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出会い
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渋沢先輩というのは、就職したけれどすぐに辞めて今はフリーターか何かをしているらしい。なぜか友達という人が多くて、彼の部屋にはいつも知らない男が二、三人いる。
そして行く度に、梅子はその男たちを相手にセックスをするのだ。もちろん渋沢先輩も混ざって。
一人二、三回は射精すると、三人で九回分の精液が梅子を汚す。それでもかまわない。セックスは好きだと思うから。
だけど生では絶対させない。生でしようとした男には、彼女の蹴りが顔にヒットして歯が折れたと騒いでいたから。それ以来、彼女に生で突っ込もうという人はいない。
そのかわり、彼女は三つの穴を犯されても何もいわない。その日も、性器と、尻の穴と、そして口と手と、すべてに性器が突っ込まれていた。
「すごい高校生だな。こんなんAV位でしか見たことないと思ってたけど、実際これをやる女っているんだな。」
「愛されてっからよ。ほら。梅子。もっと腰動かせよ。」
金色の髪をした渋沢は、笑いながら梅子に指示をする。
やがて顔や体が精子まみれになったのを見て、彼女は満足そうに起きあがる。
「……シャワー貸して。」
「おー。いいぜ。」
あくまで笑顔だ。こういうことが好きなのだろう。そんなとき、彼はたばこを吹かしながら、思い出したことがあった。
シャワーを浴び終わった梅子は、下着を身につけて、制服をまた着る。
「なぁ、梅子。お前さ、AV出る気ない?」
「AV?」
「二十歳にならんと出られないらしいけどさ、その気になれば十八でも出れるらしいぜ。」
「えー?でもあたしさぁ、短大行こうと思ってさ。」
「お前みたいなんが短大行って何すんだよ。ガキできて終わりだろ?」
子供が出来て終わりとはどういう意味だろう。わからないが、彼女は制服を身につけ終わると、薄く笑った。
「じゃあまた連絡する。」
「おい。梅子。」
焦ったように出て行こうとする梅子を止めようとした。しかし梅子は玄関でローファーの靴を履く。
「女をAVに売ろうって奴に、何の用事があるのよ。」
アパートを出て、彼女は階段を降りる。そして出て来たアパートをみる。
「もう来ることないかな。」
そういって彼女は携帯を取り出すと、その男のメモリーを消した。シタい男だったらまだいる。
人を仲介してのAVなんか出たくない。仲介すればそいつにもお金が渡るのだから。
それに股を開きたいのは一人だけだ。ずっと想っている男は振り向いてもらえない。側にいるもう一人の女しか見ていないからだ。
夜になると本格的に割烹「ながさわ」は忙しくなる。礼儀や作法をすべてたたき込まれている菊子は、貴重な人材だった。化粧映えする顔立ちも、よく気の利く所作も、すべて祖母である律子の教えによるものだった。
彼女が高校を卒業しての進路を、調理師の専門学校だと言ったのがとても惜しいと思う。将来はここの女将となってくれればいいのにと、密かに思っていたのに。
そのとき調理場から声がかかる。
「菊子。悪いが、酒が無くなった。吾川さんのところに行って、ビールを持ってきてくれないか。」
調理場から祖父の声がする。本来なら電話で注文して持ってきてもらうのだが、近所ということもあり台車を転がしてビールケースを引っ張った方が早いのだ。
「わかりました。女将さんに言っておきます。」
ちょうどやってきた祖母に、その話をすると彼女は笑顔で気をつけていっていらっしゃいと言ってくれた。
少し前なら、夜の繁華街に女子高生がうろうろするなんてという感覚だったがし、着物に着られているような感覚だった菊子も少女にはもう見えなくなってきた。
調理場から外に出ると、台車が二、三台ある。それを引くと、菊子は道路に出て行った。吾川酒店は北通りから公園に出て、その通り沿いにある。夜中でもやっている酒店で、急に酒が無くなったときなどに重宝するのは、他の飲み屋でも同じだろう。
「ごめんください。」
声をかけると、若旦那がいた。といってももう四十代の中年だ。藍色の前掛けをしていて、白文字で「吾」と書いている。
「菊子ちゃん。いらっしゃい。」
「ビールを二ケース、お願いします。」
「あいよ。」
若旦那は、その注文に奥の冷蔵庫からビールケースに入ったビールを取り出すと、表にある台車に乗せた。そして伝票を書くと、菊子に持たせる。しかし、彼女はぼんやりと酒屋の隣の店を伺うように見ていた。
「……どうしたんだ。」
「隣が騒がしいと思って……。」
すると若旦那は少し笑って言う。
「ライブハウス兼、カフェバーなんだよ。この間開店したんだ。」
「そういうのって、東口に集中していると思ってました。」
「でもライブハウスは繁華街以外にしかなかったから、みんな丁度いいって言ってるよ。」
「東口にはないんですか?」
「無いことはないけど、ほら。ジャズバーとかそんなんばっか。」
「……それにしても音漏れすごいですね。ウルサくないですか?」
「いいや。別に気にしちゃいないよ。」
そのときそのライブハウスから一人の男が出て来た。驚くほど絵に描いたようなパンクロッカーに彼女は目を丸くする。
革のベストには鋲が付いていて、革のズボン。そして高い身長。つんつんの髪は黒髪。外国のパンクロッカーでこんな人がいたと、菊子が音楽に疎くてもその人を連想させるようなそんな容姿だった。
「吾川さん。モーガン一本追加。」
「あいよ。よく出るな。ラムが。」
「思ったよりな。」
男はふっと菊子の方をみる。するとそのまなざしに彼女は少しドキリとした。彼女は背が高い方なので、人によっては見下ろしてしまうのに、彼はさらに見上げるほど身長が高いのだ。見下ろされる事はあまり慣れてない。
「誰?」
「あぁ。その北通りの割烹の人だよ。」
「割烹ね。あ、よろしく。俺、「rose」の店員で蓮。」
「ライブハウスだそうで、先ほど聞きました。よろしくお願いします。「ながさわ」の菊子といいます。」
するとラムを手にした吾川が、彼女に言う。
「菊子ちゃん。サインもらって置いた方がいいよ。」
「サインですか?」
「寄せよ。吾川さん。」
「メジャーデビュー目前なんだからさ。」
「あぁ……そうなんですね。」
メジャーデビューするというのは、音楽をしている人にとって目標だろう。なのに蓮は少し不機嫌そうになる。その様子に若旦那は、不思議そうに聞いた。
「どうした?」
「ボーカルの女がよ、ガキが出来たから結婚するとか言い出してさ。メジャーの話ぱあだよ。」
手でぱあっと広げたジェスチャーに、彼女は思わす笑ってしまった。古いと思ったのだ。
「まぁ、まだいいんじゃない?お前まだ二十代前半だろ?また見つけろよ。」
「そうする。伝票切って。」
その言葉に菊子は、ビールが温くなってしまうと急いで表に出て台車の柄を持つ。
「すいません。もう行きます。ありがとうございました。」
脱兎のように言ってしまった菊子を見て、蓮は少し笑っていた。
「騒がしい女だな。」
「高校生だとあんなもんだろ。」
「高校生?えらく老けてんな。それに背が高いし、もっと高くなるのかな。」
「そう言うなよ。気にしてんだから。」
台車を持つその手が汗で濡れている。わからない。変な感覚だった。どきどきが止まらない。
見上げるほどの背が高い男。ムスクの匂いと煙草の匂いが混ざった匂い。差し出された手にはタコがあった。何かの楽器の影響だろう。
だけどこんな短い時間では何も話せないし、何も知らない。なのにもっと知りたいと思う。
また偶然会わないだろうか。彼女はそう思いながら、台車を引いていた。
そして行く度に、梅子はその男たちを相手にセックスをするのだ。もちろん渋沢先輩も混ざって。
一人二、三回は射精すると、三人で九回分の精液が梅子を汚す。それでもかまわない。セックスは好きだと思うから。
だけど生では絶対させない。生でしようとした男には、彼女の蹴りが顔にヒットして歯が折れたと騒いでいたから。それ以来、彼女に生で突っ込もうという人はいない。
そのかわり、彼女は三つの穴を犯されても何もいわない。その日も、性器と、尻の穴と、そして口と手と、すべてに性器が突っ込まれていた。
「すごい高校生だな。こんなんAV位でしか見たことないと思ってたけど、実際これをやる女っているんだな。」
「愛されてっからよ。ほら。梅子。もっと腰動かせよ。」
金色の髪をした渋沢は、笑いながら梅子に指示をする。
やがて顔や体が精子まみれになったのを見て、彼女は満足そうに起きあがる。
「……シャワー貸して。」
「おー。いいぜ。」
あくまで笑顔だ。こういうことが好きなのだろう。そんなとき、彼はたばこを吹かしながら、思い出したことがあった。
シャワーを浴び終わった梅子は、下着を身につけて、制服をまた着る。
「なぁ、梅子。お前さ、AV出る気ない?」
「AV?」
「二十歳にならんと出られないらしいけどさ、その気になれば十八でも出れるらしいぜ。」
「えー?でもあたしさぁ、短大行こうと思ってさ。」
「お前みたいなんが短大行って何すんだよ。ガキできて終わりだろ?」
子供が出来て終わりとはどういう意味だろう。わからないが、彼女は制服を身につけ終わると、薄く笑った。
「じゃあまた連絡する。」
「おい。梅子。」
焦ったように出て行こうとする梅子を止めようとした。しかし梅子は玄関でローファーの靴を履く。
「女をAVに売ろうって奴に、何の用事があるのよ。」
アパートを出て、彼女は階段を降りる。そして出て来たアパートをみる。
「もう来ることないかな。」
そういって彼女は携帯を取り出すと、その男のメモリーを消した。シタい男だったらまだいる。
人を仲介してのAVなんか出たくない。仲介すればそいつにもお金が渡るのだから。
それに股を開きたいのは一人だけだ。ずっと想っている男は振り向いてもらえない。側にいるもう一人の女しか見ていないからだ。
夜になると本格的に割烹「ながさわ」は忙しくなる。礼儀や作法をすべてたたき込まれている菊子は、貴重な人材だった。化粧映えする顔立ちも、よく気の利く所作も、すべて祖母である律子の教えによるものだった。
彼女が高校を卒業しての進路を、調理師の専門学校だと言ったのがとても惜しいと思う。将来はここの女将となってくれればいいのにと、密かに思っていたのに。
そのとき調理場から声がかかる。
「菊子。悪いが、酒が無くなった。吾川さんのところに行って、ビールを持ってきてくれないか。」
調理場から祖父の声がする。本来なら電話で注文して持ってきてもらうのだが、近所ということもあり台車を転がしてビールケースを引っ張った方が早いのだ。
「わかりました。女将さんに言っておきます。」
ちょうどやってきた祖母に、その話をすると彼女は笑顔で気をつけていっていらっしゃいと言ってくれた。
少し前なら、夜の繁華街に女子高生がうろうろするなんてという感覚だったがし、着物に着られているような感覚だった菊子も少女にはもう見えなくなってきた。
調理場から外に出ると、台車が二、三台ある。それを引くと、菊子は道路に出て行った。吾川酒店は北通りから公園に出て、その通り沿いにある。夜中でもやっている酒店で、急に酒が無くなったときなどに重宝するのは、他の飲み屋でも同じだろう。
「ごめんください。」
声をかけると、若旦那がいた。といってももう四十代の中年だ。藍色の前掛けをしていて、白文字で「吾」と書いている。
「菊子ちゃん。いらっしゃい。」
「ビールを二ケース、お願いします。」
「あいよ。」
若旦那は、その注文に奥の冷蔵庫からビールケースに入ったビールを取り出すと、表にある台車に乗せた。そして伝票を書くと、菊子に持たせる。しかし、彼女はぼんやりと酒屋の隣の店を伺うように見ていた。
「……どうしたんだ。」
「隣が騒がしいと思って……。」
すると若旦那は少し笑って言う。
「ライブハウス兼、カフェバーなんだよ。この間開店したんだ。」
「そういうのって、東口に集中していると思ってました。」
「でもライブハウスは繁華街以外にしかなかったから、みんな丁度いいって言ってるよ。」
「東口にはないんですか?」
「無いことはないけど、ほら。ジャズバーとかそんなんばっか。」
「……それにしても音漏れすごいですね。ウルサくないですか?」
「いいや。別に気にしちゃいないよ。」
そのときそのライブハウスから一人の男が出て来た。驚くほど絵に描いたようなパンクロッカーに彼女は目を丸くする。
革のベストには鋲が付いていて、革のズボン。そして高い身長。つんつんの髪は黒髪。外国のパンクロッカーでこんな人がいたと、菊子が音楽に疎くてもその人を連想させるようなそんな容姿だった。
「吾川さん。モーガン一本追加。」
「あいよ。よく出るな。ラムが。」
「思ったよりな。」
男はふっと菊子の方をみる。するとそのまなざしに彼女は少しドキリとした。彼女は背が高い方なので、人によっては見下ろしてしまうのに、彼はさらに見上げるほど身長が高いのだ。見下ろされる事はあまり慣れてない。
「誰?」
「あぁ。その北通りの割烹の人だよ。」
「割烹ね。あ、よろしく。俺、「rose」の店員で蓮。」
「ライブハウスだそうで、先ほど聞きました。よろしくお願いします。「ながさわ」の菊子といいます。」
するとラムを手にした吾川が、彼女に言う。
「菊子ちゃん。サインもらって置いた方がいいよ。」
「サインですか?」
「寄せよ。吾川さん。」
「メジャーデビュー目前なんだからさ。」
「あぁ……そうなんですね。」
メジャーデビューするというのは、音楽をしている人にとって目標だろう。なのに蓮は少し不機嫌そうになる。その様子に若旦那は、不思議そうに聞いた。
「どうした?」
「ボーカルの女がよ、ガキが出来たから結婚するとか言い出してさ。メジャーの話ぱあだよ。」
手でぱあっと広げたジェスチャーに、彼女は思わす笑ってしまった。古いと思ったのだ。
「まぁ、まだいいんじゃない?お前まだ二十代前半だろ?また見つけろよ。」
「そうする。伝票切って。」
その言葉に菊子は、ビールが温くなってしまうと急いで表に出て台車の柄を持つ。
「すいません。もう行きます。ありがとうございました。」
脱兎のように言ってしまった菊子を見て、蓮は少し笑っていた。
「騒がしい女だな。」
「高校生だとあんなもんだろ。」
「高校生?えらく老けてんな。それに背が高いし、もっと高くなるのかな。」
「そう言うなよ。気にしてんだから。」
台車を持つその手が汗で濡れている。わからない。変な感覚だった。どきどきが止まらない。
見上げるほどの背が高い男。ムスクの匂いと煙草の匂いが混ざった匂い。差し出された手にはタコがあった。何かの楽器の影響だろう。
だけどこんな短い時間では何も話せないし、何も知らない。なのにもっと知りたいと思う。
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