夜の声

神崎

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二年目

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 竹彦君にいわれたとおり、青い屋根のあるテントには女性が群がっていた。その一歩手前から見ていると、なるほどそうかもしれないというくらいのイケメン店員が酒を作ったり、ちょっとしたつまみを提供している。
 その中でも葵さんの所には列が余計にある気がする。
「葵さん。写真撮っていい?」
「きゃあ。」
「かっこいいー。」
 骨抜きになってなんかぐにょぐにょになった感じ。酒を飲む前に酔っぱらってる。もちろんイケメンに。
「はーっ。」
 私はそれを見て取りあえず引き返すことにした。こんな時に葵さんに声をかけたら、さらに女性の敵が増えるだろう。
 とりあえずメッセージでも送っておこう。明日でいいか。話があります……と。
 とりあえず時間は潰せた。もう少しで柊さんのステージがあるはずだ。この酒臭いエリアから、ステージへ行くことにしよう。そう思ったときだった。
「桜。」
 そこにはビールを持った茅さんがいた。タンクトップを着ていた茅さんは、何となくチンピラ臭がしてみんな少しづつ避けている。
「茅さん。」
 ん?とりあえず葵さんに話を聞くより、茅さんに話を聞くのが先かもしれない。
「酒飲んでるのか。お前。未成年のくせに。」
「ノンアルコールですよ。シャーリーテンプル。」
「つまんねぇ奴。」
 そういって彼はビールをぐっと飲んだ。
「俺がお前くらいの時は……。」
 やばい。話が長くなりそうだ。酒飲むとめんどくさい人か。
「茅さん。」
 茅さんはふっとこちらを見る。
「何?」
「私がどうしてヒジカタコーヒーのカフェ事業に手を出すことになってるんですか。」
「ん?だって、俺が推薦したから。」
 悪びれもなく言う。
「何も聞いてないんですけど。」
「新学期早々にその話を持ち込むつもりだった。まぁ、話は余所から漏れているみたいだけどな。でも俺の所に就職するつもりだったんだろ?」
「ヒジカタコーヒーは事務方で受けるつもりだったんです。」
「事務なんかのつまんねぇ仕事、誰でもできるっつーの。俺でも出来てんだからさ。」
「でも……。」
「うるせぇ。俺が推薦してんだから、それでいいだろ?」
「……。」
 意味わかんない。柊さんも多少強引なところはあるけど、ここまで強引じゃないんだけどな。
「俺がお前に近づいたのは、お前が葵の所で働いてるからだよ。葵にはうちで講師して欲しかったんだけどな、どうしてもやだって言うんだから、お前が入れる方法を他の奴に教えればいいんだよ。」
「教えられるようなことはありません。そんなレベルでもないし。」
「過小評価しすぎなんだよ。お前は。嫌みか。え?」
 酔うとめんどくさいタイプだ。マジで。酔ってないときに言うか?イヤさらに面倒だろうな。
 今人が周りにいるから手を出さないんであって、素面だと今度は操の危機だ。
「葵さんを裏切って、ヒジカタコーヒーに肩入れをする気はありません。」
「裏切る?」
「葵さんの技術を盗んで、ヒジカタコーヒーのためにコーヒーを入れろってことですよね。」
「それがどうして裏切りだよ。職人だったらいずれ自立するだろ?それとも何か?お前ずっとあそこで葵に使われる気か?」
「……いずれは辞めますけど。」
「もったいねぇじゃん。だったらうちの会社のためにコーヒーいれろよ。」
「やです。」
「強情な奴だな。」
 そういって彼はいつの間にか飲み終わったビールのカップを握りつぶして、私の手首に手をかける。
「なんですか?」
「使えるものは何でも使う。俺の体でも何でも使ってやるよ。」
 その言葉にぞっとした。そうだ。彼には前に襲われそうになったことがあるのだ。だめだ。彼について行ってはいけない。
「イヤです。」
「いいから来い。」
 そのときその手を振り払ってくれた人がいる。それは竹彦だった。
「……誰だ。お前。」
 竹彦は何も言わずに、私の手を引き走り出した。それはステージの方向だった。
「待てよ!」
 カップを落としてしまい、茅さんに思いっきりかかってしまった。
「冷てぇ。てめぇ!」
 そして竹彦は無言のまま、私をステージ脇につれてきた。ステージには徐々に人が集まってきているし、他のDJがまだパフォーマンスをしている最中で、音がうるさい。
「ちょっと待ってて。」
 竹彦はバックヤードに顔をのぞかせて、一人の人を連れてきた。それは前にクラブで会った菊音という男の人だった。
「菊音さん。」
「桜さんだっけか。竹彦の同級生だったか。」
「はい。ちょっと事情があって、しばらくかくまって欲しいんですけど。」
「……あぁ、Syuがそろそろ出番だ。特等席で見るかい?」
 意味ありげにほほえみ、彼は私をバックヤードへ促した。
「宜しくお願いします。」
「竹彦。蓬さんの所にそろそろ戻った方がいい。」
「はい。」
 ん?菊音さんは竹彦も、蓬さんも知っているの?どんな人なんだろう。この人。
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