彷徨いたどり着いた先

神崎

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ブレスレット

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 あまり圭太にはこんな騒がしい街には用事がなかった。だが夏子には馴染みがあるらしい。どうやら夏子は撮影があって、この街にやってきていたらしいのだ。
 撮影は逆ナンパをしてそのままセックスをするモノだ。痴女だという愛蜜のイメージはまだ強い。来年になればそれもわからないが。
 その片隅にある安っぽいラブホテルの一室にやってきたのは、もう日が暮れてからだった。それまで食事をしたりお茶を飲んでいたのだが、夏子の方がもう限界だったらしい。
 気が付いた人がいたのかわからないが、夏子の太股が濡れている。
 さんざん撮影でセックスをしてきたはずなのに、それは夏子が満足するようなものではなかったのだろう。圭太は連絡をもらい、会いたいならと条件を出したのだ。
「スカート上げろよ。」
 夏子は顔を赤くして、スカートをまくり上げた。黒いレースの下着の股間の部分が不自然に盛り上がっている。すると圭太はスーツのポケットから小さな機械を取り出す。それはリモコンだった。そのつまみを上げると、夏子から声が漏れる。
「あっ!急に強くしないで!」
「こんな機械で満足してんだし、別に俺じゃなくても良いだろ。」
 会いたいならリモバイを付けてこい。そう圭太は言ったのだ。二人であるいているのはデートのように見えるが、実は急に圭太がスイッチを入れたりその衝撃を強くしたりして、スリルがあった。
 夏子はこの数時間でどれくらい隠れて絶頂に達したのだろう。それがわかるように、もう下着がお漏らしでもしたようにグチョグチョになっている。
「圭太じゃないと駄目なのぉ。」
 そういわれてすがる度に、圭太はそれを突き放したくなる。だがその面影が、響子に似ていて離せない。
「あっ!ああああ!」
 我慢が出来ないように夏子は立ったまま、絶頂に達してしまったらしい。下着の脇から丸いその機械が出てきて足下に転がる。
「ちゃんと締めて納めてろよ。緩いのか?お前のマ○コ。」
「違う……違うからぁ……。」
 顔を赤くして、圭太を見上げる。
 この間、久しぶりに響子とセックスをした。響子の体はいつも気持ちが良い。なのにどこか物足りなさを感じていた。
 いつか手を強く握り、自由を利かせないようにしてしたことがある。それに響子は怒っていたようだが、正直それがとてもゾクゾクした。紐で手を結ぶのも良い。ソフトなものであれば、響子も受け入れるかもしれないのだ。
 圭太はネクタイを取ると、夏子の手首を縛る。そしてベッドに転がした。そのネクタイにネクタイピンが付いている。響子からもらったものだ。それを今夏子に付けている。それがとてもやるせない。

 夜間保育がある目の前に公民館がある。その駐車場で炊き出しの鍋のようなモノを用意して鍋をしている。どうやら北の方の出身の人がいたらしく、いわゆる芋煮というものだ。
 響子はそれを口にして笑顔になる。
「美味しい。醤油ベースみたい。」
「一味を入れるとさらに美味しいわよ。」
 葉子はそう言っていたが、響子はそれを拒否する。
「明日から仕事だし、辛いモノはちょっと。」
「そう言っていたわね。香辛料が味覚を狂わせるって。」
 葉子はそう言ってその芋煮をまた口にしていた。離れたところでは葉子の子供だろう二人の子供が、夜間保育の子供たちとやはり芋煮を食べている。
「俺、おかわりを。」
 隣に座っていた一馬がそう言ってまた鍋に近づく。
「あの子一人で食べてしまいそう。」
「本当。食欲旺盛ですね。」
「響子さんは食べなさすぎね。絵里子でももう少し食べるわ。」
 小学生より食べないと言われると思ってなかった。響子は少し苦笑いをする。
「おにぎりもあるからもらってくれば?」
「そうですね。」
 そう言ったモノの、総菜屋が用意してくれたおにぎりはそれ一つが相当大きい。これ一つでお腹一杯になりそうだ。
「んー……どうしようかな。」
「響子さんは細いから、もう少し食べた方が良いわ。貧血とかならない?」
「あぁ。貧血はいつもですから。」
「だったら色の濃い野菜を食べると良いわ。本当は赤身のお肉とか、レバーとかが良いんだけど。」
「たまに食べますね。」
 真二郎がたまにそう言って買ってきてくれることもあるのだ。正直あまりレバーは好きではない。独特の臭みが苦手なのだ。
「女の子はそれでなくても貧血気味なのよ。月に一度血を出すから。」
「そうですね。母もそう言っていました。」
 響子も夏子も初潮が来たのは早かった。だから体もそれなりに育ち、中学生の頃には大人がコスプレをして制服を着ているように見えたらしい。だから響子は拉致されたのだ。
「家族とは仲がいいの?」
 すると響子は首を横に振る。
「いいえ。良好とは言えませんね。」
 響子はそう言ってまた里芋を口に運ぶ。
「そう……。でも結婚するとかそういう話になると、イヤでも挨拶に行かないといけないんでしょうね。」
 それは一馬のことを言っているのだろうか。やはり葉子は少し勘違いをしている。否定しようと響子は葉子の方をみた。
「あの……葉子さん。一馬さんとはそういう関係ではなくてですね。」
 するとおにぎりと芋煮を手にした一馬が戻ってきた。そして響子の方を見る。
「何を話しているんだ。」
「葉子さんが勘違いをしているみたいで。」
 すると一馬もやはりかと、ため息を付いた。
「あたしたちにまで隠さなくてもいいのよ。別にほら週刊誌とかテレビに話すつもりもないし。」
「じゃなくてですね。」
「でも一馬さんが響子さんのおうちに挨拶に行くなら、その髪を切った方が信用されるかもね。」
 駄目だ。何も聞いていない。響子は一馬を見上げると、一馬ももう諦めたようにおにぎりに口を付けていた。
「それに来年一馬さんは引っ越すのに、間取り見たら一人暮らしの部屋みたいで。」
「一人暮らしだけど。響子さんには家があるし。」
「同居すればいいのよ。そりゃね。時間は不規則だけど慣れれば何て事はないし、子供でも出来たら寂しいなんて言う余裕もないだろうし。」
 それ以前の問題なのだが。響子はそう思いながら芋煮に口を付ける。
「髪は切りたくない。」
 はっきりと一馬がそういうのは初めて聞いた。何か願でも掛けているのだろうか。
「この調子だもの。響子さん。ちょっと言い聞かせた方が良いわ。」
「何をですか?」
「ちょっとは人の言うことも聞いた方が良いって。」
 それは自分のことだ。響子は呆れたように葉子を見ていた。
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