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共犯者
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俊とその母、そして香は三人で帰って行く。その様子に圭太はため息をついた。
「嵐みたいな母親だな。」
「外国へ行ってればそんなモノなのか、わかんねぇな。オーナー。外国へ行ったことあるんだ。」
「サラリーマンの時な。社員旅行とかあって、まぁ、一気に会社で行くわけじゃないけど、その時に行ったっけ。あっちのさ、花茶って美味かったよ。ふわっと香りが漂って……。」
まだ真子が生きていた。結局一緒の社員旅行に行くことはなかったが、お土産で買ってきた花茶を、真子は嬉しそうに飲んでいたのを思い出す。
「花茶ね……。」
響子はそう言ってヒジカタコーヒーのカタログを取り出して、中国茶のページを見ていた。
「中華が食べたいな。思いっきり辛い麻婆豆腐とか食べたい。」
功太郎はそう言って、ため息をついた。
「次の日が休みの日にしてね。」
「わかってるよ。」
「それにあれだ。」
圭太は意地悪そうに功太郎に言う。
「何だよ。」
「辛いものを食べると、次の日が大変だぞ。慣れてれば良いけどな。」
その言葉に功太郎はぞっとした。そう言えばそうだったと、頭を抱える。
「すいません。」
イートインの客が、レジ前で声をかける。すると功太郎がそのレジへ向かった。そして圭太は客の座っていた席の皿を下げる。カウンターへ持ってくると、響子が圭太に声をかけた。
「オーナー。今日の夜は何か用事があるかしら。」
「別に無いけど。どうした?」
「お土産を渡したいの。温泉の。」
「……そっか。だったら飯でも食べに行くか?」
「いいえ。何か作るわ。」
その言葉に圭太は少し笑う。そして皿やカップをかごの中に入れていく。その中に仕分けして入れておいたら、真二郎なり功太郎なりが洗ってくれるのだ。
「いらっしゃいませ。」
ドアベルが鳴り入り口を見ると、響子は思わず声を発していた。
「御門さん。」
その名前に、圭太も振り返る。そこには私服を着ている御門優斗が居たのだ。
「本宮さん。ちょっとこっちに来る用事があったから立ち寄ってみたよ。」
「いらっしゃい。」
また新たな男か。功太郎はそう思いながら、優斗を見上げる。だが優斗は功太郎を見て少し微笑んだ。なんとなく真二郎に似ているような感じの男だ。ショートカット背爽やかで背も高い。
ゲイの趣味は無いのに、なんとなく赤くなってしまう。それを誤魔化すようにカウンターへ近づいた。
「イートインでしょうか。」
代わりに圭太が挨拶をすると、優斗は少し笑って言う。
「そうですね……。ブレンドを持ち帰りでお願いします。」
「かしこまりました。響子。」
伝票を切ると、響子は後ろの棚から豆を取り出す。
「知り合い?」
功太郎がそう聞くと、響子は戸惑いながら言った。
「えぇ。……何て言って良いかしらね。同級生だけど……その……。」
「……何だよ。はっきりしないな。」
その時キッチンから真二郎がカウンターに居る響子に声をかける。
「響子。フロアって大丈夫?さっき騒がしかったけど。」
「あぁ。何でも無いのよ。」
その時真二郎も、優斗に目がとまったらしい。そして少し微笑んだ。
「真二郎。」
響子はその視線に敏感に気がついて、真二郎を止めた。
「ごめん。ちょっといい男だなって思って。」
「見境の無い男だこと。それに駄目よ。あの人、相手が居るみたいだし。」
「そうなんだ。残念。響子の知り合い?」
「前に話したことがあるでしょう?御門君。」
「あぁ。お見合い相手か。」
真二郎の言葉に驚いて、功太郎は響子と優斗を交互に見ていた。だがその言葉は、圭太には届いていなかったらしい。ちょうど接客をしていたのだ。
「マジで?」
こっそり響子に聞くと、響子は頷いた。
「えぇ。実家に正月に帰ったときにね。ちょっと色々あったのよ。」
「でも見合いって……オーナーは良い気分じゃ無いだろ?」
「だと思うけど……。」
だが圭太は笑いながら、優斗の接客をしている。
「本宮の同級生ですか。」
「えぇ。正月にうちの寺に来て、コーヒーを戴きました。オーナーさん。ここの豆は通販はしていませんか。」
「あぁ。出来ないことはないと思いますけどね。どうかな。響子。」
すると響子は方をすくませていう。
「輸送の機関に合わせて、焙煎するわ。あなた一人で飲むのでしょう?」
「あぁ。そうだね。たまにお客様も見えるから、その時にでも淹れようかと。」
「あまり時間がたった豆はお勧めできないわね。」
「お客様が来るときに合わせて注文をするよ。オーナーさん。ここはホームページなんかはありませんか。」
「無いですね。その時は連絡をしてもらえば良いんで。あぁ。名刺を渡しておきます。」
のんきに圭太は優斗に名刺を差し出した。優斗のことがわかれば、名刺なんか渡さないのだろうに。功太郎はそう思っていた。
案の定。店が終わり、掃除をしていたときに圭太はその事実を聞いて激怒していた。どうしてそんな大事なことを言わないんだと、憤慨しているようだったのだ。
「どうせ断るのよ。」
響子はそう言って焙煎した豆をパットに広げる。
「でも何でお見合いなんか。」
「あなたもしたわよね。」
そう言われれば言葉に詰まる。確かに年末に圭太も見合いをしたのだ。だがそれは正月にあちらから断られた。
「断るんだろ?」
「って言うか。あちらから断ると思う。」
「どうして?」
「……。」
優斗がゲイだから断るというのは言い辛い。自分の性癖をべらべらと他の人に話されたくないだろうと思うから。
「地元の人だしね。あちらにはお寺があるしどうしても私が帰らないといけなくなるんだろうけど、帰ってみてわかったわ。まだ噂が残っているんだって。」
「……。」
「帰りたくなかったわ。」
その様子に、圭太は心の中で舌打ちをする。そんな用事で帰ったわけでは無いのだろうに。確か母親が入院するとかどうとか言っていたのだ。なのになぜお見合いなんかの話になったのだろう。
「何で見合いなんか……。」
「安心させて欲しいって言ってたけど……そんなことで安心できるとは思えない。」
「何で?」
「結婚しても浮気を繰り返すだろうって。一人の男に縛られたくないんじゃ無いかって。そう言っていたわ。」
案外間違いでは無い。圭太と付き合いながら、一馬と逢瀬を重ねている自分が、淫乱以外の何物でも無いと思っていた。
「嵐みたいな母親だな。」
「外国へ行ってればそんなモノなのか、わかんねぇな。オーナー。外国へ行ったことあるんだ。」
「サラリーマンの時な。社員旅行とかあって、まぁ、一気に会社で行くわけじゃないけど、その時に行ったっけ。あっちのさ、花茶って美味かったよ。ふわっと香りが漂って……。」
まだ真子が生きていた。結局一緒の社員旅行に行くことはなかったが、お土産で買ってきた花茶を、真子は嬉しそうに飲んでいたのを思い出す。
「花茶ね……。」
響子はそう言ってヒジカタコーヒーのカタログを取り出して、中国茶のページを見ていた。
「中華が食べたいな。思いっきり辛い麻婆豆腐とか食べたい。」
功太郎はそう言って、ため息をついた。
「次の日が休みの日にしてね。」
「わかってるよ。」
「それにあれだ。」
圭太は意地悪そうに功太郎に言う。
「何だよ。」
「辛いものを食べると、次の日が大変だぞ。慣れてれば良いけどな。」
その言葉に功太郎はぞっとした。そう言えばそうだったと、頭を抱える。
「すいません。」
イートインの客が、レジ前で声をかける。すると功太郎がそのレジへ向かった。そして圭太は客の座っていた席の皿を下げる。カウンターへ持ってくると、響子が圭太に声をかけた。
「オーナー。今日の夜は何か用事があるかしら。」
「別に無いけど。どうした?」
「お土産を渡したいの。温泉の。」
「……そっか。だったら飯でも食べに行くか?」
「いいえ。何か作るわ。」
その言葉に圭太は少し笑う。そして皿やカップをかごの中に入れていく。その中に仕分けして入れておいたら、真二郎なり功太郎なりが洗ってくれるのだ。
「いらっしゃいませ。」
ドアベルが鳴り入り口を見ると、響子は思わず声を発していた。
「御門さん。」
その名前に、圭太も振り返る。そこには私服を着ている御門優斗が居たのだ。
「本宮さん。ちょっとこっちに来る用事があったから立ち寄ってみたよ。」
「いらっしゃい。」
また新たな男か。功太郎はそう思いながら、優斗を見上げる。だが優斗は功太郎を見て少し微笑んだ。なんとなく真二郎に似ているような感じの男だ。ショートカット背爽やかで背も高い。
ゲイの趣味は無いのに、なんとなく赤くなってしまう。それを誤魔化すようにカウンターへ近づいた。
「イートインでしょうか。」
代わりに圭太が挨拶をすると、優斗は少し笑って言う。
「そうですね……。ブレンドを持ち帰りでお願いします。」
「かしこまりました。響子。」
伝票を切ると、響子は後ろの棚から豆を取り出す。
「知り合い?」
功太郎がそう聞くと、響子は戸惑いながら言った。
「えぇ。……何て言って良いかしらね。同級生だけど……その……。」
「……何だよ。はっきりしないな。」
その時キッチンから真二郎がカウンターに居る響子に声をかける。
「響子。フロアって大丈夫?さっき騒がしかったけど。」
「あぁ。何でも無いのよ。」
その時真二郎も、優斗に目がとまったらしい。そして少し微笑んだ。
「真二郎。」
響子はその視線に敏感に気がついて、真二郎を止めた。
「ごめん。ちょっといい男だなって思って。」
「見境の無い男だこと。それに駄目よ。あの人、相手が居るみたいだし。」
「そうなんだ。残念。響子の知り合い?」
「前に話したことがあるでしょう?御門君。」
「あぁ。お見合い相手か。」
真二郎の言葉に驚いて、功太郎は響子と優斗を交互に見ていた。だがその言葉は、圭太には届いていなかったらしい。ちょうど接客をしていたのだ。
「マジで?」
こっそり響子に聞くと、響子は頷いた。
「えぇ。実家に正月に帰ったときにね。ちょっと色々あったのよ。」
「でも見合いって……オーナーは良い気分じゃ無いだろ?」
「だと思うけど……。」
だが圭太は笑いながら、優斗の接客をしている。
「本宮の同級生ですか。」
「えぇ。正月にうちの寺に来て、コーヒーを戴きました。オーナーさん。ここの豆は通販はしていませんか。」
「あぁ。出来ないことはないと思いますけどね。どうかな。響子。」
すると響子は方をすくませていう。
「輸送の機関に合わせて、焙煎するわ。あなた一人で飲むのでしょう?」
「あぁ。そうだね。たまにお客様も見えるから、その時にでも淹れようかと。」
「あまり時間がたった豆はお勧めできないわね。」
「お客様が来るときに合わせて注文をするよ。オーナーさん。ここはホームページなんかはありませんか。」
「無いですね。その時は連絡をしてもらえば良いんで。あぁ。名刺を渡しておきます。」
のんきに圭太は優斗に名刺を差し出した。優斗のことがわかれば、名刺なんか渡さないのだろうに。功太郎はそう思っていた。
案の定。店が終わり、掃除をしていたときに圭太はその事実を聞いて激怒していた。どうしてそんな大事なことを言わないんだと、憤慨しているようだったのだ。
「どうせ断るのよ。」
響子はそう言って焙煎した豆をパットに広げる。
「でも何でお見合いなんか。」
「あなたもしたわよね。」
そう言われれば言葉に詰まる。確かに年末に圭太も見合いをしたのだ。だがそれは正月にあちらから断られた。
「断るんだろ?」
「って言うか。あちらから断ると思う。」
「どうして?」
「……。」
優斗がゲイだから断るというのは言い辛い。自分の性癖をべらべらと他の人に話されたくないだろうと思うから。
「地元の人だしね。あちらにはお寺があるしどうしても私が帰らないといけなくなるんだろうけど、帰ってみてわかったわ。まだ噂が残っているんだって。」
「……。」
「帰りたくなかったわ。」
その様子に、圭太は心の中で舌打ちをする。そんな用事で帰ったわけでは無いのだろうに。確か母親が入院するとかどうとか言っていたのだ。なのになぜお見合いなんかの話になったのだろう。
「何で見合いなんか……。」
「安心させて欲しいって言ってたけど……そんなことで安心できるとは思えない。」
「何で?」
「結婚しても浮気を繰り返すだろうって。一人の男に縛られたくないんじゃ無いかって。そう言っていたわ。」
案外間違いでは無い。圭太と付き合いながら、一馬と逢瀬を重ねている自分が、淫乱以外の何物でも無いと思っていた。
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