触れられない距離

神崎

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バーベキュー

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 街の方へやってきた遥人と一馬と純は、観光客に紛れるようにしてその街の様子を見ていた。自分たちの国とは違って路上にゴミが平気で捨てられているし、観光客だとわかれば金を持っていると近づいてくる男もいるし、体を売るような女も居る。
 学校もあるようだが、その中の様子というのは見ることは出来ない。入り口には警備員がいて、警備が厳重に見える。守られているように見えるが、その分閉鎖的にも見えた。
「そういえばソフィアの所のライリーとか、ケビンは学校はどうしているんだろうな。二人に付いて言って各国を回って居るみたいだけど。」
 純がそう聞くと遥人は学校の脇にあるポスターを指さして言う。
「これ。ほら、見てみろよ。」
 国内をうろうろしているだけだったら学校を転校したりするのだろうが、国をまたぐことが多いのだ。なので本籍地のある所にある学校で通信制度のある学校を選択し、そこから送られた課題をこなしたり、たまに学校へ行ったりしているようだ。自由な校風があるのだろう。
「へぇ……こういうのがあれば良いな。」
 中卒で尚且つ学校へは余り行けなかった純は、内心学びたいこともあっただろう。だがそれを出来る環境では無かったのだ。
「遥人は高校も出ることが出来たのか。」
 一馬はそう聞くと、遥人は頷く。
「芸能コースがあるような高校があるんだよ。凄い単位が緩くて、出席日数が甘い所。その分課題は相当多いけど。」
 母親はそういう学校へ行ったのだ。だから遥人も同じような道を歩むと見て、そういう学校を薦めてきたのだ。同じ環境で育った兄は、全く興味を示さないで普通学校へ行ったし部活に励んでいた。音楽とは無縁のバスケばかりをしていたのだ。
「お、ここの古着屋入って良い?」
 遥人も純も下調べをして、お目当ての古着屋や楽器屋に立ち寄っていたが、遥人はこうやって街をふらっと歩いてこういう古着屋へ行くことも良くあるようだ。だがほとんどは観光客を相手にしているような所では無いので、こちらの人のサイズになる。遥人は小柄では無いが、若干オーバーサイズになる。それでもたまにぴったりしたモノなんかもあるので根気よくこういう古着屋を回っているのだ。
 入っていった古着屋はビンテージのモノもあるし、本当にどこの家庭でも出るような古着を扱っているモノもある。それに古着だけでは無く、古いジッポーライターやピアスなんかも取り扱っているようだった。だが一馬はあまりこういったモノに興味が無い。沙夜にはワンピースを着て欲しいと言ったが、それはあくまでスタジオへ来るとき沙夜だとわからないようにする為であり本当はこだわりは無い。それでも着て欲しいと思ったそのワンピースを着て髪をほどき一馬の前に現れたときは、素直に可愛いと思ったしここに来るときだけの限定だと思えば特別感がある。そんな単純なことが嬉しいのだ。
 ぼんやりと服を見ていると、遥人が店員と値段の交渉をしている声が聞こえた。遥人は現地の人と対等なくらいの言葉が扱える。言葉がわかれば、観光客だからと高い金額をふっかけることはほとんど無い。騙されるのは言葉がわからない人ばかりなのだ。
「お、一馬。これ良いじゃん。」
 純がそう言って一馬に勧めてきたのは、ワンピースだった。おそらく現地の人が着たら膝丈くらいになるのだろうが、一馬達の国の女性が着たらロング丈になりそうだと思う。オレンジ色が目に鮮やかで、これからの季節には厳しいかもしれないが夏には活躍しそうだと思う。
「誰が着るんだ。うちの妻はそんなモノは着ないが。」
「奥さんは着ないかも知れないけど、沙夜さんは着るかも知れないし。」
「……。」
 ワンピースを見たとき、確かに一馬は沙夜を想像した。スタジオへ来るときに着てもらったワンピースは、カーキ色だったがこういう鮮やかなモノも似合うと思う。
「洋服は本人が着て気に入ったモノを買った方が良い。男の好みに合わせるのは違うと思うが。」
「でも沙夜さんはこのところ少し一馬好みにしていっているじゃん。」
「そうだろうか。」
「アクセサリーが苦手だと言ってたのに、最近ずっとアンクレットを付けてるし。あの様子だと下着も買うんじゃ無いのか。」
「下着?」
「サイズが合っていないと言われていたし。」
 その言葉に一馬はじろっと店員と話をしている遥人を見た。遥人が余計なことを言ったのだろうか。
「俺、あまり女の格好なんか気にならないけど、沙夜さんが着てたウェディングドレスを見て、素直に綺麗だと思ってたよ。着るモノで女ってのは変わるんだな。」
「そうだな。でもそれは男でも言えることだろう。」
「一馬は良いよな。着飾らなくてもなんか様になってるし。」
「お前も鍛えれば良い。」
「たまには走ったりしてるよ。英二と一緒に。三十代になって太ってきた気がするしさ。」
 純を見ていると、沙夜に気があるように感じていた。だがそれは心配しなくても良かったのかもしれない。英二とは順調なのだろう。
「おー。二人さ。何か買うか?」
 遥人は店員と交渉を終えたのだろう。二人に近づいてきた。
「あ、俺、このアロハ欲しいと思っててさ。」
 純はそう言ってアロハシャツを手にした。和柄のモノはこちらでも人気があるらしく、純が選んだモノは荒々しい海と龍がプリントされている。
「へぇ。純がそう言うのを選ぶの珍しいな。」
「英二に和柄のアロハがあったら買ってきて欲しいって言われてた。好みもあるだろうけど、ちょっと抑えめ出し良いと思ってさ。」
「気に入らなければお前が着ても良いと思うよ。」
「俺が着たらチンピラだろ。」
「まぁ、確かに。」
 金髪の髪がどうしてもそういう風に見えるだろう。それでも純はこの柄が気に入ったらしい。英二がどう思うかはわからないが。
「一馬はどうするんだ。お前だったらサイズは選び放題じゃ無いのか。」
「俺は良いかな。」
「へぇ。奥さんも背が高いだろ?奥さんのモノでも買ったら良いのに。」
 遥人はそう言うと、一馬は肩をすくませて言う。
「好みがあるだろうしな。」
「俺色に染めたいとは思わないのか。」
 遥人はからかうように言うと、一馬は首を横に振る。
「あいつはあいつの好みもあるし、無理して俺が選ばなくても良いと思ってる。」
「でも沙夜さんは好みにしてるじゃん。」
 そう言われて一馬は驚いたように遥人を見る。すると純も不思議そうに一馬を見た。響子はそれぞれの個性を大事にしているのに、沙夜は縛るようなことをしているのかと思ったからだ。
「それは……。」
「いつかピアノを教えてくれたよ。白いチュニック着てさ。これから一馬と会うって言っていた。お前の好みに合わせたのか。」
「そうじゃない。あれは沙菜さんのお下がりだと言っていたし、なるべく俺と会うのに他の人が見て俺らじゃ無いようにした方が良いと思って、イメージと違うモノを選択しただけの話だ。」
「ふーん……。だったらお前もそうしてたんだ。普段の感じと違う感じでさ。」
「そうだ。」
 そう言って一馬はバッグから眼鏡ケースを取り出す。そこから出したのはサングラスだった。
「うーん……こういっちゃなんだけど、マフィアだよな。」
 純がそう言うと遥人も笑って言う。
「同感。ここでは違和感ないけど、K街で歩いてたら人が避けるわ。」
 一馬はそう言われ、そのサングラスをしまう。ここまで言われると思っていなかったからだ。しかしそういう風にして人が避けるようにしていたのは事実だし、ヤクザと情婦のようにして人の目線をわざと避けさせていたのも自分と沙夜を守る為。
 しかし沙夜を思うと、あんな格好を進んでしたいとは思っていないかも知れない。ウェディングドレスだって渋々着た感じなのだから。
「沙夜さんってこういう格好も似合いそうだよ。」
 そう言って遥人が進めてきたのは、襟ぐりの広く開いたチュニックだった。
「屈んだら胸が見えそうだ。」
 一馬はそう言うと、遥人は意地悪く笑う。
「目の保養だろ。なんせFで……って痛ぇ。」
 ウェディングドレスを着たときに、胸のサイズを測られたのだ。その時の会話を遥人はまだ根に持っているらしい。それがわかり一馬はまたその長い足で、遥人のすねを軽く蹴り上げた。
「一馬さ。これ良いんじゃ無いのか。」
 純がそう言ってとルソーに掛かっているワンピースを指さす。それは黒いワンピースで沙夜が着てもおそらく足下まで隠れるだろう。
「黒いワンピースって喪服かよ。」
 遥人はそう言うと、純は首を横に振って言う。
「「夜」のイメージだよ。」
 その言葉に一馬は驚いて純を見る。純はこのまま沙夜が「夜」としてずっと裏方に居るとは思っていなかったのだ。
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