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雑炊
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大晦日の日。沙夜は「二藍」のメンバーを車に乗せると、出来るだけの機材を載せた。普段は一馬のベースや純のギターはトランクに置いているが、今日はそれぞれの足下にある。トランクは楽器や機材で一杯なのだ。
「よし。」
ギリギリ載せられたと思いながらトランクを閉めると、運転席に乗り込む。すると助手席には翔が乗っていて、車のカーオーディオから携帯電話をセットして、これからする曲のアレンジをチェックしている。
「六曲もするところは無いって言ってたっけ。」
後ろに座っている純が少し苦笑いをして言う。
「他のアーティストも出るけれど、みんなこの音楽番組の疲れかしらね。割とトークで時間を延ばすと言っていたし。」
「ふーん。喋るよりは演奏してた方が良いけどな。」
純はそう言ってその曲のアレンジをチェックしていた。
「確かにそうだ。そろそろ喋るネタが尽きてきたし。」
遥人はそう言って歌詞を書いたメモを取り出している。そして走り出した車を運転している沙夜に声をかけた。
「沙夜さん。「Key Talk」の歌詞は本当にこれを追加していいの?」
「渡先生からはOKをもらっているから良いわ。」
「渡先生って割と心が広くなったよな。」
その曲は鍵という言葉がキーワードになっている。この部屋にはもう戻らないと鍵を置いていった女。男が寝ている間に去って行く。そんな歌詞だった。
その曲をアレンジして今日のフェスで披露をしたいと芹に言ったとき、芹はもし歌えるのであれば歌詞を追加して欲しいと、沙夜にその続きの歌詞を渡したのだ。それは後悔だけでは無く、希望に満ちた歌詞だったと思う。
「前は少し歌詞をいじるだけでももう書かないって言ってたって聞くよ。」
純はそう言うと、一馬が頷いた。
「当然だろう。自分の許可無しに自分の作ったモノをアレンジされるのは気分が悪いと思う。」
「そうだな。DJなんかが俺らの曲を使いたいって言ってくるのも、俺らが許可をしたからだし。」
どこのクラブでも今日は年越しイベントをしているらしい。沙夜のところに曲を使って良いかというメッセージが何件かあった。そのイベントの内容なんかをチェックしたあと、使用料を請求したりどの部分を使うのかなどを聞いて許可を出すのだ。
そういう雑務まで沙夜はまだ続けていた。
「クラブねぇ。」
そう言って翔は携帯電話を見る。望月旭のイベントがあると聞いていた。それは長く続き、おそらく朝までやるのだ。それに翔は誘われているが、いくなら沙夜と一緒に行きたいと思う。だが沙夜は興味が無いのかもしれない。
「望月さんのイベントへは行くの?」
沙夜はそう聞くと、翔は少し頷いた。
「この間は結局行けなかったから、顔を見せるだけでも見せた方が良いかと思ってね。」
「だったら私も行こうかな。」
「沙夜も?」
駐車場の出口でパスを見せると、また車を進めて公道に出る。車は多いようだ。だがこれも想定内で、時間に余裕を持ってここを出ているのだから、問題は無いだろう。あとはどれだけ混んでいるかによる。
「今日は会社がもう開いていないし、報告書は家に帰ってから送るようになっているわ。明日でも良いかと思ってね。」
「意外。」
純がそう言うと、沙夜は首を横に振って言う。
「クラブイベントはずっと気になっていたのよ。DJが作る音楽もあれは音楽で成立しているし、あぁいうところで生まれる音はいい刺激になるから。」
「チケットはある?」
「えぇ。頼んでいたから。」
「誰に?」
「部長。」
西藤裕太のことだろう。おそらく望月旭とは同年代で、昔から知っている仲なのだ。チケットの融通なんかは西藤の声だけでもしてくれる。
「そっか。」
「帰りはタクシーね。明日、何時のご両親はやってくるの?」
「あぁ、昼頃と言っていた。」
「だったらそれまでに出ておくわね。」
海外にいる両親が戻ってくるのだ。それに合わせて沙夜と沙菜、それに芹は家から出る。元々居候みたいなモノで、翔の両親が帰ってくるならと三人は席を外す。
三人はどこへ行くのかとかを翔が聞くことはない。沙菜だけは実家に帰るのかもしれないが、沙夜は実家を嫌がっているし芹は実家に帰れない。どこへ行くのかはわからないのだ。
「治は明日はどうするんだ。」
純がそう聞くと治は少し笑って言う。
「明日は家族でうちの実家だな。一馬もそうだろう?」
一馬も少し頷いて言った。
「あぁ。だがうちは歩いて帰れるところだし。そうだ。うちも両親が帰ってきてな。沙夜さん。両親がワインを持って帰ると思うが、一本もらってくれるか?」
すると沙夜は笑いながら言う。
「一馬さんのところのご両親が作ったワインっていつも美味しいわね。」
「あぁ、今年は本当に出来が良かったらしい。天気が良い日が多かったからな。」
一馬の両親も翔の両親のように海外にいる。そこでワインを作っているらしい。元々酒屋をしていたのだが、まさか自分で作るようになるとは誰も思っていなかったのだ。
「純はどうするんだ。」
すると純は車内の音楽に合わせて、指を動かしていたがそれを止めて治に言う。
「親戚の所へ行こうと思ってさ。」
「へー。親戚。」
純は両親の所へは頑なに行かない。代わりに母親の兄という人が、全て面倒を見てくれているのだ。純の事情もわかっていて、両親へは連絡をとっていない。
自業自得だが、両親は親戚からもほとんど居ないように扱われている。
「いとこのが旦那になる人を連れて帰るらしいからさ。家族みたいになってるんだ。」
「良いじゃん。」
「あぁ。もう子供が居るって話だし。」
「俺のところと同級生になるかな。」
治はそう言うと、純は少し笑う。
「あぁいうところは手が早いヤツだったみたいでさ。でもあいつ短気みたいだからなぁ。生まれる前に別れそうだ。なんか凄いイライラしてるみたいてさ。」
「妊娠中ってのはそんなもんだよ。な?一馬。」
すると一馬も頷いた。
「まぁ、うちはいつもイライラしているように見えるが。あいつ鉄分不足なんだよ。貧血になるって言うのに。」
「それはカルシウムだろ?」
「そうだった。」
一馬も少し笑いながら、その会話についていく。
「沙夜はどこかへ行くの?」
翔が一番聞きたかったことだろう。二日は西川辰雄のところへ行くと言っていたが、明日は何をするのかは聞いていない。実家には帰らないと言っていたのだ。どこへ行くのかくらいは聞きたいと思う。
「えぇ。」
「どこに?」
あまり言いたくは無かったが、誤魔化すのも面倒だ。
「山に登るわ。」
「山?」
「えぇ。登山は趣味じゃ無いけれど、外れに霊山があるでしょう?」
「あぁ。」
「その山の上に神社があってね。ずっと行きたいと思っていたんだけど。登るのが面倒な人のためにロープウェイもあってね。」
「そういうの好きなの?」
「別に好きって訳じゃ無いけれど、ちょっと願掛けもしたかったし。」
「願掛け?」
一馬がそう聞くと、沙夜は少し頷いて言う。
「「二藍」にこれ以上何も無いようにって。」
「ははっ。主に沙夜さんにあった事じゃん。」
治はそう言うと、沙夜は少し笑って言う。
「そうね。確かにそうかも知れない。」
刺されたり、怪我をしたり、大変な目に遭った一年だった。来年は平和なモノにしたいと思うが、今のところのスケジュールを見るとそれはあまり望めない。
「遥人はどっかいくのか?」
「実家には顔を出すだけだな。今日、親父は張り切ってたし、多分疲れてるだろうから、気は遣わせたくない。」
「あぁ。挨拶に行ったけど、遥人の親父さんは元気そうだな。」
治はそう言うと遥人は頷いた。
「うん。おかげで来年もまた同じステージに立つと思うよ。」
遥人は認めたくないと言っていたが、遥人と演歌歌手の父親はよく似ている。仕事に対する姿勢も、声の質も、とても似ている気がした。
だが沙夜の心の中でふとしこりのようなモノが残る。
「遥人は演歌歌手の方が売れると思うんだけどね。」
挨拶に行ったときに、父親から言われたことだ。父親はそのつもりで遥人を育てていたらしいが、遥人は見事に裏切ってアイドルになった。それが父親には気に入らないことなのだろう。
そして遥人もまた意固地になっている。
「よし。」
ギリギリ載せられたと思いながらトランクを閉めると、運転席に乗り込む。すると助手席には翔が乗っていて、車のカーオーディオから携帯電話をセットして、これからする曲のアレンジをチェックしている。
「六曲もするところは無いって言ってたっけ。」
後ろに座っている純が少し苦笑いをして言う。
「他のアーティストも出るけれど、みんなこの音楽番組の疲れかしらね。割とトークで時間を延ばすと言っていたし。」
「ふーん。喋るよりは演奏してた方が良いけどな。」
純はそう言ってその曲のアレンジをチェックしていた。
「確かにそうだ。そろそろ喋るネタが尽きてきたし。」
遥人はそう言って歌詞を書いたメモを取り出している。そして走り出した車を運転している沙夜に声をかけた。
「沙夜さん。「Key Talk」の歌詞は本当にこれを追加していいの?」
「渡先生からはOKをもらっているから良いわ。」
「渡先生って割と心が広くなったよな。」
その曲は鍵という言葉がキーワードになっている。この部屋にはもう戻らないと鍵を置いていった女。男が寝ている間に去って行く。そんな歌詞だった。
その曲をアレンジして今日のフェスで披露をしたいと芹に言ったとき、芹はもし歌えるのであれば歌詞を追加して欲しいと、沙夜にその続きの歌詞を渡したのだ。それは後悔だけでは無く、希望に満ちた歌詞だったと思う。
「前は少し歌詞をいじるだけでももう書かないって言ってたって聞くよ。」
純はそう言うと、一馬が頷いた。
「当然だろう。自分の許可無しに自分の作ったモノをアレンジされるのは気分が悪いと思う。」
「そうだな。DJなんかが俺らの曲を使いたいって言ってくるのも、俺らが許可をしたからだし。」
どこのクラブでも今日は年越しイベントをしているらしい。沙夜のところに曲を使って良いかというメッセージが何件かあった。そのイベントの内容なんかをチェックしたあと、使用料を請求したりどの部分を使うのかなどを聞いて許可を出すのだ。
そういう雑務まで沙夜はまだ続けていた。
「クラブねぇ。」
そう言って翔は携帯電話を見る。望月旭のイベントがあると聞いていた。それは長く続き、おそらく朝までやるのだ。それに翔は誘われているが、いくなら沙夜と一緒に行きたいと思う。だが沙夜は興味が無いのかもしれない。
「望月さんのイベントへは行くの?」
沙夜はそう聞くと、翔は少し頷いた。
「この間は結局行けなかったから、顔を見せるだけでも見せた方が良いかと思ってね。」
「だったら私も行こうかな。」
「沙夜も?」
駐車場の出口でパスを見せると、また車を進めて公道に出る。車は多いようだ。だがこれも想定内で、時間に余裕を持ってここを出ているのだから、問題は無いだろう。あとはどれだけ混んでいるかによる。
「今日は会社がもう開いていないし、報告書は家に帰ってから送るようになっているわ。明日でも良いかと思ってね。」
「意外。」
純がそう言うと、沙夜は首を横に振って言う。
「クラブイベントはずっと気になっていたのよ。DJが作る音楽もあれは音楽で成立しているし、あぁいうところで生まれる音はいい刺激になるから。」
「チケットはある?」
「えぇ。頼んでいたから。」
「誰に?」
「部長。」
西藤裕太のことだろう。おそらく望月旭とは同年代で、昔から知っている仲なのだ。チケットの融通なんかは西藤の声だけでもしてくれる。
「そっか。」
「帰りはタクシーね。明日、何時のご両親はやってくるの?」
「あぁ、昼頃と言っていた。」
「だったらそれまでに出ておくわね。」
海外にいる両親が戻ってくるのだ。それに合わせて沙夜と沙菜、それに芹は家から出る。元々居候みたいなモノで、翔の両親が帰ってくるならと三人は席を外す。
三人はどこへ行くのかとかを翔が聞くことはない。沙菜だけは実家に帰るのかもしれないが、沙夜は実家を嫌がっているし芹は実家に帰れない。どこへ行くのかはわからないのだ。
「治は明日はどうするんだ。」
純がそう聞くと治は少し笑って言う。
「明日は家族でうちの実家だな。一馬もそうだろう?」
一馬も少し頷いて言った。
「あぁ。だがうちは歩いて帰れるところだし。そうだ。うちも両親が帰ってきてな。沙夜さん。両親がワインを持って帰ると思うが、一本もらってくれるか?」
すると沙夜は笑いながら言う。
「一馬さんのところのご両親が作ったワインっていつも美味しいわね。」
「あぁ、今年は本当に出来が良かったらしい。天気が良い日が多かったからな。」
一馬の両親も翔の両親のように海外にいる。そこでワインを作っているらしい。元々酒屋をしていたのだが、まさか自分で作るようになるとは誰も思っていなかったのだ。
「純はどうするんだ。」
すると純は車内の音楽に合わせて、指を動かしていたがそれを止めて治に言う。
「親戚の所へ行こうと思ってさ。」
「へー。親戚。」
純は両親の所へは頑なに行かない。代わりに母親の兄という人が、全て面倒を見てくれているのだ。純の事情もわかっていて、両親へは連絡をとっていない。
自業自得だが、両親は親戚からもほとんど居ないように扱われている。
「いとこのが旦那になる人を連れて帰るらしいからさ。家族みたいになってるんだ。」
「良いじゃん。」
「あぁ。もう子供が居るって話だし。」
「俺のところと同級生になるかな。」
治はそう言うと、純は少し笑う。
「あぁいうところは手が早いヤツだったみたいでさ。でもあいつ短気みたいだからなぁ。生まれる前に別れそうだ。なんか凄いイライラしてるみたいてさ。」
「妊娠中ってのはそんなもんだよ。な?一馬。」
すると一馬も頷いた。
「まぁ、うちはいつもイライラしているように見えるが。あいつ鉄分不足なんだよ。貧血になるって言うのに。」
「それはカルシウムだろ?」
「そうだった。」
一馬も少し笑いながら、その会話についていく。
「沙夜はどこかへ行くの?」
翔が一番聞きたかったことだろう。二日は西川辰雄のところへ行くと言っていたが、明日は何をするのかは聞いていない。実家には帰らないと言っていたのだ。どこへ行くのかくらいは聞きたいと思う。
「えぇ。」
「どこに?」
あまり言いたくは無かったが、誤魔化すのも面倒だ。
「山に登るわ。」
「山?」
「えぇ。登山は趣味じゃ無いけれど、外れに霊山があるでしょう?」
「あぁ。」
「その山の上に神社があってね。ずっと行きたいと思っていたんだけど。登るのが面倒な人のためにロープウェイもあってね。」
「そういうの好きなの?」
「別に好きって訳じゃ無いけれど、ちょっと願掛けもしたかったし。」
「願掛け?」
一馬がそう聞くと、沙夜は少し頷いて言う。
「「二藍」にこれ以上何も無いようにって。」
「ははっ。主に沙夜さんにあった事じゃん。」
治はそう言うと、沙夜は少し笑って言う。
「そうね。確かにそうかも知れない。」
刺されたり、怪我をしたり、大変な目に遭った一年だった。来年は平和なモノにしたいと思うが、今のところのスケジュールを見るとそれはあまり望めない。
「遥人はどっかいくのか?」
「実家には顔を出すだけだな。今日、親父は張り切ってたし、多分疲れてるだろうから、気は遣わせたくない。」
「あぁ。挨拶に行ったけど、遥人の親父さんは元気そうだな。」
治はそう言うと遥人は頷いた。
「うん。おかげで来年もまた同じステージに立つと思うよ。」
遥人は認めたくないと言っていたが、遥人と演歌歌手の父親はよく似ている。仕事に対する姿勢も、声の質も、とても似ている気がした。
だが沙夜の心の中でふとしこりのようなモノが残る。
「遥人は演歌歌手の方が売れると思うんだけどね。」
挨拶に行ったときに、父親から言われたことだ。父親はそのつもりで遥人を育てていたらしいが、遥人は見事に裏切ってアイドルになった。それが父親には気に入らないことなのだろう。
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