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鮭のホイル焼き
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結局芹は翔と沙夜が食事を始めても帰ってこなかった。その代わりに帰ってきたのは沙菜だった。沙菜は芹が食べるはずだったホイル焼きに箸を入れながら、不思議そうに聞く。
「付き合ってるペースって確かにあるけどさ。姉さん達の場合、ちょっと離れすぎていない?」
ホイル焼きの鮭はふっくらとしていて、とても美味しい。その旨みをキノコもたっぷり吸っているし、キノコ特有の風味も良かった。
「そうかしら。私はこれくらいが楽なんだけど。」
沙夜が休みのときも、芹は仕事をしているときもあるし、芹が仕事が無いときに沙夜が仕事へ行くときもある。休みを合わせてデートをするのも限られているのだ。
「人それぞれのペースがあるよ。俺も彼女が居たときもあるけど、彼女にあわせると凄いキツかったしね。」
「翔は引きこもりだもんね。」
「そうね。志甫さんって言ったかしら。アクティブなんでしょ?」
志甫の名前を初めて聞いたような沙菜は驚いたように翔を見る。
「元カノって姉さん知ってるの?」
「えぇ。何度かお会いしてね。歌を歌っているのよ。」
「あぁ。仕事の関係かぁ。」
だったら仕方ないのかも知れない。沙菜はそう思いながら鶏団子の汁に口を付ける。だが沙菜の知らない翔のことを沙夜が知っている。それはそれで腹が立ちそうだ。
「志甫は趣味はサーフィンだったな。」
「家にサーフボードが?」
サーフボードというのは案外大きい。それにサーフィンはボードだけで出来るモノでは無く、ウェットスーツやその他の器具も結構必要で場所を取るだろうと思っていたのだ。
「サーフショップに置かせて貰ってたよ。俺もやってみたら良いって誘われたけど、海自体は嫌いじゃ無いけどね。一度も立つことも出来なかったんだ。」
「運動は苦手なの?」
沙菜がそう聞くと、沙夜は首を横に振る。
「初めからそんなに上手くいくことなんか無いわ。翔もやり続けたら良さがわかったかも知れないのに。」
「そうかもね。沙夜はしないの?サーフィンとか。」
「作られた娯楽がそんなに楽しいかしら。」
身も蓋もない言い方だ。だが沙夜はそれが普通であり、きっと海なんかに行くときにはサーフィンなんかよりも釣りをしたり、素潜りなんかをしたいと思っているに違いない。決してダイビングでは無いのだ。
「沙菜はこの間の撮影で海へ行ったんでしょ?」
すると沙菜は少し頷いた。
「えぇ。凄い久しぶりに外国人としたの。」
「外国の男優の人?」
「うん。凄い大きくてさ。」
外国人と共演をすることもあるのだ。男優が外国人というのも別に珍しくは無いだろう。
「やっぱり大きいの?」
翔がそうやって沙菜の話を聞こうとしているのは珍しい。あまり興味が無いのかと思ったから。
「大きいよ。まぁ……それ以前に凄い丁寧だわ。レディーファーストも自然としてくれるのよ。共演した女の子の中には、プライベートで会いたいっていう人がいたくらい。」
「え?駄目でしょ?」
沙夜はそう聞くと、沙菜は頷いた。
「そんなのまぁ……表向きで、男優から誘うのはさすがに無いけど、女優から誘うのは結構ある話だし。」
「ふーん。」
男優と女優が結婚をするのは無い話では無いが、あまり長続きはしないのが圧倒的だった。お互いに仕事で不倫をしているようなモノなのだから仕方が無い。
「それよりもさ。沙夜。今日も出掛けるんだっけ?」
翔の言葉に沙菜は驚いたように沙夜を見る。だが沙夜は少し頷いただけだった。
「えぇ。」
「遥人はどう?出来が良い感じがする?」
「器用よね。本格的に、ピアノをしても良いんじゃ無いかと思うわ。」
「負けちゃうな。俺もまたピアノを練習しないと。」
するとその会話に、沙菜は二人の会話に割り込んで入ってくる。
「ねぇ。何の話なの?栗山さんとか、ピアノとか。」
「あら、言ってなかったかしら。今度の「二藍」のアルバムでインストの曲があるんだけど、それに栗山さんがピアノを弾くのよ。だからその練習を見てるの。」
「あぁ。だから最近夜に出ることが多いんだ。」
「えぇ。でも栗山さんにとっては一石二鳥だったみたいね。」
「え?何かあった?」
「来年のお正月にあるドラマで、ピアニストの役をするみたいなのよ。音は確かにアテレコなんだろうけど、姿だけは何とかしたいって。」
「なるほど。そういう事だったのか。」
「良いようにされたわ。」
沙夜はそう言って少し笑う。
だがその遥人の練習も仕事かも知れないが、やましい気持ちも少しはある。つまりK街にあるスタジオを借りるのだ。一馬と一緒に居れるかも知れないという期待。だがその計画はまだ実行されていなかった。そういう日に限って、一馬の子供が熱を出しただの、沙夜の仕事が入っただのと言ってすぐにお互い帰らなければいけなかった。だから今日も期待はしない。期待をするだけ馬鹿を見るのだから。
結局沙菜が食事を終えても芹は帰ってこなかった。沙夜は食器を下げるとその食器を洗おうとする。だが翔が声をかけた。
「沙夜。時間が無いんじゃ無いのか。食器は洗っておくよ。それから米をといで置いたら良いのかな。」
すると沙夜は壁に掛けられている時計を見る。今日は遥人は早めにK街に来ると言っていた。確かに時間に余裕が無い。
「ご飯を芹の分まで取っておいてもらって良い?それから……。」
翔なら信用出来ると食器洗いと米をとぐのを任せて、そのまま沙夜は手を洗うとリビングを出て行った。それと入れ替わるように沙菜もリビングに戻ってくる。
「あれ?姉さんはもう出るの?」
「今日、遥人は早めに来れるから、早くK街へ行った方が良いって言ってね。」
「あのさ。翔。」
沙菜はそう言って翔が食器を洗うために水を出したその側へ向かう。
「どうした?」
「姉さんは翔のことをよく知っているよね。元カノのことなんかも知ってたなんて。」
「まぁ……事情があったからね。」
志甫が歌っていた「紅花」を沙夜は見に行ったのだ。そしてあの南の島でも志甫に会った。志甫も沙夜は顔見知りというレベルくらいまで来ているだろう。
「でもなんか芹にとってはモヤモヤしない?」
「何で?」
すると沙菜は口を尖らせて言う。
「だってさ。別の男の付き合った女のことまで知っているなんて、親しいみたいじゃん。仕事だからってそんなにあたし達はべったりしないし。」
「俺らは沙夜に知っていて欲しかったんだよ。」
「え?」
沙夜には翔だけでは無く、一馬だって純だって過去の恋愛遍歴を言っていたことがある。特に一馬は知らないといけない部分があった。その結果、一馬が始めて付き合った女性の元へにも行ったという。
「担当ってそんなことまでしないといけないの?」
沙菜はそう聞くと、翔は首を横に振った。
「普通はそこまでしないかも知れない。でも俺らはさ。寄せ集めで組んだバンドなんだ。普通だったら音楽の学校とか、ライブハウスなんかで気があって組んだり、それから幼い頃の幼なじみばかりで組んでいるバンドだってある。でも俺らは全くお互いを知らないままで組んだバンドなんだ。だからお互いのことを少しずつ知って欲しいと思う。」
「……。」
「沙夜には特に知って欲しかった。好きだとか、恋愛感情なんか置いておいても、それだけみんなが信頼しているんだから。」
「そっか……変なことを聞いちゃったね。あたし。」
「良いよ。誤解されることは多いんだから。」
翔はそう行って軽く洗った皿を食洗機に入れていく。だがその心の中では、一馬がその中でも特別なような気がしていた。
そして最近、向けられている一馬に対する沙夜の特別な視線は、気のせいでは無いような気がするのだ。しかし一馬には奥さんも子供も居て、とても仲が良い。家族思いだ。沙夜も芹しか見ていない。それを信じるしかない気がしていた。
「付き合ってるペースって確かにあるけどさ。姉さん達の場合、ちょっと離れすぎていない?」
ホイル焼きの鮭はふっくらとしていて、とても美味しい。その旨みをキノコもたっぷり吸っているし、キノコ特有の風味も良かった。
「そうかしら。私はこれくらいが楽なんだけど。」
沙夜が休みのときも、芹は仕事をしているときもあるし、芹が仕事が無いときに沙夜が仕事へ行くときもある。休みを合わせてデートをするのも限られているのだ。
「人それぞれのペースがあるよ。俺も彼女が居たときもあるけど、彼女にあわせると凄いキツかったしね。」
「翔は引きこもりだもんね。」
「そうね。志甫さんって言ったかしら。アクティブなんでしょ?」
志甫の名前を初めて聞いたような沙菜は驚いたように翔を見る。
「元カノって姉さん知ってるの?」
「えぇ。何度かお会いしてね。歌を歌っているのよ。」
「あぁ。仕事の関係かぁ。」
だったら仕方ないのかも知れない。沙菜はそう思いながら鶏団子の汁に口を付ける。だが沙菜の知らない翔のことを沙夜が知っている。それはそれで腹が立ちそうだ。
「志甫は趣味はサーフィンだったな。」
「家にサーフボードが?」
サーフボードというのは案外大きい。それにサーフィンはボードだけで出来るモノでは無く、ウェットスーツやその他の器具も結構必要で場所を取るだろうと思っていたのだ。
「サーフショップに置かせて貰ってたよ。俺もやってみたら良いって誘われたけど、海自体は嫌いじゃ無いけどね。一度も立つことも出来なかったんだ。」
「運動は苦手なの?」
沙菜がそう聞くと、沙夜は首を横に振る。
「初めからそんなに上手くいくことなんか無いわ。翔もやり続けたら良さがわかったかも知れないのに。」
「そうかもね。沙夜はしないの?サーフィンとか。」
「作られた娯楽がそんなに楽しいかしら。」
身も蓋もない言い方だ。だが沙夜はそれが普通であり、きっと海なんかに行くときにはサーフィンなんかよりも釣りをしたり、素潜りなんかをしたいと思っているに違いない。決してダイビングでは無いのだ。
「沙菜はこの間の撮影で海へ行ったんでしょ?」
すると沙菜は少し頷いた。
「えぇ。凄い久しぶりに外国人としたの。」
「外国の男優の人?」
「うん。凄い大きくてさ。」
外国人と共演をすることもあるのだ。男優が外国人というのも別に珍しくは無いだろう。
「やっぱり大きいの?」
翔がそうやって沙菜の話を聞こうとしているのは珍しい。あまり興味が無いのかと思ったから。
「大きいよ。まぁ……それ以前に凄い丁寧だわ。レディーファーストも自然としてくれるのよ。共演した女の子の中には、プライベートで会いたいっていう人がいたくらい。」
「え?駄目でしょ?」
沙夜はそう聞くと、沙菜は頷いた。
「そんなのまぁ……表向きで、男優から誘うのはさすがに無いけど、女優から誘うのは結構ある話だし。」
「ふーん。」
男優と女優が結婚をするのは無い話では無いが、あまり長続きはしないのが圧倒的だった。お互いに仕事で不倫をしているようなモノなのだから仕方が無い。
「それよりもさ。沙夜。今日も出掛けるんだっけ?」
翔の言葉に沙菜は驚いたように沙夜を見る。だが沙夜は少し頷いただけだった。
「えぇ。」
「遥人はどう?出来が良い感じがする?」
「器用よね。本格的に、ピアノをしても良いんじゃ無いかと思うわ。」
「負けちゃうな。俺もまたピアノを練習しないと。」
するとその会話に、沙菜は二人の会話に割り込んで入ってくる。
「ねぇ。何の話なの?栗山さんとか、ピアノとか。」
「あら、言ってなかったかしら。今度の「二藍」のアルバムでインストの曲があるんだけど、それに栗山さんがピアノを弾くのよ。だからその練習を見てるの。」
「あぁ。だから最近夜に出ることが多いんだ。」
「えぇ。でも栗山さんにとっては一石二鳥だったみたいね。」
「え?何かあった?」
「来年のお正月にあるドラマで、ピアニストの役をするみたいなのよ。音は確かにアテレコなんだろうけど、姿だけは何とかしたいって。」
「なるほど。そういう事だったのか。」
「良いようにされたわ。」
沙夜はそう言って少し笑う。
だがその遥人の練習も仕事かも知れないが、やましい気持ちも少しはある。つまりK街にあるスタジオを借りるのだ。一馬と一緒に居れるかも知れないという期待。だがその計画はまだ実行されていなかった。そういう日に限って、一馬の子供が熱を出しただの、沙夜の仕事が入っただのと言ってすぐにお互い帰らなければいけなかった。だから今日も期待はしない。期待をするだけ馬鹿を見るのだから。
結局沙菜が食事を終えても芹は帰ってこなかった。沙夜は食器を下げるとその食器を洗おうとする。だが翔が声をかけた。
「沙夜。時間が無いんじゃ無いのか。食器は洗っておくよ。それから米をといで置いたら良いのかな。」
すると沙夜は壁に掛けられている時計を見る。今日は遥人は早めにK街に来ると言っていた。確かに時間に余裕が無い。
「ご飯を芹の分まで取っておいてもらって良い?それから……。」
翔なら信用出来ると食器洗いと米をとぐのを任せて、そのまま沙夜は手を洗うとリビングを出て行った。それと入れ替わるように沙菜もリビングに戻ってくる。
「あれ?姉さんはもう出るの?」
「今日、遥人は早めに来れるから、早くK街へ行った方が良いって言ってね。」
「あのさ。翔。」
沙菜はそう言って翔が食器を洗うために水を出したその側へ向かう。
「どうした?」
「姉さんは翔のことをよく知っているよね。元カノのことなんかも知ってたなんて。」
「まぁ……事情があったからね。」
志甫が歌っていた「紅花」を沙夜は見に行ったのだ。そしてあの南の島でも志甫に会った。志甫も沙夜は顔見知りというレベルくらいまで来ているだろう。
「でもなんか芹にとってはモヤモヤしない?」
「何で?」
すると沙菜は口を尖らせて言う。
「だってさ。別の男の付き合った女のことまで知っているなんて、親しいみたいじゃん。仕事だからってそんなにあたし達はべったりしないし。」
「俺らは沙夜に知っていて欲しかったんだよ。」
「え?」
沙夜には翔だけでは無く、一馬だって純だって過去の恋愛遍歴を言っていたことがある。特に一馬は知らないといけない部分があった。その結果、一馬が始めて付き合った女性の元へにも行ったという。
「担当ってそんなことまでしないといけないの?」
沙菜はそう聞くと、翔は首を横に振った。
「普通はそこまでしないかも知れない。でも俺らはさ。寄せ集めで組んだバンドなんだ。普通だったら音楽の学校とか、ライブハウスなんかで気があって組んだり、それから幼い頃の幼なじみばかりで組んでいるバンドだってある。でも俺らは全くお互いを知らないままで組んだバンドなんだ。だからお互いのことを少しずつ知って欲しいと思う。」
「……。」
「沙夜には特に知って欲しかった。好きだとか、恋愛感情なんか置いておいても、それだけみんなが信頼しているんだから。」
「そっか……変なことを聞いちゃったね。あたし。」
「良いよ。誤解されることは多いんだから。」
翔はそう行って軽く洗った皿を食洗機に入れていく。だがその心の中では、一馬がその中でも特別なような気がしていた。
そして最近、向けられている一馬に対する沙夜の特別な視線は、気のせいでは無いような気がするのだ。しかし一馬には奥さんも子供も居て、とても仲が良い。家族思いだ。沙夜も芹しか見ていない。それを信じるしかない気がしていた。
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