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3星・雲の時代
10コリンナとモアの過去
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語り部である私は、
ここから物語に登場することになる。
私はコリンナ、アンディとキースのいとこで、
ビーナとクラークの娘。
私の十六歳の誕生日、ママは家に帰らなかった。
おじいちゃんと二人っきりで、友達は呼ばない。
「コリンナももう十六か。
一度ぐらい、太陽の下で誕生日を祝ってみたいね。
旅行にでも出てみようか。」(ゴルドー)
「私、苦手なんだよね、旅行とか。」(コリンナ)
「そうかい?
年をとると、いろいろ行ってみたくなるもんだよ。」
(ゴルドー)
会話ははずまない。
いつものようにギターと歌の練習をして、
一日が終わる。
おじいちゃんは、せっかくの記念日が味気ないと
私を気遣ってくれる。
そんなおじいちゃんが好きだし、
おじいちゃんがいてくれればそれだけで良いと思う。
翌日は学校がお休みだった。
お客さんが来たので玄関に出てみると、
見覚えのある女の子がいた。
「あの、ビーナさんは帰ってますか?」(モア)
「ちょっと見てきます。」(コリンナ)
「あ、荷物届けに来ただけなので、大丈夫です。
これ、渡しといて下さい。」(モア)
そう言って、ママのカバンを渡された。
カバンを受けとると、何やら親しげに話しかけられた。
「あの、コリンナちゃん、だよね?」(モア)
突然私の名前を呼ばれ、硬直してしまった。
「あ、ゴメン、脅かしちゃったかな、
あたしはモア、同じ学校なんだけどさ、
ビーナさんにはいつもお世話になってて、
ビーナさんがいつもコリンナちゃんのお話しててさ、
できれば、お友達になれたらいいなって、
思ってるんだけどさ。」(モア)
それを聞いて思い出した、
同じ学校の私より一つ上の生徒だ。
童顔なので年下かと思ってしまった。
「はい、なります。
コリンナって、呼び捨てでいいよ。」(コリンナ)
機械的な返事を返してやった。
「ありがとう!
あたしもモアでいいからね!
明日、学校で会おうよ、
紹介したいサークルがあるの!」(モア)
モアが帰って、私はママの部屋に入った。
ママはよく眠っていた。
娘の誕生日にどこで何やってんだか?
翌日、モアはサークルに案内してくれた。
『音楽活動について語り合う会』
というサークルで、文字通り語り合うだけの
サークルである。
円状に置かれたイスに数人の生徒が座り、
各々自らの活動について話をする。
みんなで音楽をやろうというサークルではない。
私のおじいちゃんが伝説のミュージシャンとして
世間に知られていたため、
私は初登場でみんなの注目を集めてしまった。
「ゴルドーの孫って、ホントかよ!
そりゃすごいの連れてきたな!」(ファイト)
誰よりもテンションを上げてきたのは、
ファイトという一つ年上の男子だった。
この時は初対面だったけど、この数ヶ月後には
毎日のように顔を合わせることになる。
モアの隣には、マイクという男子が座っていた。
「ゴルドーの孫がこの学校にいるっていう噂は
聞いてたけど、モアっていい人脈もってるな。」
(マイク)
マイクの言葉は、モアを誉めたものだった。
私をダシにされても困るんですけど。
ファイトが私に質問をぶつけてきた。
「あのゴルドーに孫がいたってのは驚きだよな。
あの人まだ三十代じゃなかったっけ?」(ファイト)
「見た目童顔だからよく間違われるけど、
今年で五十二歳だよ。」(コリンナ)
「スゲー、ホントか?
全然見えねーわ。
で、その、コリンナさんはゴルドーさんから
音楽について教わってたりとか、あるの?」(ファイト)
「あ、うん。
あるけど…私、みんなの前で話するの、
苦手なんだよね。」(コリンナ)
「そうか、デリカシーが足りなかったかな。
俺はファイト、タップダンスやってるんだ。
ノーカーウォーカーストリートってとこで
連舞雲っていうチームに入ってるんだ。
モアのことは、もう聞いたのか?」(ファイト)
「いや、知らない。」(コリンナ)
モアが喋りだした。
「あたしはフラメンコダンスやってて、
マイクはフラメンコギター弾いてます。
うちのママがダンス教室の先生やっててさ、
あたしもマイクも練習し放題なの。
もちろん、お掃除とか接客とか、
お手伝いしないといけないんだけどさ。
コリンナも今度うちにおいでよ。」(モア)
モアのことは気になっていた。
ママとどういう関係なのか、私は何も聞いていない。
フラメンコ教室なんて、ママは通ってないし、
まるで接点がわからない。
モアの話を聞ければ少しは謎が解けるような
気がしたけど、その謎は迷宮入りしてしまった。
「うん、わかった。」(コリンナ)
こうなったら、徹底的に探りをいれてやる。
その後、みんなは各自の現状を話した。
みんな仲が良くて、
和やかで居心地の良いサークルだった。
私はおじいちゃんからギターを教わり、
いつも練習しているという話をした。
みんなに比べれば大したことはしてないのに、
おじいちゃんの存在感が強いせいで、
ムダに盛り上がってしまった。
数日後、モアの家に行ってみた。
モアの母親は、クレアという綺麗な人だった。
モアと同じく、初対面から馴れ馴れしい感じだった。
「コリンナちゃん!
会いたかったわよ、いつもビーナから聞いてるわ。
ビーナによろしくね。
って、言わなくてもまたすぐうちに来るわね。」
(クレア)
ママは、モアの家に来ていたんだ。
一体、ナゼ?
「ママとは、あまり口を聞かないので。」(コリンナ)
「そうらしいわね、ビーナがいつも言ってるわ。
でも、ちゃんとお話ししておいた方がいいわよ、
人間、いついなくなっちゃうかわからないんだから。
うちは去年旦那が亡くなって、
モアも可愛そうだったわよ。」(クレア)
大きなお世話、私は父に会ったことすらありません。
そんなことより、
ママはこちらのお宅で何をしてたんですか?
…聞きたいけど、言葉が出なかった。
「モアは父親似なの。
あまり、私には似てないでしょう?」(クレア)
「そうでもないと思いますが。」(コリンナ)
「あら、うれしいわね。
でもね、私は旦那の幼い顔が好きだった。
モアは親孝行な娘だと思うわよ。
モアがいてくれるから、私はいつでも
あの人のことを思い出せるわ。
ビーナの旦那さんも、早くに亡くなったんでしょ?
今の私と同じ事を言っていたわよ。
コリンナがいてくれると、
楽しい思い出が全部思い出せるんだってね。」(クレア)
そういう話を、ここではするんだ。
家ではそんなこと全然言わない…いや、
何年か前はそんな話もしてたっけ。
フラメンコの大会に出たときのモアの写真を
見せてもらった。
お化粧をしてドレスを着たモアは、
絶世の美女に化けていた。
あまりにも綺麗で、見ていてドキドキした。
しばらくすると、フラメンコ教室の受講生が来た。
大人から子供まで、年齢層は幅広い。
雑用を手伝ったお礼にと、
レッスンを見させてもらった。
マイクはギターを弾き、モアはみんなの前で
ダンスのお手本を見せていた。
すっぴんの練習着で、
情熱的に踊る姿は綺麗でかっこいい。
これをあのメイクとドレスで踊る姿を想像すると、
その美しさは計り知れない。
受講生たちに遮られて見え隠れするモアを、
受講生たちの隙間から見ようとして
無意識に体が左右に動いてしまった。
その日以来、私はモアの家に度々行くようになった。
モアとマイクが私の家に来ることもあった。
その場合は、おじいちゃんが目当てである。
ある日、マイクが帰った後も
モアの家に入り浸っていると、私のママが来た。
「こんばんは、モア!」(ビーナ)
「ビーナ!」(モア)
二人は抱き合って何度もキスをした。
見ていてイライラした。
「ビーナが来るといつもこれなのよ。
ジェラシーやいちゃうわよ、
私には甘えてくれないのに。」(クレア)
クレアとは意見があったようだ。
良かった。
「クレアもこんばんは。
あれえ!
コリンナも来てたんだ!
嬉しい!」(ビーナ)
今度はママが私に抱きついて何度もキスしてきた。
「ちょっと、恥ずかしい!」(コリンナ)
そう言いながら、くすぐられたように笑ってしまった。
こんなママは、久しくお目にかかっていない。
お酒の臭いを消すために香水をつけて、
お化粧の甘い匂いもする。
それは、あまり好きじゃない。
「クレア!」(ビーナ)
次のママのターゲットはクレアだ。
「はあい、ハニー。」(クレア)
手慣れた様子で、クレアはママをあしらった。
「トッドが遠くへ行っちゃったから、
人肌が恋しいわ。」(クレア)
そう言ってクレアがママの顔に吐息を吹き掛けると、
ママは顔を赤くして笑っていた。
酔っぱらってるわけではなさそうだ。
それにしても、ママが何故この家に来るのか、
その謎はまだ解明されていない。
「ねえ、コリンナ、ビーナはねえ、
あたしの命の恩人なんだよ!」(モア)
意外にも、私が聞きたかった話をモアが勝手に
喋りだした。
モアの父親のトッドは、レスキュー隊として
人の命を守る仕事をしていた。
それがある日、難しい現場で命を落とした。
クレアがひどく落ち込んでいるのを見て、
モアはクレアを守るため、働こうと決意した。
エオンラピスでは、十六歳で働くのは
珍しい事では無い。
モアが選んだ職業は、飲み屋の従業員だった。
特技とも言えるお化粧で化けて、
昼は学校に行き、夜は飲み屋で働くことを考えのだ。
行き当たりばったりで飲み屋に入り、
面接をしてもらった。
その時の面接官が、たまたまママだった。
モアは、就職する時は履歴書を書く、
という知識だけはあった。
しかし、初めて書くものなので
まるで書き方がわからない。
まともに履歴書の書き方も知らないモアを
ママは不審に思い、質問責めにし、
年齢を偽っていることも見抜き、
モアの家族に説教してやると言って
モアの家に怒鳴り込もうとした。
モアは住所を教えないつもりでいたので
履歴書にも書かなかったし、
クレアに働くことを話すつもりもなかった。
なので当然ママが家に来るのを拒もうとしたが、
ママの剣幕に負け家に案内した。
クレアとママが話をすると、
クレアはママに感謝して、身の上話を始めた。
旦那を失ったもの同士意気投合し、
二人は仲良くなった。
クレアはトッドの死によって保険金が入ったことと、
そのお金でダンス教室を始めるつもりでいること、
そして、ダンス教室ではモアにも
手伝ってほしいという話をした。
それは、モアの知らない話だった。
母と娘はコミュニケーション不足を恥じた。
夜の世界には怖い人がいっぱいいることを
ママは知っている。
もしもモアが怖い人のところに行っていたらと思うと
ゾッとする。
かくして、ママはモアの命の恩人ということに
なったそうだ。
自分の家も娘もほったらかしなママだけど、
こういうことなら大目に見ようと思った。
ここから物語に登場することになる。
私はコリンナ、アンディとキースのいとこで、
ビーナとクラークの娘。
私の十六歳の誕生日、ママは家に帰らなかった。
おじいちゃんと二人っきりで、友達は呼ばない。
「コリンナももう十六か。
一度ぐらい、太陽の下で誕生日を祝ってみたいね。
旅行にでも出てみようか。」(ゴルドー)
「私、苦手なんだよね、旅行とか。」(コリンナ)
「そうかい?
年をとると、いろいろ行ってみたくなるもんだよ。」
(ゴルドー)
会話ははずまない。
いつものようにギターと歌の練習をして、
一日が終わる。
おじいちゃんは、せっかくの記念日が味気ないと
私を気遣ってくれる。
そんなおじいちゃんが好きだし、
おじいちゃんがいてくれればそれだけで良いと思う。
翌日は学校がお休みだった。
お客さんが来たので玄関に出てみると、
見覚えのある女の子がいた。
「あの、ビーナさんは帰ってますか?」(モア)
「ちょっと見てきます。」(コリンナ)
「あ、荷物届けに来ただけなので、大丈夫です。
これ、渡しといて下さい。」(モア)
そう言って、ママのカバンを渡された。
カバンを受けとると、何やら親しげに話しかけられた。
「あの、コリンナちゃん、だよね?」(モア)
突然私の名前を呼ばれ、硬直してしまった。
「あ、ゴメン、脅かしちゃったかな、
あたしはモア、同じ学校なんだけどさ、
ビーナさんにはいつもお世話になってて、
ビーナさんがいつもコリンナちゃんのお話しててさ、
できれば、お友達になれたらいいなって、
思ってるんだけどさ。」(モア)
それを聞いて思い出した、
同じ学校の私より一つ上の生徒だ。
童顔なので年下かと思ってしまった。
「はい、なります。
コリンナって、呼び捨てでいいよ。」(コリンナ)
機械的な返事を返してやった。
「ありがとう!
あたしもモアでいいからね!
明日、学校で会おうよ、
紹介したいサークルがあるの!」(モア)
モアが帰って、私はママの部屋に入った。
ママはよく眠っていた。
娘の誕生日にどこで何やってんだか?
翌日、モアはサークルに案内してくれた。
『音楽活動について語り合う会』
というサークルで、文字通り語り合うだけの
サークルである。
円状に置かれたイスに数人の生徒が座り、
各々自らの活動について話をする。
みんなで音楽をやろうというサークルではない。
私のおじいちゃんが伝説のミュージシャンとして
世間に知られていたため、
私は初登場でみんなの注目を集めてしまった。
「ゴルドーの孫って、ホントかよ!
そりゃすごいの連れてきたな!」(ファイト)
誰よりもテンションを上げてきたのは、
ファイトという一つ年上の男子だった。
この時は初対面だったけど、この数ヶ月後には
毎日のように顔を合わせることになる。
モアの隣には、マイクという男子が座っていた。
「ゴルドーの孫がこの学校にいるっていう噂は
聞いてたけど、モアっていい人脈もってるな。」
(マイク)
マイクの言葉は、モアを誉めたものだった。
私をダシにされても困るんですけど。
ファイトが私に質問をぶつけてきた。
「あのゴルドーに孫がいたってのは驚きだよな。
あの人まだ三十代じゃなかったっけ?」(ファイト)
「見た目童顔だからよく間違われるけど、
今年で五十二歳だよ。」(コリンナ)
「スゲー、ホントか?
全然見えねーわ。
で、その、コリンナさんはゴルドーさんから
音楽について教わってたりとか、あるの?」(ファイト)
「あ、うん。
あるけど…私、みんなの前で話するの、
苦手なんだよね。」(コリンナ)
「そうか、デリカシーが足りなかったかな。
俺はファイト、タップダンスやってるんだ。
ノーカーウォーカーストリートってとこで
連舞雲っていうチームに入ってるんだ。
モアのことは、もう聞いたのか?」(ファイト)
「いや、知らない。」(コリンナ)
モアが喋りだした。
「あたしはフラメンコダンスやってて、
マイクはフラメンコギター弾いてます。
うちのママがダンス教室の先生やっててさ、
あたしもマイクも練習し放題なの。
もちろん、お掃除とか接客とか、
お手伝いしないといけないんだけどさ。
コリンナも今度うちにおいでよ。」(モア)
モアのことは気になっていた。
ママとどういう関係なのか、私は何も聞いていない。
フラメンコ教室なんて、ママは通ってないし、
まるで接点がわからない。
モアの話を聞ければ少しは謎が解けるような
気がしたけど、その謎は迷宮入りしてしまった。
「うん、わかった。」(コリンナ)
こうなったら、徹底的に探りをいれてやる。
その後、みんなは各自の現状を話した。
みんな仲が良くて、
和やかで居心地の良いサークルだった。
私はおじいちゃんからギターを教わり、
いつも練習しているという話をした。
みんなに比べれば大したことはしてないのに、
おじいちゃんの存在感が強いせいで、
ムダに盛り上がってしまった。
数日後、モアの家に行ってみた。
モアの母親は、クレアという綺麗な人だった。
モアと同じく、初対面から馴れ馴れしい感じだった。
「コリンナちゃん!
会いたかったわよ、いつもビーナから聞いてるわ。
ビーナによろしくね。
って、言わなくてもまたすぐうちに来るわね。」
(クレア)
ママは、モアの家に来ていたんだ。
一体、ナゼ?
「ママとは、あまり口を聞かないので。」(コリンナ)
「そうらしいわね、ビーナがいつも言ってるわ。
でも、ちゃんとお話ししておいた方がいいわよ、
人間、いついなくなっちゃうかわからないんだから。
うちは去年旦那が亡くなって、
モアも可愛そうだったわよ。」(クレア)
大きなお世話、私は父に会ったことすらありません。
そんなことより、
ママはこちらのお宅で何をしてたんですか?
…聞きたいけど、言葉が出なかった。
「モアは父親似なの。
あまり、私には似てないでしょう?」(クレア)
「そうでもないと思いますが。」(コリンナ)
「あら、うれしいわね。
でもね、私は旦那の幼い顔が好きだった。
モアは親孝行な娘だと思うわよ。
モアがいてくれるから、私はいつでも
あの人のことを思い出せるわ。
ビーナの旦那さんも、早くに亡くなったんでしょ?
今の私と同じ事を言っていたわよ。
コリンナがいてくれると、
楽しい思い出が全部思い出せるんだってね。」(クレア)
そういう話を、ここではするんだ。
家ではそんなこと全然言わない…いや、
何年か前はそんな話もしてたっけ。
フラメンコの大会に出たときのモアの写真を
見せてもらった。
お化粧をしてドレスを着たモアは、
絶世の美女に化けていた。
あまりにも綺麗で、見ていてドキドキした。
しばらくすると、フラメンコ教室の受講生が来た。
大人から子供まで、年齢層は幅広い。
雑用を手伝ったお礼にと、
レッスンを見させてもらった。
マイクはギターを弾き、モアはみんなの前で
ダンスのお手本を見せていた。
すっぴんの練習着で、
情熱的に踊る姿は綺麗でかっこいい。
これをあのメイクとドレスで踊る姿を想像すると、
その美しさは計り知れない。
受講生たちに遮られて見え隠れするモアを、
受講生たちの隙間から見ようとして
無意識に体が左右に動いてしまった。
その日以来、私はモアの家に度々行くようになった。
モアとマイクが私の家に来ることもあった。
その場合は、おじいちゃんが目当てである。
ある日、マイクが帰った後も
モアの家に入り浸っていると、私のママが来た。
「こんばんは、モア!」(ビーナ)
「ビーナ!」(モア)
二人は抱き合って何度もキスをした。
見ていてイライラした。
「ビーナが来るといつもこれなのよ。
ジェラシーやいちゃうわよ、
私には甘えてくれないのに。」(クレア)
クレアとは意見があったようだ。
良かった。
「クレアもこんばんは。
あれえ!
コリンナも来てたんだ!
嬉しい!」(ビーナ)
今度はママが私に抱きついて何度もキスしてきた。
「ちょっと、恥ずかしい!」(コリンナ)
そう言いながら、くすぐられたように笑ってしまった。
こんなママは、久しくお目にかかっていない。
お酒の臭いを消すために香水をつけて、
お化粧の甘い匂いもする。
それは、あまり好きじゃない。
「クレア!」(ビーナ)
次のママのターゲットはクレアだ。
「はあい、ハニー。」(クレア)
手慣れた様子で、クレアはママをあしらった。
「トッドが遠くへ行っちゃったから、
人肌が恋しいわ。」(クレア)
そう言ってクレアがママの顔に吐息を吹き掛けると、
ママは顔を赤くして笑っていた。
酔っぱらってるわけではなさそうだ。
それにしても、ママが何故この家に来るのか、
その謎はまだ解明されていない。
「ねえ、コリンナ、ビーナはねえ、
あたしの命の恩人なんだよ!」(モア)
意外にも、私が聞きたかった話をモアが勝手に
喋りだした。
モアの父親のトッドは、レスキュー隊として
人の命を守る仕事をしていた。
それがある日、難しい現場で命を落とした。
クレアがひどく落ち込んでいるのを見て、
モアはクレアを守るため、働こうと決意した。
エオンラピスでは、十六歳で働くのは
珍しい事では無い。
モアが選んだ職業は、飲み屋の従業員だった。
特技とも言えるお化粧で化けて、
昼は学校に行き、夜は飲み屋で働くことを考えのだ。
行き当たりばったりで飲み屋に入り、
面接をしてもらった。
その時の面接官が、たまたまママだった。
モアは、就職する時は履歴書を書く、
という知識だけはあった。
しかし、初めて書くものなので
まるで書き方がわからない。
まともに履歴書の書き方も知らないモアを
ママは不審に思い、質問責めにし、
年齢を偽っていることも見抜き、
モアの家族に説教してやると言って
モアの家に怒鳴り込もうとした。
モアは住所を教えないつもりでいたので
履歴書にも書かなかったし、
クレアに働くことを話すつもりもなかった。
なので当然ママが家に来るのを拒もうとしたが、
ママの剣幕に負け家に案内した。
クレアとママが話をすると、
クレアはママに感謝して、身の上話を始めた。
旦那を失ったもの同士意気投合し、
二人は仲良くなった。
クレアはトッドの死によって保険金が入ったことと、
そのお金でダンス教室を始めるつもりでいること、
そして、ダンス教室ではモアにも
手伝ってほしいという話をした。
それは、モアの知らない話だった。
母と娘はコミュニケーション不足を恥じた。
夜の世界には怖い人がいっぱいいることを
ママは知っている。
もしもモアが怖い人のところに行っていたらと思うと
ゾッとする。
かくして、ママはモアの命の恩人ということに
なったそうだ。
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