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スイートポテト
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一度沙菜と食事をして帰るときに写真を撮られた。なので今日は変装の意味で夏用のニットの帽子をかぶっていた。それはたまたま見かけた黒い帽子で、黒いのに通気性が良いらしく快適だと思う。そして沙菜も変装のように帽子と伊達眼鏡をかけていた。普段髪にはウェーブがかかっていないが、今日は撮影だと言っていたので癖が取れないのだろう。
二人がやってきたのは、個室のある居酒屋だった。黒いシックな店内で、店内は音楽の音しか聞こえない。個室は完全に防音が効いているのだ。そこでならば帽子を取っても良いかと、芹は帽子を脱ぐ。しかし沙菜は帽子を取ろうとしない。
「帽子ぐらい脱いだら?」
芹はそう言うと、沙菜は首を横に振る。
「さすがに写真を結構撮られたからね。今度取られたら次の更新はやばいよって事務所から言われてさ。」
芹とも撮られたし、そのあとは役者。性に奔放なイメージのあるAV女優と写真を撮られたりした芸能人は、少なくともイメージダウンに繋がるだろう。
「しかしすげぇ店だな。セキュリティーバッチリで、隣の音なんかも聞こえないし。」
「芸能人がお忍びで来るような所だからね。でも料理は美味しいよ。あたしわかんないけどお酒の種類も結構あるみたいだし。」
「へぇ。」
詳しい酒の種類なんかはわからないが、確かに日本酒も焼酎も沢山銘柄があるようだし、カクテルなんかも置いている。食事も一手間がかかっていて、値段が高いだけあると思いながらメニューを手にした。
「ここ、おごるよ。俺。」
芹はそう言うと、沙菜は首を横に振る。
「良いよ。あたしが誘ったんだし。」
「けど土産を選んで貰ったじゃん。でも、酒で良いのか?酒は両親とも飲むの?」
「父さんは特に好きよ。近所の会合なんかでもよく飲んでいるみたい。」
「へぇ……。」
「でも多分満足はしないと思うけどね。」
その言葉に芹は驚いたように沙菜を見た。選んで貰ったが満足をしないとはどういうことだろう。
「満足しない?」
「お酒を持っていったらお菓子が良かったって言って、お菓子を持って行ったらお酒が良かったっていう人よ。母さんは。父さんは何も言わないで受け取るだけ受け取るだろうけど。」
想像以上に面倒な人だ。この調子だと結婚式なんかをしたいと言えば、相当口を出しにかかるに違いない。それくらいは自由にさせて欲しいと思うが、沙夜の母親なのだ。本当だったら無碍にも出来ないのだから。
「お前らはそれで良くまともに育ってるよ。」
芹はそう言ってメニューに目を落とした。そして目に付いたメニューを沙菜に見せる。
「これ、頼んで良い?」
「カルパッチョ?白身魚かぁ。そうだね。姉さんはそういうモノは作らないし、良いんじゃ無い?あ、豚肉の角煮も美味しそうだね。」
「それも良いな。でも角煮くらいなら沙夜が作れそうだ。」
どうしても食事になると沙夜のことを思い出す。今日は翔も居ないはずだ。沙夜は一人であの家にいるのだろうか。それとも気ままに酒でも飲みにいっているのかも知れない。一人ででも何でもしてしまう女だ。一人で食事を食べに行くのは苦痛では無いのだろう。
あらかたのモノを注文して、先に飲み物が運ばれてくる。芹はビールを、沙夜はウーロン茶を頼んだ。突き出しはめかぶだった。
「で、なんか話があったんだろ。」
「へ?」
沙菜はめかぶを食べながら、芹の方を見る。すると芹は呆れたように言った。
「お前が呼び出したんだろ。家で話せないことがあるって。沙夜にも言えないことか?」
「うん。まぁね。」
わざととぼけたのだ。ここへ来る前、芹は真剣に沙菜の実家へのお土産を何にしようかと悩んでいたのだから。それだけ沙夜に対する気持ちは真剣なのだろう。だからこそ沙夜がこそこそと何かしているなんて事を言えなかったのだ。
沙夜は真面目な優等生タイプだ。だからあんなにこそこそしているのを見ると、沙夜にも事情があるように見えるが、その相手が一馬であれば事情は違う。一馬は家族があって、そんな人と隠れてすることは一つしか無い。つまり不倫をしているのだ。
そんなことを芹に言えるわけが無い。
「なんだよ。」
「んー……。芹さ。本当に姉さんと結婚したいと思ってる?」
「今更なんだよ。」
「や……。ちょっと厳しいかなぁなんて思ってさ。」
すると芹はため息を付いてビールを一口飲む。
「沙夜からも言われたよ。話が通じない親だって。でもこっちの国の言葉は通じるんだろ?」
「そりゃそうよ。」
「だったら説得出来るわけじゃん。諸手を挙げて祝って貰うから。」
変なところでポジティブな男だ。何か吹っ切ったことでもあるのだろうか。
「何でそんなに結婚したいの?何か急いでいるみたいな感じよね。」
店員がドアを開けてやってきた。そしてその皿を受け取ると、テーブルに置く。すると芹の顔色が少し悪い気がする。これは図星だ。
「急ぐ理由って……。」
「それから姉さんから聞いたけど、籍を入れるのにこだわってるよね?うちらの世界でも事実婚って珍しくないし、例えばレズビアンだのゲイだのって言ったら、事実婚しかないわけじゃん。そんなに悪いモノじゃ無いと思うけど。」
「事実婚じゃ、何かあったときに困るから。」
確かに事故をした、入院をしたなどと言ったときには保証人の欄にサインは出来ないのだ。今だって同居をしている芹や翔では、沙夜が何かあったときには役に立たない。結局頼るのは沙菜しかいないのだ。それは沙菜も同じ事だろう。
「それだけじゃ無いんじゃ無いの?」
皿にあるのはカルパッチョだった。白身魚を綺麗に並べられ、スライスしたタマネギとチーズが載せられオリーブオイルや塩で味付けをされている。それを取り分けて沙菜はそれを口にした。沙夜では作らないような料理だが、作ろうと思えば作ることが出来るだろう。それだけシンプルな料理だった。
「……本人の前でそれが言えるか。」
芹もそう言ってカルパッチョを取り分ける。そしてちらっと沙菜の方を見ると、沙菜の手が止まっていた。
「手が止まってる。」
「あ……あぁ。そうね。」
チーズとオリーブオイルがこってりしているのに、タマネギのスライスが良い意味で中和されている。それが美味しいのだ。
「さすがその手の女優だよな。凄いテクだったし。」
それが芹の本音かもしれない。沙夜達があの北の地へ行ったとき、芹は沙夜が居ないところで沙菜に口と手で抜いて貰ったのだ。それが浮気かと言われると微妙で、きっと自分でするのと変わらないと思っていた。気持ちが無いセックスはただの性の発散の葉というだけだ。自分でするのと変わらないと思っていた。
なのに沙菜がしてきたことは、今までの中で一番気持ちが良かったと思う。どこが気持ちいいとか、どこが喜ぶとか、きっと沙菜は全部知っているのだ。
「それくらいで流されそうなの?」
「こっちは経験不足なんだよ。それに……お前の香水さ。」
「香水?あぁ、あれ香水じゃ無くてボディークリーム。」
「別に何でも良いんだけど、あの匂いで更に身動きが取れなかった。」
「え……。」
あの匂いは紫乃の匂いだった。紫乃を抱くときに良くそういう匂いがして、嫌でも思い出す。
「籍を入れて式をしたら、俺、吹っ切れるかもって……。」
その言葉に沙菜は呆れたように芹に言う。
「体よく姉さんが利用されているだけじゃん。そんな理由で結婚したいとか言ってんの?馬鹿じゃ無い?」
思わずそう口走った。あまりにも幼稚な理由で結婚したいと言っているのだから。
「るせぇな。こっちだって真剣に思ってんだよ。沙夜しか見たくなくて必死なんだし、心変わりなんかしたくねぇんだから。」
芹の心がぐらついている。その様子に思わず沙菜はため息を付いた。と同時に、前にも思った欲望が膨らみ始める。それは、少し芹を味見してみたいと言うこと。
沙夜だって翔とキスをしたと言っていたし、望月奏太ともしたという話を聞いている。芹がどんなに必死になっても、沙夜は隙がありすぎるのだ。そして芹に女の影があると知れば不安定になる。そして手を差し伸べるのは「二藍」のメンバーだったり、西藤裕太だったりするのだ。
昔から変わらない。特に努力もしていないのに、男にちやほやされている。それがいつも鼻につくのだ。
「姉さんとセックスはしたの?」
「してない。」
「だったらあれから結構経っているよね。ねぇ。芹。このあとホテル行かない?」
「は?ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。」
必死に忘れようとしているのにこの女は何を言っているのだろう。本当に馬鹿なのかと、ビールをまた口に運ぶ。
二人がやってきたのは、個室のある居酒屋だった。黒いシックな店内で、店内は音楽の音しか聞こえない。個室は完全に防音が効いているのだ。そこでならば帽子を取っても良いかと、芹は帽子を脱ぐ。しかし沙菜は帽子を取ろうとしない。
「帽子ぐらい脱いだら?」
芹はそう言うと、沙菜は首を横に振る。
「さすがに写真を結構撮られたからね。今度取られたら次の更新はやばいよって事務所から言われてさ。」
芹とも撮られたし、そのあとは役者。性に奔放なイメージのあるAV女優と写真を撮られたりした芸能人は、少なくともイメージダウンに繋がるだろう。
「しかしすげぇ店だな。セキュリティーバッチリで、隣の音なんかも聞こえないし。」
「芸能人がお忍びで来るような所だからね。でも料理は美味しいよ。あたしわかんないけどお酒の種類も結構あるみたいだし。」
「へぇ。」
詳しい酒の種類なんかはわからないが、確かに日本酒も焼酎も沢山銘柄があるようだし、カクテルなんかも置いている。食事も一手間がかかっていて、値段が高いだけあると思いながらメニューを手にした。
「ここ、おごるよ。俺。」
芹はそう言うと、沙菜は首を横に振る。
「良いよ。あたしが誘ったんだし。」
「けど土産を選んで貰ったじゃん。でも、酒で良いのか?酒は両親とも飲むの?」
「父さんは特に好きよ。近所の会合なんかでもよく飲んでいるみたい。」
「へぇ……。」
「でも多分満足はしないと思うけどね。」
その言葉に芹は驚いたように沙菜を見た。選んで貰ったが満足をしないとはどういうことだろう。
「満足しない?」
「お酒を持っていったらお菓子が良かったって言って、お菓子を持って行ったらお酒が良かったっていう人よ。母さんは。父さんは何も言わないで受け取るだけ受け取るだろうけど。」
想像以上に面倒な人だ。この調子だと結婚式なんかをしたいと言えば、相当口を出しにかかるに違いない。それくらいは自由にさせて欲しいと思うが、沙夜の母親なのだ。本当だったら無碍にも出来ないのだから。
「お前らはそれで良くまともに育ってるよ。」
芹はそう言ってメニューに目を落とした。そして目に付いたメニューを沙菜に見せる。
「これ、頼んで良い?」
「カルパッチョ?白身魚かぁ。そうだね。姉さんはそういうモノは作らないし、良いんじゃ無い?あ、豚肉の角煮も美味しそうだね。」
「それも良いな。でも角煮くらいなら沙夜が作れそうだ。」
どうしても食事になると沙夜のことを思い出す。今日は翔も居ないはずだ。沙夜は一人であの家にいるのだろうか。それとも気ままに酒でも飲みにいっているのかも知れない。一人ででも何でもしてしまう女だ。一人で食事を食べに行くのは苦痛では無いのだろう。
あらかたのモノを注文して、先に飲み物が運ばれてくる。芹はビールを、沙夜はウーロン茶を頼んだ。突き出しはめかぶだった。
「で、なんか話があったんだろ。」
「へ?」
沙菜はめかぶを食べながら、芹の方を見る。すると芹は呆れたように言った。
「お前が呼び出したんだろ。家で話せないことがあるって。沙夜にも言えないことか?」
「うん。まぁね。」
わざととぼけたのだ。ここへ来る前、芹は真剣に沙菜の実家へのお土産を何にしようかと悩んでいたのだから。それだけ沙夜に対する気持ちは真剣なのだろう。だからこそ沙夜がこそこそと何かしているなんて事を言えなかったのだ。
沙夜は真面目な優等生タイプだ。だからあんなにこそこそしているのを見ると、沙夜にも事情があるように見えるが、その相手が一馬であれば事情は違う。一馬は家族があって、そんな人と隠れてすることは一つしか無い。つまり不倫をしているのだ。
そんなことを芹に言えるわけが無い。
「なんだよ。」
「んー……。芹さ。本当に姉さんと結婚したいと思ってる?」
「今更なんだよ。」
「や……。ちょっと厳しいかなぁなんて思ってさ。」
すると芹はため息を付いてビールを一口飲む。
「沙夜からも言われたよ。話が通じない親だって。でもこっちの国の言葉は通じるんだろ?」
「そりゃそうよ。」
「だったら説得出来るわけじゃん。諸手を挙げて祝って貰うから。」
変なところでポジティブな男だ。何か吹っ切ったことでもあるのだろうか。
「何でそんなに結婚したいの?何か急いでいるみたいな感じよね。」
店員がドアを開けてやってきた。そしてその皿を受け取ると、テーブルに置く。すると芹の顔色が少し悪い気がする。これは図星だ。
「急ぐ理由って……。」
「それから姉さんから聞いたけど、籍を入れるのにこだわってるよね?うちらの世界でも事実婚って珍しくないし、例えばレズビアンだのゲイだのって言ったら、事実婚しかないわけじゃん。そんなに悪いモノじゃ無いと思うけど。」
「事実婚じゃ、何かあったときに困るから。」
確かに事故をした、入院をしたなどと言ったときには保証人の欄にサインは出来ないのだ。今だって同居をしている芹や翔では、沙夜が何かあったときには役に立たない。結局頼るのは沙菜しかいないのだ。それは沙菜も同じ事だろう。
「それだけじゃ無いんじゃ無いの?」
皿にあるのはカルパッチョだった。白身魚を綺麗に並べられ、スライスしたタマネギとチーズが載せられオリーブオイルや塩で味付けをされている。それを取り分けて沙菜はそれを口にした。沙夜では作らないような料理だが、作ろうと思えば作ることが出来るだろう。それだけシンプルな料理だった。
「……本人の前でそれが言えるか。」
芹もそう言ってカルパッチョを取り分ける。そしてちらっと沙菜の方を見ると、沙菜の手が止まっていた。
「手が止まってる。」
「あ……あぁ。そうね。」
チーズとオリーブオイルがこってりしているのに、タマネギのスライスが良い意味で中和されている。それが美味しいのだ。
「さすがその手の女優だよな。凄いテクだったし。」
それが芹の本音かもしれない。沙夜達があの北の地へ行ったとき、芹は沙夜が居ないところで沙菜に口と手で抜いて貰ったのだ。それが浮気かと言われると微妙で、きっと自分でするのと変わらないと思っていた。気持ちが無いセックスはただの性の発散の葉というだけだ。自分でするのと変わらないと思っていた。
なのに沙菜がしてきたことは、今までの中で一番気持ちが良かったと思う。どこが気持ちいいとか、どこが喜ぶとか、きっと沙菜は全部知っているのだ。
「それくらいで流されそうなの?」
「こっちは経験不足なんだよ。それに……お前の香水さ。」
「香水?あぁ、あれ香水じゃ無くてボディークリーム。」
「別に何でも良いんだけど、あの匂いで更に身動きが取れなかった。」
「え……。」
あの匂いは紫乃の匂いだった。紫乃を抱くときに良くそういう匂いがして、嫌でも思い出す。
「籍を入れて式をしたら、俺、吹っ切れるかもって……。」
その言葉に沙菜は呆れたように芹に言う。
「体よく姉さんが利用されているだけじゃん。そんな理由で結婚したいとか言ってんの?馬鹿じゃ無い?」
思わずそう口走った。あまりにも幼稚な理由で結婚したいと言っているのだから。
「るせぇな。こっちだって真剣に思ってんだよ。沙夜しか見たくなくて必死なんだし、心変わりなんかしたくねぇんだから。」
芹の心がぐらついている。その様子に思わず沙菜はため息を付いた。と同時に、前にも思った欲望が膨らみ始める。それは、少し芹を味見してみたいと言うこと。
沙夜だって翔とキスをしたと言っていたし、望月奏太ともしたという話を聞いている。芹がどんなに必死になっても、沙夜は隙がありすぎるのだ。そして芹に女の影があると知れば不安定になる。そして手を差し伸べるのは「二藍」のメンバーだったり、西藤裕太だったりするのだ。
昔から変わらない。特に努力もしていないのに、男にちやほやされている。それがいつも鼻につくのだ。
「姉さんとセックスはしたの?」
「してない。」
「だったらあれから結構経っているよね。ねぇ。芹。このあとホテル行かない?」
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