守るべきモノ

神崎

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栄華

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 素直で努力家の女だ。そして好奇心が旺盛だし、見た目とは違って女性らしい。そう言うところに礼二は惚れたのだろう。そして泉も好きなのだ。それは礼二の同期である南可奈子だってわかっている。だが携帯電話にメッセージが届いた。
「そろそろ誘えよ。」
 わかってる。この飲み会の場は礼二と泉を離すことが目的で、それが礼二の足を引っ張ることになる。そうすれば元の平穏な店に戻るのだ。
 そして泉を狙っているのは、大和だってそうなのだろう。泉のほうに視線をずっと送っている。礼二と泉が笑い合う度に不機嫌そうになっているのだから。
「南さん。大丈夫?」
 顔が赤くなっている。あまり酒に強くない南に隣の男性が気を使ったのだろう。
「すいません。お冷やをもらって良いですか。」
 それに気がついて、ウーロン茶を持ってきた店員に泉がそう言って気を使った。気が利く女だ。見た目はがさつそうに見えるのに、こんなところが女性らしい。だが女性だけではない男性の方にも気を配っている。アルコールを飲まないから、冷静に対応が出来るのだ。
「適わないな。」
 可奈子はそうつぶやいて壁にもたれ掛かった。初めから適わない。そう思ってメッセージを送る。「無理だ」と。
「お冷や来たよ。」
 すると店長が水を可奈子の前に置いた。この店長は気が弱いだけだ。人間的には悪くない。だからバイトや他の社員の口車に乗せられて、こんな茶番に付き合わされているのだ。
 そんな二人を見て大和はため息をつく。結局そうなったのだ。収まるところで収まるし、泉は手に入らないし、何でここにきたのかと思いながら酒に口を付ける。
 久しぶりにセフレの所にでも行ってみるかと、携帯電話を取り出す。そしてメッセージを送った。しかし帰ってきたメッセージには、風俗のサイトがリンクされている。そこに勤めているから、抜きたければここに来いと言うことだろう。そんなことをしてまで抜きたくない。
「そろそろお開きにするか。」
 礼二がそう言って伝票を手にする。
「このあとバーに行きませんか。」
 久川からそう言われて泉の方をみる。
「「bell」ですか?」
「よくわかりましたねぇ。」
「亜美にもずっと会ってないですねぇ。元気にしているかしら。」
「知り合い?」
「同級生ですよ。」
 倫子と泉と亜美は同じ大学での同学年だ。その中に礼二の弟である牧緒もいる。たまには来いと言われているが、時間を見て諦めようと思う。
「店長も牧緒に会ってますか?」
「いや。引っ越したのも言ったっけな。離婚したのは言ったけど。あっちは正月も仕事してたし。」
「だったらちょっと顔を出しますか。」
「阿川。余裕だな。明日起きれなくても知らないぞ。」
「それは店長の方でしょ?」
 いくら遅くてもすぐに寝て、朝はすぐに起きるのが泉だ。そんなに朝は起きれないわけではないが、歳とともに朝が弱くなっている気がした礼二は、出来れば行きたくないと思っていた。
「俺も行くわ。」
 大和も携帯を置いて、そちらをみる。
「赤塚さんは大丈夫なんですか。」
「平気。俺、明日休みだし。」
「じゃなくて、まだ飲んでも大丈夫なんですか?」
「平気。」
 そう言って財布を取り出す。だがその手元が少しおぼつかない。その様子を見て泉は礼二の方をみる。
「帰らせよう。」
「そうですね。タクシーに乗せた方が良いかな。誰か赤塚さんと同じ方向で帰る人居ないかな。」
 すると南可奈子がそっちの方向だと、礼二が気がついた。
「南。お前住むところは変わってない?」
「変わってないわ。」
「だったら赤塚さんと一緒にタクシー乗って帰れよ。」
「わかった。」
 素直に可奈子はそう言うと、赤塚を促す。だがそれを言っている可奈子もあまり足下がおぼついていない。
「阿川。大通りまで二人を送ってあげて。」
「わかりました。」
 ほとんどが「bell」へ行くという。または迎えが来るらしい。

 可奈子が一緒にいればたぶん問題はない。すぐに「bell」へ来るはずだ。そう思いながら、礼二は「bell」のドアをくぐる。すると人は多い。週末だからだろう。
「いらっしゃい。あぁ。礼二さん。」
 亜美がカウンターにいて礼二を見て少し笑う。
「お邪魔するよ。」
「牧緒を呼ぼうか?」
「別に良いよ。来たらで。」
 そう言ってテーブル席に座る。そして別のスタッフもその周りに座った。すると牧緒がテーブルに近づいて、礼二を見ると顔をひきつらせる。
「兄貴。」
「お……牧緒。お前、どうしたんだその髪は。」
 丸刈りにして金髪に染めている。これが礼二の弟とは似てもにつかない。
「何でもないよ、気分転換みたいな。」
 すると他のスタッフが笑う。
「どうせ、浮気でもしたんだろ?」
 その言葉に牧緒は、ばつが悪そうに笑った。本当だとは思っていなかったからだ。
「丸刈りにするくらいで許してもらえて良かったな。」
「今度はゲイにモテモテ。」
「そっちの趣味があるのか?」
「いや。それはないけど。」
 ぴたっとしたシャツは、少し筋肉がある。恐らく最近は体を鍛えるのが趣味なのだろう。
「立ち話しないの。牧緒。さっさとオーダー持って行って。」
「はい。はい。」
 そう言って牧緒はカウンターに向かっていく。すると亜美は、礼二に声をかけた。
「そう言えばあなた。今日は泉は来ていないの?」
「すぐ来るよ。帰る人を大通りまで送っていってさ。」
「ふーん。戻ってくると良いわね。」
 亜美はそう言いながら、オーダーの紙をみる。それを聞いて礼二は一気に不安になった。
 もし、泉と大和が消えたら。大和のことだ。泉をホテルに連れ込むのなんかお茶の子さいさいだろう。何で自分も行くと言わなかったのか。少し後悔した。
 その時店内のドアベルが鳴った。振り向くと、そこには大和と泉の姿があった。
「あれ?赤塚さん帰らなかったんですか?」
「こんな通りに女一人で置いていけるか。ノンアル飲むわ。」
 すると泉は礼二の隣に座り、そして大和は少し離れたところに座った。もう二人に距離が出来ているようだ。
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