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決断
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ライブが終わり、蓮はベースを立てかけた。気の合うバンドで良かった。急にベースを弾いている男の都合が悪くなり、急遽ベースを弾いたがちゃんと合わせて弾くことが出来たと思う。
だが一番は自分のバンドだろう。「blue rose」は自分が好きで始めたものだ。うまいこと、この街や隣町にみんなが引っ越してきて良かった。
「感謝しなきゃね。」
百合はそういって笑っていた。蓮の気持ちが分かっているのだろう。
「蓮。反省会に行かないか。」
組んでいたバンドのメンバーが蓮に声をかける。しかし彼は首を横に振って言った。
「仕事あるし、遠慮する。」
「そっか。そうだよな。」
荷物をまとめたバンドのメンバーは、三人で店を出ていこうとした。そのときだった。
「すいません。」
けたたましく店に走り込んできた女がいる。Tシャツと、ハーフサイズのジャージ。そしてサンダル。どこか近所からやってきたような格好だった。
「菊子ちゃん?」
百合は驚いたように彼女を見ていた。いつもと様子も違うし、格好もぼろぼろだった。髪すら結んでいない。
「菊子?」
蓮も驚いて彼女に近寄った。すると菊子は蓮に吸い寄せられるように、体を寄せる。
「蓮さん……。」
百合は牛乳を温めて少し蜂蜜をいれたものを、菊子の前に置いた。その隣には蓮が心配そうに菊子を見ている。
「ゆっくり飲んで。落ち着くから。」
周りにはお客さんはいない。ライブも終わってしまって、みんな帰ってしまったのだ。
「……家にいられないことがあったのか。」
「……はい。」
少し牛乳を飲んだ菊子は、落ち着いたようにゆっくりと話し始めた。蓮の家のこと、そしてレイプされそうになったこと。その一つ一つに、蓮は拳を握る。
今すぐ菊子の家に乗り込んで、皐月を殴り飛ばしたい。だがあっちはあっちでうまいことをするかもしれないので、今は菊子を優先しよう。
「お兄さんが来たのね。やっぱり隠れきれるものじゃないと思ったんだけど……。」
「……もうあっちの家とは関係ない。縁は切っているんだ。なのにこの間から、影村を送ってきたりしていたから何となくばれてるなと思ったんだが……。」
「急に「ながさわ」に予約をいれたっていうのも、それが理由かしら。」
「だろうな。おそらく兄が菊子に話を聞きたかったんだろう。どんな女か見るために。」
「……私……お兄さん……信次さんに言えなかったんです。」
「何を?」
もう一口牛乳を飲む。そして蓮から視線をはずした。
「恋人ではないって。」
「え?」
その言葉に百合が驚いたように彼女をみた。確かに蓮も恋人かどうかは曖昧だという話をしていたが、だがここでキスをしていたのをばっちりと見てしまったのだ。
菊子はともかく、蓮は軽くキスをするような男ではない。女にはもてるが、女よりも音楽を取ってきたような男だ。だから痛い目にも遭っていたのに。
「……菊子ちゃん。あのね……。」
「百合。口を出さないでくれ。俺から話したい。」
「それもそうね。蓮。もう今日は帰りなさいな。あとはしておくから。」
「悪いな。」
「そのかわり、明日早く出てきて。あたし、明日ゆっくりしたいから。」
「わかった。」
百合には恋人がいる。明日はその恋人の仕事が休みなので、ゆっくり二人で過ごしたいと思っていたのだろう。
手を繋いで、蓮と菊子はアパートに帰ってきた。基本、このアパートは夜に働いている人が多いので、夜は静かなものだった。あのジャンキーの女は、この間、警察に連れて行かれた。掃除が入って、その部屋は空き室になっている。
二階の一番奥の部屋のドアを開けて、蓮は電気をつけ、エアコンをつける。そして菊子をベッドに座らせた。
「関係をはっきりさせてなかったのは悪かった。」
「……。」
「はっきりさせてなかったから誤解も生んだ。結局お前が傷つくだけだったな。」
「蓮さん。私、あなたがどうだったかとかはあまり興味がないんです。戸崎グループがどうだとか、そういったことは気になったことはないんです。でも……一つだけはっきりさせたいことがあるんです。」
「何だ。」
蓮もベッドに座ると、菊子を見下ろした。
「どうしてキスするんですか。」
「……したいから。というのは悪いか……。」
「正直でいいと思いますけど、それなら別に私ではなくても……。」
「お前だからしたいんだ。」
好きだという言葉を軽く使って、後悔したことがある。だからあまり使いたくなかった。だが言わなければ伝わらないし、こんな風に愛しい人を不安にさせる。
自信を持って恋人だと言って欲しかった。
「菊子。俺はお前が好きだ。」
その言葉が聞きたかった。自然と涙がこぼれる。すると蓮は少し頬を染めて、その涙を拭った。
「こんなに不安にさせて悪かった。」
「……私も……好きです。本当に……好きなんです。」
「菊子。」
頬を撫でて、そのまま軽く唇を重ねた。そしてその体を抱きしめる。
「菊子……。」
体に手を伸ばし、そして菊子も蓮の体に手を伸ばす。頭に、額に唇を寄せてそして少し体を離すと、また唇を重ねた。
「……んっ……。」
苦しそうに舌を絡ませる菊子。顔がますます赤くなっていく。唇を離すと、息をついた。
「しながらでも息をしろ。」
「でも……。」
「鼻で息が出来る。」
そういってまた唇を重ねた。舌を絡ませながら、蓮は菊子の体をベッドに押し倒した。
唇を離すと、潤んだ瞳でこちらを見ている。
「蓮……。」
「怖いか?」
「そんなことないです。蓮だから……。でも……少し怖いのかもしれません。」
「信じてもらっていい。菊子。好きだ。」
髪を避けて、蓮は菊子の唇にまたキスをする。
だが一番は自分のバンドだろう。「blue rose」は自分が好きで始めたものだ。うまいこと、この街や隣町にみんなが引っ越してきて良かった。
「感謝しなきゃね。」
百合はそういって笑っていた。蓮の気持ちが分かっているのだろう。
「蓮。反省会に行かないか。」
組んでいたバンドのメンバーが蓮に声をかける。しかし彼は首を横に振って言った。
「仕事あるし、遠慮する。」
「そっか。そうだよな。」
荷物をまとめたバンドのメンバーは、三人で店を出ていこうとした。そのときだった。
「すいません。」
けたたましく店に走り込んできた女がいる。Tシャツと、ハーフサイズのジャージ。そしてサンダル。どこか近所からやってきたような格好だった。
「菊子ちゃん?」
百合は驚いたように彼女を見ていた。いつもと様子も違うし、格好もぼろぼろだった。髪すら結んでいない。
「菊子?」
蓮も驚いて彼女に近寄った。すると菊子は蓮に吸い寄せられるように、体を寄せる。
「蓮さん……。」
百合は牛乳を温めて少し蜂蜜をいれたものを、菊子の前に置いた。その隣には蓮が心配そうに菊子を見ている。
「ゆっくり飲んで。落ち着くから。」
周りにはお客さんはいない。ライブも終わってしまって、みんな帰ってしまったのだ。
「……家にいられないことがあったのか。」
「……はい。」
少し牛乳を飲んだ菊子は、落ち着いたようにゆっくりと話し始めた。蓮の家のこと、そしてレイプされそうになったこと。その一つ一つに、蓮は拳を握る。
今すぐ菊子の家に乗り込んで、皐月を殴り飛ばしたい。だがあっちはあっちでうまいことをするかもしれないので、今は菊子を優先しよう。
「お兄さんが来たのね。やっぱり隠れきれるものじゃないと思ったんだけど……。」
「……もうあっちの家とは関係ない。縁は切っているんだ。なのにこの間から、影村を送ってきたりしていたから何となくばれてるなと思ったんだが……。」
「急に「ながさわ」に予約をいれたっていうのも、それが理由かしら。」
「だろうな。おそらく兄が菊子に話を聞きたかったんだろう。どんな女か見るために。」
「……私……お兄さん……信次さんに言えなかったんです。」
「何を?」
もう一口牛乳を飲む。そして蓮から視線をはずした。
「恋人ではないって。」
「え?」
その言葉に百合が驚いたように彼女をみた。確かに蓮も恋人かどうかは曖昧だという話をしていたが、だがここでキスをしていたのをばっちりと見てしまったのだ。
菊子はともかく、蓮は軽くキスをするような男ではない。女にはもてるが、女よりも音楽を取ってきたような男だ。だから痛い目にも遭っていたのに。
「……菊子ちゃん。あのね……。」
「百合。口を出さないでくれ。俺から話したい。」
「それもそうね。蓮。もう今日は帰りなさいな。あとはしておくから。」
「悪いな。」
「そのかわり、明日早く出てきて。あたし、明日ゆっくりしたいから。」
「わかった。」
百合には恋人がいる。明日はその恋人の仕事が休みなので、ゆっくり二人で過ごしたいと思っていたのだろう。
手を繋いで、蓮と菊子はアパートに帰ってきた。基本、このアパートは夜に働いている人が多いので、夜は静かなものだった。あのジャンキーの女は、この間、警察に連れて行かれた。掃除が入って、その部屋は空き室になっている。
二階の一番奥の部屋のドアを開けて、蓮は電気をつけ、エアコンをつける。そして菊子をベッドに座らせた。
「関係をはっきりさせてなかったのは悪かった。」
「……。」
「はっきりさせてなかったから誤解も生んだ。結局お前が傷つくだけだったな。」
「蓮さん。私、あなたがどうだったかとかはあまり興味がないんです。戸崎グループがどうだとか、そういったことは気になったことはないんです。でも……一つだけはっきりさせたいことがあるんです。」
「何だ。」
蓮もベッドに座ると、菊子を見下ろした。
「どうしてキスするんですか。」
「……したいから。というのは悪いか……。」
「正直でいいと思いますけど、それなら別に私ではなくても……。」
「お前だからしたいんだ。」
好きだという言葉を軽く使って、後悔したことがある。だからあまり使いたくなかった。だが言わなければ伝わらないし、こんな風に愛しい人を不安にさせる。
自信を持って恋人だと言って欲しかった。
「菊子。俺はお前が好きだ。」
その言葉が聞きたかった。自然と涙がこぼれる。すると蓮は少し頬を染めて、その涙を拭った。
「こんなに不安にさせて悪かった。」
「……私も……好きです。本当に……好きなんです。」
「菊子。」
頬を撫でて、そのまま軽く唇を重ねた。そしてその体を抱きしめる。
「菊子……。」
体に手を伸ばし、そして菊子も蓮の体に手を伸ばす。頭に、額に唇を寄せてそして少し体を離すと、また唇を重ねた。
「……んっ……。」
苦しそうに舌を絡ませる菊子。顔がますます赤くなっていく。唇を離すと、息をついた。
「しながらでも息をしろ。」
「でも……。」
「鼻で息が出来る。」
そういってまた唇を重ねた。舌を絡ませながら、蓮は菊子の体をベッドに押し倒した。
唇を離すと、潤んだ瞳でこちらを見ている。
「蓮……。」
「怖いか?」
「そんなことないです。蓮だから……。でも……少し怖いのかもしれません。」
「信じてもらっていい。菊子。好きだ。」
髪を避けて、蓮は菊子の唇にまたキスをする。
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