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第6話 タルタロス

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冥王ハーデス。冥界が出来た時から冥界に君臨している冥界の王。

玉座は血のような赤色をしている。背もたれは長く金で縁取られている。

目の色は輝くような金色をし、髪は全てを飲む込むような漆黒だ。滑らかな漆黒の髪を肩甲骨辺りまで伸ばしている。顔立ちは中性的であり男とも女ともとれる完璧に整った顔をしている。

ハーデスは自分が王の座から引きずり下ろされないようにするためにとても用心深い。

その為に冥府の門を作り、ケルベロスをそこの門番に据え、冥府の門を通らなければ冥界の至る所に行けないという作りにしている。

しかしハーデスの魔法で至る所に派遣することも呼び戻すこともできる。この魔法もハーデスしか使えない。

こうすることでケルベロスを遠ざけている。

たとえ反乱が起こっても、ケルベロスはその全てより強いので、もしも魂の浄化の終わったタマモのような異世界での最強種が暴れても、ハーデスがケルベロスを呼びつければ解決してしまうのだ。

ケルベロスも反乱するつもりなどないので、ハーデスの要請にしっかりと応える。しかし忠誠を誓っているかはケルベロスのみが知っているのである。

「お前らはタルタロスに送ることにする。そこで魂の管理、浄化の手伝いでもしておけ。一生な。死ぬことの出来ない永遠の時をそこで過ごすがいい。」

沙汰は下された。行き先はタルタロス。

最も深く、最も暗い場所で、神々や人間の最も悪い罪人が苦しむ場所。神々の敵や、特に大罪を犯した人々が投獄される場所、それがタルタロスという場所だ。

「タルタロスならばそこの雑魚狐がよく知ってる場所だが⋯覚えてはいまい。今度はお前が管理する側になれ。お前は浄化が終わって次の選択肢があったが、以前の犯行で強制的に私の支配下に入ることになった。そこの元人間とタルタロスで冥界の為に働くがいい。」

「妾が雑魚じゃと?言うてくれるな。今すぐまた暴れてやろうか?」

言い終わると同時にガーロンの手刀がタマモの首筋に添えられていた。

「やめろガーロン。こんな雑魚に手を下す必要もない。タルタロスの人手も欲しかったところだしな。」

「ふん、ハーデス様のご慈悲だ。生かしておいてやる。有難く思うんだな。」

不遜な顔をし手刀を首から外す。

「ハーデス様、出しゃばった真似をし申し訳ございません。」

「構わん。ではお前らをタルタロスに送り込んでやろう。タルタロスでのことはエリーニュスに聞くがいい。あのジャジャ馬のところで精々こき使われてこい。」

ここでシオンがハーデスに問いかける。

「ハーデス、タルタロスに行く前にひとつ聞きたいことがある。」

「なんだ?本来なら口を利くことも許さないが、今回だけは免じてやろう。私の答えられることなら話してやる。」

一瞬目を閉じ、シオンは切り出した。

「俺は転生させられたと言っていたな。それを天界の神から聞いたと。俺はなんで冥界に転生することになったんだ?何かしらのアクションがあっての転生のような気がするんだ。しかし俺は何も知らされずにいきなりケルベロスのいる冥府の門へと転生していたんだ。分かっていることがあるなら教えて欲しい。」

「はーはっはっはっ!こいつは傑作だ。なぜ冥界に転生などと詳しい理由も聞かされなかったのか合点がいったぞ。そういうことであったのだな。お前はとんでもなく現世では恨まれていたのではないか?良かったな元人間。悪者じゃないか。冥界に相応しい者であったな。はーっはっはっは!私がお前に教えられるのはここまでだ。冥界にも天界にもルールがあってな。言えぬこともある。質問には答えた。タルタロスに送ってやる。ではさらばだ永遠に。」

シオンは肝心なことは教えて貰えぬまま、ハーデスの魔法は行使される。アビスパレスの白と対象的な、闇よりも深い黒い魔法で覆い尽くされる。そしてシオンとタマモはその場から消えた。

「くくく、まさか道連れで冥界を選択されるとはな。あやつは何をしたんだ?冥界を選択するなど今まで誰もいなかったのにな。転生に選ばれた奴はどれだけ奴を恨んでいたのやら。普通は恋人や大切な人を選択するんだがな。ゼウスもおかしな人間を選ぶものだ。ゼウスにもなにか考えがあるのかもな。だとしても私には関係の無いがな。」

ハーデスは玉座の肘掛に肘を乗せ、つまらなそうに言った。

「これからも私はここで悠久の時を過ごすまでよ⋯」

そうしてシオンとタマモはエリュシオンからタルタロスへ送り出されたのであった。





「よく来ましたね。ハーデス様から話は聞いております。私はタルタロスの管理を任されているエリーニュスと申します。以後お見知りおきを。あなた達2人の名前を伺ってもよろしいかしら。」

突然現れた1人の女。這いつくばっているシオンとタマモを見下ろしながら問いかけてきた。この者の名はエリーニュス。髪は燃えるように赤く地に着くほど長い。扇情的な真紅のドレスを身に纏い、妖艶に微笑んでいた。瞳の色も復讐に燃え盛る瞳のように真っ赤に染まっている。微笑んではいるが、その瞳は全てを焼き尽くす意志を持っているようだ。

「ここは⋯タルタロスという場所なのか?」

ゆっくりと立ち上がりながらエリーニュスと対峙するシオン。

「お名前を伺っているのですよ?私の質問に答えない子は嫌いですわ。お仕置が必要かしら。」

エリーニュスがそう言い放ちシオンの方に手を翳した。

「あがあああああああ!」

シオンは頭を掻きむしりながらもがき苦む。急激な頭痛に襲われるのだった。

「お仕置はこのくらいにしましょう。壊れても困りますからね。ではもう一度お伺いますわ。お名前を教えなさい。」

先程とは打って変わって冷徹な声色で問いかけてきた。

「お、俺の名前は間紫苑だ。」

蹲り、顔面を青ざめさせて答えるシオン。

「妾の名前はタマモじゃ。」

タマモは冷静に答える。

「シオンちゃんにタマモちゃんね。ようやく名前が聞けて嬉しいわ。また私の質問に答えないようならすぐお仕置するから気をつけてくださいね。」

そう言いまた妖艶に微笑んだ。しかしその燃えるような瞳はシオンとタマモの心臓を鷲掴みするかのように射抜いている。

「わ、わかった。気をつけるよ。」

シオンは声を震わしながら答える。ハーデス程の威圧感は感じないが、問答無用で攻撃してくるエリーニュスの攻撃性に恐怖を感じている。

「聞き分けのいい子は好きですわ。ではあなた達はこれからタルタロスで生きていくことになるのよ。このタルタロスのことは何か聞いているのかしら?タマモちゃんはここで魂の浄化をしてたし、少しは覚えているかしら?」

「妾はタルタロスで過ごしていた記憶がないのじゃ。」

「ああ、そうでしたわね。ここでの記憶は残らないようになっているんですわ。それじゃあ2人とも分からないでしょうから説明させてもらいますわ。」

エリーニュスはタルタロスの説明を始めた。

タルタロスは4つの領域に分けられている。

1.ティターニア
ティターン族の領域で神々との戦いで敗れたティターン族が苦しみを受ける領域。
2.ジャイアントキープ
巨人の領域で神々との戦いで敗れた巨人が苦しみを受ける領域。
3. ダムネッド・ディストリクト
罪人の領域で不正や悪行を犯した者たちが苦しみを受ける領域。
4.プロファウンド・ピット
神々との戦いで敗れた悪霊や怪物の領域で悪霊や怪物が苦しみを受ける領域。

「そしてここ、私の居城がヴィンディクティヴィア・レトリビューションと呼ばれているわ。あなた達はダムネッド・ディストリクトに派遣しましょう。タマモちゃんがいた場所はプロファウンド・ピットだったけど、あなた達2人一緒に同じところに行きなさい。」

「そこで俺たちは何をすればいいんだ?」

「それはダムネッド・ディストリクトの管理者に聞きなさい。私は現場の仕事に関与していないのよ。ではご機嫌よう永遠に。」

エリーニュスの話が終わると、どこからともなく火の玉のようなものがふわふわと目の前に浮かんでいた。

「ここからは僕が君たちの案内をしてやるんだな!ついてくるんだな!」

「うん?君はなんなんだい?」

シオンは意味がわからず咄嗟に尋ねた。

「僕はタルタロスの道先案内の火の玉なんだな。タルタロスで生活してる者には必ず僕達の仲間が付いているんだな。お前たちには僕が担当するんだな。これから分からないことや困ったことがあれば相談に乗るんだな。」

シオンは頭の中が疑問符だらけになりながらも道先案内の火の玉の後ろを歩いてついて行く。

「なぁ、君の名前はなんて言うんだ?俺の名前はシオンだ。教えてくれないか?今度行動を共にしてくれるんだろ?」

道先案内の火の玉はピタリと止まり振り返る。不思議なことに火の玉には目と口が付いている。なので振り返ったことがわかるのだ。

「僕達には名前なんかないんだな。ただの道先案内に名前なんか必要ないんだな。」

「そんなもんなのか?でも名前が無いと呼びにくいからな。名前を付けさせてくれないか?ずっと一緒にいるなら尚更名前で呼びたいんだ。」

「好きにするといいんだな。個体の固有名詞なんてここでは無意味なんだな。」

そう言うと道先案内の火の玉はまた先を進む。

「じゃあ考えるよ。君の名は⋯⋯⋯ファイだ。うん、安直だか許してくれ。今後君のことをファイと呼ぶよ。」

「好きにするんだな。一応礼は言っておくんだな。ありがとうなんだなシオン。」

表情は見えないが、心做しか嬉しそうな声になる道先案内の火の玉ことファイ。

シオンたちはファイに先導され、エリーニュスの居城、ヴィンディクティヴィア・レトリビューションを後にする。

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