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二年目
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四名様掛けのテーブル席が六つ。カウンター席は六つ。まぁ。最大三十名様ほどが入れるだろう。だけど今お客様は、奥のテーブルにいる男女だけ。
六つのテーブル席のウチ、三つはソファ掛けになっていて、ソファはふかふかで生成のクロスがかけられている。
そのほかは音楽が流れている。おそらく有線。ジャズが流れ、棚には小説や画集が置かれている。おそらくそう言ったものを眺めながらコーヒーを飲むのがコンセプトなんだろう。
「……その子が、例の子ですか?」
赤毛のロングヘアの女性。背の高い人だった。彼女は榎田栞。この店の実質的なオーナーであり、フロアを担当していた。後はキッチン担当の男性が二人。金色の髪の優しそうな男、芹沢零。そしてキッチンから出てこないキッチン専属の男、芹沢楓。無表情が少し怖いと思った。
「経営はどうだ。」
「見ての通り。開店して二ヶ月。今月は赤が決定ね。」
「強気だった割には、そんなことで弱音を吐くんだな。」
すると零さんがぽつりという。
「立地は悪くない。コーヒーも不味くはない。でもお客さんが来ないんだったら、何が原因なんですかね。」
ため息をつくだけであまり何もしようとしないんだな。私は立ち上がると、メニュー表を手に取った。
「たっ……。」
思わず声が出た。確かに都会だけど、コーヒー一杯でこの値段はないよ。
「高い?」
私は茅さんに思わず詰め寄る。
「この値段設定はないわ。」
「この辺リサーチして、出した価格だぜ。安い方だと思うけど?」
「いやいや。」
「お前なぁ。葵の所を基準に考えんなよ。あそこ安すぎると俺は思うからな。」
「それから、ワッフルとか……。」
「んだよ。」
「喫茶店って飲み物が中心だから、こんなごてごてしたスイーツは合わないよ。」
その言葉に、楓さんが反応する。
「んだよ。お前。来たばっかで文句言うのか?まだ高校生くらいだろ?だせー格好しやがって。」
「何ですって?」
「社長のお気に入りだからって調子のんじゃねぇよ。」
かっちーん。
何この人。言い過ぎじゃない?
「ちょっと!楓。言い過ぎよ。この店にいることになるかもしれないのに。」
「いてもらっても困る。どんなコーヒーを淹れるか知らないけど、俺だけで何とかやっていけるからな。」
「でも赤なんでしょ?」
「桜。」
思わず茅さんも声を上げた。
「そんな言うんだったら、お前コーヒー淹れて見ろよ。」
楓はそう言って私をキッチンに案内した。良く整頓されたきれいなキッチンだった。飲み物だけはお客さんに見えるように対面式らしい。後ろの壁にはコーヒー豆と紅茶葉がある。紅茶葉も種類は沢山あるようだ。ん?これは?
瓶を手にして、それを開ける。それは中国茶みたいなもので、お湯を注ぐとぱっと花が開くような形状になっているらしい。
「ブレンドはどれ?」
彼は話にも言わずにその瓶を私に差し出す。
「いつ焙煎を?」
「二日前だよ。」
「ギリね。最低三日おいてほしいけど。」
楓の奥歯が噛む音がした。ケトルにお湯を沸かし、その間にコーヒー豆をミルで挽く。いつの間にかみんながカウンター席に座り、その様子を見ている。
「慣れてるわね。」
「あぁ。何年コーヒー淹れてたっけ?」
「三年。」
「焙煎も出来るから、使えるだろ?」
「そうね。今焙煎まで出来るのは楓しかいないし。」
ペーパーフィルターをセットし、少し濡らす。そして少し溜まったお湯を捨てて、コーヒー豆をセットした。
「お前、今までそんなことやってなかったじゃん。どうしたんだよ。」
「何か、紙の雑味がある気がするから。こうした方がいい。」
そして沸かしたお湯をポットに入れ替えると、ゆっくりとその豆に浸透させた。ふわんとコーヒーの匂いが高くなる。
「いい香り。何のマジックかしら。楓が淹れたら、こうはいかないわね。」
葵さんの声と、瑠璃さんの声が心の中に響く。
「ゆっくり、焦らないように、お湯を注いで。」
「豆をよく見て。その豆の煎り方で、全くお湯を注ぐスピードも変わってくるし、あげるタイミングも違うわ。」
盛り上がってきた豆が落ちていく。そのタイミングを見計らって、私はドリッパーをあげた。
「カップはどれを使えばいい?」
我に返ったように楓は棚からカップを取り出した。淹れたコーヒーを五等分して、彼らに渡す。
「これ。同じコーヒーなの?」
「美味しい。香りが高いし。コーヒーじゃないみたいだ。」
だけど茅さんは渋い顔をして私に言う。
「えぐみが少しあるな。どうしたんだ。お前らしくねぇ。」
「……言いたくないけど、まだ焙煎して二日っていってたから、まだガスが出てたのよ。ぎりぎりで出来ると思ったけど、残ったわね。」
すると楓はカップをおいて、私を見る。
「お前、ここで働くのか?」
「……。」
「楓。こいつ、いやなんだってよ。カフェ事業に参加するの。」
その言葉に、楓も、零も、驚いたように私を見た。
「こんなにうまくコーヒー淹れれるんだから、来てもらったらいいのに。」
「そしたら店もいい感じで上がるかもしれない。」
その言葉に私は首を横に振った。
「ごめんなさい。やはり、私は……。」
すると茅さんが言う前に、楓が口を挟んだ。
「たぶん、こういうコーヒーを淹れるの、この街では無理だろ?」
「は?」
「コーヒー淹れるのに、どんぐらい時間がかかってると思ってんだよ。客の時間だって無限じゃねぇんだ。」
その言葉に、茅さんが口を挟む。
「いや。違うだろ?そう言うコンセプトの店じゃねぇんだ。」
「会社がどんなコンセプトなのかしらねぇけど、この街でこんなカフェは合ってねぇよ。さっさと撤退しろよ。それに、その女の淹れるコーヒーはどっか田舎とかでしたら?あんた、地元田舎だろ?」
「……。」
失礼な人だな。そう思っていたけれど、実際この店はあまりはやっていない。それが真実なのだろう。
六つのテーブル席のウチ、三つはソファ掛けになっていて、ソファはふかふかで生成のクロスがかけられている。
そのほかは音楽が流れている。おそらく有線。ジャズが流れ、棚には小説や画集が置かれている。おそらくそう言ったものを眺めながらコーヒーを飲むのがコンセプトなんだろう。
「……その子が、例の子ですか?」
赤毛のロングヘアの女性。背の高い人だった。彼女は榎田栞。この店の実質的なオーナーであり、フロアを担当していた。後はキッチン担当の男性が二人。金色の髪の優しそうな男、芹沢零。そしてキッチンから出てこないキッチン専属の男、芹沢楓。無表情が少し怖いと思った。
「経営はどうだ。」
「見ての通り。開店して二ヶ月。今月は赤が決定ね。」
「強気だった割には、そんなことで弱音を吐くんだな。」
すると零さんがぽつりという。
「立地は悪くない。コーヒーも不味くはない。でもお客さんが来ないんだったら、何が原因なんですかね。」
ため息をつくだけであまり何もしようとしないんだな。私は立ち上がると、メニュー表を手に取った。
「たっ……。」
思わず声が出た。確かに都会だけど、コーヒー一杯でこの値段はないよ。
「高い?」
私は茅さんに思わず詰め寄る。
「この値段設定はないわ。」
「この辺リサーチして、出した価格だぜ。安い方だと思うけど?」
「いやいや。」
「お前なぁ。葵の所を基準に考えんなよ。あそこ安すぎると俺は思うからな。」
「それから、ワッフルとか……。」
「んだよ。」
「喫茶店って飲み物が中心だから、こんなごてごてしたスイーツは合わないよ。」
その言葉に、楓さんが反応する。
「んだよ。お前。来たばっかで文句言うのか?まだ高校生くらいだろ?だせー格好しやがって。」
「何ですって?」
「社長のお気に入りだからって調子のんじゃねぇよ。」
かっちーん。
何この人。言い過ぎじゃない?
「ちょっと!楓。言い過ぎよ。この店にいることになるかもしれないのに。」
「いてもらっても困る。どんなコーヒーを淹れるか知らないけど、俺だけで何とかやっていけるからな。」
「でも赤なんでしょ?」
「桜。」
思わず茅さんも声を上げた。
「そんな言うんだったら、お前コーヒー淹れて見ろよ。」
楓はそう言って私をキッチンに案内した。良く整頓されたきれいなキッチンだった。飲み物だけはお客さんに見えるように対面式らしい。後ろの壁にはコーヒー豆と紅茶葉がある。紅茶葉も種類は沢山あるようだ。ん?これは?
瓶を手にして、それを開ける。それは中国茶みたいなもので、お湯を注ぐとぱっと花が開くような形状になっているらしい。
「ブレンドはどれ?」
彼は話にも言わずにその瓶を私に差し出す。
「いつ焙煎を?」
「二日前だよ。」
「ギリね。最低三日おいてほしいけど。」
楓の奥歯が噛む音がした。ケトルにお湯を沸かし、その間にコーヒー豆をミルで挽く。いつの間にかみんながカウンター席に座り、その様子を見ている。
「慣れてるわね。」
「あぁ。何年コーヒー淹れてたっけ?」
「三年。」
「焙煎も出来るから、使えるだろ?」
「そうね。今焙煎まで出来るのは楓しかいないし。」
ペーパーフィルターをセットし、少し濡らす。そして少し溜まったお湯を捨てて、コーヒー豆をセットした。
「お前、今までそんなことやってなかったじゃん。どうしたんだよ。」
「何か、紙の雑味がある気がするから。こうした方がいい。」
そして沸かしたお湯をポットに入れ替えると、ゆっくりとその豆に浸透させた。ふわんとコーヒーの匂いが高くなる。
「いい香り。何のマジックかしら。楓が淹れたら、こうはいかないわね。」
葵さんの声と、瑠璃さんの声が心の中に響く。
「ゆっくり、焦らないように、お湯を注いで。」
「豆をよく見て。その豆の煎り方で、全くお湯を注ぐスピードも変わってくるし、あげるタイミングも違うわ。」
盛り上がってきた豆が落ちていく。そのタイミングを見計らって、私はドリッパーをあげた。
「カップはどれを使えばいい?」
我に返ったように楓は棚からカップを取り出した。淹れたコーヒーを五等分して、彼らに渡す。
「これ。同じコーヒーなの?」
「美味しい。香りが高いし。コーヒーじゃないみたいだ。」
だけど茅さんは渋い顔をして私に言う。
「えぐみが少しあるな。どうしたんだ。お前らしくねぇ。」
「……言いたくないけど、まだ焙煎して二日っていってたから、まだガスが出てたのよ。ぎりぎりで出来ると思ったけど、残ったわね。」
すると楓はカップをおいて、私を見る。
「お前、ここで働くのか?」
「……。」
「楓。こいつ、いやなんだってよ。カフェ事業に参加するの。」
その言葉に、楓も、零も、驚いたように私を見た。
「こんなにうまくコーヒー淹れれるんだから、来てもらったらいいのに。」
「そしたら店もいい感じで上がるかもしれない。」
その言葉に私は首を横に振った。
「ごめんなさい。やはり、私は……。」
すると茅さんが言う前に、楓が口を挟んだ。
「たぶん、こういうコーヒーを淹れるの、この街では無理だろ?」
「は?」
「コーヒー淹れるのに、どんぐらい時間がかかってると思ってんだよ。客の時間だって無限じゃねぇんだ。」
その言葉に、茅さんが口を挟む。
「いや。違うだろ?そう言うコンセプトの店じゃねぇんだ。」
「会社がどんなコンセプトなのかしらねぇけど、この街でこんなカフェは合ってねぇよ。さっさと撤退しろよ。それに、その女の淹れるコーヒーはどっか田舎とかでしたら?あんた、地元田舎だろ?」
「……。」
失礼な人だな。そう思っていたけれど、実際この店はあまりはやっていない。それが真実なのだろう。
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