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二年目
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重なった唇から舌が割り込んできて、アルコールの匂いがした。飲んでいたのかもしれない。舌が口内を舐めあげていく。唇がやっと離され、首筋に唇が這っていく。白いマフラーに手を伸ばされて、私はやっと体を離した。
「タクシー。呼びます。」
「呼ばなくても良い。」
「でも……。」
「夜明けくらいまで……飲んでましたから。飲まなくてはやっていられなかった。」
彼はそう言って私の前で膝から崩れ落ちた。
「柊が……つきあってくれました。悪い夢を見たと思えばいいと。しかし……起きあがれば現実が待っている。警察の手で荒れた店と、一から仕込まないといけないコーヒー豆と……何より店の信用が、一気に崩れた。」
最後は絶叫に近かった。それくらい彼はきっと焦っていたのだ。
「葵さん。一つ……聞いて良いですか。」
「何ですか。」
「この店は、昔、百合さんがしていたのでしょう?」
「えぇ。その通りです。」
「この店にいた百合さん。そして彼女が愛した人が柊の手で殺された。そして百合さんはそのあと薬のごたごたで逮捕された。」
「……そんな過去を持ち出して……。」
「過去ですよ。そしてあなたがこの店に入った。そして一から始めた。」
「それはもう崩れたんです。百合の手で……崩された。」
「そうですか?」
「……え?」
「私は昨日、ここへ着ました。そこで誠さんに会いました。誠さんだけじゃない。秋子さんにも会った。今日はお休みなのと聞かれたんです。」
「……。」
「色眼鏡で見る人は多いでしょうが、それ以上にあなたが淹れていたコーヒーの評判は、高かったんです。そう言えば、バリスタのライセンスを取るときの講師の先生も知っていました。」
私もしゃがみ込み、彼と一緒の視線に下りた。
「コーヒーを淹れましょう。みんなが幸せになるコーヒーを。私も向こうに行くまで、あなたをサポートしますし、それにあなたから学ぶことはまだあるようですから。そんな表情を見せないでください。」
すると葵さんは少し笑い、私の頬に手を当ててきた。
「本当に……あなたという人は……。私を諦めさせてもらえないんですね。」
「あぁ。それは諦めてください。」
「もう無理です。百合の影を追うのをやめて、あなたの影を多分追いますから。」
「永遠に捕まりませんよ。」
頬に触れたその手が唇に触れてきた。しかし私はその手を振り払った。
「では二階、片づけましょうか。倉庫でもいいんじゃないですか。荷物が届いたら、そこに入れる形で。」
「そうですね。」
夕方頃まで片づけをしていた。その間、常連さんがやってきてその片づけを手伝ってくれた。その中には柊さんの姿もある。
「全く……お前は肩が痛いんじゃなかったのか。」
「薬効いてるから。」
「薬は痛みを抑えているだけだ。治ってはいない。帰ったら冷やすぞ。」
柊さんはまた出て行った。他の人たちも帰っていく。ある程度は綺麗になったように思える。
「ありがとうございます。これで人間らしい生活が出来そうですね。お礼に、何かご馳走をさせてください。」
「葵さん。」
私は彼の前に立つと、少しほほえんだ。
「ご馳走はいりません。でも私と出掛けますか?」
「デートですか。柊がいなくなりましたからね。」
「えぇ。病院までデートしましょう。」
「桜さん……。」
空の薬袋。きっとこれが彼の薬。そしてその薬袋には、以前支社長が手首を切って運ばれた県立病院の名前が書いてある。
「薬、いるんじゃないんですか。」
「……桜さん。私は桜さんがいれば、いりません。あなたがいれば。」
「私は永遠にここにいるわけじゃない。私は柊のところにいます。」
「あなたは……きっと苦しい選択をしたと後悔しますよ。」
「だとしても……柊がいますから。」
すると葵さんは少し笑う。そして私を見下ろしていった。
「あなたは何もわかっていませんね。そして柊も肝心なことは、何もわかっていない。」
「何ですか?」
すると彼はいつもの笑顔で私に語りかけた。
「ねぇ。桜さん。ヒジカタコーヒー。その社長に会いましたか?」
「はい。」
「……と言うことは、彼が何者かわかっていますね。ヒジカタコーヒーがどこと繋がりがあったのか。そしてどうして茅もヒジカタコーヒーにどうして雇われたのか。そして……どうしてあなたが雇われたか。」
「……。」
「正直、焙煎の技術、コーヒーを入れるバリスタとしての技術は、母の技術以上の物もごろごろいますし、そんなに気になるのだったらヨーロッパの方に留学でも何でもさせればいい。なのになぜ瑠璃さんを利用して、あなたにバリスタの技術を入れようとしているのか。あなたも、柊も、きっと茅もわかっていませんよ。」
「社長が、蓬さんと何か繋がりがあるのだろうとは思ってました。それが何かあるのですか。」
「えぇ。大ありです。」
私は立ち尽くし、彼を見上げた。すると彼は私の手に触れてきた。
「知りたければ、ここで抱かれてください。」
「やです。直接聞きます。」
その言葉は想定外だったのだろう。葵さんの表情から笑顔が消えた。
「誰に聞くと?柊も茅も知らないでしょう?」
「彼の息子です。」
「彼の息子?そんな人とあなたが知り合いの訳がない。」
「……あなたの知り合いだけが息子ではないのですよ。」
すると彼はぐっと口を結んだ。そして私は携帯電話を取りだした。
「タクシー。呼びます。」
「呼ばなくても良い。」
「でも……。」
「夜明けくらいまで……飲んでましたから。飲まなくてはやっていられなかった。」
彼はそう言って私の前で膝から崩れ落ちた。
「柊が……つきあってくれました。悪い夢を見たと思えばいいと。しかし……起きあがれば現実が待っている。警察の手で荒れた店と、一から仕込まないといけないコーヒー豆と……何より店の信用が、一気に崩れた。」
最後は絶叫に近かった。それくらい彼はきっと焦っていたのだ。
「葵さん。一つ……聞いて良いですか。」
「何ですか。」
「この店は、昔、百合さんがしていたのでしょう?」
「えぇ。その通りです。」
「この店にいた百合さん。そして彼女が愛した人が柊の手で殺された。そして百合さんはそのあと薬のごたごたで逮捕された。」
「……そんな過去を持ち出して……。」
「過去ですよ。そしてあなたがこの店に入った。そして一から始めた。」
「それはもう崩れたんです。百合の手で……崩された。」
「そうですか?」
「……え?」
「私は昨日、ここへ着ました。そこで誠さんに会いました。誠さんだけじゃない。秋子さんにも会った。今日はお休みなのと聞かれたんです。」
「……。」
「色眼鏡で見る人は多いでしょうが、それ以上にあなたが淹れていたコーヒーの評判は、高かったんです。そう言えば、バリスタのライセンスを取るときの講師の先生も知っていました。」
私もしゃがみ込み、彼と一緒の視線に下りた。
「コーヒーを淹れましょう。みんなが幸せになるコーヒーを。私も向こうに行くまで、あなたをサポートしますし、それにあなたから学ぶことはまだあるようですから。そんな表情を見せないでください。」
すると葵さんは少し笑い、私の頬に手を当ててきた。
「本当に……あなたという人は……。私を諦めさせてもらえないんですね。」
「あぁ。それは諦めてください。」
「もう無理です。百合の影を追うのをやめて、あなたの影を多分追いますから。」
「永遠に捕まりませんよ。」
頬に触れたその手が唇に触れてきた。しかし私はその手を振り払った。
「では二階、片づけましょうか。倉庫でもいいんじゃないですか。荷物が届いたら、そこに入れる形で。」
「そうですね。」
夕方頃まで片づけをしていた。その間、常連さんがやってきてその片づけを手伝ってくれた。その中には柊さんの姿もある。
「全く……お前は肩が痛いんじゃなかったのか。」
「薬効いてるから。」
「薬は痛みを抑えているだけだ。治ってはいない。帰ったら冷やすぞ。」
柊さんはまた出て行った。他の人たちも帰っていく。ある程度は綺麗になったように思える。
「ありがとうございます。これで人間らしい生活が出来そうですね。お礼に、何かご馳走をさせてください。」
「葵さん。」
私は彼の前に立つと、少しほほえんだ。
「ご馳走はいりません。でも私と出掛けますか?」
「デートですか。柊がいなくなりましたからね。」
「えぇ。病院までデートしましょう。」
「桜さん……。」
空の薬袋。きっとこれが彼の薬。そしてその薬袋には、以前支社長が手首を切って運ばれた県立病院の名前が書いてある。
「薬、いるんじゃないんですか。」
「……桜さん。私は桜さんがいれば、いりません。あなたがいれば。」
「私は永遠にここにいるわけじゃない。私は柊のところにいます。」
「あなたは……きっと苦しい選択をしたと後悔しますよ。」
「だとしても……柊がいますから。」
すると葵さんは少し笑う。そして私を見下ろしていった。
「あなたは何もわかっていませんね。そして柊も肝心なことは、何もわかっていない。」
「何ですか?」
すると彼はいつもの笑顔で私に語りかけた。
「ねぇ。桜さん。ヒジカタコーヒー。その社長に会いましたか?」
「はい。」
「……と言うことは、彼が何者かわかっていますね。ヒジカタコーヒーがどこと繋がりがあったのか。そしてどうして茅もヒジカタコーヒーにどうして雇われたのか。そして……どうしてあなたが雇われたか。」
「……。」
「正直、焙煎の技術、コーヒーを入れるバリスタとしての技術は、母の技術以上の物もごろごろいますし、そんなに気になるのだったらヨーロッパの方に留学でも何でもさせればいい。なのになぜ瑠璃さんを利用して、あなたにバリスタの技術を入れようとしているのか。あなたも、柊も、きっと茅もわかっていませんよ。」
「社長が、蓬さんと何か繋がりがあるのだろうとは思ってました。それが何かあるのですか。」
「えぇ。大ありです。」
私は立ち尽くし、彼を見上げた。すると彼は私の手に触れてきた。
「知りたければ、ここで抱かれてください。」
「やです。直接聞きます。」
その言葉は想定外だったのだろう。葵さんの表情から笑顔が消えた。
「誰に聞くと?柊も茅も知らないでしょう?」
「彼の息子です。」
「彼の息子?そんな人とあなたが知り合いの訳がない。」
「……あなたの知り合いだけが息子ではないのですよ。」
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