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僧侶
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女がいるという言葉に圭太は少し引きつって、弥生を見る。すると弥生は瑞季の方を見上げてため息をついた。
「やっぱりな。」
「カマをかけたのか?」
「予想通りってことよ。」
弥生はため息をついて圭太に言う。
「何だっけ。あのAV女優みたいな子。」
そこまで見られていたか。圭太はため息をついて弥生に言う。
「妹だよ。」
「誰の?」
「響子の。」
するとますます弥生は首を横に振る。
「ますます呆れた。妹に手を出しているってこと?」
「……無理矢理だよ。」
圭太はため息をつくとお茶に手を伸ばして一口飲んだ。そして瑞季なら、すべて言えると思う。
「多分、夏子が俺に近づいたのは、兄に言われてのことだ。」
「兄?」
「金融会社の専務か何かをしていたっけ。」
「あぁ。俺がどうしても「clover」をしているのが気に入らないと見える。本当なら、俺はあの会社で専務でもしてもらって、将来的に兄が社長になれば良いと思ってるんだ。」
「補佐をしろってこと?」
「そう。」
大きな金融会社だ。テレビやラジオでもCMをしている。ぽっと出てきた金融会社ではなく、代々歴史のある会社なのだ。
「父親はそんなことを思ってないのかわからないけれど、お見合いをさせたのも、夏子をあてがったのもそのためだと思う。」
「響子さんと別れさせて?」
「響子とは会ったことはある。父親は悪い印象ではないけど、兄の嫁とか母には印象が悪い。商売をしているのに愛想がないのが悪いと。」
「まぁな。確かに客商売をしていている立場としては、あぁいう子は使いにくいよ。」
「瑞季。」
瑞季もまたそれを思っていたのだ。笑顔一つ浮かべない。歯に着せぬ物言いで、反感を買う人の方が多いかもしれない。それをサポートしているのが真二郎だったのだろう。だが真二郎もまた人を選ぶところがある。つまり男も女も性的な視点でしか見れないのだ。それをサポートするのが圭太の役目だったはずだ。
「だったらセフレってことか。」
「……そういうことかな。」
「響子さんでは満足できないから、妹に手を出しているってことか。お前、そんな奴だったのか。どうしても響子さんで満足できないなら、一人で抜くとかそんなこともできるんだろうに。」
瑞季もついムキになってしまう。だが圭太には届かない。
「俺だってそうだった。」
夏子と寝るたびに罪悪感に襲われる。響子に似ていないのに、セックスをしていると響子がちらつく。そして響子では絶対出来ないようなことも、夏子は答えてくれるのだ。つまり自分の中のサディストの部分が見えたような気がする。
「俺……。」
自分が別人になったようだ。そして響子にもそれをしそうで怖い。何よりもセックスに恐怖を感じていたのに、やっと圭太とはまともに出来るようになったのだ。なのに自分がそんなことをしたら、響子は自分の手から離れるのではないかと思う。
「っていうかさ。もう離れてるじゃない。」
「いや。どっちかっていうと圭太が離したって感じか。親の思惑通りだな。で、その夏子って子と、付き合うの?」
「……いや。夏子は兄の愛人だし。」
「なんか……AVのイメージそのままの女ね。病気にならないのが不思議だわ。」
「ならないんだろ。女優だから。そういうことも気をつけての女優なんだよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
田作を食べながら、納得するように弥生は頷いた。
「で、圭太。どうするの?」
「……籍だけでも入れようかと。そしたら家も夏子も黙るかなって。」
「馬鹿じゃない?全部隠して結婚しようなんて無理。すぐ別れるに決まってるじゃない。ね?瑞季。」
瑞季はその言葉に咳き込んだ。瑞季も心当たりがないわけではない。大学の時から弥生と付き合っていたのだが、瑞季が浮気を目撃されたのは三度。五年何もなければ、結婚するといっていた。そして今年がその五年目になる。
「でもお前、夏子さんのことを捨てられるのか?」
「……。」
「体の相性って絶対あると思うけどな。」
「お前らはバッチリなのか。」
「まぁ。それなりにね。」
だがお互いに忘れられない相手がいないこともなかった。だがそれをお互いに口に出さないだけ。
「響子さんも満足しているのかな。」
するとその言葉に圭太は咳払いをした。
響子には男がいる。そのことを聞かされたばかりだから。そしてその相手は一馬だとしたら。一番恐れていることだ。
「なぁ。瑞希。」
「何だよ。」
「花岡さんって……店に来ることがあるか?」
「ライブだけだな。個人的に飲みに来ることはないけど、あぁ、コーヒーラムが気に入っているみたいだったけど、実家は酒屋だろ?自分で作ってるのかもな。ほら自宅はK町だし。」
「そっか。」
響子とは仲がいいのはわかる。ライブへ行ったり、ライブのチケットを都合したり、家に行ってご飯を食べたりするほど、一馬の家とも親交があるようだ。それだけに響子が一馬に惹かれているとは思いたくない。
「そういえばさ。花岡さんっていったら、夕べの歌番組に出てたよね。功太郎君と香と観てたけど、手首になんかブレスレットみたいな。」
「ベースとか弾いている人が装飾品を?そういう趣向なのか?」
「ううん。そうじゃないみたい。だってその次に出てたアイドルのライブにも出てたけど、それでも付けてたから。」
「個人的なやつか。彼女からもらったとか、そんなところだろうな。ギタリストでも結婚したら指輪を付けて弾いている人もいるよ。」
一馬に恋人がいるとは聞いていない。前に聞いたときは一年前ほどに別れて作っていないといっていた。
「恋人はいないと言っていたけどな。」
「だったら出来たんじゃないの?なんだかんだ言っても芸能人だし、あの容姿だったらモテるだろうな。でも相当人を選ぶって言ってたか。そうだ。少し前にあったライブだって、花岡さんは相当我慢した方だと思うけど。」
人を選んで付き合うタイプというのは、響子と一緒だ。そして響子がもし、一馬に心を惹かれているとしたら。
圭太はそれでも響子を信じたいと思っていた。惚れているからと自分に言い聞かせて。
「やっぱりな。」
「カマをかけたのか?」
「予想通りってことよ。」
弥生はため息をついて圭太に言う。
「何だっけ。あのAV女優みたいな子。」
そこまで見られていたか。圭太はため息をついて弥生に言う。
「妹だよ。」
「誰の?」
「響子の。」
するとますます弥生は首を横に振る。
「ますます呆れた。妹に手を出しているってこと?」
「……無理矢理だよ。」
圭太はため息をつくとお茶に手を伸ばして一口飲んだ。そして瑞季なら、すべて言えると思う。
「多分、夏子が俺に近づいたのは、兄に言われてのことだ。」
「兄?」
「金融会社の専務か何かをしていたっけ。」
「あぁ。俺がどうしても「clover」をしているのが気に入らないと見える。本当なら、俺はあの会社で専務でもしてもらって、将来的に兄が社長になれば良いと思ってるんだ。」
「補佐をしろってこと?」
「そう。」
大きな金融会社だ。テレビやラジオでもCMをしている。ぽっと出てきた金融会社ではなく、代々歴史のある会社なのだ。
「父親はそんなことを思ってないのかわからないけれど、お見合いをさせたのも、夏子をあてがったのもそのためだと思う。」
「響子さんと別れさせて?」
「響子とは会ったことはある。父親は悪い印象ではないけど、兄の嫁とか母には印象が悪い。商売をしているのに愛想がないのが悪いと。」
「まぁな。確かに客商売をしていている立場としては、あぁいう子は使いにくいよ。」
「瑞季。」
瑞季もまたそれを思っていたのだ。笑顔一つ浮かべない。歯に着せぬ物言いで、反感を買う人の方が多いかもしれない。それをサポートしているのが真二郎だったのだろう。だが真二郎もまた人を選ぶところがある。つまり男も女も性的な視点でしか見れないのだ。それをサポートするのが圭太の役目だったはずだ。
「だったらセフレってことか。」
「……そういうことかな。」
「響子さんでは満足できないから、妹に手を出しているってことか。お前、そんな奴だったのか。どうしても響子さんで満足できないなら、一人で抜くとかそんなこともできるんだろうに。」
瑞季もついムキになってしまう。だが圭太には届かない。
「俺だってそうだった。」
夏子と寝るたびに罪悪感に襲われる。響子に似ていないのに、セックスをしていると響子がちらつく。そして響子では絶対出来ないようなことも、夏子は答えてくれるのだ。つまり自分の中のサディストの部分が見えたような気がする。
「俺……。」
自分が別人になったようだ。そして響子にもそれをしそうで怖い。何よりもセックスに恐怖を感じていたのに、やっと圭太とはまともに出来るようになったのだ。なのに自分がそんなことをしたら、響子は自分の手から離れるのではないかと思う。
「っていうかさ。もう離れてるじゃない。」
「いや。どっちかっていうと圭太が離したって感じか。親の思惑通りだな。で、その夏子って子と、付き合うの?」
「……いや。夏子は兄の愛人だし。」
「なんか……AVのイメージそのままの女ね。病気にならないのが不思議だわ。」
「ならないんだろ。女優だから。そういうことも気をつけての女優なんだよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
田作を食べながら、納得するように弥生は頷いた。
「で、圭太。どうするの?」
「……籍だけでも入れようかと。そしたら家も夏子も黙るかなって。」
「馬鹿じゃない?全部隠して結婚しようなんて無理。すぐ別れるに決まってるじゃない。ね?瑞季。」
瑞季はその言葉に咳き込んだ。瑞季も心当たりがないわけではない。大学の時から弥生と付き合っていたのだが、瑞季が浮気を目撃されたのは三度。五年何もなければ、結婚するといっていた。そして今年がその五年目になる。
「でもお前、夏子さんのことを捨てられるのか?」
「……。」
「体の相性って絶対あると思うけどな。」
「お前らはバッチリなのか。」
「まぁ。それなりにね。」
だがお互いに忘れられない相手がいないこともなかった。だがそれをお互いに口に出さないだけ。
「響子さんも満足しているのかな。」
するとその言葉に圭太は咳払いをした。
響子には男がいる。そのことを聞かされたばかりだから。そしてその相手は一馬だとしたら。一番恐れていることだ。
「なぁ。瑞希。」
「何だよ。」
「花岡さんって……店に来ることがあるか?」
「ライブだけだな。個人的に飲みに来ることはないけど、あぁ、コーヒーラムが気に入っているみたいだったけど、実家は酒屋だろ?自分で作ってるのかもな。ほら自宅はK町だし。」
「そっか。」
響子とは仲がいいのはわかる。ライブへ行ったり、ライブのチケットを都合したり、家に行ってご飯を食べたりするほど、一馬の家とも親交があるようだ。それだけに響子が一馬に惹かれているとは思いたくない。
「そういえばさ。花岡さんっていったら、夕べの歌番組に出てたよね。功太郎君と香と観てたけど、手首になんかブレスレットみたいな。」
「ベースとか弾いている人が装飾品を?そういう趣向なのか?」
「ううん。そうじゃないみたい。だってその次に出てたアイドルのライブにも出てたけど、それでも付けてたから。」
「個人的なやつか。彼女からもらったとか、そんなところだろうな。ギタリストでも結婚したら指輪を付けて弾いている人もいるよ。」
一馬に恋人がいるとは聞いていない。前に聞いたときは一年前ほどに別れて作っていないといっていた。
「恋人はいないと言っていたけどな。」
「だったら出来たんじゃないの?なんだかんだ言っても芸能人だし、あの容姿だったらモテるだろうな。でも相当人を選ぶって言ってたか。そうだ。少し前にあったライブだって、花岡さんは相当我慢した方だと思うけど。」
人を選んで付き合うタイプというのは、響子と一緒だ。そして響子がもし、一馬に心を惹かれているとしたら。
圭太はそれでも響子を信じたいと思っていた。惚れているからと自分に言い聞かせて。
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