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血縁
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今日、春樹は有休を取った。地元の方から妹の真理子の夫である克之とその息子の靖がやってくるからだ。克之は仕事でこっちにやってくるが、靖は足の治療のためにこっちの病院にかかりたいとやってくるのだ。
待ち合わせは駅前の時計台。春樹は時間に会わせて時計台へやってくる。
「克之さん。靖君。」
そこにやってくると、克之は少し目を細める。
「悪いね。春樹さん。わざわざ休みを取ったんじゃないのか。」
「いいえ。校了はもう少しあとですし、そろそろ有給を消化して欲しいと言われてましたしね。克之さんは大学はどちらでしたかね。」
「ここから地下鉄に乗っていくよ。終わりは夕方くらいになると思う。」
「それまで少し観光でもする?」
すると靖は少し戸惑ったようにうなづいた。田舎に比べて、こっちの人はファッショナブルだ。同年代の人と比べても、自分がダサいと思っているのだろう。それに春樹は少し笑った。自分も同じようなことを思ったことがあるからだ。
「じゃあ、こちらの用事が終わったら連絡をしよう。」
そういって克之は地下鉄の方へ言ってしまった。元々克之はこの辺が地元らしい。土地勘はあるのだ。
それをあんな田舎に引きこもっているのは、真理子や子供たちの為なのだろう。今の仕事ペースでは収入は減るが哲学書を執筆したり、講演をしたりして家族が路頭に迷うことはないらしい。
「病院ってどこになるの?」
靖が聞くと、春樹はそこから指を指す。駅前にある大きな病院だった。
「ここ?」
「そう。だから少し時間があるな。何か見たいモノとかある?」
「んー。ちょっと本屋に行きたい。」
「本屋?」
「大きい病院は待ち時間が退屈だって言ってた。文庫本でもあればいいな。」
その言葉に春樹は少し笑う。
「わかった。もう本屋は開いているな。行こうか。」
そういって二人は足を進める。そしてやってきたのは「book cafe」だった。田舎の本屋ではないほど大きな書店に、靖は驚いてみていた。
「これ、全部本?」
「CDや映画のソフトもあるけどね。ほとんど本だね。小泉倫子さんが好きなんだろう。ミステリーが好き?」
「うん。あ、でも荒田夕とかも好きかな。わぁ。これ、ネットで買おうかと思ってたヤツ。表紙を実際見ると欲しくなるな。」
そういって手に取ったのは、倫子の本だった。そして表装は伊織のモノで、やはり伊織がデザインしたモノはそういわれることが多い。
だが春樹の心は複雑だった。伊織は倫子が好きで、手に入れたいと思っているのだ。遠慮はしないという。だったら何かするのだろうか。春樹が居ても関係ないと言うほど節操はないとは思えない。だいたい、伊織は奥手だ。
しかしそれが演技だとしたら。弱気で奥手な伊織を演じているだけだとしたら。その可能性はある。倫子とこの間ずいぶん言い合ったのだ。実は伊織もあぁみえて気が強いのだろう。
そのとき、春樹の携帯電話がなる。その相手を見て、少し微笑んだ。
「靖君。」
靖は本を二つ手にとってどっちを買うかと真剣に悩んでいるようだった。一つは倫子のモノで、もう一つは荒田夕のモノ。どちらを選んでも楽しめる本だと思う。
「春樹さん。どっちが面白いかな。」
「どっちも面白かったよ。ただ単純にミステリーを読みたいんだったら小泉先生のモノが良いし、恋愛要素も絡めたいんだったら荒田先生かな。」
「だったら小泉先生のにしよう。」
「ん?恋愛要素はなくていいの?」
「俺、わかんなくって。」
まだ子供なのだ。ずいぶん背が高いので中学生に見えないが、まだその辺は未成熟なのだろう。
「ねぇ。そういえば、文芸雑誌にさっきから人が群がってたね。何で?」
「あぁ。増刷されたかな。」
「雑誌の増刷?」
「うん。小泉先生の読み切りを載せている雑誌の評判がいいんだよ。」
「え?俺、読みたい。」
「駄目。」
「何で?」
「十八歳未満は買っちゃいけないヤツだからね。」
その言葉に靖の顔が赤くなった。ますます初なのだろう。
「春樹さん。」
声をかけられて春樹は振り返るとそこには倫子の姿があった。その姿に、靖は少し気後れしたように倫子を見ていた。だがすぐに倫子とわかったのだろう。
「……あの……。」
「何?」
「小泉倫子先生ですか。」
「えぇ。どちら様かしら。」
「あの……春樹さんの甥です。藤枝靖です。」
甥という言葉に、倫子は驚いていた。こんなに大きな甥っ子がいるとは思っていなかったから。
「確か、中学生だって言ってたけれど……。」
「十四です。中三です。」
「でかいわね。」
革のジャンパーとダメージジーンズ。黒と白のボーダーのセーター。そして首もとにはマフラーがしてある。だがその手元は黒い入れ墨が見えた。パンクロッカーのような様相だ。靖の地元ではまずみないタイプだし、そばにこんな人はいない。
「倫子さんはこちらに用事?」
「えぇ。今度は歴史物を書こうと思ってるから、その資料を集めにね。」
「あぁ。「三島出版」の?」
すると靖がきらきらした目で倫子を見ていた。
「何?」
「今度歴史物なんですか?」
「黙っておくのよ。まだ世に出ていないんだから。」
「わかってますよ。わぁ……楽しみだなぁ。」
インターネットの声なんかよりも、こういう声が嬉しい。倫子は少し笑うと、春樹の方を見る。
「病院へ行くんでしょう?終わったら連絡もらえる?」
「良いよ。食事でもしようか。靖君も一緒に。」
「いいの?俺、ついて行って。」
「何を誤解しているの?同居人と外でご飯を食べるの、そんなに不自然かしら。」
「嫌……デートの邪魔じゃないかなって。」
「そんなこと無いわ。病院、良い結果になると良いわね。」
倫子の目が優しい。作品を褒められたのも嬉しかったのかもしれないが、靖がとても気に入ったのかもしれない。
待ち合わせは駅前の時計台。春樹は時間に会わせて時計台へやってくる。
「克之さん。靖君。」
そこにやってくると、克之は少し目を細める。
「悪いね。春樹さん。わざわざ休みを取ったんじゃないのか。」
「いいえ。校了はもう少しあとですし、そろそろ有給を消化して欲しいと言われてましたしね。克之さんは大学はどちらでしたかね。」
「ここから地下鉄に乗っていくよ。終わりは夕方くらいになると思う。」
「それまで少し観光でもする?」
すると靖は少し戸惑ったようにうなづいた。田舎に比べて、こっちの人はファッショナブルだ。同年代の人と比べても、自分がダサいと思っているのだろう。それに春樹は少し笑った。自分も同じようなことを思ったことがあるからだ。
「じゃあ、こちらの用事が終わったら連絡をしよう。」
そういって克之は地下鉄の方へ言ってしまった。元々克之はこの辺が地元らしい。土地勘はあるのだ。
それをあんな田舎に引きこもっているのは、真理子や子供たちの為なのだろう。今の仕事ペースでは収入は減るが哲学書を執筆したり、講演をしたりして家族が路頭に迷うことはないらしい。
「病院ってどこになるの?」
靖が聞くと、春樹はそこから指を指す。駅前にある大きな病院だった。
「ここ?」
「そう。だから少し時間があるな。何か見たいモノとかある?」
「んー。ちょっと本屋に行きたい。」
「本屋?」
「大きい病院は待ち時間が退屈だって言ってた。文庫本でもあればいいな。」
その言葉に春樹は少し笑う。
「わかった。もう本屋は開いているな。行こうか。」
そういって二人は足を進める。そしてやってきたのは「book cafe」だった。田舎の本屋ではないほど大きな書店に、靖は驚いてみていた。
「これ、全部本?」
「CDや映画のソフトもあるけどね。ほとんど本だね。小泉倫子さんが好きなんだろう。ミステリーが好き?」
「うん。あ、でも荒田夕とかも好きかな。わぁ。これ、ネットで買おうかと思ってたヤツ。表紙を実際見ると欲しくなるな。」
そういって手に取ったのは、倫子の本だった。そして表装は伊織のモノで、やはり伊織がデザインしたモノはそういわれることが多い。
だが春樹の心は複雑だった。伊織は倫子が好きで、手に入れたいと思っているのだ。遠慮はしないという。だったら何かするのだろうか。春樹が居ても関係ないと言うほど節操はないとは思えない。だいたい、伊織は奥手だ。
しかしそれが演技だとしたら。弱気で奥手な伊織を演じているだけだとしたら。その可能性はある。倫子とこの間ずいぶん言い合ったのだ。実は伊織もあぁみえて気が強いのだろう。
そのとき、春樹の携帯電話がなる。その相手を見て、少し微笑んだ。
「靖君。」
靖は本を二つ手にとってどっちを買うかと真剣に悩んでいるようだった。一つは倫子のモノで、もう一つは荒田夕のモノ。どちらを選んでも楽しめる本だと思う。
「春樹さん。どっちが面白いかな。」
「どっちも面白かったよ。ただ単純にミステリーを読みたいんだったら小泉先生のモノが良いし、恋愛要素も絡めたいんだったら荒田先生かな。」
「だったら小泉先生のにしよう。」
「ん?恋愛要素はなくていいの?」
「俺、わかんなくって。」
まだ子供なのだ。ずいぶん背が高いので中学生に見えないが、まだその辺は未成熟なのだろう。
「ねぇ。そういえば、文芸雑誌にさっきから人が群がってたね。何で?」
「あぁ。増刷されたかな。」
「雑誌の増刷?」
「うん。小泉先生の読み切りを載せている雑誌の評判がいいんだよ。」
「え?俺、読みたい。」
「駄目。」
「何で?」
「十八歳未満は買っちゃいけないヤツだからね。」
その言葉に靖の顔が赤くなった。ますます初なのだろう。
「春樹さん。」
声をかけられて春樹は振り返るとそこには倫子の姿があった。その姿に、靖は少し気後れしたように倫子を見ていた。だがすぐに倫子とわかったのだろう。
「……あの……。」
「何?」
「小泉倫子先生ですか。」
「えぇ。どちら様かしら。」
「あの……春樹さんの甥です。藤枝靖です。」
甥という言葉に、倫子は驚いていた。こんなに大きな甥っ子がいるとは思っていなかったから。
「確か、中学生だって言ってたけれど……。」
「十四です。中三です。」
「でかいわね。」
革のジャンパーとダメージジーンズ。黒と白のボーダーのセーター。そして首もとにはマフラーがしてある。だがその手元は黒い入れ墨が見えた。パンクロッカーのような様相だ。靖の地元ではまずみないタイプだし、そばにこんな人はいない。
「倫子さんはこちらに用事?」
「えぇ。今度は歴史物を書こうと思ってるから、その資料を集めにね。」
「あぁ。「三島出版」の?」
すると靖がきらきらした目で倫子を見ていた。
「何?」
「今度歴史物なんですか?」
「黙っておくのよ。まだ世に出ていないんだから。」
「わかってますよ。わぁ……楽しみだなぁ。」
インターネットの声なんかよりも、こういう声が嬉しい。倫子は少し笑うと、春樹の方を見る。
「病院へ行くんでしょう?終わったら連絡もらえる?」
「良いよ。食事でもしようか。靖君も一緒に。」
「いいの?俺、ついて行って。」
「何を誤解しているの?同居人と外でご飯を食べるの、そんなに不自然かしら。」
「嫌……デートの邪魔じゃないかなって。」
「そんなこと無いわ。病院、良い結果になると良いわね。」
倫子の目が優しい。作品を褒められたのも嬉しかったのかもしれないが、靖がとても気に入ったのかもしれない。
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