触れられない距離

神崎

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キノコの和風パスタ

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 奈々子が昔組んでいた女性が、輪姦されそれを苦に自殺をしてしまった。そしてそれに対して、警察も事務所も動かなかった事に奈々子達はずっと絶望をしていたのだろう。しかしそれはもう相当昔のことだった。罪に問えるとしても、もう時効が過ぎている。そう思っていたときだった。
「同じような事件が田舎の方であったのよ。当時中学生だった女子生徒が下校途中にさらわれて、拉致監禁された。その間複数の男の慰み者になっていた。」
 その言葉に沙菜は奥さんの方を見る。しかし奥さんは冷静にその話を聞いていた。
「そうですね。」
 だが言葉は少ない。奥さんの方もギリギリだったのだろう。
「その女子生徒は、二週間ほど経って男の一人の足を刺して逃げ出したと言っていたわ。そしてその女子生徒は保護された。犯人はある程度捕まって、その中にあの子を死ぬまで追い詰めた人も混ざっていたのよ。」
「……マジか。」
 同じような事件だった。だから同じようなことが出来ると思ったのかもしれない。
「呆れた。そんなに抜きたいならお金でも払ってソープへ行けば良いのよ。どうせ普通の女性も相手にされないような男達なんでしょうし。」
 沙菜もそういってため息を付いた。性を売りにしている沙菜は、その辺のプライドがある。AVのネタに輪姦モノというモノは確かにあるし、需要はあるのだがそれをまともに実際行動に移すのは馬鹿なのだ。
「だからメディアが言っていたような、あなたが誘って乱交騒ぎをしたなんて事は少なくともあたし達は信じていなかった。むしろ、そんな記事を載せているような雑誌や新聞なんか、部数を減らすだけだと思うけどね。」
「嘘だから?」
 芹はそう聞くと奈々子は頷いた。
「嘘だってすぐにわかるわ。あなたの身内もあまり上等じゃ無いみたいね。」
「はぁ……。」
 だから奥さんは自分の実家を毛嫌いしている。娘の言うことよりも周りの声を信じるような親だからだ。だが今、真実が露呈してきっと母親は謝りたいとでも思っているのかもしれない。だが奥さんは長年苦しめられていたのだ。それを謝罪だけで許す気は無い。むしろ許して欲しいなら縁を完全に切らせてくれないかとさえ思う。
 一馬の親族だけで良い。居心地が良い家族だと思えたから。だが今はその一馬の親族にも迷惑をかけているだろう。それが心苦しい。
「それでもね。みんなは納得していなかったの。確かにあの子を死に追い詰めた犯人達は捕まったわ。でもみんな口を揃えて言っていた。指示があってしたことだって。」
 それはオーナーの兄からの指示だった。つまり奈々子を始め、他のメンバーもその影をずっと追っていたのだ。そんなときだった。
「メンバーの一人の恋人が、まぁ……恋人が居ても個人の趣味だから口は出さなかったらしいんだけど、AVなんかが好きな人がいてね。」
「AV?恋人が居て必要か?」
「だから趣味なのよ。恋人が居てもソープ通いやキャバクラ通いを辞められない人だって居るんだから。」
 一馬の兄がそういう人だった。奥さんの目を盗んでいつもお気に入りの子が居るキャバクラへ行っているのだから。それを今更奥さんだって責める気は無いだろう。
「その人が見せてきたの。裏ビデオで流れている本当にしたレイプの映像っていうのを。」
 見覚えのある人がレイプされていた。男達のはしゃぐ声や、殴りつける音、女の叫ぶ声が耳に付き、やがて女は放心したように大人しくなる。
 顔にはモザイクがかかっていたが、体は無修正でその胸の当たりにある薔薇のタトゥに見覚えがあった。そしてそのタイトルも「本物の芸能人をレイプ!」みたいなタイトルでやっと確信が持てる。
「みんなで手分けをしてその裏ビデオをネット販売している会社を探ったわ。サイトの運営はすぐに見つかったんだけど、すぐに無くなったりかといったら別のサイトを立ち上げていたりしてね。大本の会社は結局わからないままだったの。」
「……って事は……その会社ってのは……。」
 芹はそういうと、奈々子は頷いた。
「えぇ。あなたが証言してくれて良かった。」
 やっと胸のつかえが取れたようだという。そしてまた改めてあの女性の墓へ足を向けることが出来たのだ。
 もうそれぞれに別の道を歩んでいる。音楽に携わっているのは奈々子だけだった。メンバーの一人は結婚して、海外でホテルを経営しているらしい。二店舗目も順調だと言っていた。そして時間が合えばこちらの国に帰ってまた墓参りをしたいという。
「思い出すのも嫌なことかもしれないのに、証言してくれて感謝してる。」
 すると奥さんは首を横に振った。そしてサーバーに溜まっていたコーヒーをまた奈々子のカップに注ぐ。
 きっとこういう人は多かったのだ。被害者は相当な数になると言うし、未成年も含まれているのだ。それに余罪も沢山付くだろう。だが心配なのは、奥さんのこれからだった。
「響子さんさ。それはそれで良いのかもしれないけど、これからの事って一馬さんと話をしたのか。」
「これから?」
 不思議そうに奈々子が聞くより先に、沙菜が反応した。しかし海斗が奥さんを見上げて言う。
「母ちゃん。そろそろお昼の時間だよ。」
 そういわれて時計を見る。話し込んでしまったのだ。
「お前、カップケーキ食っただろ?」
「カップケーキは別腹。」
「誰がそんな言葉を教えたんだ。このやろ。」
 芹はそういって少し笑う。すると奈々子が少し笑って言った。
「海斗君は一馬君によく似ているわね。食欲旺盛なところも、将来はお酒も沢山飲むでしょうね。あなたと一馬君の子供なら優秀だわ。」
「いやいや。その辺が似てもらっても……。」
 幸せな家族に見えた。だから離れて欲しくないと思う。そう思いながら立ち上がろうとした響子に、芹が声をかける。
「あー……。響子さん。今日の昼は俺が作るよ。まだ話したいことだってあるだろ?そっちと。」
 芹が立ち上がって、台所へ向かう。そして冷蔵庫を開けてメニューを考え始めた。するとその姿に沙菜の方を見て奈々子は言う。
「あなたは作らないの?」
「あたし料理は無理。卵すら割れなくて。」
「泉さんは料理が上手だったけどね。」
「姉さんはずっと独学で料理をしていたから。あたしはその頃はモデル業が忙しかったし。」
「子供モデル?」
「うん。それからアイドルして、グラビアして、今はAVに出ているんだからなれの果てって言われても仕方ないかな。」
「そんなことは無いわ。裏で流すのを見て、確かに嫌気が差したのは事実。だけど、よく見ると凄く努力しているのがわかるわ。それに……うちの相方に聞くところによると、結構シビアな世界なのね。」
「相方の方って、このケーキ作ってくれた?」
「看護師をしているの。性感染症の検査をしている専門のクリニックのね。」
「へぇ……。あたし達がいつもお世話になってるところだ。」
 病院名を言われて、沙菜は納得していた。この病院には業界の人でも行く人が多いところだったから。
「一馬君は「二藍」に入っても、そういう関係から声がかかって音楽を録音することもあるみたいね。立場を考えるともう手を切った方が良いとは思うんだけど。」
「やっぱりマイナスかしら。」
 沙菜は不安そうに聞くと、奈々子は首を横に振る。
「仕事の大小とかでは無いし、AVだからとかっていう理由では無いの。問題なのは、一馬君がもう名前が売れているのに未だに売れていなかったときの金銭のやりとりをしていること。」
「それだけ一馬さんの名前が売れたって事?」
「えぇ。あなたたちもそうでしょう?企画単体女優でも、名前が売れている女優の単価は上がっていて、専属女優よりも稼ぐ人だって居るでしょう?」
「居るわね。」
 心当たりが無いわけでは無かった。だから呼ばれればすぐに受ける女優も多いが、そういう人は飽きられるのも早い。
「一馬君は自己評価が低すぎるのよね。その辺は泉さんに言って欲しいところなんだけど。まぁ……どちらも頑固だからねぇ。」
 もう奈々子はそれを言うのを諦めていた。そしてしばらく見ていないが、きっとその頑固さには磨きがかかっているのだろう。新しいアルバムの音を聴いたときに、わかった。それぞれが主張をしているのだ。それがファンにどう映るのかはまだ未知数だと思う。
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