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カモフラージュ
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紅茶を飲み終わると、功太郎はそのままソファーで寝てしまった。元々あまり酒が強い方では無い。真二郎のように考えて飲むタイプでも無いし、圭太のように飲めないと思ったらストップをかけるタイプでは無いのだろう。自分で許容量がわからないのだ。圭太は呆れたように布団や毛布を掛ける。少しの間こうやって一緒に住んでいた時期もあるのだから、このまま寝かせてもかまわない。
「風呂場はどこだ。」
一馬がそう聞くと、圭太は素直にそこを教える。何の用があるのだろう。そう思っていたら、一馬はその手に洗面器を持ってきた。そしてキッチンへ向かうと冷蔵庫から水を持ってくる。
「吐くかもしれないだろう?その時にここにすれば良い。」
するとカップを洗い終わった響子も、手にビニール袋を持ってテーブルに置く。
「気がつくね。」
真二郎はそう言うと、一馬は表情を変えずに言う。
「俺はあまり酔ったことが無いが、バンドなんかをしていると酒を飲むヤツが多かった。やはりこういう自制の効かないヤツも多くて、こうやって介抱はしていたからな。」
こういう場面はお馴染みなのだ。若ければ若いほど自分のペースがわからないものだから。
「ジャズの打ち上げも似たようなモノだな。結構ひどいモノだったかな。」
「そうね。倒れたりして、瑞希さんや弥生さんに迷惑をかけていたわ。」
それは一昨年のクリスマスのことを響子は言っているのだろう。それがわかり圭太は責めるように響子に言う。
「あのときはさ……。」
「わかってる。格好を付けたかったんでしょう?」
普段とは違ってドラムを叩いている姿を見せたかったのだ。それがわかっていたが、どこか響子は冷めていたのだと思う。
「それを言うなよ。恥ずかしい。」
「ふふっ。」
少し笑うと、響子はバッグの中から携帯電話を取り出す。一馬がいなければ連絡があるかもしれないとずっと携帯電話を側に置いていたが、今日は隣にずっと居たのだ。必要な連絡は限られている。
「……。」
父からの連絡が来ている。母の手術は成功したらしい。少しほっとしているが、反面素直に良かったねとは言えない。了解とだけ返信して、またバッグに携帯電話を入れる。
「そろそろおいとましようか。」
真二郎がそう言うと、一馬も頷いた。
「あぁ。タクシーを呼ぶか。K町まで戻るわけだし……。」
「二人で戻って良いよ。」
真二郎はそう言って携帯電話を取り出す。
「どこかへ行くのか?」
「せっかくだし、久しぶりに会うセフレのところに行こうかと思ってね。」
「セフレか。良い身分だよな。」
圭太はそう言うと、真二郎は少し笑って言う。
「オーナーもいたじゃない。今の仕事が終わったらまた連絡が来るよ。」
夏子のことを言っているのだろう。恋人にはしたくないが、連絡をすればまたセックスをしてしまうだろう。マゾヒストで、責めるたびにゾクゾクする。それが癖になりそうだ。だがそれを響子の前では言いたくない。
「私のことは気にしないで。お互い様なんだから。」
響子はそう言うと、一馬を見上げる。思わず一馬はそのまま肩を抱きたくなった。だがこの状況ではそれは無神経だ。そう思って、見つめるだけにしておいた。
「熱いなぁ。このやろ。」
「うるさい。」
ふと真二郎は寝ている功太郎をみて言う。
「功太郎は割と常識に外れていると思ってた。金のために未成年の時に売春をしていたと言うし、それが普通だと思っている節もあったから。」
「……。」
「でも外れているのはこっちもそうだし、今の状況から見れば功太郎の方がましだ。ウリセンなんてグレーゾーンの仕事だし、今この仕事一本だけで稼いでいる功太郎が、小学生に気があるって事を言うのもきっと勇気が必要だっただろう。それに、その気持ちを認めるのにも勇気が必要だったと思う。だから飲んだ勢いでしか言えなかったんだ。」
それだけ真剣な思いだった。それが少し羨ましい。
「茶化すようなことを言って悪かったと思うよ。」
圭太もそう言って頭をかく。
「温かい目で見ましょうか。自分でも言っていたように、香ちゃんが年頃になったときまで香ちゃんも功太郎もその気持ちをキープ出来ていれば、手放しに喜んであげれば良い。」
「あぁ。多分、香も中学とか高校になったら先輩とか同級生とかの世界が広がるだろうし。気が変わることもあるだろうな。」
「それは功太郎もそうだよ。いや……功太郎の方がまだその可能性が高いかな。」
「何で?」
真二郎は前に、合コンで出会った女とセックスをしたあとホテルから出て駅へ向かっていた功太郎を見たことがある。むなしいと言っていたが、功太郎もそれが出来る人間なのだ。売春をしていたから、不思議ではないが。
「避妊の仕方くらいはわかっているかもしれないけど、コンドームも百パーじゃないからね。」
その言葉に圭太の顔色が悪くなる。真子のことを少し思い出したからだ。その様子に一馬が声をかけた。
「圭太さん。大丈夫か?」
「あぁ……。」
「酔っているのか?あんたも洗面器を用意した方が……。」
「そうじゃ無いんだ。」
ふとベッドルームへ向かうそのドアを見た。そのドアノブに真子が首を吊っていたのだと思うと、また吐き気がする。
「オーナー。今は忘れて。」
「……響子。」
響子にはわかっていた。だからそう言ったのだ。
「してしまったことは戻らない。口に出したことも戻らない。だったらこれからのことを考えれば良い。」
「……あぁ。」
圭太はそう言ってそのドアから目線を外した。
圭太の家を出て、駅へ向かう。タクシーは駅まで行けば捕まるだろうと思ったからだ。平日なのだから駅にタクシーがなくてもすぐ呼ぶことは出来る。その間、一馬は圭太のことを聞いていた。
「そうか……。オーナーにはそんな女がいたんだな。」
圭太の心ない一言で、真子も真子の中に宿った命も失ってしまったのだ。自分の子供だった。それを素直に喜べない圭太が馬鹿だったのかもしれない。
「一馬さんも気をつけた方が良い。さっきも言ったけれど、コンドームは百パー避妊できるモノではないんだから。」
「俺は響子に子供が出来てもかまわない。」
その言葉に響子は驚いて一馬を見る。
「え?」
真二郎も驚いて一馬を見ていた。歩きながら、一馬は響子の手を握る。
「いずれはそうなる。それが早いか遅いかだけの話で。順番が違うと言われても、それでかまわない。ただ、店にとってはまずいのかもしれないが。」
「店?」
「コーヒーってのは妊婦には良くないんだろう?」
すると響子は少し遅れて頷いた。まさかこんな所でプロポーズされると思っていなかったからだ。
「そうか。一馬さんはそれだけ考えているんだね。安心したよ。」
真二郎はそう言って少し笑った。だが不安はつきまとう。それは信也の言葉だった。響子を落としに行くと言うモノ。また響子がレイプされるかもしれないという恐怖があるのだ。
「タクシー停まっているわね。」
数台のタクシーが駅前に待機していた。
「真二郎はどこの街まで行くの?」
「あぁ。俺は良いよ。この近くだから。シャワーを浴びて待っているってさ。」
「そう。じゃあ、帰りましょうか。」
「あぁ。お疲れさん。」
響子と一馬はそう言ってタクシーに乗り込む。
その姿を見て、少しため息をついた。そして真二郎は携帯電話を取り出す。
「風呂場はどこだ。」
一馬がそう聞くと、圭太は素直にそこを教える。何の用があるのだろう。そう思っていたら、一馬はその手に洗面器を持ってきた。そしてキッチンへ向かうと冷蔵庫から水を持ってくる。
「吐くかもしれないだろう?その時にここにすれば良い。」
するとカップを洗い終わった響子も、手にビニール袋を持ってテーブルに置く。
「気がつくね。」
真二郎はそう言うと、一馬は表情を変えずに言う。
「俺はあまり酔ったことが無いが、バンドなんかをしていると酒を飲むヤツが多かった。やはりこういう自制の効かないヤツも多くて、こうやって介抱はしていたからな。」
こういう場面はお馴染みなのだ。若ければ若いほど自分のペースがわからないものだから。
「ジャズの打ち上げも似たようなモノだな。結構ひどいモノだったかな。」
「そうね。倒れたりして、瑞希さんや弥生さんに迷惑をかけていたわ。」
それは一昨年のクリスマスのことを響子は言っているのだろう。それがわかり圭太は責めるように響子に言う。
「あのときはさ……。」
「わかってる。格好を付けたかったんでしょう?」
普段とは違ってドラムを叩いている姿を見せたかったのだ。それがわかっていたが、どこか響子は冷めていたのだと思う。
「それを言うなよ。恥ずかしい。」
「ふふっ。」
少し笑うと、響子はバッグの中から携帯電話を取り出す。一馬がいなければ連絡があるかもしれないとずっと携帯電話を側に置いていたが、今日は隣にずっと居たのだ。必要な連絡は限られている。
「……。」
父からの連絡が来ている。母の手術は成功したらしい。少しほっとしているが、反面素直に良かったねとは言えない。了解とだけ返信して、またバッグに携帯電話を入れる。
「そろそろおいとましようか。」
真二郎がそう言うと、一馬も頷いた。
「あぁ。タクシーを呼ぶか。K町まで戻るわけだし……。」
「二人で戻って良いよ。」
真二郎はそう言って携帯電話を取り出す。
「どこかへ行くのか?」
「せっかくだし、久しぶりに会うセフレのところに行こうかと思ってね。」
「セフレか。良い身分だよな。」
圭太はそう言うと、真二郎は少し笑って言う。
「オーナーもいたじゃない。今の仕事が終わったらまた連絡が来るよ。」
夏子のことを言っているのだろう。恋人にはしたくないが、連絡をすればまたセックスをしてしまうだろう。マゾヒストで、責めるたびにゾクゾクする。それが癖になりそうだ。だがそれを響子の前では言いたくない。
「私のことは気にしないで。お互い様なんだから。」
響子はそう言うと、一馬を見上げる。思わず一馬はそのまま肩を抱きたくなった。だがこの状況ではそれは無神経だ。そう思って、見つめるだけにしておいた。
「熱いなぁ。このやろ。」
「うるさい。」
ふと真二郎は寝ている功太郎をみて言う。
「功太郎は割と常識に外れていると思ってた。金のために未成年の時に売春をしていたと言うし、それが普通だと思っている節もあったから。」
「……。」
「でも外れているのはこっちもそうだし、今の状況から見れば功太郎の方がましだ。ウリセンなんてグレーゾーンの仕事だし、今この仕事一本だけで稼いでいる功太郎が、小学生に気があるって事を言うのもきっと勇気が必要だっただろう。それに、その気持ちを認めるのにも勇気が必要だったと思う。だから飲んだ勢いでしか言えなかったんだ。」
それだけ真剣な思いだった。それが少し羨ましい。
「茶化すようなことを言って悪かったと思うよ。」
圭太もそう言って頭をかく。
「温かい目で見ましょうか。自分でも言っていたように、香ちゃんが年頃になったときまで香ちゃんも功太郎もその気持ちをキープ出来ていれば、手放しに喜んであげれば良い。」
「あぁ。多分、香も中学とか高校になったら先輩とか同級生とかの世界が広がるだろうし。気が変わることもあるだろうな。」
「それは功太郎もそうだよ。いや……功太郎の方がまだその可能性が高いかな。」
「何で?」
真二郎は前に、合コンで出会った女とセックスをしたあとホテルから出て駅へ向かっていた功太郎を見たことがある。むなしいと言っていたが、功太郎もそれが出来る人間なのだ。売春をしていたから、不思議ではないが。
「避妊の仕方くらいはわかっているかもしれないけど、コンドームも百パーじゃないからね。」
その言葉に圭太の顔色が悪くなる。真子のことを少し思い出したからだ。その様子に一馬が声をかけた。
「圭太さん。大丈夫か?」
「あぁ……。」
「酔っているのか?あんたも洗面器を用意した方が……。」
「そうじゃ無いんだ。」
ふとベッドルームへ向かうそのドアを見た。そのドアノブに真子が首を吊っていたのだと思うと、また吐き気がする。
「オーナー。今は忘れて。」
「……響子。」
響子にはわかっていた。だからそう言ったのだ。
「してしまったことは戻らない。口に出したことも戻らない。だったらこれからのことを考えれば良い。」
「……あぁ。」
圭太はそう言ってそのドアから目線を外した。
圭太の家を出て、駅へ向かう。タクシーは駅まで行けば捕まるだろうと思ったからだ。平日なのだから駅にタクシーがなくてもすぐ呼ぶことは出来る。その間、一馬は圭太のことを聞いていた。
「そうか……。オーナーにはそんな女がいたんだな。」
圭太の心ない一言で、真子も真子の中に宿った命も失ってしまったのだ。自分の子供だった。それを素直に喜べない圭太が馬鹿だったのかもしれない。
「一馬さんも気をつけた方が良い。さっきも言ったけれど、コンドームは百パー避妊できるモノではないんだから。」
「俺は響子に子供が出来てもかまわない。」
その言葉に響子は驚いて一馬を見る。
「え?」
真二郎も驚いて一馬を見ていた。歩きながら、一馬は響子の手を握る。
「いずれはそうなる。それが早いか遅いかだけの話で。順番が違うと言われても、それでかまわない。ただ、店にとってはまずいのかもしれないが。」
「店?」
「コーヒーってのは妊婦には良くないんだろう?」
すると響子は少し遅れて頷いた。まさかこんな所でプロポーズされると思っていなかったからだ。
「そうか。一馬さんはそれだけ考えているんだね。安心したよ。」
真二郎はそう言って少し笑った。だが不安はつきまとう。それは信也の言葉だった。響子を落としに行くと言うモノ。また響子がレイプされるかもしれないという恐怖があるのだ。
「タクシー停まっているわね。」
数台のタクシーが駅前に待機していた。
「真二郎はどこの街まで行くの?」
「あぁ。俺は良いよ。この近くだから。シャワーを浴びて待っているってさ。」
「そう。じゃあ、帰りましょうか。」
「あぁ。お疲れさん。」
響子と一馬はそう言ってタクシーに乗り込む。
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