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一年目
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日曜日は「窓」のバイトしか予定がないので、家の用事や買い物を済ませると「窓」へ向かう。
すると窓の入り口で、うろうろしている人を見た。誰だろう。怪しい人。
思い切って話しかけようか。でもいきなり刺されたり、襲われたりしてもやだなぁ。うーん。どうしよう。
「……何をしてるの?」
後ろを振り向くと、そこには竹彦の姿があった。もちろん女装はしていない。
「あ、竹彦君。」
「怪しい人に見えるよ。」
「私が怪しいんじゃないの。変な人がいるからなんか入りづらいと思って。」
「変な人?」
すると彼もそこをみる。
「……確かに変な人がいるね。うろうろしてる。話しかけてみようか。」
竹彦は学校とは印象の違う格好をしているからだろうか。気が大きくなってる気がする。
髪をあげて、耳にはピアスをたくさんしてて、なんかパンクロッカーのようだ。たぶん楽器弾けないけど。でもそれで気持ちが変わるなんて、洋服の力って偉大だわ。
「すいません、何か用事ですか。」
「……。」
その人は振り返る。その顔を見て私は驚いた。
「……蓮さん。」
彼は気まずそうに私を見ていた。
「入らないんですか。」
「……様子を見に来ただけです。」
「……。」
何だろう。仕事の時はあんなに毒舌で、出来ないヤツはくずくらいの言い方しかしないのに、普段は何でこんなにイライラする人になっているんだろう。
「知り合い?」
「葵さんの弟らしいわ。」
「あぁ。似てるね。でも何で?知り合いなの?」
「夏休みの間だけヘルプで行ってるバイト先の上司。」
「ふーん。」
「私、時間が迫ってるので入ります。入るのだったらご自由に。でもこのままうろうろしてたら、警察に通報されますよ。」
それだけ言うと、私は中に入っていった。それに続いて竹彦も入っていった。
「……どうしたんですか?桜さん。」
「え?」
「顔が険しいですよ。」
「そうですか?」
私はカウンターに入り、顔をパンパンと叩いた。
「あ、いらっしゃいませ。竹彦君。」
「……アイスコーヒーもらえますか。」
「普段はホットだけと思ってましたよ。でも暑いですからね。」
「外が暑かったんでたまには。」
「少し待ってください。あ、いらっしゃいませ。」
誰か入ってきたらしい。早く着替えないといけないかなぁ。
「……蓮。」
振り返ってそちらをみる。すると蓮さんがこちらを見て立ち尽くしていた。
まるでお通夜のような空気だ。他の人がいなくて良かった。私は竹彦の前にいて、コーヒーを入れていた。蓮さんが飲むと言ったのだ。
「お父さんは元気か。」
やっと葵さんが笑顔のままで蓮さんに聞いた。
「はい。あの、夕べ桜さんにコーヒー豆を渡したんですけど。」
「あぁ。やっぱりあれはお父さんのモノか。」
「渡してくれと頼まれてましたが……。」
「飲めるわけがないだろう。あれがどれだけ時間が経っていると思っているんだ。しかもビニールに入れるなんて、コーヒー豆を窒息させる気か。全く、コーヒーのことを何も知らないんだな。」
うーん。なんかすごい言われているなぁ。昨日あれだけ言われていた蓮さんと同じ人物に見えない。
「……父さんは兄さんに謝りたいと。」
「聞く気はない。」
ばっさりと切り取ったなぁ。私はコーヒーを入れ終わり、蓮さんの前にコーヒーを置いた。
「兄さん。少しずつですけど、父さんのコーヒー豆はこの国に入ってきています。詐欺だって言われていたのは知ってますけど、でも徐々に詐欺ではなくなっているんですよ。」
「あなたもとても迷惑しただろう。本当ならもっと大きな会社に入れるような学歴を持っているのに、あの人のせいで小さい会社の事務員に成り下がっているなんて。」
「生活には困ってませんよ。」
「……そうだったな。お前には嫁も息子もいるんだったっけ。」
「えぇ。」
「心の広い人で良かったな。」
うーん。あまり詳しい話が見えないけど、どうやら葵さんと蓮さんの父親が作ったコーヒー豆を私が夕べ届けたらしい。
でもあまりいい印象を葵さんは持っていないようだ。それが「詐欺」という単語になるのかもしれない。
「兄さんも変わりましたね。昔の印象とは違います。」
「……もう子供じゃないからな。」
すると黙っていた竹彦が私に声をかけた。
「桜さん。何の会社で昼のバイトを?」
「コーヒー豆とか、コーヒーの用品を卸す会社。うちの母の紹介で。」
「大変そうだ。」
「商品が多くてまだ把握できないの。」
「一日では無理ですよ。パンフレットを持って帰ったのでしょう。」
「はい。」
「ではそれで勉強をしてください。」
そう言って蓮さんはコーヒーを一口飲んだ。
「蓮。コーヒーは美味しいでしょう?」
「えぇ。」
「私が仕込んだから。私は桜さんに叱った記憶はない。でも彼女は成長する。頭ごなしに叱るだけでは下のモノは付いてこないんだ。あなたの会社の人材が育たないのはそう言うところもあるんじゃないのか。」
そうかもしれない。ちょっと誤解はされやすいけれど、蓮さんのいっていることはまともだ。だがその言い方にもよるのかもしれない。
”十人十色という言葉もあるように、人は人によって全く違います。上に立つ人間はその人を見抜く力が必要になり、一人一人にあった指導をしないといけません。それは大変なことでしょう。しかしそれをこなさなければ、人にモノを教えることは出来ないのです。”
”たいていの人は上に立つと勘違いをする。自分が偉いのだと。しかし偉い人は偉くなったと自覚しないものです。”
最近、支社長を見るとこの椿さんの言葉を思い出す。
すると窓の入り口で、うろうろしている人を見た。誰だろう。怪しい人。
思い切って話しかけようか。でもいきなり刺されたり、襲われたりしてもやだなぁ。うーん。どうしよう。
「……何をしてるの?」
後ろを振り向くと、そこには竹彦の姿があった。もちろん女装はしていない。
「あ、竹彦君。」
「怪しい人に見えるよ。」
「私が怪しいんじゃないの。変な人がいるからなんか入りづらいと思って。」
「変な人?」
すると彼もそこをみる。
「……確かに変な人がいるね。うろうろしてる。話しかけてみようか。」
竹彦は学校とは印象の違う格好をしているからだろうか。気が大きくなってる気がする。
髪をあげて、耳にはピアスをたくさんしてて、なんかパンクロッカーのようだ。たぶん楽器弾けないけど。でもそれで気持ちが変わるなんて、洋服の力って偉大だわ。
「すいません、何か用事ですか。」
「……。」
その人は振り返る。その顔を見て私は驚いた。
「……蓮さん。」
彼は気まずそうに私を見ていた。
「入らないんですか。」
「……様子を見に来ただけです。」
「……。」
何だろう。仕事の時はあんなに毒舌で、出来ないヤツはくずくらいの言い方しかしないのに、普段は何でこんなにイライラする人になっているんだろう。
「知り合い?」
「葵さんの弟らしいわ。」
「あぁ。似てるね。でも何で?知り合いなの?」
「夏休みの間だけヘルプで行ってるバイト先の上司。」
「ふーん。」
「私、時間が迫ってるので入ります。入るのだったらご自由に。でもこのままうろうろしてたら、警察に通報されますよ。」
それだけ言うと、私は中に入っていった。それに続いて竹彦も入っていった。
「……どうしたんですか?桜さん。」
「え?」
「顔が険しいですよ。」
「そうですか?」
私はカウンターに入り、顔をパンパンと叩いた。
「あ、いらっしゃいませ。竹彦君。」
「……アイスコーヒーもらえますか。」
「普段はホットだけと思ってましたよ。でも暑いですからね。」
「外が暑かったんでたまには。」
「少し待ってください。あ、いらっしゃいませ。」
誰か入ってきたらしい。早く着替えないといけないかなぁ。
「……蓮。」
振り返ってそちらをみる。すると蓮さんがこちらを見て立ち尽くしていた。
まるでお通夜のような空気だ。他の人がいなくて良かった。私は竹彦の前にいて、コーヒーを入れていた。蓮さんが飲むと言ったのだ。
「お父さんは元気か。」
やっと葵さんが笑顔のままで蓮さんに聞いた。
「はい。あの、夕べ桜さんにコーヒー豆を渡したんですけど。」
「あぁ。やっぱりあれはお父さんのモノか。」
「渡してくれと頼まれてましたが……。」
「飲めるわけがないだろう。あれがどれだけ時間が経っていると思っているんだ。しかもビニールに入れるなんて、コーヒー豆を窒息させる気か。全く、コーヒーのことを何も知らないんだな。」
うーん。なんかすごい言われているなぁ。昨日あれだけ言われていた蓮さんと同じ人物に見えない。
「……父さんは兄さんに謝りたいと。」
「聞く気はない。」
ばっさりと切り取ったなぁ。私はコーヒーを入れ終わり、蓮さんの前にコーヒーを置いた。
「兄さん。少しずつですけど、父さんのコーヒー豆はこの国に入ってきています。詐欺だって言われていたのは知ってますけど、でも徐々に詐欺ではなくなっているんですよ。」
「あなたもとても迷惑しただろう。本当ならもっと大きな会社に入れるような学歴を持っているのに、あの人のせいで小さい会社の事務員に成り下がっているなんて。」
「生活には困ってませんよ。」
「……そうだったな。お前には嫁も息子もいるんだったっけ。」
「えぇ。」
「心の広い人で良かったな。」
うーん。あまり詳しい話が見えないけど、どうやら葵さんと蓮さんの父親が作ったコーヒー豆を私が夕べ届けたらしい。
でもあまりいい印象を葵さんは持っていないようだ。それが「詐欺」という単語になるのかもしれない。
「兄さんも変わりましたね。昔の印象とは違います。」
「……もう子供じゃないからな。」
すると黙っていた竹彦が私に声をかけた。
「桜さん。何の会社で昼のバイトを?」
「コーヒー豆とか、コーヒーの用品を卸す会社。うちの母の紹介で。」
「大変そうだ。」
「商品が多くてまだ把握できないの。」
「一日では無理ですよ。パンフレットを持って帰ったのでしょう。」
「はい。」
「ではそれで勉強をしてください。」
そう言って蓮さんはコーヒーを一口飲んだ。
「蓮。コーヒーは美味しいでしょう?」
「えぇ。」
「私が仕込んだから。私は桜さんに叱った記憶はない。でも彼女は成長する。頭ごなしに叱るだけでは下のモノは付いてこないんだ。あなたの会社の人材が育たないのはそう言うところもあるんじゃないのか。」
そうかもしれない。ちょっと誤解はされやすいけれど、蓮さんのいっていることはまともだ。だがその言い方にもよるのかもしれない。
”十人十色という言葉もあるように、人は人によって全く違います。上に立つ人間はその人を見抜く力が必要になり、一人一人にあった指導をしないといけません。それは大変なことでしょう。しかしそれをこなさなければ、人にモノを教えることは出来ないのです。”
”たいていの人は上に立つと勘違いをする。自分が偉いのだと。しかし偉い人は偉くなったと自覚しないものです。”
最近、支社長を見るとこの椿さんの言葉を思い出す。
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