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墓園と植物園
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楽しい花見になるはずだった。なのにそれを壊したのは和己。だが俊はそれを見ながら、遅かれ早かれこういうことになると思いながらおでんを摘まんでいた。「clover」で働いてみても悪くない店だと思う。だが客の中には、響子をゴミのような目で見る女性もいれば、あわよくばと誘おうとしている男もいる。真二郎に限っては怒鳴り込んでくる男までいる始末だ。
それにコーヒー豆を運んでくる「ヒジカタコーヒー」の人も、あまり良い感じで圭太を言っていない。それは圭太が「ヒジカタコーヒー」に居たときの営業マンとしてあまり人使いが良くなかったこと。それに伴い、圭太が女性を死にまで追い詰めたと言うことを口にしていたのを聞いていたのだ。
案外掲示板に書いているのも嘘では無い。それを隠してこの親子達と付き合おうとしているのだろうか。しかし香達の親子のことも、俊は知っている。両親がほとんど家に寄りつかない俊を、家に呼んで夕食を食べさせてくれることもあるくらいお人好しなのだ。
つまり、噂は嘘では無いのかもしれないが、それを含めて香達は圭太達と付き合っていた。それに功太郎のことも気になる。一昨年のクリスマスに息を切らせて、間違えたケーキを持ってきてくれた。それくらい店のことは真剣なのだ。それはすなわち人間性もわかる。叔母である絵里子は、功太郎のその態度に功太郎のぞんざいな口調すらどうでも良いように再び会ったときも普通に接しているし、ことあるごとに功太郎のことを気にかけていた。結局そんなところで、過去に何があっても関係ない。見るのは今と、これからどう動くかを見るから付き合うことが出来る。利用するような人であれば、俊が「clover」でバイトをしたいと言ってもきっと「clover」のことを知っている絵里子は反対しただろう。
「あたしさ。圭太を昔から知ってる。瑞希と一緒に大学のジャズ研に入ってたのよ。不器用でさ。特に人間関係。彼女を作りたいって言ってる割に、変な女にしか引っかからないで。それなのに、女の先輩に言い寄って降られる繰り返し。本当、二人で呆れてたわ。」
真二郎が響子にこそっと言う。
「今とあまり変わらないね。」
「昔からなのね。」
すると圭太は焦ったように言う。
「お前、またそんな昔のことを掘り起こすなよ。」
すると弥生は少し笑って言う。
「そんなのばかりじゃ無い。もう少し考えなさいよ。」
「……。」
「その人間関係がうまくいかないのは、圭太があまり頭が良くなかったから。ポンって考え無しに言うこともあるから。人は悪い人じゃ無いわ。イラッとすることもあるけど、慣れればなんてことは無い。それに行きすぎたことがあればあたし達が注意する。聞く耳は持っているわ。それでも駄目なのかしら。」
その言葉に和己は肩をすくませる。どう見てもひいきをしているとしか思えない。結局そうなのだ。新しく来た和己なんかはどうでも良くて、昔から知っている人だけを大事にするような女だ。そんな女と上手くやっていけるわけがない。もし母親が、この男と結婚したいというのだったら一年間だけ我慢する。そのあとは高校に行って寮にでも入って、この家とは繋がりを持ちたくなかった。和己はそう思っていると、父親が声をかけた。
「うちはこういう繋がりがある。君も馴染んでもらわないといけない。もし君が無理だというのだったら……。」
決意を込めたような父親の顔を見て、別れるというのを和己は期待した。だが父親は予想もしない言葉を言う。
「いや。別れれば、君のためにならないだろうね。それに別れられない。莉子のお腹には私の子供も居るのだから。」
「……え?でも……。」
「堕胎なんかは考えない。久しぶりに自分の子供が出来るんだから。」
香は自分の子供では無い。それでも自分の子供として育ててきたのだ。
「やだよ。俺。」
それでも強情に和己は言う。
「駄々っ子だな。香でもそんなことを言わないぞ。」
呆れたように功太郎は言うと、香は驚いたように莉子を見る。
「子供が居るの?」
「知らなかったかしら。そうね。この間わかったばかりだもの。弟か妹が出来るのよ。香ちゃん。」
「わぁ。嬉しい。どっちかな。あたし弟が欲しい。」
「まだわからないのよ。人かなって思うくらいだもの。そのためには家探しもしないとね。」
「あぁ。それだけど、うちの社宅はどうかなってこの間……。」
「止めろよ。もう沢山だ。」
やはりこんな家に居れるわけが無い。さっさと家を出たい。世話にもなりたくない。しかし現実問題、高校くらいは出ないと仕事は限られる。自分がしたいエンジニアになるためには大学にも行かないといけないだろうが、どうにでもなるかもしれない。密かにその方法も調べていたのだ。どうしたらこの家族に世話にならないで良いかと。
「和己君。」
響子はそう言って酒を口に入れると、和己を見た。
「何だよ。おばさん。」
「おばさんって。響子はそんな歳じゃねぇよ。」
功太郎がそう文句を言うと響子は呆れたように言う。
「おばさんはおばさんで結構よ。私ももう三十になるのだし。」
日本酒を使い捨てのプラスチックのコップに入れて飲んでいる。コレで何杯目だろう。だが顔色一つ変えない響子に、和己は少し呆れていたのだ。もしかして水なのでは無いだろうかという疑問すら浮かぶ。
「さっきから聞いていれば、あなたはこの結婚に反対なのかしら。」
そう言われて少し黙る。その通りだからだ。
「母親の人生だし、別に俺が関わることじゃないし……。」
「そう。だったらそこまで反対ってわけでもないのね。」
「……俺……。」
面と向かって反対だとは言えない。いつも疲れて帰ってきてイライラしている母親が、この男の前では幸せそうな顔を見る。幸せそうだと思った。それでも自分にもやっとしたものがあるのは事実で、佐々と別れてくれないだろうかと思っていたのだ。
「俺も反対されてさ。」
瑞希がそう言うと、弥生は少し笑う。
「女癖が悪いものね。良く五年も浮気一つしなかったと思うわ。」
弥生にばれていないだけだろう。圭太はそう思っていたが、自分だって似たようなモノだ。夏子のことが頭に浮かんで、黙り込んでしまった。
「誠実を表現するためにそうしたんだ。本当に弥生と一緒になりたいから。」
「それだけじゃ無いじゃん。あんただって原因があるんだろ?」
弥生に向かって和己は言う。そして少し笑うと、弥生に言った。
「高校生くらいの時に、裏に出てるじゃん。」
「裏?」
その言葉に弥生の顔色が悪くなり、父親がさすがにそれは無いと和己に詰め寄る。
「止めなさい。」
「そんな女と一緒に住むなんて汚くない?あ、でも結婚するんだっけ。だったら出て行くか。」
「裏?」
香と俊はわからないのか、首をかしげている。その様子に功太郎が首を横に振っていった。
「知らないことは知らないままの方が良い。」
「……裏って……裏のソフトのこと?」
「……知らない方が良いって言ってんだろ?俊。」
その時真二郎が薄く笑うと、和己の方を見る。
「自分が随分綺麗だと思ってるんだね。」
「俺は清廉潔白で……。」
「そんなわけ無いよ。裏を知っていると言うことは年齢を誤魔化してそういうサイトを見ていると言うことだ。そこを突っ込まれてもいいわけは出来ないよ。」
言葉を詰まらせた。確かに母親のアカウントを使ってそれを探したのだから、いいわけは出来ない。
「それに随分、昔はこうだったって言うんだね。そんなの意味あるの?」
「当たり前じゃん。だって……金目当てにそういうことをしたんだったら、これから先もあるかもしれないし。」
「無いね。まれに中学生や高校生が自分の意思と金目当てにで裏のAVに出る事もあるだろうけど、ほとんどは親から言われたことだ。そして弥生さんをそう仕向けたのは、旦那さんでは無く奥さんだったんだからね。だから離婚した。そう聞いているよ。」
「……。」
「裏だから差し止めも出来ない。インターネットに出回っていたらコピーしてあっという間に拡散する。でも一番辛いのは本人だけどね。それを責め立てるような真似をするような人が、身内になるんだ。同情するね。俺は。」
表情を変えずに、むしろ薄く笑って真二郎は言う。この状態を面白がっているようにも見えた。だが内心は怒りに満ちている。真二郎のことをよく知っている響子はそう思えた。
それにコーヒー豆を運んでくる「ヒジカタコーヒー」の人も、あまり良い感じで圭太を言っていない。それは圭太が「ヒジカタコーヒー」に居たときの営業マンとしてあまり人使いが良くなかったこと。それに伴い、圭太が女性を死にまで追い詰めたと言うことを口にしていたのを聞いていたのだ。
案外掲示板に書いているのも嘘では無い。それを隠してこの親子達と付き合おうとしているのだろうか。しかし香達の親子のことも、俊は知っている。両親がほとんど家に寄りつかない俊を、家に呼んで夕食を食べさせてくれることもあるくらいお人好しなのだ。
つまり、噂は嘘では無いのかもしれないが、それを含めて香達は圭太達と付き合っていた。それに功太郎のことも気になる。一昨年のクリスマスに息を切らせて、間違えたケーキを持ってきてくれた。それくらい店のことは真剣なのだ。それはすなわち人間性もわかる。叔母である絵里子は、功太郎のその態度に功太郎のぞんざいな口調すらどうでも良いように再び会ったときも普通に接しているし、ことあるごとに功太郎のことを気にかけていた。結局そんなところで、過去に何があっても関係ない。見るのは今と、これからどう動くかを見るから付き合うことが出来る。利用するような人であれば、俊が「clover」でバイトをしたいと言ってもきっと「clover」のことを知っている絵里子は反対しただろう。
「あたしさ。圭太を昔から知ってる。瑞希と一緒に大学のジャズ研に入ってたのよ。不器用でさ。特に人間関係。彼女を作りたいって言ってる割に、変な女にしか引っかからないで。それなのに、女の先輩に言い寄って降られる繰り返し。本当、二人で呆れてたわ。」
真二郎が響子にこそっと言う。
「今とあまり変わらないね。」
「昔からなのね。」
すると圭太は焦ったように言う。
「お前、またそんな昔のことを掘り起こすなよ。」
すると弥生は少し笑って言う。
「そんなのばかりじゃ無い。もう少し考えなさいよ。」
「……。」
「その人間関係がうまくいかないのは、圭太があまり頭が良くなかったから。ポンって考え無しに言うこともあるから。人は悪い人じゃ無いわ。イラッとすることもあるけど、慣れればなんてことは無い。それに行きすぎたことがあればあたし達が注意する。聞く耳は持っているわ。それでも駄目なのかしら。」
その言葉に和己は肩をすくませる。どう見てもひいきをしているとしか思えない。結局そうなのだ。新しく来た和己なんかはどうでも良くて、昔から知っている人だけを大事にするような女だ。そんな女と上手くやっていけるわけがない。もし母親が、この男と結婚したいというのだったら一年間だけ我慢する。そのあとは高校に行って寮にでも入って、この家とは繋がりを持ちたくなかった。和己はそう思っていると、父親が声をかけた。
「うちはこういう繋がりがある。君も馴染んでもらわないといけない。もし君が無理だというのだったら……。」
決意を込めたような父親の顔を見て、別れるというのを和己は期待した。だが父親は予想もしない言葉を言う。
「いや。別れれば、君のためにならないだろうね。それに別れられない。莉子のお腹には私の子供も居るのだから。」
「……え?でも……。」
「堕胎なんかは考えない。久しぶりに自分の子供が出来るんだから。」
香は自分の子供では無い。それでも自分の子供として育ててきたのだ。
「やだよ。俺。」
それでも強情に和己は言う。
「駄々っ子だな。香でもそんなことを言わないぞ。」
呆れたように功太郎は言うと、香は驚いたように莉子を見る。
「子供が居るの?」
「知らなかったかしら。そうね。この間わかったばかりだもの。弟か妹が出来るのよ。香ちゃん。」
「わぁ。嬉しい。どっちかな。あたし弟が欲しい。」
「まだわからないのよ。人かなって思うくらいだもの。そのためには家探しもしないとね。」
「あぁ。それだけど、うちの社宅はどうかなってこの間……。」
「止めろよ。もう沢山だ。」
やはりこんな家に居れるわけが無い。さっさと家を出たい。世話にもなりたくない。しかし現実問題、高校くらいは出ないと仕事は限られる。自分がしたいエンジニアになるためには大学にも行かないといけないだろうが、どうにでもなるかもしれない。密かにその方法も調べていたのだ。どうしたらこの家族に世話にならないで良いかと。
「和己君。」
響子はそう言って酒を口に入れると、和己を見た。
「何だよ。おばさん。」
「おばさんって。響子はそんな歳じゃねぇよ。」
功太郎がそう文句を言うと響子は呆れたように言う。
「おばさんはおばさんで結構よ。私ももう三十になるのだし。」
日本酒を使い捨てのプラスチックのコップに入れて飲んでいる。コレで何杯目だろう。だが顔色一つ変えない響子に、和己は少し呆れていたのだ。もしかして水なのでは無いだろうかという疑問すら浮かぶ。
「さっきから聞いていれば、あなたはこの結婚に反対なのかしら。」
そう言われて少し黙る。その通りだからだ。
「母親の人生だし、別に俺が関わることじゃないし……。」
「そう。だったらそこまで反対ってわけでもないのね。」
「……俺……。」
面と向かって反対だとは言えない。いつも疲れて帰ってきてイライラしている母親が、この男の前では幸せそうな顔を見る。幸せそうだと思った。それでも自分にもやっとしたものがあるのは事実で、佐々と別れてくれないだろうかと思っていたのだ。
「俺も反対されてさ。」
瑞希がそう言うと、弥生は少し笑う。
「女癖が悪いものね。良く五年も浮気一つしなかったと思うわ。」
弥生にばれていないだけだろう。圭太はそう思っていたが、自分だって似たようなモノだ。夏子のことが頭に浮かんで、黙り込んでしまった。
「誠実を表現するためにそうしたんだ。本当に弥生と一緒になりたいから。」
「それだけじゃ無いじゃん。あんただって原因があるんだろ?」
弥生に向かって和己は言う。そして少し笑うと、弥生に言った。
「高校生くらいの時に、裏に出てるじゃん。」
「裏?」
その言葉に弥生の顔色が悪くなり、父親がさすがにそれは無いと和己に詰め寄る。
「止めなさい。」
「そんな女と一緒に住むなんて汚くない?あ、でも結婚するんだっけ。だったら出て行くか。」
「裏?」
香と俊はわからないのか、首をかしげている。その様子に功太郎が首を横に振っていった。
「知らないことは知らないままの方が良い。」
「……裏って……裏のソフトのこと?」
「……知らない方が良いって言ってんだろ?俊。」
その時真二郎が薄く笑うと、和己の方を見る。
「自分が随分綺麗だと思ってるんだね。」
「俺は清廉潔白で……。」
「そんなわけ無いよ。裏を知っていると言うことは年齢を誤魔化してそういうサイトを見ていると言うことだ。そこを突っ込まれてもいいわけは出来ないよ。」
言葉を詰まらせた。確かに母親のアカウントを使ってそれを探したのだから、いいわけは出来ない。
「それに随分、昔はこうだったって言うんだね。そんなの意味あるの?」
「当たり前じゃん。だって……金目当てにそういうことをしたんだったら、これから先もあるかもしれないし。」
「無いね。まれに中学生や高校生が自分の意思と金目当てにで裏のAVに出る事もあるだろうけど、ほとんどは親から言われたことだ。そして弥生さんをそう仕向けたのは、旦那さんでは無く奥さんだったんだからね。だから離婚した。そう聞いているよ。」
「……。」
「裏だから差し止めも出来ない。インターネットに出回っていたらコピーしてあっという間に拡散する。でも一番辛いのは本人だけどね。それを責め立てるような真似をするような人が、身内になるんだ。同情するね。俺は。」
表情を変えずに、むしろ薄く笑って真二郎は言う。この状態を面白がっているようにも見えた。だが内心は怒りに満ちている。真二郎のことをよく知っている響子はそう思えた。
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