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忘れられない、忘れてはいけない
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検査を終えた瑞希は何の薬の痕跡も無かった。それに安心して弥生達はそのまま「flipper」を出て行き、圭太と真二郎はコレで安心だと思っていた。だがそれもすぐに打ち消される。
一馬から圭太に連絡があったのだ。
「え?兄さんが?」
どうやら家に帰ってきた響子を待ち伏せしていた。そして連れ去ろうとしていたのだ。それは響子が抵抗し、そして一馬がすぐに帰ってきたことで事なきを得たのだという。
「……そっか。兄さんにはやはり言わないといけないことが沢山ありそうだ。うん……。怖い思いをさせて悪かったって言っておいてくれないか。アレだったら明日休んでも良いし……。うん……こっちは大丈夫だ。功太郎もいるし、店を開けれないことも無いから。」
警察の行き来は収まり、町は普段の様子に戻っていた。その様子を見て真二郎は少しため息をつく。
「そう言うと思った。でも無理はしなくても良いから。うん……。じゃあ、お休み。」
圭太は携帯電話を切ると、真二郎の方を見る。
「響子が兄さんに連れ去られそうになったらしい。」
「響子は必死だったんだろうね。」
昔なら手も足も出ずに、ただ連れ去られていたかも知れない。やっと抵抗が出来るようになったのは嬉しいことだ。
「あぁ……。」
「……あのさ。響子には言わないで欲しいんだけど。」
「何だよ。」
「俺、信也さんから取引を持ちかけられたんだ。」
その言葉に圭太は驚いて真二郎を見る。
「取引?」
「うん……。実は……。」
ウリセンをやめようと思ったのはコレが原因だったかも知れない。何の目的で近づいたのかはわからないが、昔のことを持ちかけられ圭太を陥れようと結託することを持ちかけられたのだ。
「……俺を?」
「あぁ。響子からオーナーを離して欲しいと言われた。響子は家にとって都合が悪いらしい。」
「昔のことか?」
「まぁ。それもあるけど……。」
コレを言うのは奥の手だと思った。だが圭太だったら、もしかしたら何か手を打つかも知れない。そう思った。
「響子が中学生の時に拉致をされた。その主犯格は捕まっていない。そしてその主犯格はいまだに逃げている。」
「ヤクザか何かになったのかもな。」
「違う……。自分では手を下していない。その人はただ餌になる画像や動画が欲しかっただけだ。なんせ裏ビデオのようなことをその当時からしていたのだから。」
「裏……。あ……。」
その言葉に圭太の顔色が青くなる。信也が大学生の時、大学の授業料だけであとの小遣いはいらないと両親に言っていた。バイトをしているからだと言っていたが、信也がまさかそんなことに手を出しているとは思ってもなかったのだ。
「まさか、兄さんが指示をして響子を拉致したって言うのか。」
「可能性はある。確証は無いけどね。ただ……これだけ拡散されているんだ。その画像はどこかへ売ったんだろう。どこかって言うのは……。」
「ヤクザか。」
あり得ない話では無い。と言うか真実だろう。
「でも何度も顔を合わせてて、兄さんが気がつかなかったとは考えにくい。」
「だからだよ。そこまで興味も無かった。女はただの商品くらいしか思ってなかったんだ。だから印象にも残らない。なのに……再会した響子は、強い女性になっていた。その強さは張りぼてだと気がついていないまま、ただ屈服させたかった。」
真二郎はそう言って拳を握りしめた。もし響子が今度レイプされるようなことがあれば、二度と立ち直れない。それくらい響子はその事件で傷ついていたのだ。
「オーナー。どうする?」
「……どうって……。」
「信也さんにどう報復する?言っておくけど、縁を切るなんて出来ないよ。それはオーナーが一番わかっていると思うけど。」
その言葉に圭太は少し頷いた。そしてそんな会社は無くなってしまえば良いとまで思う。
そして二度と響子に信也を近づけさせたくなかった。
雨が続いたその日。圭太はニュースを見ていた。
大規模な裏のソフトの摘発。ヤクザも絡んでいたが、主たる金融会社も中にはあり、その中には「新山商会」の名前もあった。
だがその中に信也の名前は無く、それでも誠実なイメージを作りたいのか記者会見をして頭を下げたのは父と信也だった。部下が勝手にしたことだと言われていたが、それを管理しているのは紛れもなくこの二人なのだから。
濡れている髪をタオルで拭き、圭太はソファーから立ち上がると外を見た。雲の切れ間から晴れ間が出てくる。もう夏が近いのだろう。
「圭君。」
声が聞こえるような気がした。振り返るとそこには真子が居て、食事を作っている幻想を見た。
「……何も変わってないな。」
自分が真子を忘れられないように、響子も忘れていない。そして真二郎も忘れていなかった。
「何も変わらなくても良いのかもな。」
そう言って圭太は棚に置いてある箱をあけた。そこには指輪がある。その箱をしまい、そしてドライヤーで髪を乾かした。
部屋の片隅には段ボールがある。それに荷物を詰め込んでいるのだ。引っ越しをするために。そこから圭太の一歩が始まると信じているから。
一馬から圭太に連絡があったのだ。
「え?兄さんが?」
どうやら家に帰ってきた響子を待ち伏せしていた。そして連れ去ろうとしていたのだ。それは響子が抵抗し、そして一馬がすぐに帰ってきたことで事なきを得たのだという。
「……そっか。兄さんにはやはり言わないといけないことが沢山ありそうだ。うん……。怖い思いをさせて悪かったって言っておいてくれないか。アレだったら明日休んでも良いし……。うん……こっちは大丈夫だ。功太郎もいるし、店を開けれないことも無いから。」
警察の行き来は収まり、町は普段の様子に戻っていた。その様子を見て真二郎は少しため息をつく。
「そう言うと思った。でも無理はしなくても良いから。うん……。じゃあ、お休み。」
圭太は携帯電話を切ると、真二郎の方を見る。
「響子が兄さんに連れ去られそうになったらしい。」
「響子は必死だったんだろうね。」
昔なら手も足も出ずに、ただ連れ去られていたかも知れない。やっと抵抗が出来るようになったのは嬉しいことだ。
「あぁ……。」
「……あのさ。響子には言わないで欲しいんだけど。」
「何だよ。」
「俺、信也さんから取引を持ちかけられたんだ。」
その言葉に圭太は驚いて真二郎を見る。
「取引?」
「うん……。実は……。」
ウリセンをやめようと思ったのはコレが原因だったかも知れない。何の目的で近づいたのかはわからないが、昔のことを持ちかけられ圭太を陥れようと結託することを持ちかけられたのだ。
「……俺を?」
「あぁ。響子からオーナーを離して欲しいと言われた。響子は家にとって都合が悪いらしい。」
「昔のことか?」
「まぁ。それもあるけど……。」
コレを言うのは奥の手だと思った。だが圭太だったら、もしかしたら何か手を打つかも知れない。そう思った。
「響子が中学生の時に拉致をされた。その主犯格は捕まっていない。そしてその主犯格はいまだに逃げている。」
「ヤクザか何かになったのかもな。」
「違う……。自分では手を下していない。その人はただ餌になる画像や動画が欲しかっただけだ。なんせ裏ビデオのようなことをその当時からしていたのだから。」
「裏……。あ……。」
その言葉に圭太の顔色が青くなる。信也が大学生の時、大学の授業料だけであとの小遣いはいらないと両親に言っていた。バイトをしているからだと言っていたが、信也がまさかそんなことに手を出しているとは思ってもなかったのだ。
「まさか、兄さんが指示をして響子を拉致したって言うのか。」
「可能性はある。確証は無いけどね。ただ……これだけ拡散されているんだ。その画像はどこかへ売ったんだろう。どこかって言うのは……。」
「ヤクザか。」
あり得ない話では無い。と言うか真実だろう。
「でも何度も顔を合わせてて、兄さんが気がつかなかったとは考えにくい。」
「だからだよ。そこまで興味も無かった。女はただの商品くらいしか思ってなかったんだ。だから印象にも残らない。なのに……再会した響子は、強い女性になっていた。その強さは張りぼてだと気がついていないまま、ただ屈服させたかった。」
真二郎はそう言って拳を握りしめた。もし響子が今度レイプされるようなことがあれば、二度と立ち直れない。それくらい響子はその事件で傷ついていたのだ。
「オーナー。どうする?」
「……どうって……。」
「信也さんにどう報復する?言っておくけど、縁を切るなんて出来ないよ。それはオーナーが一番わかっていると思うけど。」
その言葉に圭太は少し頷いた。そしてそんな会社は無くなってしまえば良いとまで思う。
そして二度と響子に信也を近づけさせたくなかった。
雨が続いたその日。圭太はニュースを見ていた。
大規模な裏のソフトの摘発。ヤクザも絡んでいたが、主たる金融会社も中にはあり、その中には「新山商会」の名前もあった。
だがその中に信也の名前は無く、それでも誠実なイメージを作りたいのか記者会見をして頭を下げたのは父と信也だった。部下が勝手にしたことだと言われていたが、それを管理しているのは紛れもなくこの二人なのだから。
濡れている髪をタオルで拭き、圭太はソファーから立ち上がると外を見た。雲の切れ間から晴れ間が出てくる。もう夏が近いのだろう。
「圭君。」
声が聞こえるような気がした。振り返るとそこには真子が居て、食事を作っている幻想を見た。
「……何も変わってないな。」
自分が真子を忘れられないように、響子も忘れていない。そして真二郎も忘れていなかった。
「何も変わらなくても良いのかもな。」
そう言って圭太は棚に置いてある箱をあけた。そこには指輪がある。その箱をしまい、そしてドライヤーで髪を乾かした。
部屋の片隅には段ボールがある。それに荷物を詰め込んでいるのだ。引っ越しをするために。そこから圭太の一歩が始まると信じているから。
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