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テレビやインターネットでは、荒田夕がトークショーの時に女から襲われたと大々的に報じられている。勘違いした女の末路のように扱われ、この女性は表をこれから歩けるのだろうかと四人は朝食を食べながら言っていた。
「一時の感情でとんでもないことをしたわね。」
倫子はそういってパンを口にする。夕べ伊織と泉が帰ってくるときに、大和に進められた美味しいパン屋があると進められたパンを食べていたのだ。確かにとても美味しいパンだと思う。厚切りの食パンに泉が作ったハッサクのジャムを塗って食べると、さらに美味しいと思う。
「コンビニの店員か。普通なら顔も見ないな。」
「伊織君はあまりコンビニには行かないの?」
春樹がそう聞くと、伊織は首を傾げて言った。
「あまり行かないかな。昼ご飯もコンビニじゃなくて、最近は屋台があるから。」
「あぁ、屋台って言えばさ……。」
みんな普段通りの会話をしている。みんなが気を使うこともないのだ。
「泉は今日は休みになるの?」
もう普段通りに歩いている泉は、もう自転車に乗って出かけるのだろう。
「うーん。店はお休みなんだけど、本社の方へ行かないといけなくて。」
「春のデザート?」
伊織はそう聞くと、泉はうなづいた。
「まだ決まっていないの?もう桜が咲くよ?」
「だから、今日中に決めるって言ってたわ。クリスマスの時は結構さくっと決まったのに。」
高柳鈴音と案を出し合って決めたデザートはあの女性は何も言わなかったらしい。ただそのデザートに合わせたコーヒーの焙煎や入れ方を指示しただけだ。ここまでがらっと変えたのは何か理由があるのだろうかと思う。
「礼二は休み?」
「礼二はお店に行って、後かたづけを手伝うって言っていたわ。」
コーヒーを飲み終わって春樹は席を立つ。それに倫子が見上げた。
「もういいの?」
「今日は早く出ないといけなくてね。」
「そっか。報告があるのね。」
春樹に対するペナルティはない。加藤絵里子をはじめとした他の担当者たちがかばってくれた。だが報告の義務はある。それが上に立つものだからだ。
「夜は遅くなりそう?」
「そうかもね。食事が出来そうになければ連絡をするよ。」
昨日は出社扱いになったはずだ。だから代休をとれると言っていた。なのにこの騒ぎになればそれも怪しくなる。
いつかのんびりとツーリングでも出来る日は、いつ来るのだろうか。
三人が出払って掃除をする。そして洗濯が終わって洗濯物を干していると、声をかけられた。
「よう。大変だったな。」
それは政近だった。倫子は少しため息を付いて、そちらをみる。
「それなりにね。」
「軽傷を負ったって聞いたけど、元気そうじゃん。」
「本当に軽傷よ。塩酸が服の上から足にかかっただけ。」
「塩酸ねぇ。」
そういって政近は洗濯物を干している倫子に近づいて、手に持っているビニール袋を手渡した。
「ほら。」
「何?」
袋の中身はイチゴが入っている。ジャムにするようなものではなく、大きくて立派なものだ。そのまま食べると美味しいだろう。
「どうしたの?」
「見舞い。」
「大したモノじゃないわ。でもありがとう。」
素直にイチゴを受け取って、縁側に置く。そしてまた洗濯物を干し始める。
「昨日、ネーム送ったけど見てねぇよな。」
「あら。そうだったの。昨日はごたごたしてたし悪いわね。」
「後で見ろよ。」
そういって政近もまた洗濯物に手を伸ばす。シャツはおそらく伊織のモノだ。春樹のモノにしては小さいから。
「この間さぁ……。」
伊織が少し変だった。もしかして女が出来たのではないかと思っていたのだ。それを言おうとしたときだった。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。倫子は洗濯物をおいて、そのまま玄関の方へ向かう。
「はい。」
玄関に立っていたのは、初老の男女。その姿に倫子は顔をひきつらせた。
「お父さん。お母さん。」
ベージュのトレンチコートと同じ色のハットをかぶった男と深い赤のコートを着た女性だった。二人は厳しそうな目で倫子を見ている。
「どうしたの。いきなり来て。」
「こっちの方に用事があったのよ。昨日から。もう昼の便で帰るんだけど。その前にあなたの顔でも見ていこうと思ってね。栄輝は大学に行っていると言うし。」
「上がって。玄関を開けるわ。」
そういって倫子はまた庭に戻る。すると政近が洗濯物を干していた。あぁ。こんな時に政近が居るのか。そう思いながら倫子は政近をみる。
いつも通り派手な格好だ。革ジャンと、口元のピアス。手元には入れ墨も見える。堅気の人に見えない。だが別に関係あるか。政近とは仕事のつきあいなのだから。
そう思いながら玄関へ向かい、鍵を開ける。そしてドアを開けると、二人が玄関に入ってきた。
「相変わらず古い家ね。何この殺風景な玄関。絵か植物でもおいたらいいのに。」
「植物は育てきれないのよ。動物もそう。絵はわからないし。」
「まぁそういうな。とても綺麗にしているね。倫子。手間はかかるだろう?」
「そうね。毎日掃除は欠かさないの。お茶でも淹れるわ。」
口を開けば文句しか言わない母と、上っ面でしかほめられない父。この家族が苦痛だった。
「あら。どちら様?」
やはり洗濯物を干していた政近に目が止まったらしい。倫子は咳払いをすると、政近を紹介する。
「今度、春に新連載が始まるの。その絵を描いてくださる田島さん。」
「仕事の仲間というわけか。自宅にまで来て洗濯物を干してくれるんだね。」
確かに仕事の仲間にしては洗濯物を干したりという家のことを手伝うのは、少し異常だろうか。
「るせぇな。好きでしてんだよ。」
開口一番これか。倫子は頭を抱える。ちらっと両親を見ると、父は苦笑いをし母はあきれたように政近を見ている。
「なんて口の効き方。年長者に対して失礼な人ね。」
すると干し終わった洗濯かごを持って、政近は縁側に近づく。
「年食ってるだけだろ。おばさん。あんたそんなに偉いのかよ。」
怒りで震えている母とは対照的に、父親がたまらずに笑い出した。
「ははっ。田島さん。確かにそうだ。偉くはない。だが、初対面の人にそんな口の効き方をしているのも偉くはないと思わないか。」
でたよ。倫子はため息を付く。父親はそういっていつも言いくるめていた。そういうところが兄の忍によく似ている。
「一時の感情でとんでもないことをしたわね。」
倫子はそういってパンを口にする。夕べ伊織と泉が帰ってくるときに、大和に進められた美味しいパン屋があると進められたパンを食べていたのだ。確かにとても美味しいパンだと思う。厚切りの食パンに泉が作ったハッサクのジャムを塗って食べると、さらに美味しいと思う。
「コンビニの店員か。普通なら顔も見ないな。」
「伊織君はあまりコンビニには行かないの?」
春樹がそう聞くと、伊織は首を傾げて言った。
「あまり行かないかな。昼ご飯もコンビニじゃなくて、最近は屋台があるから。」
「あぁ、屋台って言えばさ……。」
みんな普段通りの会話をしている。みんなが気を使うこともないのだ。
「泉は今日は休みになるの?」
もう普段通りに歩いている泉は、もう自転車に乗って出かけるのだろう。
「うーん。店はお休みなんだけど、本社の方へ行かないといけなくて。」
「春のデザート?」
伊織はそう聞くと、泉はうなづいた。
「まだ決まっていないの?もう桜が咲くよ?」
「だから、今日中に決めるって言ってたわ。クリスマスの時は結構さくっと決まったのに。」
高柳鈴音と案を出し合って決めたデザートはあの女性は何も言わなかったらしい。ただそのデザートに合わせたコーヒーの焙煎や入れ方を指示しただけだ。ここまでがらっと変えたのは何か理由があるのだろうかと思う。
「礼二は休み?」
「礼二はお店に行って、後かたづけを手伝うって言っていたわ。」
コーヒーを飲み終わって春樹は席を立つ。それに倫子が見上げた。
「もういいの?」
「今日は早く出ないといけなくてね。」
「そっか。報告があるのね。」
春樹に対するペナルティはない。加藤絵里子をはじめとした他の担当者たちがかばってくれた。だが報告の義務はある。それが上に立つものだからだ。
「夜は遅くなりそう?」
「そうかもね。食事が出来そうになければ連絡をするよ。」
昨日は出社扱いになったはずだ。だから代休をとれると言っていた。なのにこの騒ぎになればそれも怪しくなる。
いつかのんびりとツーリングでも出来る日は、いつ来るのだろうか。
三人が出払って掃除をする。そして洗濯が終わって洗濯物を干していると、声をかけられた。
「よう。大変だったな。」
それは政近だった。倫子は少しため息を付いて、そちらをみる。
「それなりにね。」
「軽傷を負ったって聞いたけど、元気そうじゃん。」
「本当に軽傷よ。塩酸が服の上から足にかかっただけ。」
「塩酸ねぇ。」
そういって政近は洗濯物を干している倫子に近づいて、手に持っているビニール袋を手渡した。
「ほら。」
「何?」
袋の中身はイチゴが入っている。ジャムにするようなものではなく、大きくて立派なものだ。そのまま食べると美味しいだろう。
「どうしたの?」
「見舞い。」
「大したモノじゃないわ。でもありがとう。」
素直にイチゴを受け取って、縁側に置く。そしてまた洗濯物を干し始める。
「昨日、ネーム送ったけど見てねぇよな。」
「あら。そうだったの。昨日はごたごたしてたし悪いわね。」
「後で見ろよ。」
そういって政近もまた洗濯物に手を伸ばす。シャツはおそらく伊織のモノだ。春樹のモノにしては小さいから。
「この間さぁ……。」
伊織が少し変だった。もしかして女が出来たのではないかと思っていたのだ。それを言おうとしたときだった。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。倫子は洗濯物をおいて、そのまま玄関の方へ向かう。
「はい。」
玄関に立っていたのは、初老の男女。その姿に倫子は顔をひきつらせた。
「お父さん。お母さん。」
ベージュのトレンチコートと同じ色のハットをかぶった男と深い赤のコートを着た女性だった。二人は厳しそうな目で倫子を見ている。
「どうしたの。いきなり来て。」
「こっちの方に用事があったのよ。昨日から。もう昼の便で帰るんだけど。その前にあなたの顔でも見ていこうと思ってね。栄輝は大学に行っていると言うし。」
「上がって。玄関を開けるわ。」
そういって倫子はまた庭に戻る。すると政近が洗濯物を干していた。あぁ。こんな時に政近が居るのか。そう思いながら倫子は政近をみる。
いつも通り派手な格好だ。革ジャンと、口元のピアス。手元には入れ墨も見える。堅気の人に見えない。だが別に関係あるか。政近とは仕事のつきあいなのだから。
そう思いながら玄関へ向かい、鍵を開ける。そしてドアを開けると、二人が玄関に入ってきた。
「相変わらず古い家ね。何この殺風景な玄関。絵か植物でもおいたらいいのに。」
「植物は育てきれないのよ。動物もそう。絵はわからないし。」
「まぁそういうな。とても綺麗にしているね。倫子。手間はかかるだろう?」
「そうね。毎日掃除は欠かさないの。お茶でも淹れるわ。」
口を開けば文句しか言わない母と、上っ面でしかほめられない父。この家族が苦痛だった。
「あら。どちら様?」
やはり洗濯物を干していた政近に目が止まったらしい。倫子は咳払いをすると、政近を紹介する。
「今度、春に新連載が始まるの。その絵を描いてくださる田島さん。」
「仕事の仲間というわけか。自宅にまで来て洗濯物を干してくれるんだね。」
確かに仕事の仲間にしては洗濯物を干したりという家のことを手伝うのは、少し異常だろうか。
「るせぇな。好きでしてんだよ。」
開口一番これか。倫子は頭を抱える。ちらっと両親を見ると、父は苦笑いをし母はあきれたように政近を見ている。
「なんて口の効き方。年長者に対して失礼な人ね。」
すると干し終わった洗濯かごを持って、政近は縁側に近づく。
「年食ってるだけだろ。おばさん。あんたそんなに偉いのかよ。」
怒りで震えている母とは対照的に、父親がたまらずに笑い出した。
「ははっ。田島さん。確かにそうだ。偉くはない。だが、初対面の人にそんな口の効き方をしているのも偉くはないと思わないか。」
でたよ。倫子はため息を付く。父親はそういっていつも言いくるめていた。そういうところが兄の忍によく似ている。
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