触れられない距離

神崎

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スイートポテト

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 最初はビールを飲んで、そのあとは日本酒に変える。冷酒を選んだが、甘口の日本酒でとても飲みやすい。まだつまみもあると思って、芹はその日本酒を追加した。
「まだ飲むの?」
 沙菜はオレンジジュースを飲みながら呆れたように言う。
「まだつまみが残ってるし。」
「あまり飲むと立たなくなるよ。」
 まだ沙菜はホテルへ行くことを諦めていないらしい。沙夜の双子の妹とはいえ、こんなに違うモノかと芹は呆れていた。
「今日は立たなくても良いだろ。」
「姉さんよりおっぱいは大きいよ。」
 襟ぐりが広く空いたシャツをぐっとたゆませると、白い谷間がちらっと見える。だが芹は冷えた目でそれを見ていた。
「いくらでかくても興味ないモノは無いの。」
 ガラスで出来た冷酒グラスの酒を口に運び、携帯電話のメッセージをチェックする。沙夜には沙菜と食事に来ていることは言っていない。一度芹と沙菜が写真を撮られたのを見て酷く動揺していたのだ。あの時には二人きりでは無かったし、誤解させるような写真だったからだろう。それに二人で食事に来ると言っても何も無いことはわかっているので、そこまで動揺することは無いと思っていたのだが、あの撮られ方はデートをしているようにしか見えない。それが不安にさせたのだろう。
「お前さ。その沙夜をだしにするの辞めたら?」
 いつか自分で言っていた。沙菜は小さい頃から男と女のあれこれに興味があり、中学生くらいには男の家へこっそり行ってセックスをしたりしていたのだ。だが沙夜は対照的に、男には興味が無くひたすらピアノを弾いていたのだという。
 だが沙夜のそのツンとした感じは、高嶺の花くらいに男は映っていたのかもしれない。言い寄ることは無かったようだが、いつも沙夜は可愛い、綺麗、と言われ、沙夜に恋心を抱くような男は多かったと思う。
 だからそういう男に近づいて、沙菜はいつも「姉さんの代わりで良いよ」と言っては、男と付き合ったりセックスをしていたらしい。つまり、沙夜をだしにして自分の欲求を満たしていたのだ。
 そしてそんな沙夜が好きになった男。それが芹で、AV男優顔負けのテクニックがあるらしい。そう言われると少し手を出したくなるのだ。
「あたしだってそんなことをしたくてしてるんじゃ無いもん。」
 その時、男の店員が酒を持ってやってきた。そこで会話は中断する。空のグラスや皿を下げて貰い、店員が出て行こうとした。その視線は、沙菜の胸に注がれている気がして、普通の男ならそれが当たり前だろうと沙菜は思う。芹が自分になびかないのが異常な気がした。そこまで沙夜に操を立てるのだろうか。一馬と何かあるかもしれないのに。
「沙夜がモテるのはわかるよ。色気不足だって自分は言うけど、それは外見を飾っていないだけ。そんなモノしか見ない男なんか、薄っぺらい男なんだよ。自分が言うのもなんだけどさ。」
 芹だってそうだった。紫乃は外見しか見ていなかったのかもしれない。言葉巧みに自分の都合の良いように泳がされていた。
「だったら何であんなにモテるんだと思うの?」
 仕事へ行くときもスーツを脱ごうとしない。プライベートだってそこまで身なりに気をつけているわけでは無い。清潔が取り柄というようなシャツや、何年も履いているジーパンなんかしか沙夜は着ていないのだ。
「世話好きなんだよ。人間が嫌いな感じがあるのに、いざ付き合ってみるととことん尽くすから。だから男だって、手を差し伸べたくなるんだ。「二藍」のメンツがしているのはそういう所なんだろう。」
 そして自分が一番それにやられている。沙夜もそうしてくれているはずだ。
「あたしだって現場ではそうしているつもりなんだけど。」
「お前がそうじゃないとは言ってねぇよ。お前だって世話を焼いてくれるから、こんな土産まで一緒に選んでくれてるんだろうし。」
「……ふふっ。」
 そんなことを言われると思ってなかった。本当は芹が実家へ行っても結婚は出来ないだろうと思いながら選んでいたのに、芹はそんなことを思っていなかったのだ。
 純粋で、傷つきやすい。だから人間関係で馬鹿を見ているのだ。沙夜はそこまでわかっているのだろうか。沙夜は芹に手を差し伸べているとは思えない。沙夜が手を差し伸べているのは「二藍」のメンツしか居ない気がした。
 そんな芹がやはり沙夜に操を立てているのは、芹が馬鹿を見ている気がする。
「世話好きついでにさ。あたし、芹の世話をしたいことがあるんだけど。」
「ん?ホテルなら行かねぇから。」
 ジャーマンポテトを口にして、芹はそう言うと沙菜は首を横に振る。
「姉さんって淡泊でしょ?だから自分から求めてくるようになる方法。」
「そんなこと出来るかよ。薬でも使わない限り無理だろ。」
「そんなこと無いよ。姉さんって少しマゾヒストのような部分があると思うんだよね。だから少し強引にするの。」
「強引?レイ○みたいな真似出来るか。」
「レイ○じゃ無くて良いの。軽いソフトSMみたいな。手を縛ったり、目隠ししたり。」
「お前はそれが好きなの?」
「あたしはサディストの女王様だからね。される方じゃ無くてする方だし。」
「そうだったな。」
 沙菜が出ているソフトをパッケージだけ観たことがある。目隠しされた男が後ろ手で縛られているのをあざ笑っているモノだった。
「入れてるときにお尻を叩くのも良いかもね。」
「お前がされたいんじゃ無いだけなのか。」
 そう言われて沙菜は少し言葉に詰まった。それは前にセックスをした翔の弟である慎吾がしたことだからだ。
「そりゃね。今はマゾ役もすることがあるけど。」
「目覚めたのか?翔の弟とやって。」
 その言葉に沙菜の表情がこわばる。どうしてそれを知っているのだろうと思ったからだ。
「何で……。」
「お前も変なヤツだよな。翔が好きな割に、翔以外の男に簡単に股を開くんだから。でも翔は辞めておいた方が良いと思うけど。」
 残っている揚げ出し豆腐に箸を付けると、自分の皿に載せた。
「ねぇ何で、芹は色々知っているの?あたしのことも、翔のこともよく知っているみたいだし。」
「翔がなんか言ったの?」
 すると沙夜は首を横に振る。
「別になにも……でも、翔が芹は知らないふりをしていろいろ知っているって言ってたの。あんた、何のつてがあってそんなに……。」
「別につてなんか無いけど。」
「だったら何であの男と寝たなんて知ってるのよ。」
「俺、ライターだから。」
「音楽ライターでしょ?それ以上の情報を持ってるのが不自然なのよ。」
「……詳しくは言えない。」
「そう言うの、姉さんも知っているの?」
「知る必要ない。」
 すると沙菜は首を横に振って言う。
「夫婦になろうとしてるんでしょ?だったら隠し事なんか出来ないわ。って言うかしない方が良いし……。」
 自分で言って自分で気がついてしまった。沙夜も一馬と何か隠していることをしている。そして芹も隠していることがある。それを隠したまま結婚をしようとしているのだろうか。
「……何だよ。言いかけて。」
「何でも無い。」
 不思議に思いながら、芹は揚げ出し豆腐を口に入れる。きっと沙夜ならこれくらいの料理は作れるだろう。だが味が濃い。沙夜の料理になれると薄味に慣れてしまう。そして酒が進む。もうこれ一杯で終わろう。
「締めを頼むか。俺、お茶漬け。」
「鮭と梅があるよ。」
「梅。」
「あたし焼きおにぎり。」
「良いんじゃねぇ?頼もう。」
 店員を呼ぶと、注文をする。先程の男性店員は相変わらず沙菜の胸に目をやっているようだった。
「芹さ。」
 店員が行ったあと、沙菜はオレンジジュースを一口飲むと芹に言う。
「芹が言ってくれるように、あたしの根底はマゾヒストなのかもしれない。芹に罵倒されるの悪い気はしないんだよね。」
「変態かよ。」
 すると沙菜は少し笑う。すると芹も少し笑っていた。芹もまたサディストの部分があるのだろう。そう思うと、密かに自分が濡れそうだと思う。
「ここの裏手にホテルがあるんだよね。この居酒屋の流れで行くような所。」
「行かない。」
「セックスしようと言っているわけじゃ無いよ。前みたいに口と手で抜いても良いし、その代わりあたしを姉さんと思ってサディストの練習しても良いし。」
 確かに沙夜はそういう感じに見えなくも無い。だからといってどこまでして良いのかはわからない部分はある。それが沙菜だったら。双子なのだからそういう所も似ているかもしれない。そう思うと、自分の決心が揺らぎそうだった。
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