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二年目
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修正個所を伝えると、二回目の劇が始まる。今度は違う人が演じるし、裏方も違う人がする。なので、私たちはそれを伝えると基本フリーになる。もちろん匠も、向日葵もフリーになるけれど、この二人はさっき演じていたから後輩なんかに「きゃあ、きゃあ」言われているけどね。
「私、一人で見てくるわ。」
やっぱ男装の麗人といわれている向日葵だ。胸は大きいけどね。女子に大人気だ。
”音楽室にいる。”
茅さんのメッセージはそんな感じだった。基本特殊教室は開放はしているけれど、休憩室のような感じになっているために人はいないことはない。
それこそOBとか保護者がいるのだ。
私はそこへ向かうと、茅さんと柊さんがそこにいた。
「お、来た来た。」
茅さんは嬉しそうにこちらを見るけれど、柊さんは不機嫌そうだ。
「いつの間にかやとメッセージをやりとりする仲になったんだ。」
柊さんの不機嫌の原因はそれだけじゃない気がするけどね。
「別にそんな仲じゃないわ。」
「たまたまだ。いつだっけ。連絡先を交換したのって。」
「さぁ。いつでしたかね。でもしつこく聞かれたのを覚えてますよ。ウチに就職するんなら、教えろとね。」
「手の早い奴だ。」
それでも柊さんの不機嫌は直らない。
「高校って俺、初めてだわ。」
「中学すらまともに行ってないと聞いているが。」
「それはおめぇもそうじゃねぇか。」
「学校へは行きたかった。今考えると学ぶことも沢山あっただろうにな。」
眩しそうに見ている柊さんの視線。あぁ、やっぱ普通に学校に行きたかったんだろうな。事情があっていけなかったとはいっても、仕方ないのかもしれない。
茅さんは少し違う気がする。だってその一つ上の藤堂先生は学校の先生になっているんだもんね。多分自業自得なんだろうな。
「出し物はあらかた見たのかしら。」
「あぁ。葵はもう帰った。昼から店を開けるんだと。」
「そう。」
「それにしても今の管理の奴は端々が行き届いてないな。電気が切れてるところも結構あったし。」
「柊は細けぇんだよ。」
「俺がいたときはそんなことはなかったんだがな。」
なんか変な感じ。「惚れてる」と常にいっている茅さんと、恋人同士の柊さん。でも茅さんのことは「ただの知り合い」のスタンスだ。実際は違うけれど。
「桜。そろそろ俺らも帰ろうと思ってな。」
「あぁ。それで呼び出したの?」
「そう。そう。また連絡するわ。」
「じゃあ、玄関まで送りますよ。」
「煙草が吸えねぇ。コーヒーはまずいじゃ、さっさと帰った方がいい。」
「あぁ。でも劇はどたばただったな。面白かった。」
「そうだったのか?へぇ。見れば良かったかな。」
「だったら茅は見てくればいい。俺は夕方また用事がある。それまで一眠りしたい。」
「んだよ。お前昨日も、イベントだったのか?」
「あぁ。なんか前に俺が回したとき妙な薬をばらまいていたらしいが、俺には関係なかったから菊音がまた呼んできた。」
「大丈夫か?お前、最近そんなんばっかやってんじゃん。」
「少し物入りでな。」
そういって柊さんはちらりと私をみる。音楽室のドアを開くと、たまたま歩いていた生徒がぎょっとした目で私たちを見た。そしてそそくさと小走りで去っていく。
「んだよ。化け物か?俺らは。」
「怖いからでしょ?」
「んだよ。桜。俺らなんて思われてんだよ。」
「そうですね。ヤクザとチンピラですか。」
「ヤクザ?」
「チンピラ?」
柊さんと茅さんは声をそろえて、こちらをみる。ひゃあ怖い。怖い。
柊さんは私の頭をぽんと手をおいて、学校を出ていった。茅さんはまた私の隣で歩く。確かに茅さんと歩いていると、どこのチンピラと一緒にいるのかと言われてるようだった。金髪だったりするわけじゃないけど、シャツの首のところから見える入れ墨とか、腕とかが傷だらけだったりすると、ちょっと怖い人のイメージだろうか。
「時間は少しありますから、どっか見たいところが……。」
すると彼は私の腕を掴んだ。
「何でまた言葉戻ってんだよ。」
すると私は彼を見上げる。
「柊の前だもの。」
「ふーん。柊の前だったら、俺は他人か?」
「他人とは言ってないわ。」
「だったら何だ。」
「将来の上司。」
「つまんねぇの。」
そして彼はパンフレットを広げる。
「コーヒー飲もうぜ。」
「美味しくないよ。多分。」
「そう?インスタントの方がましって?」
「そこまでは言ってない。」
ぶらぶらと歩いていると、やっぱり怖いのか人が避けて通る。そこへ藤堂先生がやってきた。
「茅。どうしたんだ。こんなところに来て。」
「へー。桔梗ってマジ先生なんだな。スーツなんか着て、すげぇ先生っぷりじゃん。」
「茶化すな。」
「さっきまで柊いたのに、会ってたら血を見てたな。」
その言葉に藤堂先生はむっとしたように彼をみる。
「残念だが、私はお前ほどチンピラ臭はしない。頭に血が上ることもないのでな。」
んー。相変わらず仲の悪い兄弟だ。
「桜さん。こんな奴といれば、あなたの人間性まで疑われる。」
そこまで言うか?
「外見はそうでもお前も結構ヤクザっぽいぞ。ほら、そう言われてんだろ?桜。」
「まぁ……否定はしません。」
「生徒と教師が仲良しではやっていけないだろう。だからそうしているんだ。」
一理ある。確かにそうかもしれない。仲良しこよしでは教師と生徒の差が見えない。最近はそういう先生も多いのかもしれないけど、藤堂先生はそういうスタンスで接しているのだろうな。
「まぁ。お前が良いならそれでいい。」
「お前はどうなんだ。」
「何が?」
「桜さんとは上司と部下になるんだろう。呑気に遊んでいるとその辺の境が付かなくなるぞ。」
「心配ねぇよ。俺も、こいつもその辺はちゃんとわかってる。」
すると先生は驚いたように私をみる。
「そんなに理解し合えているのか。まるで恋人だな。」
その言葉に私は全力で否定した。
「私、一人で見てくるわ。」
やっぱ男装の麗人といわれている向日葵だ。胸は大きいけどね。女子に大人気だ。
”音楽室にいる。”
茅さんのメッセージはそんな感じだった。基本特殊教室は開放はしているけれど、休憩室のような感じになっているために人はいないことはない。
それこそOBとか保護者がいるのだ。
私はそこへ向かうと、茅さんと柊さんがそこにいた。
「お、来た来た。」
茅さんは嬉しそうにこちらを見るけれど、柊さんは不機嫌そうだ。
「いつの間にかやとメッセージをやりとりする仲になったんだ。」
柊さんの不機嫌の原因はそれだけじゃない気がするけどね。
「別にそんな仲じゃないわ。」
「たまたまだ。いつだっけ。連絡先を交換したのって。」
「さぁ。いつでしたかね。でもしつこく聞かれたのを覚えてますよ。ウチに就職するんなら、教えろとね。」
「手の早い奴だ。」
それでも柊さんの不機嫌は直らない。
「高校って俺、初めてだわ。」
「中学すらまともに行ってないと聞いているが。」
「それはおめぇもそうじゃねぇか。」
「学校へは行きたかった。今考えると学ぶことも沢山あっただろうにな。」
眩しそうに見ている柊さんの視線。あぁ、やっぱ普通に学校に行きたかったんだろうな。事情があっていけなかったとはいっても、仕方ないのかもしれない。
茅さんは少し違う気がする。だってその一つ上の藤堂先生は学校の先生になっているんだもんね。多分自業自得なんだろうな。
「出し物はあらかた見たのかしら。」
「あぁ。葵はもう帰った。昼から店を開けるんだと。」
「そう。」
「それにしても今の管理の奴は端々が行き届いてないな。電気が切れてるところも結構あったし。」
「柊は細けぇんだよ。」
「俺がいたときはそんなことはなかったんだがな。」
なんか変な感じ。「惚れてる」と常にいっている茅さんと、恋人同士の柊さん。でも茅さんのことは「ただの知り合い」のスタンスだ。実際は違うけれど。
「桜。そろそろ俺らも帰ろうと思ってな。」
「あぁ。それで呼び出したの?」
「そう。そう。また連絡するわ。」
「じゃあ、玄関まで送りますよ。」
「煙草が吸えねぇ。コーヒーはまずいじゃ、さっさと帰った方がいい。」
「あぁ。でも劇はどたばただったな。面白かった。」
「そうだったのか?へぇ。見れば良かったかな。」
「だったら茅は見てくればいい。俺は夕方また用事がある。それまで一眠りしたい。」
「んだよ。お前昨日も、イベントだったのか?」
「あぁ。なんか前に俺が回したとき妙な薬をばらまいていたらしいが、俺には関係なかったから菊音がまた呼んできた。」
「大丈夫か?お前、最近そんなんばっかやってんじゃん。」
「少し物入りでな。」
そういって柊さんはちらりと私をみる。音楽室のドアを開くと、たまたま歩いていた生徒がぎょっとした目で私たちを見た。そしてそそくさと小走りで去っていく。
「んだよ。化け物か?俺らは。」
「怖いからでしょ?」
「んだよ。桜。俺らなんて思われてんだよ。」
「そうですね。ヤクザとチンピラですか。」
「ヤクザ?」
「チンピラ?」
柊さんと茅さんは声をそろえて、こちらをみる。ひゃあ怖い。怖い。
柊さんは私の頭をぽんと手をおいて、学校を出ていった。茅さんはまた私の隣で歩く。確かに茅さんと歩いていると、どこのチンピラと一緒にいるのかと言われてるようだった。金髪だったりするわけじゃないけど、シャツの首のところから見える入れ墨とか、腕とかが傷だらけだったりすると、ちょっと怖い人のイメージだろうか。
「時間は少しありますから、どっか見たいところが……。」
すると彼は私の腕を掴んだ。
「何でまた言葉戻ってんだよ。」
すると私は彼を見上げる。
「柊の前だもの。」
「ふーん。柊の前だったら、俺は他人か?」
「他人とは言ってないわ。」
「だったら何だ。」
「将来の上司。」
「つまんねぇの。」
そして彼はパンフレットを広げる。
「コーヒー飲もうぜ。」
「美味しくないよ。多分。」
「そう?インスタントの方がましって?」
「そこまでは言ってない。」
ぶらぶらと歩いていると、やっぱり怖いのか人が避けて通る。そこへ藤堂先生がやってきた。
「茅。どうしたんだ。こんなところに来て。」
「へー。桔梗ってマジ先生なんだな。スーツなんか着て、すげぇ先生っぷりじゃん。」
「茶化すな。」
「さっきまで柊いたのに、会ってたら血を見てたな。」
その言葉に藤堂先生はむっとしたように彼をみる。
「残念だが、私はお前ほどチンピラ臭はしない。頭に血が上ることもないのでな。」
んー。相変わらず仲の悪い兄弟だ。
「桜さん。こんな奴といれば、あなたの人間性まで疑われる。」
そこまで言うか?
「外見はそうでもお前も結構ヤクザっぽいぞ。ほら、そう言われてんだろ?桜。」
「まぁ……否定はしません。」
「生徒と教師が仲良しではやっていけないだろう。だからそうしているんだ。」
一理ある。確かにそうかもしれない。仲良しこよしでは教師と生徒の差が見えない。最近はそういう先生も多いのかもしれないけど、藤堂先生はそういうスタンスで接しているのだろうな。
「まぁ。お前が良いならそれでいい。」
「お前はどうなんだ。」
「何が?」
「桜さんとは上司と部下になるんだろう。呑気に遊んでいるとその辺の境が付かなくなるぞ。」
「心配ねぇよ。俺も、こいつもその辺はちゃんとわかってる。」
すると先生は驚いたように私をみる。
「そんなに理解し合えているのか。まるで恋人だな。」
その言葉に私は全力で否定した。
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