幼なじみ祭

９

更に今度は不審火で園が全焼する。幸い怪我人などは出なかったものの、混乱に乗じて経営者が高飛びし、瞬く間に幼稚園は廃園となってしまった。

アオという子供の存在はそこで忽然と消え、行方はようとして知れず――。
実際に同じ時を過ごした期間はわずか数ヶ月ほど。写真も無く、彼らにとって『アオ』はまるで夢か幻のような伝説的人物と化したのである。



「長期入院って……アオ、お前今もどこか悪いのか！？」

「ううん、手術が成功したおかげで今はもう大丈夫。あまり激しい運動なんかは、ちょっと無理だけど」

「そうか、ああ良かった」


安堵のため息を吐きながら強く抱きしめる。その健斗の腕の震えが、アオを大切に思う心を伝えてくれた。
それは嬉しいような申し訳ないような、くすぐったい気分で。長年離れていた幼なじみの友情（？）に照れ臭さを覚えたアオは

「けんと君、苦しいよ」

と小さく笑う。


先程までのセクハラ行為はどこへやら、ほのぼのと良い雰囲気のお二人さん。
幼いアオが突然姿を消した理由は、命に関わる重大な病気の発覚と治療の緊急性によるものであり、その後様々な出来事が重なり誰にも行方が分からなくなってしまった訳だが。
別れも告げずに姿を消した幼なじみ（初恋相手）と長い月日を経て偶然再会し、相手が病気と闘い苦しんでいたことを知る……。

まさに感動の一瞬。これが男女の純愛物語ならきっと恋が始まる場面であろう。



「――って、抜け駆けすんなよそこ！　さっきからアオは俺のだって何度も言ってるだろ健斗！」

「ハッ、そ、そうですよアオ君から離れなさい！　ところで……あ、アオ君、覚えてませんか私のこと。幼稚園で一緒に遊んだ、ヨウです」

「よう……え、副会長さまがヨウ君？」

「はい！」


名前を呼ばれるのが嬉しくてたまらない。
そんな、この上ない喜びに打ち震え笑顔を浮かべる副会長を皮切りに、次々昔の呼び名を告げる美形たち。

ぽかんとする外野だったが、慌ててどこかにメールや電話をし始める。


「アオって、幼稚園の伝説のアオだよね！？　隊長の初恋相手らしいし、は、早く報告しなきゃ」

「アオつったら、三年の頭と二年の先輩がずーっと捜してる人じゃねえかよ！　制裁とかバレたら殺される……と、とりあえず俺らが見つけたことにして連絡を――」

「もしもし、副委員長ですか。いました、例のアオ君です。はい、幼稚園の時の……え！？　委員長には内緒にしろ、って無理ですよ既にもう知ってますから」


連絡を受け数分後には間違いなくここへ駆け付けるだろう、さらなる幼なじみ連中。
そして苛烈な初恋バトルが繰り広げられることを容易に想像出来てしまうギャラリー達であった。

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