極夜のネオンブルー

侶雲

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2天使の時代

6眠りについたペンタ

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初めてレオにお願いする時、
ペンタはそれはそれは緊張したそうだ。

「ねえ、レオ、ちょっといいかな?」(ペンタ)

「モジモジされると気持ち悪いんだけど、何?」(レオ)

「絵のモデルになってほしいんだ。
君の絵を描いてもいいかな?」(ペンタ)

「いいよ別に、やましい絵でなければ。」(レオ)

「ありがとう!」(ペンタ)

顔を真っ赤にしたペンタが何を描くつもりなのか、
レオは気になった。
しかし、天使の砂絵を描くペンタだから、
過ちは犯さないだろうと信じた。

描き終わると、ペンタのスケッチブックには
踊っているレオがいた。
今にも動き出しそうな躍動感で、
レオの姿そのものである。

「すごい!
あたしが踊ってる時のやつじゃん!
モデルになれって言うからじっとしてなきゃ
いけないのかと思ったけど、
こんなのどうやって描くのよ?」(レオ)

「想像力と記憶力ってとこかな?
気に入ってもらえたなら、嬉しいけど。」(ペンタ)

「いいよ、すごく気に入った!
あたしの絵なら何枚でも描かせてあげるけど、
ちゃんと全部あたしに見せるのよ!
それと、妄想で変な絵描いたりしないこと!
いいわね?」(レオ)

「うん、わかった。」(ペンタ)

それ以降、ペンタのスケッチブックには
ウォーカーたちの絵がズラリと並び、
特にレオの絵は多く描かれた。
そもそもはバグビートの入れ知恵である。
天使の砂絵だけでは飽き足らず、
ストリート関連の話を自分のサイトに
大量に載せたかったバグビートが、
ペンタにレオの絵を描くよう勧め、
スケッチブックをプレゼントしたのである。
バグビートの思惑通り事は進み、
ウォーカーたちの同意の下、
バグビートはペンタの絵を載せ続けた。

レオが十七歳の誕生日を過ぎたある日の事。
ペンタがレオにスケッチブックを見せると、
レオは突然怒り出した。

「何よこれ!
妄想で変な絵描くなって言ったじゃん!」(レオ)

スケッチブックには、
ウェディングドレスを着たレオがいた。
怒られるとは思っていなかったペンタは驚いた。

「変な絵ではないと思うんだけど…
レオ、怒ってる?」(ペンタ)

「怒るに決まってんじゃん!
妄想でしょこれ!」(レオ)

「あ、そうだね。
妄想ダメだったんだ、忘れてたよ。」(ペンタ)

レオは怒りの感情から呆れの表情に変わった。

「もういいけど、なんでドレスなわけ?」(レオ)

「レオは何日か前に十七になったでしょ?
もう、結婚とか意識する年頃だと思ってさ。」(ペンタ)

「あのさぁ、ペンタ、
あたしが小さい頃からバレエやってたって話、
したよね?」(レオ)

「うん、したね。」(ペンタ)

「バレエに挫折してジャズダンスやってるって話も、
したよね。」(レオ)

「うん、そういえば、した。」(ペンタ)

「ドレス見ると思い出すんだよね、
バレエやってた頃の事。」(レオ)

「そりゃあ、大変だね。」(ペンタ)

レオは、ペンタに悪気が無いことを知っていたので、
普通の相手なら激怒しているところを大目に見た。

幼少の頃より、
人生経験の多くを舞台の上で経験してきた。
大人びていると騒がれることに違和感はあった。
十代になると、それまで自分より子供染みていた
同年代の人たちがどんどん自分を追い越していく。
違和感は、不快感へと変わっていった。
それまで踊れていたものがいつの間にか踊れなくなり、
舞台を降りることを決めた。
その時には、あらゆるものになんの関心も持てない
無の状態だった。

しかし、ストリートダンスと出会えたレオは
本来の彼女を取り戻し、
なおかつ自由に踊るその表情は、
さながら風を得た鳥のように輝いていた。

レオはペンタにダンスを見せることも、
ペンタが描いてくれた自身の絵を見るのも好きだった。
ペンタもまた、踊るレオを見るのも、
レオが自身の絵を認めてくれることも
何よりの喜びだった。

ペンタの背中を押したのはアンディだった。

「レオが好きならその思いを伝えるべきだ。」
(アンディ)

「好きってわけじゃないよ。」(ペンタ)

「嫌いなのかい?」(アンディ)

「そうじゃない、友達だよ。」(ペンタ)

「友達ね…
別に、好きか嫌いかの両極端な選択を
迫るつもりはないが、
君はレオが結婚する事を望んでるんじゃないのかい?
さもなくば、ドレス姿なんて描かないだろう?」
(アンディ)

「そうかな?」(ペンタ)

「レオに幸せになってほしいとは思わないのかい?」
(アンディ)

「幸せになってほしいよ、当然!」(ペンタ)

「いいかい、ペンタ、女性の傍らにいるべき男性は、
その女性の幸せを本気で望んでいる男性だと、
俺は思うんだ。
君はレオを好きになるのが怖いのかい?」(アンディ)

「ちょっと、話についていけないな。」(ペンタ)

「嫌われるのが怖い?」(アンディ)

「…どう答えたらいいのかな。」(ペンタ)

「よく考えておきたまえ。
これだけは言える、レオが誰かと恋に落ちたら、
君はレオの絵を描けなくなる。」(アンディ)

「え…」(ペンタ)

その言葉を聞いたとき、ペンタは初めて怖くなった。
レオを失いたくないと思った。
最初は、いつものようにからかわれているだけだと
思っていた。
普段マジメなアンディが珍しいな、と。
しかし、確かに、もしもレオが独占欲の強い男性と
付き合ったら、レオが他の誰かと会うことを
制限してくるかも知れない。
ストリートを好きだと言ってくれる
レオのままでいてほしかった。

それから数ヵ月後、六月のエオンラピスは極夜だった。
廃墟マニアのアイアンと、その相棒のランバードが
ストリートの近くのゴーストタウンを歩いていると、
向こうからペンタがやってきた。
ランバードがペンタに声をかけた。

「なんだ?
珍しいな、ペンタがこんなとこブラブラするなんて。
やましいことでも考えてんのか?」(ランバード)

「やあ、ランバードとアイアン。
レオとこの先の公園で待ち合わせをしてるんだよ。」
(ペンタ)

「レオと?」(ランバード)

アイアンが会話に入ってきた。

「コイツらこの辺でよく見かけるぜ。
二人っきりでなんかしてんだろ?
天使のことばっか考えて、
そのうち楽しすぎる世界に連れてかれんじゃねえの。」
(アイアン)

相変わらずの皮肉を残してアイアンが
ペンタのそばから去ろうとし、
ランバードがアイアンの後を追って
ペンタに挨拶の手振りをした。
その時、ペンタが珍しく二人を引き止め、
会話を伸ばした。

「あのさ、レオに指輪を渡そうと思ってるんだ。」
(ペンタ)

二人は立ち止まり、振り返った。

「結婚指輪、違う、婚約指輪。」(ペンタ)

二人は驚きと祝福の混ざった表情を浮かべた。

「受け取ってくれるかな?」(ペンタ)

「何言ってんだ、楽しんでこいよ!
それよりお前、いやお前らやっぱり付き合ってたのか?
俺らの前では否定してたのに。
バレバレだったけど、ずっと騙してたよな。」
(ランバード)

「違うよ、今まで恋人じゃなくて友達だったんだ。
本当なら、好きですって告白して、
恋人になってくださいってお願いして、
そこからだと思うんだけどさ、
その中途半端な関係って、僕にはできそうにない。
ずっと、レオの一番近くに居たいんだ。
それができないなら、むしろ離れたいって思う。
フラれたら僕はストリートからでてくよ。」
(ペンタ)

「なんだよ、寂しいこと言いやがって。
絶対成功させろよ、何がなんでもだ。
ペンタが消えたら、
レオもどっか行っちまいそうだからな。」
(ランバード)

「ありがとう、話をしてくれて。
ちょっと、気分が軽くなったよ。」(ペンタ)

ランバードにお礼を言うと、ペンタは歩いていった。
そして、アイアンとランバードが
ペンタに背を向けた、その時だった。
上空で、何かがガラガラと大きな音を立てた。
見上げると、近くのビルが崩れた瞬間だった。
二人が身の危険を感じ急いでその場を離れると、
凄い勢いで瓦礫が降ってきた。

「ウヒョー危ねえ!
おい生きてっかアイアン!」(ランバード)

「ガハハ、美学だぜ!
これでこそ廃墟の美学ってもんだぜ!」(アイアン)

「ったくどうかしてるぜ。
おい、ペンタは?
…おい嘘だろ、ペンタ!」(ランバード)

ペンタは頭から血を流して倒れていた。
巨大な瓦礫に潰されたわけではなく、
瓦礫の細かい破片が頭を直撃したようだった。
すぐに病院に運ばれ一命は取り留めたものの、
意識はなかった。
ペンタがいつ目覚めるかはわからない。
もしかすると、一生眠ったままなのかも知れない。
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