフルカス、騎士じゃ。」
両者が名乗った。何が黒いのか、いや、或いはそれはもしかしたら服の事だろうか?彼はアスワドと、そして隣の老人はフルカスと名乗った。フルカスに至っては騎士という役職付きで。
この世界で騎士に任じられたのはジェラールただ一人だ。もしかたらどこか遠い他の国にはいるのかも知れないが、少なくともこの国には彼一人だ。その騎士を、眼前の老人が名乗っている。
異界の者だと、誰もがそう思った。
アルベールはジルベルタに目配せする。するとジルベルタは首を横に振った。どうやらジルベルタを連れて来た者では無いようだ。しかし。
「いやぁ、せっかくシルヴェストル君に魔法の道具を持たせたのにさぁ、君たちったら彼を殺しちゃうんだもん。正直この世界の人間を見くびってたけどそれはそれとしてさ、そんな君たちがどれ程強いのか。ちょっとばかり遊んでもらおうと思ってね?」
肩をすかしながらアスワドが言う。彼の言うシルヴェストルが何者なのかは皆分からなかったが、魔法の道具と言う言葉でピンとくる。
リッチだ。
となると、あの魔術師に魔法の道具を渡したのが彼なのだろうか?皆の疑問は深まる。
「あの魔術師に魔法の道具を渡したのはお前なのか?そうだとしたら一体なんでそんな事をしたのだ?」
アルベールがアスワドに問う。彼の、或いは彼等の目的が知りたい。どうせ碌でも無い事なのだろうが、それでも聞く事には意味があった。
「あぁ、だって素敵じゃないかい?あのまま彼を放っておけば、死者の群れが生者に襲い掛かってたんだよ?最初は規模も小さいかもしれないけれど、ゆくゆくは大軍団となってこの世界の生きとし生けるものの恐怖の象徴になった筈さ。」
嬉々としてアスワドは言った。皆苦虫を噛み締める様な顔でそれを聞いている。当然だ。彼の目的はおぞましいという言葉以外で表せられるものではなく、明確にこの世界の敵足らんとしていたのだから。
「うぇ、最悪。」
「ぞっとしないねぇ。」
ジョンとミリアムが思わずこぼす。そしてアルベールはわなわなと肩を震わせていた。
「何という事を!平穏に暮らす人々の安寧を打ち砕いて、お前たちはそれでも人か!」
アルベールが叫ぶ。怒り心頭だ。
「人、人ねぇ。じゃぁ僕らが人じゃなかったら良い訳かい?良かったねぇ、王子様。僕たちが人じゃなくてさ。」
アルベールの怒りすらも涼風の様に受け流してアスワドは言う。ニヤついた顔を隠そうともしない。
いや、ともすればアルベールの怒りに対してこの男は笑っているように見える。だとすれば人だろうが人でなかろうが相当に屈折した性格の持ち主だ。
「こんな奴等と話す必要なんてなんてないぜ、アルベール。遊んでほしいんだろ?だったら遊んでやるよ!」
ジルベルタが駆け出す。話の内容もそうだが、アスワドの人を食った態度に業を煮やした様だった。真っ直ぐにアスワドに走っていく。
「おやおや、狼少女は我慢が下手かい?いいよ、じゃぁ狼さんは僕と遊ぼうか。」
言ってアスワドも悠々と歩き出す。ジルベルタの膂力を知らないのだろう、アスワドは飄々としているがじきに泡を食う羽目になる。皆が思った。
「おらぁ!
ジルベルタの放った拳は真っ直ぐに速い。人では無いと言ってはいたが人の形をしたアスワドがこれを喰らえば、どこかへ吹っ飛んで行ってしまうのではないだろうかと思えた。
しかし
「お転婆だねぇ、狼さんは。でも、馬鹿正直なパンチには当たってあげないよ。」
アスワドはギリギリまで引き付けたジルベルタの拳に軽く手を添えてその軌道を変える。この世界の人間の与り知らぬことではあるが、これは拳法の動きだ。
「いけないジル、一人では。」
駆け出す四人。しかしその前に立ちはだかる影。騎士フルカスだった。
「お主等の相手は儂じゃ。人間風情がどこまでできるか知らんが、精々死なんように頑張ってくれよ?」
そう言ってフルカスが剣を抜く。その刀身は鋭く長い。馬上から切りかかる事を想定して作られたことは明らかで、左手に持つ盾も下が細く作られている。
ジルベルタの方を見やれば、アスワドへ攻撃を仕掛けてはいるが一向に当たる気配がない。余裕故なのかアスワドはおちょくっている節すらある。
このまま頭に血が上ればジルベルタは致命的な一撃を貰って倒れるだろう。アスワドの気分にもよるのだろうが、最悪殺される事もあるだろう。早く駆け付けたい所だった。
しかし眼前の騎士も危険だ。見た目は老人だが、言葉通り人間ではなさそうだ。対峙しているだけだと言うのに皆汗が止まらない。馬の威容もさることながら、武器の見事さもさることながら、みな眼前の老人が放つ殺気に当てられていた。
これを掻い潜ってジルベルタの方に向かうのは骨が折れそうだった。フルカスに背を向けるのは切られるのと同義だろう。とてもではないがフルカスの目を盗めるとは思えなかった。
であれば、一刻も早くフルカスを倒す必要がある。人馬一体と自負するかどうかはさておき一騎は一騎。こちらは四人いるのだ。しかも全員が魔術を使える。二人が前衛に立ち残り二人が魔術で応戦してもいいし、何となれば全員で一斉に魔術を使ってもいい。
言葉は無いが既に全員が武器を抜いている。初弾、これこそが重要だ。
「ライトニングボルト!」
アルベールが行使した魔術は稲妻の魔術。人でない者に効くかどうかは分からないが初手から威力の高い魔術で攻撃を仕掛けた。
それに伴い仲間達も一斉に動く。フルカスを取り囲むように。
初手をとり、人数も優勢。ともすればこのままアドバンテージをとったまま戦闘を始められるかとも思ったが、しかし。
「魔術とやらか。魔法とは違うようだが、しかしこんなものかね。」
フルカスは盾で受けた。金属で出来たただの盾などでライトニングボルトを受け切れる訳が無いのは明白。魔法の道具だと誰もが思った。そして、おそらくは武器もそうであろうと。
「良い盾を持ってるのね、羨ましいわ。」
セリエがにこりとして言う。しかし当然ながら目は笑っていない。
思わぬ強敵との邂逅に皆が皆天に唾したい気持ちだった。しかし天に唾した所で自分の顔が濡れるだけ。援軍の当てもない今、頼れるのは自分と仲間達だけだった。
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