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だが、その前に。
アオに幼い頃の名で呼ばれ、ほわほわと幸せに浸っていた美形共はようやく気付く。
これまで自分達がやらかした『平凡』つまり愛しのアオ少年への酷すぎる仕打ち――、さっき健斗が言ってたのはこれか、と。
後悔してももう遅い。
それでも一縷の望みを抱き、顔面蒼白のまま土下座を開始するのだった。
学園内で人気のある美形らが揃ってぺこぺこと頭を下げ謝罪を繰り返す。
まるで蛙か虫のようにも見えるその光景は、ギャラリー達を複雑な心境にさせた。
勿論それを見たアオが慌てて「や、止めてください」と言い出すのだが。
「アオちゃん」「許してくれるの?」
などという甘い期待は、瞬時に絶望へと入れ代わる。
「許すとか許さないとかじゃなくて、あの、皆さまが幼稚園の頃のお友達だったことを知って、懐かしいなと思うし嬉しいのは本当です。だけど昨日まで、ううん……ついさっきまで。僕が『アオ』だと分かる直前までのことを考えると、その、やっぱり怖いんです。
今のこの状況が僕の都合の良い夢で、全部嘘で、明日になったらまた皆さまに嫌われてて、軽蔑されたり殴られたりするのかも……って」
「あ? てめーらそんな事までしてやがったのかよ」
「そ、それは。本当に悪かったアオ、二度とお前を傷つけるような真似はしねぇ!」
「ごめんなさ、い。俺が馬鹿、だった」
怒気を含んだ健斗の声に、さらに頭を下げる会長と書記。
抱きしめているアオの、微かな震えが健斗にはよく分かった。
「それに、こうして謝ったり優しくしてくださるのは僕が『アオ』だからですよね? もしそうじゃなかったら皆さまはきっと変わらず僕を嫌悪したままで。
痛くて怖くて泣いて謝っても許してもらえない、話すら聞いてもらえない。そんな毎日が永遠に続くのかなって。
平凡なただの『蒼』も幼稚園の頃に皆さまと一緒に遊んだ『アオ』も、どっちも同じなのに。今と昔とじゃ僕はまるで別の人みたい……ううん、相手が誰であったとしても。何だか『アオ』とそれ以外の人の価値が全然違うって言われてるみたいで、すごく悲しいし苦しい――」
泣きそうな声でそう告げたアオ。
本人は気付いていないようだがこれまで彼らから被った精神的苦痛の蓄積は、既に限界ギリギリの状態だった。
その上、恐ろしい制裁の場で予想外の出来事が連続。
感情が追いつかず混乱する中、今まで自分を憎んでいた相手が突然手の平を返し謝罪や甘い言葉を繰り返したところで、むしろアオの不安を煽るだけなのだ。
いつかまた急に蔑みや憎しみのこもった目で睨まれ、罵られ、話を聞いてもらえず、暴力を振るわれるのかもしれない……と。
そう考えてしまう程に疲弊し、追い詰められていたのである。
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アオに幼い頃の名で呼ばれ、ほわほわと幸せに浸っていた美形共はようやく気付く。
これまで自分達がやらかした『平凡』つまり愛しのアオ少年への酷すぎる仕打ち――、さっき健斗が言ってたのはこれか、と。
後悔してももう遅い。
それでも一縷の望みを抱き、顔面蒼白のまま土下座を開始するのだった。
学園内で人気のある美形らが揃ってぺこぺこと頭を下げ謝罪を繰り返す。
まるで蛙か虫のようにも見えるその光景は、ギャラリー達を複雑な心境にさせた。
勿論それを見たアオが慌てて「や、止めてください」と言い出すのだが。
「アオちゃん」「許してくれるの?」
などという甘い期待は、瞬時に絶望へと入れ代わる。
「許すとか許さないとかじゃなくて、あの、皆さまが幼稚園の頃のお友達だったことを知って、懐かしいなと思うし嬉しいのは本当です。だけど昨日まで、ううん……ついさっきまで。僕が『アオ』だと分かる直前までのことを考えると、その、やっぱり怖いんです。
今のこの状況が僕の都合の良い夢で、全部嘘で、明日になったらまた皆さまに嫌われてて、軽蔑されたり殴られたりするのかも……って」
「あ? てめーらそんな事までしてやがったのかよ」
「そ、それは。本当に悪かったアオ、二度とお前を傷つけるような真似はしねぇ!」
「ごめんなさ、い。俺が馬鹿、だった」
怒気を含んだ健斗の声に、さらに頭を下げる会長と書記。
抱きしめているアオの、微かな震えが健斗にはよく分かった。
「それに、こうして謝ったり優しくしてくださるのは僕が『アオ』だからですよね? もしそうじゃなかったら皆さまはきっと変わらず僕を嫌悪したままで。
痛くて怖くて泣いて謝っても許してもらえない、話すら聞いてもらえない。そんな毎日が永遠に続くのかなって。
平凡なただの『蒼』も幼稚園の頃に皆さまと一緒に遊んだ『アオ』も、どっちも同じなのに。今と昔とじゃ僕はまるで別の人みたい……ううん、相手が誰であったとしても。何だか『アオ』とそれ以外の人の価値が全然違うって言われてるみたいで、すごく悲しいし苦しい――」
泣きそうな声でそう告げたアオ。
本人は気付いていないようだがこれまで彼らから被った精神的苦痛の蓄積は、既に限界ギリギリの状態だった。
その上、恐ろしい制裁の場で予想外の出来事が連続。
感情が追いつかず混乱する中、今まで自分を憎んでいた相手が突然手の平を返し謝罪や甘い言葉を繰り返したところで、むしろアオの不安を煽るだけなのだ。
いつかまた急に蔑みや憎しみのこもった目で睨まれ、罵られ、話を聞いてもらえず、暴力を振るわれるのかもしれない……と。
そう考えてしまう程に疲弊し、追い詰められていたのである。
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