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歪曲
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誰かと話しているのだろうか。そう思いながら泉は目を覚ました。少し気が遠くなっていたらしい。と思うと同時に、体をすぐに起こした。
「何時?」
すると自分の格好に気が付いた。一糸まとっていない裸だったのだ。そうだった。礼二とセックスをしてそのまま気を失っていたのだ。
「……いい加減、泉から離れたらどうだ。自由にさせてやれよ。」
礼二の声が聞こえる。そう思いながら泉は、脱ぎ捨てられている下着を手にして身につけた。そしてベッドを降りる。
「礼二?」
リビングをのぞくと、礼二は電話をしているようだった。こちらを見て少し微笑んだが、また電話を始めた。
「良い大人なんだ。どこで何をしていようと自分の責任の元ですることだろう。酒を飲んだのも、自分がしたことだ。……元々、泉はそんなにぼんやりしていない。何か理由もあったんだろう。それを聞かないのが友達なのか。」
礼二は珍しく厳しい口調で話をしている。それだけ泉のことを思っているのだろう。思わず泉は礼二の元へ足を進める。すると礼二も泉の肩に手を置きながら話を続けた。
「帰らせるよ。ちゃんと送る。」
その言葉に泉は体をまた礼二に寄せた。電話を切ると、携帯電話を手にしたまま泉を抱きしめる。
「帰らせたくないけどな。」
「倫子が心配しているんです。遅くなったけれど、帰らないと……。」」
ずっと友達だと思っていた。何があっても心配してくれて、自分の見方になってくれていた倫子を裏切っている感じがして、いたたまれない。自分がこうしていたいのに、倫子の顔がちらつく。
「シャワーを浴びよう。」
「はい。」
長いつきあいになった。だから泉が何を考えているかわかる。何よりも倫子を大事にしていたのと同時に、恐怖の存在なのだ。
電話を切って倫子はため息を付いた。そしてお茶を入れようと立ち上がってポットに手を伸ばす。ティーポットにお湯を注いで、カップにお茶を注いだ。
いらいらする。そう思いながらいすに座り、お茶に口を付けた。
「倫子。」
ドアの向こうで声がする。伊織の声だった。
「何?」
不機嫌そうな倫子の声に、伊織は苦笑いをしながら部屋に入ってきた。
「風呂に入らない?」
「……あとで。」
「冷めるよ。」
「……んー。」
「ネタが詰まってるんじゃない?気分変えるためにも風呂にでも入ったら?」
伊織の言うこともわかる。だが風呂に入ってゆっくりしても気分は晴れないだろう。
「……散歩に行ってこようかな。」
「それは駄目。」
「何で?」
「女性が一人で歩かないように、泉も店長と帰ってるんだろう。意味ないじゃん。」
「……。」
店長という言葉で、倫子の表情が変わる。きっと泉の関係で、機嫌が悪いのだ。
「俺がつきあおうか?」
「湯冷めするわよ。雪が今日は降ってないけど、ずいぶん寒いもの。」
「温かくしていくよ。いつも倫子は薄着だけど、何かもっと暖かいの持ってないの?」
「……動きにくいわ。」
「しょうがないね。」
伊織はそういうと一度部屋を出ていく。そしてまた倫子の部屋に戻って来たとき、手にダウンのコートが握られていた。
「これ着て。」
「あなたは?」
「俺、半纏で良いよ。」
「おじさんねぇ。」
やっと少し笑った。そしてそのコートを受け取る。
「厚いね。どこに行くつもり?」
「俺が住んでたところ、寒かったんだよ。」
パソコンの電源を切り、そのコートに袖を通す。小柄とはいっても、伊織は男だ。コートがとても大きい。そして伊織の匂いがする。すなわち、男の匂いだ。春樹とは違う。
電気を消して、外に出る。風が吹き抜けて思わず身震いをした。
「平気?」
「大丈夫。あなたこそ大丈夫?半纏ってそんなに寒さをしのげるの?」
「布団を着てるみたいだ。」
少し笑って二人は並んで歩いていく。近くにある公園は、まだら委とアップしているようだった。歩く度にライトが道を照らし、幻想的だと思う。いつもだったら恋人なんかが愛を語らうのかもしれない。だが今日は寒さがひどいので、人一人居ない。道を野良猫が通るくらいだ。
「驚いた。」
「え?」
「猫の目が光ってたから。」
「臆病ね。」
余った袖をぶらぶらさせながら、倫子は伊織の隣を歩いている。デートをしているように感じたが、ただの倫子の気分を晴らすだけだ。
さっき誰と携帯電話で話をしていたのかわかる。泉が帰ってこない。きっとあの店長の所にいるのだ。それが機嫌を悪くしている。
「泉に連絡した?」
「遅すぎるもの。棚卸しの時は遅くなるのはわかっているけれど……もう終わったって言ってたのに。礼二に言い寄られてたみたいだから、困ってるんじゃないかって……。」
「困ってないよ。」
伊織はそういって倫子の方をみる。
「……あなたそれで良いの?」
「うん。泉がそれを望んでいるなら、それで良い。いつか言ってた。あの店長はとても尻が軽い人だ。きっと言い寄っているにも、泉とセックスをしたいからだって。」
「そんな関係だったら軽いものよ。たとえ、礼二が奥さんと離婚をしても、泉とどうかなるとは思えないわ。」
「それでも良いよ。」
「どうしてそんなに冷静でいれるの?泉が傷ついてぼろぼろになっても良いというの?そんなに冷たい人だった?」
思わず足を止めて、伊織に言う。だが伊織は冷静に言った。
「俺、ここの国に帰ってきて違和感が一番あったのは、どうして親が子供にこける前に「危ないよ」って言って、つまずくかもしれない意志なんかを避けるのか、そこに行かせないのかって思ったことだった。」
「心配だからでしょう?」
「でもこけて痛いって思わないと、痛みなんかわからないだろう?痛みは体験しないとリアルじゃない。そうしないと他人の痛みもわからないと思う。」
「……。」
「泉が傷つくだろうなって言うのは目に見えてる。でも今まで恋愛の一つもしてこなかったって言ってた。そういう痛みがわからないと、他人の痛みもわからないよ。」
「……成長させる為って事?」
「うん。」
倫子は結んでいる髪を解くと、髪をくしゃくしゃとかきむしる。いらついているのはわかる。
「春樹でもそういうかもしれないわね。あなたたち少し似てきた?」
また髪を結んだ。うなじがまた見えて、伊織はそこから視線を逸らす。
「説教臭くなったかな。」
「春樹が説教臭いと思ってる?」
「上に立つとどうしてもそうなってしまうのかもね。」
こんな時でも春樹を思っている。やはり、伊織では何の役にも立っていないのだろうかと、胸の前で腕を組んだ。
「何時?」
すると自分の格好に気が付いた。一糸まとっていない裸だったのだ。そうだった。礼二とセックスをしてそのまま気を失っていたのだ。
「……いい加減、泉から離れたらどうだ。自由にさせてやれよ。」
礼二の声が聞こえる。そう思いながら泉は、脱ぎ捨てられている下着を手にして身につけた。そしてベッドを降りる。
「礼二?」
リビングをのぞくと、礼二は電話をしているようだった。こちらを見て少し微笑んだが、また電話を始めた。
「良い大人なんだ。どこで何をしていようと自分の責任の元ですることだろう。酒を飲んだのも、自分がしたことだ。……元々、泉はそんなにぼんやりしていない。何か理由もあったんだろう。それを聞かないのが友達なのか。」
礼二は珍しく厳しい口調で話をしている。それだけ泉のことを思っているのだろう。思わず泉は礼二の元へ足を進める。すると礼二も泉の肩に手を置きながら話を続けた。
「帰らせるよ。ちゃんと送る。」
その言葉に泉は体をまた礼二に寄せた。電話を切ると、携帯電話を手にしたまま泉を抱きしめる。
「帰らせたくないけどな。」
「倫子が心配しているんです。遅くなったけれど、帰らないと……。」」
ずっと友達だと思っていた。何があっても心配してくれて、自分の見方になってくれていた倫子を裏切っている感じがして、いたたまれない。自分がこうしていたいのに、倫子の顔がちらつく。
「シャワーを浴びよう。」
「はい。」
長いつきあいになった。だから泉が何を考えているかわかる。何よりも倫子を大事にしていたのと同時に、恐怖の存在なのだ。
電話を切って倫子はため息を付いた。そしてお茶を入れようと立ち上がってポットに手を伸ばす。ティーポットにお湯を注いで、カップにお茶を注いだ。
いらいらする。そう思いながらいすに座り、お茶に口を付けた。
「倫子。」
ドアの向こうで声がする。伊織の声だった。
「何?」
不機嫌そうな倫子の声に、伊織は苦笑いをしながら部屋に入ってきた。
「風呂に入らない?」
「……あとで。」
「冷めるよ。」
「……んー。」
「ネタが詰まってるんじゃない?気分変えるためにも風呂にでも入ったら?」
伊織の言うこともわかる。だが風呂に入ってゆっくりしても気分は晴れないだろう。
「……散歩に行ってこようかな。」
「それは駄目。」
「何で?」
「女性が一人で歩かないように、泉も店長と帰ってるんだろう。意味ないじゃん。」
「……。」
店長という言葉で、倫子の表情が変わる。きっと泉の関係で、機嫌が悪いのだ。
「俺がつきあおうか?」
「湯冷めするわよ。雪が今日は降ってないけど、ずいぶん寒いもの。」
「温かくしていくよ。いつも倫子は薄着だけど、何かもっと暖かいの持ってないの?」
「……動きにくいわ。」
「しょうがないね。」
伊織はそういうと一度部屋を出ていく。そしてまた倫子の部屋に戻って来たとき、手にダウンのコートが握られていた。
「これ着て。」
「あなたは?」
「俺、半纏で良いよ。」
「おじさんねぇ。」
やっと少し笑った。そしてそのコートを受け取る。
「厚いね。どこに行くつもり?」
「俺が住んでたところ、寒かったんだよ。」
パソコンの電源を切り、そのコートに袖を通す。小柄とはいっても、伊織は男だ。コートがとても大きい。そして伊織の匂いがする。すなわち、男の匂いだ。春樹とは違う。
電気を消して、外に出る。風が吹き抜けて思わず身震いをした。
「平気?」
「大丈夫。あなたこそ大丈夫?半纏ってそんなに寒さをしのげるの?」
「布団を着てるみたいだ。」
少し笑って二人は並んで歩いていく。近くにある公園は、まだら委とアップしているようだった。歩く度にライトが道を照らし、幻想的だと思う。いつもだったら恋人なんかが愛を語らうのかもしれない。だが今日は寒さがひどいので、人一人居ない。道を野良猫が通るくらいだ。
「驚いた。」
「え?」
「猫の目が光ってたから。」
「臆病ね。」
余った袖をぶらぶらさせながら、倫子は伊織の隣を歩いている。デートをしているように感じたが、ただの倫子の気分を晴らすだけだ。
さっき誰と携帯電話で話をしていたのかわかる。泉が帰ってこない。きっとあの店長の所にいるのだ。それが機嫌を悪くしている。
「泉に連絡した?」
「遅すぎるもの。棚卸しの時は遅くなるのはわかっているけれど……もう終わったって言ってたのに。礼二に言い寄られてたみたいだから、困ってるんじゃないかって……。」
「困ってないよ。」
伊織はそういって倫子の方をみる。
「……あなたそれで良いの?」
「うん。泉がそれを望んでいるなら、それで良い。いつか言ってた。あの店長はとても尻が軽い人だ。きっと言い寄っているにも、泉とセックスをしたいからだって。」
「そんな関係だったら軽いものよ。たとえ、礼二が奥さんと離婚をしても、泉とどうかなるとは思えないわ。」
「それでも良いよ。」
「どうしてそんなに冷静でいれるの?泉が傷ついてぼろぼろになっても良いというの?そんなに冷たい人だった?」
思わず足を止めて、伊織に言う。だが伊織は冷静に言った。
「俺、ここの国に帰ってきて違和感が一番あったのは、どうして親が子供にこける前に「危ないよ」って言って、つまずくかもしれない意志なんかを避けるのか、そこに行かせないのかって思ったことだった。」
「心配だからでしょう?」
「でもこけて痛いって思わないと、痛みなんかわからないだろう?痛みは体験しないとリアルじゃない。そうしないと他人の痛みもわからないと思う。」
「……。」
「泉が傷つくだろうなって言うのは目に見えてる。でも今まで恋愛の一つもしてこなかったって言ってた。そういう痛みがわからないと、他人の痛みもわからないよ。」
「……成長させる為って事?」
「うん。」
倫子は結んでいる髪を解くと、髪をくしゃくしゃとかきむしる。いらついているのはわかる。
「春樹でもそういうかもしれないわね。あなたたち少し似てきた?」
また髪を結んだ。うなじがまた見えて、伊織はそこから視線を逸らす。
「説教臭くなったかな。」
「春樹が説教臭いと思ってる?」
「上に立つとどうしてもそうなってしまうのかもね。」
こんな時でも春樹を思っている。やはり、伊織では何の役にも立っていないのだろうかと、胸の前で腕を組んだ。
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