触れられない距離

神崎

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パエリア

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 コテージがあったところから車で十分ほど。コテージがあったところは割と金銭に余裕のあるような観光客や、バカンスを楽しむ人達のためのモノに見えたが、ここはそれよりももっと庶民的なところでおそらく沙夜達がいるところで言えば、ラブホテルのような意味もあるところだろう。もちろん、ふらりと寄った旅人なんかも泊まることがあるようだ。
 どちらにしてもあまり新しくも無いし、薄汚れている。
 だがそのエントランスへ来たとき、向かえてくれたのは褐色の肌をもつ体格の良い女性だった。赤いチェックのワンピースとフリルの付いたエプロンがとても可愛い。
「……。」
 その女性とマイケルは何か話をしていた。事情はきっと電話で説明をしているので、無理を言って悪かったなどと言う挨拶をしているのだろう。沙夜にはそれくらいしかわからない。
「あの女性はマイケルの親戚みたいだ。」
「親戚?」
 遥人は言語に強くなった。二人が話している内容もわかっているのだろう。それよりも意外だったのは、人種も全く違うようだがこの女性がマイケルの親戚だと言うことだ。
「マイケルの母親の弟の嫁と言ったところか。」
「叔母になるんだな。」
 翔はそう言うと、遥人は頷いた。そして六人と子供達を見て、その女性は笑顔で挨拶をしてきた。この女性はエマと言うらしい。子供達を見て可愛らしいと言っていたが、治と一馬が抱きかかえていて眠っているのを見て、慌てたように部屋に案内しようとした。
「悪いな。部屋は二部屋しか空いてなかったらしい。しかもダブルしか無かったから、一人はエキストラベッドのようだが。」
 マイケルはそう言って鍵を手渡す。ちらっと沙夜の方を見ると、沙夜は首を横に振った。
「結構よ。」
「男と一緒の部屋で良いのか。」
 「二藍」には噂があるのは、マイケルも知っていた。沙夜が五人と関係があると言うこと。親しすぎるとジョシュアが言っていたのだ。もっともジョシュアもウェブの情報から得たモノでマイケルはあまり信用はしていなかったが、沙夜自身がそう言うことでその噂に真実味がぐっと増すようだ。
「私に欲情するようなメンバーは「二藍」には居ないわ。」
 その言葉にマイケルは虚を突かれたような表情になる。本当に何も無い女の言葉だと思ったからだ。男と女として扱っていない。ただの仕事仲間であり、性別は関係ないと言われているようだったから。
 言葉に惑わされていたのは自分の方で、自分が恥ずかしくなる。
「そうか。大した自信だな。」
「えぇ。」
 マイケルはそれでも強がることしか出来なかった。
 そして沙夜は治に言う。
「子供達と橋倉さんは一緒に寝ることになるわね。ベッドが狭くないかしら。」
「だったら一人は引き受けよう。」
 一馬がおんぶしているのは徹だった。八歳くらいの子供は、ぐっと背も体重もあるのだろうに、一馬は決して重いなどの弱音を吐かなかった。他のメンバーでは無理だろう。既婚者で、尚且つ子供が居るから出来ることなのだ。
「悪いな。おねしょなんかの心配は徹は無いと思うけど。」
「環境が違う。おねしょをしたとしても仕方が無いだろう。クリーニング代だけは払うことになると思うが。」
「それくらいは仕方ないと思ってるよ。」
 妻に外国へ子供達も連れていくと言ったことで、誘拐や犯罪に巻き込まれることの次くらいに心配されたことだ。ホームシックになるのでは無いかとか、環境が違って退校するのでは亡いかと言うこと。つまり普段はしないおねしょや指しゃぶりなどがまた出てくる可能性だってあるのだ。おむつなどとっくに取れているのだから、そういった心配を「二藍」にも沙夜にも迷惑をかけてはいけないと思っているのだ。
「だったら、沙夜。あんたはその二人の部屋で寝るといい。」
 マイケルはそう言って沙夜に鍵を手渡す。この二人は既婚者なのだ。沙夜に手を出すことはまず無いと思ったのだろう。
「え……沙夜さんはそっちで良いの?」
 遥人がそう聞くと、沙夜は少し頷いた。
「えぇ。マイケル。一晩だけでしょう?」
「もちろんだ。あのコテージは使えなくても別のコテージを明日中には手配出来ると思う。」
「独身の男の人がいる部屋よりも既婚者の方が私も良いわ。」
 沙夜はまっとうなことを言っているように聞こえる。だが翔向けに言っていることだとは、翔以外の人はみんなわかっていた。つまり一馬と一緒に居たいのだろう。
「俺らは信用出来ない?」
 翔がそう聞くと、沙夜は少し笑って言う。
「そんなことは言っていないわ。ただ、子供達もいるし、そちらの方が良いかなと思っただけだけど。」
 すると翔も納得したように頷いた。その様子を見て、遥人はこれだから翔は沙夜に近づけないのだと心の中で呆れる。
「何かあったらエマでも良いし、俺も裏のアパートに住んでいる。沙夜。遠慮無く連絡をしてくれ。」
「わかったわ。ありがとう。マイケル。あなたみたいな人がコーディネーターになってくれて良かったわ。」
「それはどうも。」
 言葉では素っ気ないが、マイケルは嬉しかったのだ。こんなことを言われることは今まで無かったのだから。
「朝食は用意してくれる。」
「え?良いのか?」
「構わない。このモーテルのサービスだ。エマの手作りだが。」
 すると沙夜はエマにたどたどしく話しかけた。無理を言って泊まらせてもらったのだ。その上朝食まで用意してくれるという。朝食作りを手伝いたいと申し出たのだ。するとエマは笑顔で頷いた。だったらお願いしたいと。
 ただ沙夜の格好はビジネススーツのキャリアウーマンにしか見えない。背は高いようだが折れそうなくらい体の線が細く、こんな女性がどんな料理をするのだろうと、エマはあまり期待していなかったのだ。
 それでも料理が出来るなら、マイケルの父親が作ってくれていた和食を口にしてみたいと思う。

 二部屋にそれぞれシャワーが付いていた。子供達を風呂に入れるのは今日は諦めて、明日の朝にでも浴びさせようと治はとりあえず子供達をベッドに寝かせた。
 エキストラベッドを用意してくれていて、そこに沙夜が寝るらしい。エキストラベッドは狭く、沙夜だから寝れるのだろう。おそらく別の部屋に居る三人もこのベッドに寝るのは純になるのだ。翔も遥人よりも若干体格が小さいのが純なのだから。
 今は沙夜がシャワーを浴びている。飛行機の中ではシャワーなど浴びれなかったので、すっきりしているだろう。一馬も治も長旅で疲れている。明日から本番に疲れは隠せない。せめて一日くらいはのんびりしたいモノだが、遊びに来たわけでは無いのだ。多少の無理は仕方ないだろう。疲れを癒やせるのは帰国してからだ。
「一馬さ。」
「どうした。」
 キャリーケースから下着などを取りだした一馬に、治が声をかける。
「徹をエキストラベッドに寝かせるなんて思うなよ。」
「沙夜が寝るところが無いだろう。」
 すぐに一馬はそう言って来るところをみるとよこしまな考えなんかは無かったのだろう。そう思って治は少し笑って言う。
「お前と沙夜さんがベッドで一緒に寝るなんて思うなって事だよ。」
 その言葉にやっと一馬は納得したように頷いた。
「考えもしなかったな。」
「子供達の前で盛られても困るよ。いちゃつくなって事だ。」
「昨日の今日で欲情はしないだろう。」
「え?お前……こっちへ来る前にも?」
 そんなに頻繁にセックスをしていると思ってなかった。一馬はつい言ってしまったと頬を僅かに赤らめる。その様子に治は呆れたように一馬に言った。
「そんなにお前は猿だったかな。」
「猿って……。」
「その調子じゃ、この国にいる時にも目を盗んでしようと思ってるんじゃ無いのか。」
 当たりだ。そう思って一馬は黙ってしまった。すると治は益々呆れたように言う。
「お前はそんなヤツだったか。「二藍」に入る前には「絶倫」だっていわれて怒っていたみたいだが、それもそこまでするんだったら否定出来なくなるんじゃ無いのか。」
「もう否定はしない。しかしそれは沙夜に限ってのことだと思う。」
「え……。」
「知らず知らずに、俺は妻に遠慮していたんだろうな。」
 昔拉致をされたことを思い出すことがある。そう思うと妻にはどうしても嫌がることなど出来ない。沙夜も確かに嫌がることもあるが、沙夜は嫌がりながらも喜んでいる。つまり少しマゾヒストな部分があるのだ。
「わからないでも無い。俺だって妻を心底許したわけでは無いし、妻だってまだあの男のことを思っているってわかるけど……。」
「……。」
「でも別れないって決めたんだ。子供のためとかではなくて、俺が死ぬまで一緒に居たいと思ったから。お前はその覚悟ってあるのか。」
「だったら妻に店を辞めて、真二郎さんとも繋がりを持つなと言えるだろうか。」
「……。」
「俺はそれが出来ない。」
 すると治はため息を付いた。一馬も追い込まれていたのだ。そしてその手を差し伸べてくれたのが沙夜で、その間に体の関係があっても無くてもきっとこういう関係になっていただろう。
「そっか……悪かったな。からかうようなことを言って。」
「……そう思うなら二人になれる機会を作ってくれないか。」
「それとこれとは別だろ。それくらいはお前がやれよ。」
 その時バスルームのドアが開いた。沙夜が髪を下ろして出て来たのだ。何か話をしているのはわかっていたが、内容まではわからない。そう思いながら二人を見る。
「子供達は明日シャワーを浴びさせるのかしら。」
「そうするよ。」
「だったらどちらかが入ってしまったら?私、会社に報告をしないといけなくて。」
「向こうは何か言ってきたか?」
 治が聞いているのをみて、一馬は下着を手にするとバスルームへ向かった。湯上がりの沙夜は益々色っぽい。誰も居なければ、そのままベッドに押し倒したいと思うくらいだった。
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