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疾走
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同じ建物の向かい側の部屋なのだから、間取りは一緒だった。リビングの他に部屋が三つ。一つは父親の部屋。一つは母親の部屋。そして俊の部屋もある。そこだけは和室で、引っ越してくるときに和室が良いと俊が申し出たのに、母親が今時和室がいいなど珍しい子供だと言ってその部屋を譲ってくれた。
和室が良いと思ったのは、俊が好きな作家を調べると広い和風建築の家に作家は住んでいるという話を聞いたからと言うことが一つ。もう一つは、元々住んでいた家が和風建築の平屋だったから。そこを引っ越したのは、父がホストクラブを経営するのに少しでも場所が近い方が良いからという理由だったのだ。
俊はその和室に毎回布団を敷いて寝ている。和室は居心地が良い。
その部屋の電気を付けると、後ろから香も付いてきた。
「俊君の部屋って初めてかな。男の子の部屋みたい。」
「男の部屋なんだけど。」
棚に置いている本は俊が好きな作家のモノや、違う作家のモノ。CDは数枚。あまり音楽にはこだわらないし、音楽はダウンロードでなんとかなる。俊はバッグから制服を取り出してまずそれを掛ける。ブレザーの学校で、ネクタイを締めるのに最初は手間取ったがもう一年たてばなんとか締めれるようになった。
「ねぇ。アレ無いの?」
「アレ?」
「女の人が裸になってる本。」
エロ本のことか。あってもそんなに堂々と棚に置いているわけが無いだろう。
「無いよ。」
「俊君は携帯電話とかで見るタイプ?」
「んー……興味が無いっていうか。」
それに堂々とさらしている俊の好きな作家の本は、ジャンルはミステリーや恋愛小説になるのだろうが、どことなく性の匂いがするモノだった。文章を読んで想像するだけで立ってくる。表現が絶妙なのだ。
「あ、この本知ってる。」
そう言って香は棚に近づくと、本を一冊手にした。それは俊が好きな作家では無く、それでもなんとなく好きな本でコレも女性作家だった。映画化もされて、この映画に出た人たちはほとんど濡れ場のような映画だったのに、それがきっかけでドラマに出たり雑誌で見かけることもある。
内容は一昔の話で、両親を失った女の子を作家の叔父が引き取るところから始まる。女の子はずっと叔父が好きだったし、叔父もいつの間にか女の表情になっている女の子を女としていつの間にか見ていた。なのにその一歩が踏み出せない。そんな内容だった。それに少し香を重ねる。
「映画見たの?」
「映画はまだあたしの歳じゃ見れないよ。」
「俺もまだ見れないな。早く十八になりたい。」
「そんな理由で?」
制服を壁に掛けると、俊は勉強机の引き出しから小さな箱を取り出した。それを香に差し出す。
「コレ。」
「何?」
「母さんから。」
母親はもうすでに外国へ行ってしまった。この国にいたわずかなとき、香と何度か顔を合わせることもあったし、もちろん弥生も二人の父親とも顔を合わせお土産を渡していたようだ。俊が世話になったからという理由だろう。
だが肝心の香には冷たい態度を取ってしまった。発育が良い体はもちろん、それに対しての頭の幼さと、人のパーソナルスペースを考えないずけずけとその人の距離に入ってくる無神経さにいらついていたようだが、それでもいつも一人きりの俊を世話してくれているのだ。そう思ってお詫びのつもりで香に渡して欲しいといったのだろう。
その箱を香は開けると、中からはスティック状の口紅が入っていた。
「口紅?あたし、お姉ちゃんからまだお化粧は早いって言われたの。」
「口紅じゃ無いんだ。一応薬用リップみたいだ。」
「薬用リップ?そんなのに見えないな。」
母親が務めるのは化粧品会社は、外国でも通用するような化粧品会社だった。どこかのショーでその化粧品が使われることもある。
その会社が打ち出しているそのリップは、中高生くらいの女の子がターゲットで、薬用リップではあるが付けるとほんのり赤くなる。化粧が禁止の学校でも受け入れられるようなモノなのだ。
香は陸上をしているためなのか、肌が荒れている。それはこの寒空の下で、空っ風に吹かれているからだろう。それを母親が気にしていたのだ。女の子供を持ったことは無いが、女の子なのだからもう少し綺麗にしておいた方が良いと思ったのだろう。
「でもそれは学校では付けたら駄目だからな。」
「うん。そうだね。学校でもしている人が居るけど、いつも先生に怒られてる。あたしは休みの時だけかな。」
コレを付けて功太郎の所へ行けば、功太郎はまたキスをしてくれるだろうか。あのときいらいしていないのだ。香はそのリップをぎゅっと握ると、バッグの中にそれを入れようとした。それを俊が止める。
「あまりべちゃって付けるなよ。」
「え?そうなの?」
「べちゃって付けると、かえって荒れるから。」
「どうやって付けるの?」
「貸してみて。」
そのリップを差し出すと、俊はそれを受け取り蓋を開ける。ほんのりピンク色のリップで確かに中学生くらいの女の子には受けそうな気がする。それを手にして香と向かい合う。すると香は目を閉じた。
それに少し胸が高鳴る。まるでキスをせがんでいるようだと思ったからだ。
一度香とキスをした。だがそれはロマンチックとは言いがたいモノで、唇が触れるのは触れたが歯が当たっただけで更に痛かった。そんなモノなのだろうと思っていたのに、今の方が更にロマンチックだと思う。
俊は手を伸ばして、その唇に触れる。指先にがさっという感触がした。それは荒れているから。それでも柔らかくて、ぷるぷるしている。自分のモノに触れてもそんな感覚は無いのに。
「俊君?」
薄く香が目を開ける。いつまでも塗られないのに違和感を感じたのだろう。
「あぁ。悪い。えっとな。」
母親がしているのを思い出す。透明なリップであれば、特に塗り方など指定されなくてもいい。だがコレは色つきなのだ。リップで唇を押さえるように、ポンポンと塗っていく。そしてそれを指で広げた。
「良いよ。」
香ははしゃいでいるように、急いで姿見の鏡に自分を映す。
「すごい。少し赤くなってる。ね?どう?」
振り向いた香を見て、俊はますます胸が高鳴るのを覚えた。本当に小学生なのだろうか。自分の同級生でもこんなに大人っぽい女はいない。
「良いんじゃ無い?それくらいの化粧だったら、中学校でも居るよ。」
「そうだよねぇ。でも……もっと早く生まれたかったな。」
「え?」
「いくら大人っぽくしてもやっぱり大人じゃ無いもん。子供扱いしないでって言っても、やっぱり子供としか見てくれないし。」
誰のことを言っているのだろう。俊は少し首をかしげた。だがすぐにその相手が頭に浮かんだ。
「功太郎さん?」
「うん。」
年末にバイトに入っていた店で、功太郎とフロアにいることもあった。確かにその時も功太郎と俊を見比べられて「同級生?」と言われるほど、功太郎は見た目が幼い。だが見た目は幼くても二十四,か五なのだ。そんな大人が香に手を出したというのだろうか。
「功太郎さんから大人扱いされたの?」
すると香の顔がぱっと赤くなる。功太郎の部屋でしたキスを思い出したのだ。
「……あのね。俊君としたときと違うの。」
「俺も初めてだったし、どんなモノかわからなかったんだけど。」
「慣れてるとかそんなんじゃ無いの。なんか……。違って……。」
経験値なら生きている年数が違う功太郎とは違うだろう。当然、何も知らない香にその経験をさせたというのは人として違う気がする。
「からかわれてるんだよ。」
「そうじゃ無いもん。」
「だったらロリコンなんだよ。」
「違うって!」
俊の体にどんと拳を立てた。その目に涙が溜まっている。認めたくなかったからだ。
「だったら、功太郎さんが香のことを好きだとかなんとか言ったの?」
「……言ってないけど。」
「だったらからかわれてるだけか、それか……香がその調子でして欲しいとかいったんじゃないの?」
その通りだ。言葉をぐっと飲む。そのリップが付いた唇を軽くとがらせ、目からは涙がこぼれた。
和室が良いと思ったのは、俊が好きな作家を調べると広い和風建築の家に作家は住んでいるという話を聞いたからと言うことが一つ。もう一つは、元々住んでいた家が和風建築の平屋だったから。そこを引っ越したのは、父がホストクラブを経営するのに少しでも場所が近い方が良いからという理由だったのだ。
俊はその和室に毎回布団を敷いて寝ている。和室は居心地が良い。
その部屋の電気を付けると、後ろから香も付いてきた。
「俊君の部屋って初めてかな。男の子の部屋みたい。」
「男の部屋なんだけど。」
棚に置いている本は俊が好きな作家のモノや、違う作家のモノ。CDは数枚。あまり音楽にはこだわらないし、音楽はダウンロードでなんとかなる。俊はバッグから制服を取り出してまずそれを掛ける。ブレザーの学校で、ネクタイを締めるのに最初は手間取ったがもう一年たてばなんとか締めれるようになった。
「ねぇ。アレ無いの?」
「アレ?」
「女の人が裸になってる本。」
エロ本のことか。あってもそんなに堂々と棚に置いているわけが無いだろう。
「無いよ。」
「俊君は携帯電話とかで見るタイプ?」
「んー……興味が無いっていうか。」
それに堂々とさらしている俊の好きな作家の本は、ジャンルはミステリーや恋愛小説になるのだろうが、どことなく性の匂いがするモノだった。文章を読んで想像するだけで立ってくる。表現が絶妙なのだ。
「あ、この本知ってる。」
そう言って香は棚に近づくと、本を一冊手にした。それは俊が好きな作家では無く、それでもなんとなく好きな本でコレも女性作家だった。映画化もされて、この映画に出た人たちはほとんど濡れ場のような映画だったのに、それがきっかけでドラマに出たり雑誌で見かけることもある。
内容は一昔の話で、両親を失った女の子を作家の叔父が引き取るところから始まる。女の子はずっと叔父が好きだったし、叔父もいつの間にか女の表情になっている女の子を女としていつの間にか見ていた。なのにその一歩が踏み出せない。そんな内容だった。それに少し香を重ねる。
「映画見たの?」
「映画はまだあたしの歳じゃ見れないよ。」
「俺もまだ見れないな。早く十八になりたい。」
「そんな理由で?」
制服を壁に掛けると、俊は勉強机の引き出しから小さな箱を取り出した。それを香に差し出す。
「コレ。」
「何?」
「母さんから。」
母親はもうすでに外国へ行ってしまった。この国にいたわずかなとき、香と何度か顔を合わせることもあったし、もちろん弥生も二人の父親とも顔を合わせお土産を渡していたようだ。俊が世話になったからという理由だろう。
だが肝心の香には冷たい態度を取ってしまった。発育が良い体はもちろん、それに対しての頭の幼さと、人のパーソナルスペースを考えないずけずけとその人の距離に入ってくる無神経さにいらついていたようだが、それでもいつも一人きりの俊を世話してくれているのだ。そう思ってお詫びのつもりで香に渡して欲しいといったのだろう。
その箱を香は開けると、中からはスティック状の口紅が入っていた。
「口紅?あたし、お姉ちゃんからまだお化粧は早いって言われたの。」
「口紅じゃ無いんだ。一応薬用リップみたいだ。」
「薬用リップ?そんなのに見えないな。」
母親が務めるのは化粧品会社は、外国でも通用するような化粧品会社だった。どこかのショーでその化粧品が使われることもある。
その会社が打ち出しているそのリップは、中高生くらいの女の子がターゲットで、薬用リップではあるが付けるとほんのり赤くなる。化粧が禁止の学校でも受け入れられるようなモノなのだ。
香は陸上をしているためなのか、肌が荒れている。それはこの寒空の下で、空っ風に吹かれているからだろう。それを母親が気にしていたのだ。女の子供を持ったことは無いが、女の子なのだからもう少し綺麗にしておいた方が良いと思ったのだろう。
「でもそれは学校では付けたら駄目だからな。」
「うん。そうだね。学校でもしている人が居るけど、いつも先生に怒られてる。あたしは休みの時だけかな。」
コレを付けて功太郎の所へ行けば、功太郎はまたキスをしてくれるだろうか。あのときいらいしていないのだ。香はそのリップをぎゅっと握ると、バッグの中にそれを入れようとした。それを俊が止める。
「あまりべちゃって付けるなよ。」
「え?そうなの?」
「べちゃって付けると、かえって荒れるから。」
「どうやって付けるの?」
「貸してみて。」
そのリップを差し出すと、俊はそれを受け取り蓋を開ける。ほんのりピンク色のリップで確かに中学生くらいの女の子には受けそうな気がする。それを手にして香と向かい合う。すると香は目を閉じた。
それに少し胸が高鳴る。まるでキスをせがんでいるようだと思ったからだ。
一度香とキスをした。だがそれはロマンチックとは言いがたいモノで、唇が触れるのは触れたが歯が当たっただけで更に痛かった。そんなモノなのだろうと思っていたのに、今の方が更にロマンチックだと思う。
俊は手を伸ばして、その唇に触れる。指先にがさっという感触がした。それは荒れているから。それでも柔らかくて、ぷるぷるしている。自分のモノに触れてもそんな感覚は無いのに。
「俊君?」
薄く香が目を開ける。いつまでも塗られないのに違和感を感じたのだろう。
「あぁ。悪い。えっとな。」
母親がしているのを思い出す。透明なリップであれば、特に塗り方など指定されなくてもいい。だがコレは色つきなのだ。リップで唇を押さえるように、ポンポンと塗っていく。そしてそれを指で広げた。
「良いよ。」
香ははしゃいでいるように、急いで姿見の鏡に自分を映す。
「すごい。少し赤くなってる。ね?どう?」
振り向いた香を見て、俊はますます胸が高鳴るのを覚えた。本当に小学生なのだろうか。自分の同級生でもこんなに大人っぽい女はいない。
「良いんじゃ無い?それくらいの化粧だったら、中学校でも居るよ。」
「そうだよねぇ。でも……もっと早く生まれたかったな。」
「え?」
「いくら大人っぽくしてもやっぱり大人じゃ無いもん。子供扱いしないでって言っても、やっぱり子供としか見てくれないし。」
誰のことを言っているのだろう。俊は少し首をかしげた。だがすぐにその相手が頭に浮かんだ。
「功太郎さん?」
「うん。」
年末にバイトに入っていた店で、功太郎とフロアにいることもあった。確かにその時も功太郎と俊を見比べられて「同級生?」と言われるほど、功太郎は見た目が幼い。だが見た目は幼くても二十四,か五なのだ。そんな大人が香に手を出したというのだろうか。
「功太郎さんから大人扱いされたの?」
すると香の顔がぱっと赤くなる。功太郎の部屋でしたキスを思い出したのだ。
「……あのね。俊君としたときと違うの。」
「俺も初めてだったし、どんなモノかわからなかったんだけど。」
「慣れてるとかそんなんじゃ無いの。なんか……。違って……。」
経験値なら生きている年数が違う功太郎とは違うだろう。当然、何も知らない香にその経験をさせたというのは人として違う気がする。
「からかわれてるんだよ。」
「そうじゃ無いもん。」
「だったらロリコンなんだよ。」
「違うって!」
俊の体にどんと拳を立てた。その目に涙が溜まっている。認めたくなかったからだ。
「だったら、功太郎さんが香のことを好きだとかなんとか言ったの?」
「……言ってないけど。」
「だったらからかわれてるだけか、それか……香がその調子でして欲しいとかいったんじゃないの?」
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