彷徨いたどり着いた先

神崎

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ブレスレット

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 「clover」が休みの日。功太郎は、自分の家の掃除をして過ごしていた。姉である真子が生きているときも、真子が自宅に帰って功太郎の部屋を見て「汚い」とか「臭い」とか言うことがあったのがショックだったのでまめに掃除はしているが、さすがにエアコンのフィルターや電気のかさや換気扇なんかは行き届かない。
 カーテンを洗って吊しておいたおかげで、夕方、買い出しに出かけた功太郎がそのカーテンに触れると、もう乾いているようだった。
「よし。よし。」
 その時功太郎の携帯電話がなる。相手を見ると、それは女からだった。合コンで息があって、こうやってたまに連絡を取ることがある。その話題は他愛もないことだ。
 その女は全国チェーンの雑貨屋に勤めていて、クリスマスが終わって一息付く間もなく今度は福袋を積めているらしい。やっと今日は終わって、この近くに用事があるから少し会いたいと言ってきた。
 実際に会うのは久しぶりだと思う。ちょうど夕食も食べたいし、ちょうど良いと待ち合わせをした。

 功太郎は家に帰ってくると、電気をつけてため息を付いた。女というのはそんなものなのだろうかとさえ思えてくる。
 女は見た目は高校生のように見えるが、功太郎よりも少し年下なだけ。すれていない感じがしてそこが良いと思っていたのだが、今日の話で気分がそれた。
「彼氏と別れそうだから、別れたら功太郎君とつきあいたいな。」
 男と別れたらすぐに次の男を捕まえようとするものなのだろうか。真子も、響子もそんなタイプではないので少し油断したのかもしれない。
 干してふかふかになった布団に洗い立てのシーツをかぶせているそこに、バッグを投げてエアコンのスイッチを入れる。その時だった。また携帯電話がなる。その相手を見て、功太郎は少し笑った。
「もしもし?ん?今家だけど。」
 相手は弥生だった。瑞希の実家と、父親の実家から餅をもらったのだが、三人で食べきれる量ではないので少しもらって欲しいということだった。
「良いけど。明日店にでも持ってくる?そしたら響子たちにも分けられるし。」
 功太郎は断らないと思ったのだろう。実はもう持ってきて、この街にいるのだという。香が案内するので、家に来ても良いかと言ってきた。弥生と一緒だったら問題ない。
「良いよ。今、俺も帰ってきてさ。飯を食おうかと思ってたから。」
 女と食事をする予定だったのだが、どうしてもそんな気分になれなかった。それにこのもやもやした気分を晴らしたいと、簡単でも良いから食事を作ろうと材料を買ってきたばかりだ。
 ご飯は炊けている。電話を切り、材料を冷蔵庫に入れる。響子が教えてくれた食事は、あまり料理の経験がない功太郎でもすぐに作れるものだ。簡単で、でもバランスがよく取れている。
 その時玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、弥生と香の姿がある。そして香の手にはビニールの袋があった。
「おっ。こんなにもらって良いのか?」
 袋の中身を見ると、切り餅がいくつも入っている。しばらくご飯を炊かずにすみそうだ。
「いいよぉ。カビるよりましじゃん。お餅って冷凍できるから。トースターある?」
 そう言って弥生は玄関の方からキッチンをのぞく。その行動に、功太郎は少し笑った。
「あがって良いよ。今日掃除したばっか。」
「大掃除?すごいね。いつもより綺麗。」
 香はそう言って家にあがる。その言葉に弥生も少し笑った。
「いつもって……いつも来てるみたいね。香。」
「いつも来てるから。ねぇ。姉ちゃん。ここにさ……。」
 パイプベッドの下を香が探ろうとして、あわてて功太郎はそれを止める。
「何やってんだよ。お前。」
 すると弥生はたまらず笑った。
「良いわよねぇ。一人暮らしの男の子の家に、エロ本とかソフトとかない方が可笑しいわよ。瑞希だって持ってるんだから。」
「瑞希さんとか、不自由してなさそうなのに。」
「それとこれとは別なのよ。あいつの趣味可笑しいんだから。」
 男前な方だと思う瑞希でも、そんな趣味があるとは少し意外だった。
「功君。何か食べた?」
「今から。」
「遅くない?あまり夜遅いと太るよ。」
「オーナーに言ってやって。この間、店が終わって焼き肉食べにいったんだし。」
「若いわねぇ。」
 それに響子は付いていかなかった。明日も仕事だと、焼き肉なんかは食べれないらしい。
「お茶でも淹れようか?」
「あー。いいの。実はさ。ちょっと二時間くらい香を預かって欲しくて。」
「は?」
 キャベツを手にして、功太郎は呆れたように弥生をみる。
「何で?」
 すると弥生はキッチンに立つ功太郎に近づいた。香はテレビをつけてそれを見ているように見える。テレビの画面には、香が好きなお笑いのコンビが漫才をしていた。
「父に恋人がいてね。」
「あぁ。独身だっけ。」
「そう。香とこの前会わせたら、どうしても香が受け付けなくてね。ちょっと三人で話をすることになったのよ。」
「三人?それに受け付けないって?」
「まぁ……あっちも子供がいるんだけど、正確にはその子供が受け付けないって言うか。」
 血の繋がりのない身内が出来るようなものだろう。それが香も複雑にさせている。
「その子供っていくつ?」
「十三。香の一つ上の男の子。でも何かこう、妙に大人びたことを言うこともあってね。」
「そう言うの言いたい年頃だろ。」
「そうは言ってもね。」
「あのさ。俺も血の繋がりのない姉が居たんだけどさ。そう最初っから受け入れた訳じゃねぇよ。すげぇ喧嘩したし、口を利かないときもあったし。でも……離れられなかったから。」
 いつの間にか真子を女としてみていた。だから圭太が言ったことを許さないつもりだった。
「……家族になるし、いずれあたしも家を出ると思うの。父さんはあの調子で家に帰ってこないときもあるし、香と義理の母と血の繋がりのない兄と居ることが多いわ。だから気が合わないとか、そんな理由で香がグレたりしたら……。」
「グレねぇだろ。走るのに夢中でさ。」
 ちらっと香をみる。こちらのことは気にならないように、テレビを見ていた。
「だからよ。何がきっかけでそっちの道に走るかわからないし。あんた香をちゃんと見てくれる?」
「何で俺が……。」
 すると弥生は少し笑ってさらに声のトーンを下げて言う。
「好きでしょ?」
「ばっ……。」
 思わず声が大きくなった。それに香が反応してこちらをみる。すると弥生が誤魔化すように冷蔵庫を開けた。
「カレーなら作れそうね。」
「明日仕事だし、カレーはパス。キャベツと挽き肉の味噌炒め作る。」
「あら。美味しそう。最近はカット野菜もあるし便利よねぇ。香。味噌炒めですって。」
「わーい。食べたい。」
「ご飯がねぇよ。」
「ぶー。」
 頬を膨らませて、膝を抱えた。
「ご飯食べたばかりじゃない。じゃあ、功太郎君。悪いわね。少ししたら迎えにくるから。」
「置くことが前提かよ。まぁ良いけど。テレビとか見させてればいいんだろ?」
「手は出しても良いけど、ちゃんと責任はとってね。」
「ださねぇよ。」
 弥生はそう言ってコートを着ると、バッグを持ち部屋を出ていく。二人の時間が、また訪れるのだ。
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