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秘密
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たまたまだった。今日の開店までにちょっとしておきたいこともあったのだ。だから少し早く来た。
早く来てもいつも肝心な仕込みは棗が朝して、夕方まで帰ってこない。だから今日もそうだと思っていた。だが今日は違う。
恵美は店のドアを開けようと鍵を差し入れたら、鍵が開いていることに気がついた。誰か来ているのだろうか。ここの鍵は、棗と治、そして恵美自身しか持っていないはずだ。
治か棗が来ているのだろうか。そう思いながら、恵美は店にはいる。すると厨房から人の話し声が聞こえた。棗と聞き覚えのある女の声だった。
「キスしかさせてねぇくせに。」
棗の声だ。キスをした?誰が?話の流れから、この女性と棗がキスをしたという事だ。
「無理矢理じゃないですか。」
しかも女が望んでいないことだった。そんな。どんなに自分が迫っても、びくともしなかった棗がこの女性に迫ったというのか。それも女性が嫌がっている。
厨房を思い切ってのぞくと、そこには見覚えのある人がいた。背の高く長い髪の女性。それは菊子だった。
「……なんでこの子がいるんですか?」
すると棗は頭をかいて、恵美に言う。
「一緒に卵と鶏肉もらいに行ったんだよ。領収置いておくから。恵美、引き出し入れておいて。じゃあ、菊子。店に送ってやるから。」
そういって先ほどの会話を無視しようとした。しかし恵美は聞きのがない。
「キスしたんですか?無理矢理?オーナー。ロリコンだったんですか?」
「十八がロリコンかよ。もうAVにでも出れる歳だ。」
「自分の歳を考えてくださいよ。良い歳して。十代の女の子の背中を追っているなんて。それに……菊子さんって恋人がいるって言ってたわね。」
「……はい。」
「なんで迫られてんの?それにキスされてんの?恋人以外と?」
その言葉に菊子は思わず言葉に詰まってしまった。すると棗が口を挟む。
「よく喋る女だな。」
「は?」
「お前には関係ねぇことだよ。菊子は学校に行くにしても、働くにしても、ここでは働かない。お前と接点はねぇから、別にどうでも良くねぇか?」
「良くないですよ。」
「……だったらはっきり言おうか。」
棗は恵美の前に立つと見下ろす。その雰囲気に負けてはいけない。恵美も棗を見上げていた。
「菊子に恋人が居て、俺が横恋慕してる。菊子は流されやすいところがあるから、流れでキスもしたしセックスもした。俺が好きだったからっていう一方的な想いからな。」
「ひどいです。菊子さんの気持ちを考えないで……ここまで自分勝手な人だったなんて。」
そういって恵美は棗の頬に平手打ちを食らわせた。
ばしっという重い音がして、思わず菊子は目をそらせた。だが棗は笑っていたように思える。
そして立ちすくんでいる菊子の手を引き、店の出口に向かっていった。
「菊子さん。そんな人について行ったら駄目よ。」
出て行く背中にそんな声が聞こえた。
「あー痛いなぁ。」
ビルの階段を下りて、棗は頬をさする。
「自業自得です。」
「あいつ力あるんだからな。さすがに毎日、重い皿を運んでるだけあるわ。」
「……。」
「でもこれでやっといろんな事を言うことはなくなったな。」
「やっぱりそれが狙いですか。」
菊子はため息をついて、呆れたように見上げた。
「ったりまえだろ。だってあいつまだ「オーナーの店に行きたいんです」って一点張りだったもんな。あいつはここで治と居た方がいいんだよ。」
駐車場へ向かい、車の鍵を開けた。そして乗り込むとまた頬をさする。
「痛いなぁ。赤くなってねぇかな。」
そういってバックミラーで頬を見る。少し赤くなっているようだ。
「冷やしたいな。あまり腫れて店も出たくねぇし。」
「厨房だけにいるんだったら腫れてても関係ないでしょう?」
「オーナーに会わせろって言うヤツもいるのよ。仕方ねぇな。ちょっと家に帰るか。お前時間良いか?」
携帯電話を見る。余裕というわけでもないが、このまま帰っても中途半端かもしれない。
「そんなにあるわけじゃないんですけど。」
「セックス一回くらいは出来るか?」
「……。」
懲りない人だ。そう思いながら、菊子は深いため息をついた。
棗の住んでいる家は、一階は居酒屋、二階はショットバーとスポーツバー、三階はラウンジと、イタリアンレストラン、と言う繁華街に良くありがちなアパートだった。昼間はひっそりとしていて、四階からの住居スペースにはおそらくバーテンダーやホステスが住んでいるが、あまり会ったことはない。
棗は自分の家に人を連れてくるのを嫌がっていた。オーナーなんかをしていると、コミュニケーションも大切だといつも恵美から言われているが、家は事情があって誰も入れたくない。
だが菊子は入れて良いと思った。それだけ惚れているのだろう。
「入れよ。」
「お邪魔します。」
部屋はあまり広くはないが、ソファーやテレビがあって少し生活感があった。しかし注目すべきはキッチンかもしれない。
棚にはいろんな香辛料があり、調味料も沢山ある。ハーブやお茶なんかもあるようだ。
「……これ……。」
「あぁ。ここで試作してんだよ。だから誰も連れてくるのは嫌だったな。」
その割には冷蔵庫は小さい。蓮の部屋の冷蔵庫より少し大きいと言うくらいだ。すると棗は菊子の手に持っていた鶏肉の入ったビニールを取ると、冷蔵庫に入れた。そして冷凍庫から、保冷剤を取り出す。
「ん?」
それをそのまま頬に当てようとして、菊子はそれをはずした。
「なんだよ。キスでもしてぇのか?」
「いいえ。直接当てると凍傷になるので、タオルか何かを蒔いた方が良いって友達が言ってたから。」
「あぁ。そうかもな。丁度良い布あるかな。」
そういって引き出しを探る。割と綺麗にしている部屋だ。帰ってくる暇はないのかもしれない。
「これでいいや。」
やっと見つけた赤い布に、保冷剤をくるむと頬に当てた。
「開店までに間に合わなかったら、治に連絡するか。」
頬に当てたその布は、どう見てもハンカチだった。それも女性用のかわいらしいタオルハンカチ。それを持っているという事はどういうことだろう。
ここに人を入れたくないと言っていたのに、誰かが来たのだろうか。棗もやはりそういう人だったのだろうか。嘘ばかりつくような人なのだろうか。
「……どうした。」
「その布って……。」
「あぁ。なんか辞めた女が世話になったってみんなに配ったヤツだな。思い出したわ。」
そういうことだったのだ。まずいな。こんなに早とちりするなんて、人のことは言えない。菊子は落ち着くように窓の外を見る。
ここは繁華街にあるので、夜でも明るそうだ。蓮の家も繁華街にあるが、こんなに明るくはない。まぁ、まだ昼間なので、実際のところはわからないが。
「菊子。こっち来いよ。でかいのが突っ立ってると目障りだし。」
「また大きいって言った。」
菊子はそういって、棗の隣に座る。
「俺よりは大きくないって。」
片手で頬を押さえて、空いた片手で菊子の頭に触れる。それが子供扱いされているようでさらに不服だ。
「なんか……子供扱いされているのか、大人扱いされてるのかわからなくなりました。」
「……何?どっちがいいんだ。」
「十八ですからね。」
「十八ね。大人でも子供でもない中途半端な歳だ。体は立派に大人なのに、二十二時以降は表を歩けない。どっちなんだろうな。」
頭に置いた手を頬に持ってくる。そしてその唇に指を当てた。
「……何……。」
「黙れ。」
そういって棗はそのまま菊子の顔に近づき、頬に手を当てた。
「俺にとっては大人でも子供でもどっちでもいい。菊子が好きだ。」
「……駄目。」
「逃げんなよ。菊子。そのまま目を瞑れ。」
「……駄目。」
「何が駄目だ。」
吐息がかかり、唇を重ねた。すると頬を押さえていた保冷剤が膝に落ちた。そして菊子の頬を持ち上げて、唇をさらに重ねる。
早く来てもいつも肝心な仕込みは棗が朝して、夕方まで帰ってこない。だから今日もそうだと思っていた。だが今日は違う。
恵美は店のドアを開けようと鍵を差し入れたら、鍵が開いていることに気がついた。誰か来ているのだろうか。ここの鍵は、棗と治、そして恵美自身しか持っていないはずだ。
治か棗が来ているのだろうか。そう思いながら、恵美は店にはいる。すると厨房から人の話し声が聞こえた。棗と聞き覚えのある女の声だった。
「キスしかさせてねぇくせに。」
棗の声だ。キスをした?誰が?話の流れから、この女性と棗がキスをしたという事だ。
「無理矢理じゃないですか。」
しかも女が望んでいないことだった。そんな。どんなに自分が迫っても、びくともしなかった棗がこの女性に迫ったというのか。それも女性が嫌がっている。
厨房を思い切ってのぞくと、そこには見覚えのある人がいた。背の高く長い髪の女性。それは菊子だった。
「……なんでこの子がいるんですか?」
すると棗は頭をかいて、恵美に言う。
「一緒に卵と鶏肉もらいに行ったんだよ。領収置いておくから。恵美、引き出し入れておいて。じゃあ、菊子。店に送ってやるから。」
そういって先ほどの会話を無視しようとした。しかし恵美は聞きのがない。
「キスしたんですか?無理矢理?オーナー。ロリコンだったんですか?」
「十八がロリコンかよ。もうAVにでも出れる歳だ。」
「自分の歳を考えてくださいよ。良い歳して。十代の女の子の背中を追っているなんて。それに……菊子さんって恋人がいるって言ってたわね。」
「……はい。」
「なんで迫られてんの?それにキスされてんの?恋人以外と?」
その言葉に菊子は思わず言葉に詰まってしまった。すると棗が口を挟む。
「よく喋る女だな。」
「は?」
「お前には関係ねぇことだよ。菊子は学校に行くにしても、働くにしても、ここでは働かない。お前と接点はねぇから、別にどうでも良くねぇか?」
「良くないですよ。」
「……だったらはっきり言おうか。」
棗は恵美の前に立つと見下ろす。その雰囲気に負けてはいけない。恵美も棗を見上げていた。
「菊子に恋人が居て、俺が横恋慕してる。菊子は流されやすいところがあるから、流れでキスもしたしセックスもした。俺が好きだったからっていう一方的な想いからな。」
「ひどいです。菊子さんの気持ちを考えないで……ここまで自分勝手な人だったなんて。」
そういって恵美は棗の頬に平手打ちを食らわせた。
ばしっという重い音がして、思わず菊子は目をそらせた。だが棗は笑っていたように思える。
そして立ちすくんでいる菊子の手を引き、店の出口に向かっていった。
「菊子さん。そんな人について行ったら駄目よ。」
出て行く背中にそんな声が聞こえた。
「あー痛いなぁ。」
ビルの階段を下りて、棗は頬をさする。
「自業自得です。」
「あいつ力あるんだからな。さすがに毎日、重い皿を運んでるだけあるわ。」
「……。」
「でもこれでやっといろんな事を言うことはなくなったな。」
「やっぱりそれが狙いですか。」
菊子はため息をついて、呆れたように見上げた。
「ったりまえだろ。だってあいつまだ「オーナーの店に行きたいんです」って一点張りだったもんな。あいつはここで治と居た方がいいんだよ。」
駐車場へ向かい、車の鍵を開けた。そして乗り込むとまた頬をさする。
「痛いなぁ。赤くなってねぇかな。」
そういってバックミラーで頬を見る。少し赤くなっているようだ。
「冷やしたいな。あまり腫れて店も出たくねぇし。」
「厨房だけにいるんだったら腫れてても関係ないでしょう?」
「オーナーに会わせろって言うヤツもいるのよ。仕方ねぇな。ちょっと家に帰るか。お前時間良いか?」
携帯電話を見る。余裕というわけでもないが、このまま帰っても中途半端かもしれない。
「そんなにあるわけじゃないんですけど。」
「セックス一回くらいは出来るか?」
「……。」
懲りない人だ。そう思いながら、菊子は深いため息をついた。
棗の住んでいる家は、一階は居酒屋、二階はショットバーとスポーツバー、三階はラウンジと、イタリアンレストラン、と言う繁華街に良くありがちなアパートだった。昼間はひっそりとしていて、四階からの住居スペースにはおそらくバーテンダーやホステスが住んでいるが、あまり会ったことはない。
棗は自分の家に人を連れてくるのを嫌がっていた。オーナーなんかをしていると、コミュニケーションも大切だといつも恵美から言われているが、家は事情があって誰も入れたくない。
だが菊子は入れて良いと思った。それだけ惚れているのだろう。
「入れよ。」
「お邪魔します。」
部屋はあまり広くはないが、ソファーやテレビがあって少し生活感があった。しかし注目すべきはキッチンかもしれない。
棚にはいろんな香辛料があり、調味料も沢山ある。ハーブやお茶なんかもあるようだ。
「……これ……。」
「あぁ。ここで試作してんだよ。だから誰も連れてくるのは嫌だったな。」
その割には冷蔵庫は小さい。蓮の部屋の冷蔵庫より少し大きいと言うくらいだ。すると棗は菊子の手に持っていた鶏肉の入ったビニールを取ると、冷蔵庫に入れた。そして冷凍庫から、保冷剤を取り出す。
「ん?」
それをそのまま頬に当てようとして、菊子はそれをはずした。
「なんだよ。キスでもしてぇのか?」
「いいえ。直接当てると凍傷になるので、タオルか何かを蒔いた方が良いって友達が言ってたから。」
「あぁ。そうかもな。丁度良い布あるかな。」
そういって引き出しを探る。割と綺麗にしている部屋だ。帰ってくる暇はないのかもしれない。
「これでいいや。」
やっと見つけた赤い布に、保冷剤をくるむと頬に当てた。
「開店までに間に合わなかったら、治に連絡するか。」
頬に当てたその布は、どう見てもハンカチだった。それも女性用のかわいらしいタオルハンカチ。それを持っているという事はどういうことだろう。
ここに人を入れたくないと言っていたのに、誰かが来たのだろうか。棗もやはりそういう人だったのだろうか。嘘ばかりつくような人なのだろうか。
「……どうした。」
「その布って……。」
「あぁ。なんか辞めた女が世話になったってみんなに配ったヤツだな。思い出したわ。」
そういうことだったのだ。まずいな。こんなに早とちりするなんて、人のことは言えない。菊子は落ち着くように窓の外を見る。
ここは繁華街にあるので、夜でも明るそうだ。蓮の家も繁華街にあるが、こんなに明るくはない。まぁ、まだ昼間なので、実際のところはわからないが。
「菊子。こっち来いよ。でかいのが突っ立ってると目障りだし。」
「また大きいって言った。」
菊子はそういって、棗の隣に座る。
「俺よりは大きくないって。」
片手で頬を押さえて、空いた片手で菊子の頭に触れる。それが子供扱いされているようでさらに不服だ。
「なんか……子供扱いされているのか、大人扱いされてるのかわからなくなりました。」
「……何?どっちがいいんだ。」
「十八ですからね。」
「十八ね。大人でも子供でもない中途半端な歳だ。体は立派に大人なのに、二十二時以降は表を歩けない。どっちなんだろうな。」
頭に置いた手を頬に持ってくる。そしてその唇に指を当てた。
「……何……。」
「黙れ。」
そういって棗はそのまま菊子の顔に近づき、頬に手を当てた。
「俺にとっては大人でも子供でもどっちでもいい。菊子が好きだ。」
「……駄目。」
「逃げんなよ。菊子。そのまま目を瞑れ。」
「……駄目。」
「何が駄目だ。」
吐息がかかり、唇を重ねた。すると頬を押さえていた保冷剤が膝に落ちた。そして菊子の頬を持ち上げて、唇をさらに重ねる。
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