109 / 355
一年目
109
しおりを挟む
コートを着て、戸惑ったけれど結局竹彦からもらった白いマフラーをつけた。そして暗い外にでる。正直少し怖いけれど、今日ばかりは夜中でも外にでている人も多いのだ。
十二月三十一日から一月一日になる。その瞬間をみんなで迎えようとしているから。向日葵たちと神社で待ち合わせをしている。
「ひさしぶりー。桜、忙しかったんじゃない?年末。」
「そうね。忙しかった。」
「今年は就職もあるし、大変だよね。」
就職か。やっぱり公務員って無理なのかなぁ。最近その話題になると落ち込んでしまう。
「桜ってやっぱ公務員目指してんの?」
「うん。だけどやっぱ大学まででないと無理なのかな。」
「後はコネかなぁ。」
「コネねぇ。」
んなものないけど。
「向日葵はどうするの?」
「あたし専門。美容師になるから。」
「あたしも専門だよ。」
やっぱみんな専門学校行くんだなぁ。うーん。お金かかるのに。
「あ、何?あの人。浮浪者?」
ふといわれてみるところにいる人。大きなリュックをしょった、なんかぼろぼろのコートとか、薄汚れたマフラーとかつけてる人。髭だらけで、髪も伸び放題のぼろぼろ。
「あんな人いるとちょっとねー。」
でも若い人っぽいな。若いのにそんな感じの人って何だろう。
そのときわっと周りが騒がしくなった。ふと見ると、そこには派手な格好をした梅子さんや松秋さんたちがいる。着物を着ていたり、ラメ入りのスーツを着ているから、何となく色物芸人のようだった。
「……何の集団?」
「あ、行ってくる。」
一応挨拶しないといけないかなぁ。私はお参りを終わらせて、梅子さんたちに近づいた。
「梅子さん。」
「あら、桜さん。新年おめでとう。今年もよろしくね。」
今日のテーマは何だろう。花魁とか、そんなのだろうか。
「桜さん。」
「松秋さんもおめでとうございます。」
「今年もよろしくな。たまには店に顔を出せよ。」
「はい。」
「最近は竹彦も来ないのよ。寂しいわぁ。」
竹彦も来ないという言葉に、私の心がずきっと痛んだ。何度も降って、私たちは別れたから。連絡の一つもとっていない。
「奴の周辺もちょっと騒がしくなっているからな。来る所じゃないんだろう。」
「騒がしい?」
「まぁ、高校生にはあまり関係のないことよ。それより、柊さんには会った?」
「いいえ。まだ。」
「そう。さっき見たんだけどね。」
「そうですか。後で連絡を入れてみます。」
「フフ。相変わらずつかず離れずね。まぁ、その距離感がいいんだろうけど。」
「前よりはふわふわしていない。いいことがあったんだろう。」
松秋さんの言葉に私は少し顔を赤らませた。
まだ暗いその時間に、私はアパートの外でそれを待った。寒い。足から冷えるようだった。それでもこれでもかって暗い厚着をしてこいという柊さんの言葉を信じ、私は厚着をして待つ。
やがてバイクの音がわずかに聞こえ、それは近づいてくる。見覚えのあるバイクは私の前で止まり、その人は私にヘルメットを手渡した。それをかぶると、後ろに乗り込み彼の体にしがみつくように乗り込んだ。
身を切るような冷たい風が打ち付ける。手袋をしていても手がかじかみそうだ。それでもぐっと力を入れて、彼にしがみつく。温かい体だけが唯一の温もりのようだった。
そしてついた先は、いつかやってきた海の町だった。何人か人がいる。たぶん目的はみんな一緒だろう。
海岸に降りると、少しずつ周りが明るくなるようだった。
「寒いな。コーヒーでも買うか。」
「そうですね。」
「缶コーヒーしかないが。」
「十分ですよ。暖まるだけなら。」
赤い自販機にお金を入れて温かいコーヒーを買う。手袋を外してふたを開けると、彼がわずかに笑った。
「どうしました?」
「それ、付けてくれているんだと思ってな。」
彼の視線の先は右手の薬指にされた指輪だった。
「こんな時じゃないとできませんから。普段はペンダントトップですよ。」
「俺も似たようなものだ。」
そういって彼は左手にしている腕時計を見せてきた。普段は作業着のポケットに入れているらしい。
「桜。」
「どうしました。」
肩に手をおいて、私を自分の引き寄せた。私は彼の肩により掛かる。年末は忙しくて触れられなかったから、触れられるのはクリスマス以来だろうか。
「人が見てますよ。」
「このまま聞いてくれればいい。」
「どうしました。」
彼は少し黙り、そして前を見ていう。
「今年の春に、別のところに派遣になる。」
「え?」
「あの学校は年度末までだ。」
「……。」
三年になる私はもう学校で柊さんに会うことはないといわれたようだった。
「……そうでしたか。」
我慢しなければいけない。だけど派遣だから、別のところにいく可能性もあるのだ。それは避けて通れない。わかっていた。だけど、辛かった。
「次の派遣先は、小学校だ。」
「え?」
「また学校かって思ったけどな。一度行ったところで……子供の声がうるさいところだったか。」
「同じ町ですか。」
「あぁ。最低一年はこの町にいたいと申請しているし。」
「……。」
「桜。いいところだけ見ろ。学校であっても声もかけられない、触れられない今より、きっと今からの方がいい。堂々とできるんだ。」
「……そうですね。」
そうだ。考え方によっては今よりもいい条件なんだ。こそこそとつきあうこともない。
空が明るくなる。そして日が登る。
「来年も、ずっと見よう。」
「はい。」
彼はそういって、私の頭をひきよせるとその頭にキスをした。
十二月三十一日から一月一日になる。その瞬間をみんなで迎えようとしているから。向日葵たちと神社で待ち合わせをしている。
「ひさしぶりー。桜、忙しかったんじゃない?年末。」
「そうね。忙しかった。」
「今年は就職もあるし、大変だよね。」
就職か。やっぱり公務員って無理なのかなぁ。最近その話題になると落ち込んでしまう。
「桜ってやっぱ公務員目指してんの?」
「うん。だけどやっぱ大学まででないと無理なのかな。」
「後はコネかなぁ。」
「コネねぇ。」
んなものないけど。
「向日葵はどうするの?」
「あたし専門。美容師になるから。」
「あたしも専門だよ。」
やっぱみんな専門学校行くんだなぁ。うーん。お金かかるのに。
「あ、何?あの人。浮浪者?」
ふといわれてみるところにいる人。大きなリュックをしょった、なんかぼろぼろのコートとか、薄汚れたマフラーとかつけてる人。髭だらけで、髪も伸び放題のぼろぼろ。
「あんな人いるとちょっとねー。」
でも若い人っぽいな。若いのにそんな感じの人って何だろう。
そのときわっと周りが騒がしくなった。ふと見ると、そこには派手な格好をした梅子さんや松秋さんたちがいる。着物を着ていたり、ラメ入りのスーツを着ているから、何となく色物芸人のようだった。
「……何の集団?」
「あ、行ってくる。」
一応挨拶しないといけないかなぁ。私はお参りを終わらせて、梅子さんたちに近づいた。
「梅子さん。」
「あら、桜さん。新年おめでとう。今年もよろしくね。」
今日のテーマは何だろう。花魁とか、そんなのだろうか。
「桜さん。」
「松秋さんもおめでとうございます。」
「今年もよろしくな。たまには店に顔を出せよ。」
「はい。」
「最近は竹彦も来ないのよ。寂しいわぁ。」
竹彦も来ないという言葉に、私の心がずきっと痛んだ。何度も降って、私たちは別れたから。連絡の一つもとっていない。
「奴の周辺もちょっと騒がしくなっているからな。来る所じゃないんだろう。」
「騒がしい?」
「まぁ、高校生にはあまり関係のないことよ。それより、柊さんには会った?」
「いいえ。まだ。」
「そう。さっき見たんだけどね。」
「そうですか。後で連絡を入れてみます。」
「フフ。相変わらずつかず離れずね。まぁ、その距離感がいいんだろうけど。」
「前よりはふわふわしていない。いいことがあったんだろう。」
松秋さんの言葉に私は少し顔を赤らませた。
まだ暗いその時間に、私はアパートの外でそれを待った。寒い。足から冷えるようだった。それでもこれでもかって暗い厚着をしてこいという柊さんの言葉を信じ、私は厚着をして待つ。
やがてバイクの音がわずかに聞こえ、それは近づいてくる。見覚えのあるバイクは私の前で止まり、その人は私にヘルメットを手渡した。それをかぶると、後ろに乗り込み彼の体にしがみつくように乗り込んだ。
身を切るような冷たい風が打ち付ける。手袋をしていても手がかじかみそうだ。それでもぐっと力を入れて、彼にしがみつく。温かい体だけが唯一の温もりのようだった。
そしてついた先は、いつかやってきた海の町だった。何人か人がいる。たぶん目的はみんな一緒だろう。
海岸に降りると、少しずつ周りが明るくなるようだった。
「寒いな。コーヒーでも買うか。」
「そうですね。」
「缶コーヒーしかないが。」
「十分ですよ。暖まるだけなら。」
赤い自販機にお金を入れて温かいコーヒーを買う。手袋を外してふたを開けると、彼がわずかに笑った。
「どうしました?」
「それ、付けてくれているんだと思ってな。」
彼の視線の先は右手の薬指にされた指輪だった。
「こんな時じゃないとできませんから。普段はペンダントトップですよ。」
「俺も似たようなものだ。」
そういって彼は左手にしている腕時計を見せてきた。普段は作業着のポケットに入れているらしい。
「桜。」
「どうしました。」
肩に手をおいて、私を自分の引き寄せた。私は彼の肩により掛かる。年末は忙しくて触れられなかったから、触れられるのはクリスマス以来だろうか。
「人が見てますよ。」
「このまま聞いてくれればいい。」
「どうしました。」
彼は少し黙り、そして前を見ていう。
「今年の春に、別のところに派遣になる。」
「え?」
「あの学校は年度末までだ。」
「……。」
三年になる私はもう学校で柊さんに会うことはないといわれたようだった。
「……そうでしたか。」
我慢しなければいけない。だけど派遣だから、別のところにいく可能性もあるのだ。それは避けて通れない。わかっていた。だけど、辛かった。
「次の派遣先は、小学校だ。」
「え?」
「また学校かって思ったけどな。一度行ったところで……子供の声がうるさいところだったか。」
「同じ町ですか。」
「あぁ。最低一年はこの町にいたいと申請しているし。」
「……。」
「桜。いいところだけ見ろ。学校であっても声もかけられない、触れられない今より、きっと今からの方がいい。堂々とできるんだ。」
「……そうですね。」
そうだ。考え方によっては今よりもいい条件なんだ。こそこそとつきあうこともない。
空が明るくなる。そして日が登る。
「来年も、ずっと見よう。」
「はい。」
彼はそういって、私の頭をひきよせるとその頭にキスをした。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる