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罠
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協賛企業の名前を見て、圭太はそのイベントのチラシを剥いでしまった。どんなやり方をしているのか、圭太は恐らく一馬以上に詳しいのだ。ヤクザと手を組んでいるような企業がクラブを食い物にしているのだろう。
「天草さんってだけで人が集まるのかな。」
四人でまとまって帰っている。功太郎は隣で歩いているそう聞くと圭太は少し頷いた。
「多分な。少し前だけど、ジャズのミックスのアルバムで曲を提供してる。缶コーヒーのCMに使われてたし、割と集まるかもしれないな。」
「それを餌にするってことだ。」
真二郎はそう言って響子の方を見る。響子は全てを知っていたようだ。だからあのカウンター席から立ち上がろうともしなかった。おそらく一馬から聞いていたのだろう。一馬は用心深い人だ。そして簡単にそんなイベントに足を運ぶような軽率な真似はしないのだ。そして響子もまた裕太をそこまで信用していない。
「一馬さんにチケット渡してたみたいだけど、一馬さんは行かないんだよね?」
真二郎がそう響子に聞くと、響子は頷いた。」
「どちらにしてもその日は遅くまで仕事があると言っていたわ。ジャズバンドのライブがあるみたいなの。」
「久々にジャズか。響子は聴きに行かないのか?」
功太郎が聞くと、響子は少し笑う。
「そうね。素人のジャズだったらどうかと思うけど、プロの演奏は聴き応えもあるし聴いてみてもいいかな。」
その言葉に圭太は少し唇を尖らせた。自分の叩いているドラムが素人音楽だと言われているようで腹が立つ。
だが思い直した。それで圭太も食べているわけではない。所詮趣味の延長なのだ。ドラムを極めようとも思わない。
「どこでするの?」
「M地区。倉庫を改造したようなライブハウスがあるでしょう?そこで年末にライブをした女性……女優もしている……なんて言ったかな。その人がライブをするみたいなの。それに呼ばれている。」
最近その女性はCDを出した。そのお披露目や宣伝もかねてライブをするのだろう。
「多分、ジャズじゃなくてシャンソンか何かだろうな。加藤啓介のライブも頼まれてるんだろ?それで良くまたライブをしようと思うよな。」
圭太はそう言うと、やはり自分とは世界が違うと思い直し、そしてもう響子は自分の手に入らない人だと思い、暗くなった空を眺めた。
マンションの中に入り、エレベーターに乗る。そして先ほどまでの響子を思い出していた。
心底、一馬に惚れている。そんな顔だった。そして頼りにしているのだ。もう自分の居場所がない。そんな風に思えた。そしてそんな自分が女々しく思う。
かといって夏子に転びたくない。都合が良すぎるし、そんな真似は出来ない。
そう思いながら圭太はエレベーターの階を降りると、自分の部屋の前に立ち家の鍵をバッグのポケットから取り出そうとした。だがその鍵とともに出てきたのは見覚えのあるブレスレットだった。それは響子が仕事以外はいつも付けている緑色の石が入ったモノ。そしてそれと似たようなモノを一馬も付けていた。
と言うことはコレは響子のモノか。そう思いながら鍵を開けて家の中に入ると、響子にメッセージを入れる。響子は電車なんかにいるときは電話を取らないのだから。
ソファに座り、そのブレスレットを見ていた。手首に付ける輪っかのようなモノで、手錠に見えないこともなかった。それが響子を繋ぎ、一馬を繋いでいるように見えてやるせない。お互いがお互いを縛っている。
圭太と居たときはそんな感じではなかったのに。縛られることを嫌って、自分のやりたいことをやって、圭太を振り回していたように感じていた。
もし一馬と響子が結婚でもして一緒になったら、響子は耐えられるのだろうか。
いつも通り店にやってきてコーヒーを淹れ、家に帰って帰ってくるのかわからない一馬を待つのだ。そんな女になりたいのだろうかと言われたら、響子はそんな女ではないように思える。黙って内助の功を出来るような女ではないのだから。
しばらくブレスレットを見ていた。そのブレスレットはシンプルで、石が入っていると言っても僅かだ。こう言うのが好きだったのだろうか。
真子に差しだそうと思った指輪は、給料やボーナスを蓄えて圭太にしては相当良い額の指輪を買った。キラキラした石と、シルバーの指輪を真子に差し出して喜んでもらえると思っていたのだ。その指輪は、クローゼットの奥にしまわれている。本当だったら真子の棺桶や墓に添えたいと思ったが、葬式にも出ることを向こうの親が、特に功太郎が嫌がりその願いは叶わなかった。だからまだその指輪はこの部屋にあるのだ。
響子にも喜んでもらいたいと思った。だがこのブレスレットのデザインはきっと圭太では選ばない。そういう所も二人のずれはあったのだろう。
しばらくそうしていると携帯電話が鳴った。その音にブレスレットをテーブルに置いた圭太はその電話を取る。
「あぁ。ある。どうやったら俺のバッグに入るんだって話だけど。まぁそんなの今はどうでも良いわ。急ぐもんじゃないだろ?明日、渡そうか?」
響子もずっと手首に違和感を感じていた。ずっと付けていたのに今日は何かが足りないと思っていたらしい。駅について携帯を見るとそこに圭太からのメッセージがあり、やっと気がついたのだ。
「こっちに?別に良いけどさ……。」
今から電車に乗り直してこちらに来るという。時間を考えると帰りの電車はギリギリかもしれない。圭太はため息をつくと、わかったと言って電話を切った。
響子がこの部屋に来る。新年会の時以来だろうか。そして二人でいるのはどれくらいぶりだろう。そう思うと圭太はいてもたってもいられない。
埃が見える。ドライシートでとりあえず拭いておこうか。そう思ってモップを手にした。だがその時ふと我に返る。
「嫌……何してんだ。俺。」
別に家に上がるわけではない。玄関先でブレスレットを渡して終わりかもしれないのだ。なのにどうしてこんなにそわそわしているのだろう。
それは響子だから。
響子がまだ好きだからなのだ。
落ち着くように、キッチンへ行くとコップを取り出し冷蔵庫から水を出すとそれに注ぎ、一気に飲み干した。響子が来るまで食事の用意でもしようかと、冷蔵庫をまた開ける。だがその行動はそわそわとしているようだ。
そうこうしていると、部屋のチャイムが鳴った。急ぎ足でのぞき穴から向こうを見ると、響子の姿があり圭太はそのドアを開ける。
「悪かったわね。最近ブレスレットが緩くて、すっぽ抜けるのよ。道なんかに落ちて無くて良かったわ。」
本当に引き返してきたのだ。別れたときと同じ格好をしている。
「ちょっと待ってろよ。持ってくるから。」
そう言って圭太はテーブルに置いてあったブレスレットを手にする。そして響子が待つ玄関へ向かった。
「コレな。」
「ありがとう。」
そう言って響子はそのブレスレットをまた自分の手首にはめた。確かに緩そうになってきた。だがそれは痩せてそうなったのではなく、おそらく筋肉が付いたと言えるだろう。
「作り直すか、買い直した方が良いな。」
「そうね。一馬は逆なのよ。ピチピチになってきたって。」
「そっちも筋肉が付いたのかな。」
「そうかもしれないわ。私は締まってきたのかもしれないけど、あちらは締まる必要は無いから筋肉が付いたと言えるわね。」
お互いに体を作ってきている。響子だって、一馬に合わせるようになっているのだ。いつか早朝に走っているところを見た。最近は走るだけではなく運動をするのにジムへ行ったりすることもあるらしい。
「プロテインとか飲んでんのか?」
「まさか。ボディビルダーになるわけじゃないのよ。」
響子はそう言って少し笑う。だが一馬の体を見ると、それを疑っても仕方が無い。
「それもそうか。」
「体を作るのは健康な食生活と睡眠でしょ?」
「その割には真二郎は痩せてたよな。」
「真二郎はほとんど食べないもの。今考えるとウサギの餌かよって思うわ。」
食べる量も違う。男らしさも違う。そして考え方も全く違う。それが響子が今好きな人なのだ。響子によく似たストイックな男。それが好きなのだ。
「……そろそろ帰るわね。電車が無くなりそうだから。あぁ。コレ。飲んで。」
そう言って響子は手に持っていたビニール袋を手渡す。それはビールの缶だった。発泡酒ではなく本当のビールだ。
「わざわざ買ってきたのか?」
「今日は飲まないでおいてよ。」
「何で?」
「吐いたじゃない?店で。」
甘い物を口にしたからだ。それはきっと精神的なモノだと思う。自分だってまだ真子を忘れられていないのだ。
「まぁ……そうだな。だったら、響子。今日は飲まないけど送らせろよ。」
その言葉に響子は驚いたように圭太を見る。
「え?そんなつもりで来たんじゃないのよ。」
「別に良いから。どっちにしても一人で帰らせられるか。」
信也のことや時間を考えると、一人でふらふら帰らせられない。おそらく今日、天草裕太から響子はイベントへ行かないし、一馬も行かないことは裕太の口から信也に伝えられただろう。明らかに信也は響子を狙っている。なのに響子は全く信也になびかない。
もしかしたら強引なことをしてくるかもしれない。そして強引なこととは、それはつまり響子が一番恐怖に感じていることだ。
「大丈夫よ。K町だったら……。」
「古参の店はお前や一馬さんのことはよく知っているかもしれない。でもあの町は入れ替わりが激しいところだ。お前のことを知らない店だってあるんだろう?強引に声をかけられるだけなら良いけど、連れ去られたりしたらどうするんだ。時間的にもそういう奴らが多いところだろう?」
信也のことを匂わせたくない。その一心で、圭太は誤魔化すように伝えた。
「……まぁ……そうね。」
確かにこんなに夜遅くになるのは久しぶりだ。あまりにも遅いと一馬が迎えに来ることもあるが、今日は帰れるかどうかもわからないと言っていたし、そういうときは真二郎と一緒に帰ることもあるが、真二郎はもうすでに仕事へ行ってしまった。そう考えると圭太の心配もわかる。響子は圭太を見上げると少し笑って言う。
「だったらお願いするわ。」
「お願いしますだろ?」
「お願いします。」
「うん。ちょっと待ってろ。そこで良いから。」
自分が浮き足立っているようだ。K町までそんなに離れているわけではない。だが、その間、デート気分を味わえるのだ。それが嬉しいと思う。
「天草さんってだけで人が集まるのかな。」
四人でまとまって帰っている。功太郎は隣で歩いているそう聞くと圭太は少し頷いた。
「多分な。少し前だけど、ジャズのミックスのアルバムで曲を提供してる。缶コーヒーのCMに使われてたし、割と集まるかもしれないな。」
「それを餌にするってことだ。」
真二郎はそう言って響子の方を見る。響子は全てを知っていたようだ。だからあのカウンター席から立ち上がろうともしなかった。おそらく一馬から聞いていたのだろう。一馬は用心深い人だ。そして簡単にそんなイベントに足を運ぶような軽率な真似はしないのだ。そして響子もまた裕太をそこまで信用していない。
「一馬さんにチケット渡してたみたいだけど、一馬さんは行かないんだよね?」
真二郎がそう響子に聞くと、響子は頷いた。」
「どちらにしてもその日は遅くまで仕事があると言っていたわ。ジャズバンドのライブがあるみたいなの。」
「久々にジャズか。響子は聴きに行かないのか?」
功太郎が聞くと、響子は少し笑う。
「そうね。素人のジャズだったらどうかと思うけど、プロの演奏は聴き応えもあるし聴いてみてもいいかな。」
その言葉に圭太は少し唇を尖らせた。自分の叩いているドラムが素人音楽だと言われているようで腹が立つ。
だが思い直した。それで圭太も食べているわけではない。所詮趣味の延長なのだ。ドラムを極めようとも思わない。
「どこでするの?」
「M地区。倉庫を改造したようなライブハウスがあるでしょう?そこで年末にライブをした女性……女優もしている……なんて言ったかな。その人がライブをするみたいなの。それに呼ばれている。」
最近その女性はCDを出した。そのお披露目や宣伝もかねてライブをするのだろう。
「多分、ジャズじゃなくてシャンソンか何かだろうな。加藤啓介のライブも頼まれてるんだろ?それで良くまたライブをしようと思うよな。」
圭太はそう言うと、やはり自分とは世界が違うと思い直し、そしてもう響子は自分の手に入らない人だと思い、暗くなった空を眺めた。
マンションの中に入り、エレベーターに乗る。そして先ほどまでの響子を思い出していた。
心底、一馬に惚れている。そんな顔だった。そして頼りにしているのだ。もう自分の居場所がない。そんな風に思えた。そしてそんな自分が女々しく思う。
かといって夏子に転びたくない。都合が良すぎるし、そんな真似は出来ない。
そう思いながら圭太はエレベーターの階を降りると、自分の部屋の前に立ち家の鍵をバッグのポケットから取り出そうとした。だがその鍵とともに出てきたのは見覚えのあるブレスレットだった。それは響子が仕事以外はいつも付けている緑色の石が入ったモノ。そしてそれと似たようなモノを一馬も付けていた。
と言うことはコレは響子のモノか。そう思いながら鍵を開けて家の中に入ると、響子にメッセージを入れる。響子は電車なんかにいるときは電話を取らないのだから。
ソファに座り、そのブレスレットを見ていた。手首に付ける輪っかのようなモノで、手錠に見えないこともなかった。それが響子を繋ぎ、一馬を繋いでいるように見えてやるせない。お互いがお互いを縛っている。
圭太と居たときはそんな感じではなかったのに。縛られることを嫌って、自分のやりたいことをやって、圭太を振り回していたように感じていた。
もし一馬と響子が結婚でもして一緒になったら、響子は耐えられるのだろうか。
いつも通り店にやってきてコーヒーを淹れ、家に帰って帰ってくるのかわからない一馬を待つのだ。そんな女になりたいのだろうかと言われたら、響子はそんな女ではないように思える。黙って内助の功を出来るような女ではないのだから。
しばらくブレスレットを見ていた。そのブレスレットはシンプルで、石が入っていると言っても僅かだ。こう言うのが好きだったのだろうか。
真子に差しだそうと思った指輪は、給料やボーナスを蓄えて圭太にしては相当良い額の指輪を買った。キラキラした石と、シルバーの指輪を真子に差し出して喜んでもらえると思っていたのだ。その指輪は、クローゼットの奥にしまわれている。本当だったら真子の棺桶や墓に添えたいと思ったが、葬式にも出ることを向こうの親が、特に功太郎が嫌がりその願いは叶わなかった。だからまだその指輪はこの部屋にあるのだ。
響子にも喜んでもらいたいと思った。だがこのブレスレットのデザインはきっと圭太では選ばない。そういう所も二人のずれはあったのだろう。
しばらくそうしていると携帯電話が鳴った。その音にブレスレットをテーブルに置いた圭太はその電話を取る。
「あぁ。ある。どうやったら俺のバッグに入るんだって話だけど。まぁそんなの今はどうでも良いわ。急ぐもんじゃないだろ?明日、渡そうか?」
響子もずっと手首に違和感を感じていた。ずっと付けていたのに今日は何かが足りないと思っていたらしい。駅について携帯を見るとそこに圭太からのメッセージがあり、やっと気がついたのだ。
「こっちに?別に良いけどさ……。」
今から電車に乗り直してこちらに来るという。時間を考えると帰りの電車はギリギリかもしれない。圭太はため息をつくと、わかったと言って電話を切った。
響子がこの部屋に来る。新年会の時以来だろうか。そして二人でいるのはどれくらいぶりだろう。そう思うと圭太はいてもたってもいられない。
埃が見える。ドライシートでとりあえず拭いておこうか。そう思ってモップを手にした。だがその時ふと我に返る。
「嫌……何してんだ。俺。」
別に家に上がるわけではない。玄関先でブレスレットを渡して終わりかもしれないのだ。なのにどうしてこんなにそわそわしているのだろう。
それは響子だから。
響子がまだ好きだからなのだ。
落ち着くように、キッチンへ行くとコップを取り出し冷蔵庫から水を出すとそれに注ぎ、一気に飲み干した。響子が来るまで食事の用意でもしようかと、冷蔵庫をまた開ける。だがその行動はそわそわとしているようだ。
そうこうしていると、部屋のチャイムが鳴った。急ぎ足でのぞき穴から向こうを見ると、響子の姿があり圭太はそのドアを開ける。
「悪かったわね。最近ブレスレットが緩くて、すっぽ抜けるのよ。道なんかに落ちて無くて良かったわ。」
本当に引き返してきたのだ。別れたときと同じ格好をしている。
「ちょっと待ってろよ。持ってくるから。」
そう言って圭太はテーブルに置いてあったブレスレットを手にする。そして響子が待つ玄関へ向かった。
「コレな。」
「ありがとう。」
そう言って響子はそのブレスレットをまた自分の手首にはめた。確かに緩そうになってきた。だがそれは痩せてそうなったのではなく、おそらく筋肉が付いたと言えるだろう。
「作り直すか、買い直した方が良いな。」
「そうね。一馬は逆なのよ。ピチピチになってきたって。」
「そっちも筋肉が付いたのかな。」
「そうかもしれないわ。私は締まってきたのかもしれないけど、あちらは締まる必要は無いから筋肉が付いたと言えるわね。」
お互いに体を作ってきている。響子だって、一馬に合わせるようになっているのだ。いつか早朝に走っているところを見た。最近は走るだけではなく運動をするのにジムへ行ったりすることもあるらしい。
「プロテインとか飲んでんのか?」
「まさか。ボディビルダーになるわけじゃないのよ。」
響子はそう言って少し笑う。だが一馬の体を見ると、それを疑っても仕方が無い。
「それもそうか。」
「体を作るのは健康な食生活と睡眠でしょ?」
「その割には真二郎は痩せてたよな。」
「真二郎はほとんど食べないもの。今考えるとウサギの餌かよって思うわ。」
食べる量も違う。男らしさも違う。そして考え方も全く違う。それが響子が今好きな人なのだ。響子によく似たストイックな男。それが好きなのだ。
「……そろそろ帰るわね。電車が無くなりそうだから。あぁ。コレ。飲んで。」
そう言って響子は手に持っていたビニール袋を手渡す。それはビールの缶だった。発泡酒ではなく本当のビールだ。
「わざわざ買ってきたのか?」
「今日は飲まないでおいてよ。」
「何で?」
「吐いたじゃない?店で。」
甘い物を口にしたからだ。それはきっと精神的なモノだと思う。自分だってまだ真子を忘れられていないのだ。
「まぁ……そうだな。だったら、響子。今日は飲まないけど送らせろよ。」
その言葉に響子は驚いたように圭太を見る。
「え?そんなつもりで来たんじゃないのよ。」
「別に良いから。どっちにしても一人で帰らせられるか。」
信也のことや時間を考えると、一人でふらふら帰らせられない。おそらく今日、天草裕太から響子はイベントへ行かないし、一馬も行かないことは裕太の口から信也に伝えられただろう。明らかに信也は響子を狙っている。なのに響子は全く信也になびかない。
もしかしたら強引なことをしてくるかもしれない。そして強引なこととは、それはつまり響子が一番恐怖に感じていることだ。
「大丈夫よ。K町だったら……。」
「古参の店はお前や一馬さんのことはよく知っているかもしれない。でもあの町は入れ替わりが激しいところだ。お前のことを知らない店だってあるんだろう?強引に声をかけられるだけなら良いけど、連れ去られたりしたらどうするんだ。時間的にもそういう奴らが多いところだろう?」
信也のことを匂わせたくない。その一心で、圭太は誤魔化すように伝えた。
「……まぁ……そうね。」
確かにこんなに夜遅くになるのは久しぶりだ。あまりにも遅いと一馬が迎えに来ることもあるが、今日は帰れるかどうかもわからないと言っていたし、そういうときは真二郎と一緒に帰ることもあるが、真二郎はもうすでに仕事へ行ってしまった。そう考えると圭太の心配もわかる。響子は圭太を見上げると少し笑って言う。
「だったらお願いするわ。」
「お願いしますだろ?」
「お願いします。」
「うん。ちょっと待ってろ。そこで良いから。」
自分が浮き足立っているようだ。K町までそんなに離れているわけではない。だが、その間、デート気分を味わえるのだ。それが嬉しいと思う。
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