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修羅場
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陸上クラブの練習は冬休みになってもあり、香は真面目にそれに出ていた。香は秋に全国の大会に出るほど、優秀なランナーだと思う。だが香自身は別にそれを鼻にかけることもなく、ただ走るのが好きだというだけだった。
そしてクラブがあるというのは弥生にとっても都合がいい。昼間にだらだら家にいたり、遊びに行ったりするよりはよっぽど健康的だ。
その帰りに同じ方向で帰る女子から今日の夜のことを、聞かれて素直に答えたのだ。
「えー俊先輩と?」
その言葉に香は不思議そうな顔をする。
「何で?お向かいさんだし、家に誰も居ないっていうし呼ぶのって変?」
「他に誰か居るの?お姉さんとか。」
「姉さんは仕事。お父さんはいるかもしれないけどね。」
あやふやな答えに、その女子がいう。
「俊先輩ってめっちゃ人気あるんだよ。王子って言われてるし。」
「王子?すごいね。そんな人気あるんだ。うん。頭も良いしね。確かにそれはモテるかも。」
香には何も響かない。心にはまだ功太郎がいたから。
「じゃなくてさ。そんな人とクリスマス過ごすなんてさ。」
「別に普通の平日じゃん。何かあるの?」
「プレゼントとか。」
「あー。うちってサンタさん毎年来なかったし。」
たぶん今年もない。期待もしていない。そう思っていた。
「そっか。」
あまりにも香は俊を意識していない。見た目は高校生のように見えるが、やはり頭の中は同学年にしては少し幼い感じがする。
「あー。でもこの間、愛理ちゃんが言ってた、ドラマ見たよ。」
「超格好いいよね。あの俳優さん。」
それを見て何となくわかった。クリスマスイブが特別な日で、ツリーの前でプロポーズなんかをすれば、ロマンチックだと思えるから。
「あたしには関係ないかな。」
「えー?そう?憧れる。あたし。」
功太郎では絶対そんなことをしてくれない。まだ子供だと思っているから。
それに最近は功太郎が恋人のような女性が居ることもわかる。だからあえて身を引きたかった。
もやもやしたまま香は家に帰ってくる。するとそこには父親の姿があった。
「早かったね。どうしたの?」
まだ夕方の時間だ。こんなには約帰れると思ってなかった香は驚いて、父親を見る。
「クリスマスイブに接待なんかはしないよ。家庭持ちなら尚更だ。」
「そっか。」
すると部屋から弥生が寝起きで起きてきた。今日はこれから仕事らしい。
「父さん。今日、向かいの俊君も来るって言ってたよ。」
「そうだったな。だから大きなケーキだ。」
夜勤明けの弥生が「clover」で予約のケーキを持って帰ったのだ。
「でも父さんいいの?」
「何が?」
「莉子さん。」
その名前に香は驚いて父親を見る。すると父親は頭をかいて、弥生を見た。
「まだ結婚するとかそういう話じゃないんだ。弥生たちの方が早いよ。」
香は驚いて父親と弥生と交互に見る。すると弥生は少し笑って言う。
「父さん。彼女が居るのよ。」
すると父親は恥ずかしそうに香を見る。
「えー……。」
香は口を尖らせて父親を見る。
「悪い人じゃないみたい。いずれ会わせてくれるわ。」
弥生はそういってくれた。父親もいずれなと言ってくれた。
だが香の気持ちはもやもやしたままだった。ずっと黙っていたこと。隠れるように会っていたこと。こんなこと俊にも言えない。
そして夜になり、俊が来てケーキを食べてもそのもやもやは収まらなかった。
そして夜中になり、香は寝るふりをしてベッドに横になった。すると父親がそっと部屋のドアを開けて、それを確認すると玄関のドアが開く音がした。
それを聞いて香はそのまま服を着替え、夜の町に出て行った。功太郎に会いたかった。その一心だったのだ。
携帯電話が鳴る。功太郎はそれを手にすると、その相手は香の父親だった。
「もしもし。あぁ。うちにいるっす。どうしたらいいんですか。」
すると父親は朝迎えに行くと言った。どんな父親だ。そう思って功太郎はその携帯電話をベッドに投げる。
こんな状態で手を出せない状況なんて生殺しだ。朝迎えに来るということは、泊まらせろということだろう。布団の余分などない。どうしたらいいかと思っていた。
「功君。」
「何?」
香はそんな功太郎の気持ちを知らずに、コンビニの袋を取り出す。そしてそれを功太郎に手渡した。
「何だよ。」
その袋を開けると、そこにはイチゴのショートケーキがあった。
「クリスマスだもん。ケーキ屋さんなのに、ケーキ食べてないんでしょう?」
「そうだけど……。」
「これ、あげたかったの。いつもケーキを売るばかりで、功君は口にしないもんね。」
コンビニのケーキは最近クオリティが高い。これも美味しそうだ。
「……ありがとう。」
素直にそれを受け取った。その時功太郎は不思議な感覚だったと思う。
施設にいたときはそれなりにクリスマスというイベントがあった。サンタがやってきて、菓子が入った袋を手渡してくれたのだ。それにケーキもあったと思う。
だが養子に行ってそんなことはなくなった。プレゼントやケーキなどはなく、ただもう少しご飯が食べたいという願いすら届かなかったのだ。
クリスマスにこんなケーキをもらうのは久しぶりだったかもしれない。
「お前、いい奴だな。」
そういってテーブルにケーキを置くと、くしゃくしゃと香の頭を撫でる。すると香はいたずらっぽく笑った。
「嬉しい?」
「うん。でもそれとこれとは別。」
父親は泊まらせて欲しいと言った。だがそれはやはり出来ない。タクシーでも何でも良いから帰らせたかった。
「香。今日は帰れよ。」
「えー?」
「ダメ。うち布団一つしかないし。」
「一緒に寝ればいいじゃん。」
「ダメ。」
すると香は頬を膨らませる。そしてベッドに上がり込み、布団の中に潜り込んだ。
「お前、出ろよ。」
「やだ。」
「この……。」
無理矢理にでも出してやろうかと思い、その布団の中に手を入れる。すると香の笑い声が聞こえた。
「やだ……くすぐらないでよ。あはは……。」
「お前なぁ。」
すると手の先に柔らかい物が触れた。思わずその手を引く。それは香の胸だったのだろう。布団をはぐと、香が顔を赤くして、功太郎を見ていた。
「わざとじゃねぇよ。」
そのとき香は手を伸ばして、功太郎の手を引いた。そしてその指を口元に持ってくる。
「甘い匂いがするね。功君の手。大好きな手だよ。」
柔らかい物が触れた。しっとりとしている。だがすぐに功太郎はその手をよける。
「タクシー……。」
「功君。」
手を引かれる。功太郎はその手をもう拒めなかった。ベッドに乗り上げると、香の隣で横になる。そして香の頭にキスをした。
そしてクラブがあるというのは弥生にとっても都合がいい。昼間にだらだら家にいたり、遊びに行ったりするよりはよっぽど健康的だ。
その帰りに同じ方向で帰る女子から今日の夜のことを、聞かれて素直に答えたのだ。
「えー俊先輩と?」
その言葉に香は不思議そうな顔をする。
「何で?お向かいさんだし、家に誰も居ないっていうし呼ぶのって変?」
「他に誰か居るの?お姉さんとか。」
「姉さんは仕事。お父さんはいるかもしれないけどね。」
あやふやな答えに、その女子がいう。
「俊先輩ってめっちゃ人気あるんだよ。王子って言われてるし。」
「王子?すごいね。そんな人気あるんだ。うん。頭も良いしね。確かにそれはモテるかも。」
香には何も響かない。心にはまだ功太郎がいたから。
「じゃなくてさ。そんな人とクリスマス過ごすなんてさ。」
「別に普通の平日じゃん。何かあるの?」
「プレゼントとか。」
「あー。うちってサンタさん毎年来なかったし。」
たぶん今年もない。期待もしていない。そう思っていた。
「そっか。」
あまりにも香は俊を意識していない。見た目は高校生のように見えるが、やはり頭の中は同学年にしては少し幼い感じがする。
「あー。でもこの間、愛理ちゃんが言ってた、ドラマ見たよ。」
「超格好いいよね。あの俳優さん。」
それを見て何となくわかった。クリスマスイブが特別な日で、ツリーの前でプロポーズなんかをすれば、ロマンチックだと思えるから。
「あたしには関係ないかな。」
「えー?そう?憧れる。あたし。」
功太郎では絶対そんなことをしてくれない。まだ子供だと思っているから。
それに最近は功太郎が恋人のような女性が居ることもわかる。だからあえて身を引きたかった。
もやもやしたまま香は家に帰ってくる。するとそこには父親の姿があった。
「早かったね。どうしたの?」
まだ夕方の時間だ。こんなには約帰れると思ってなかった香は驚いて、父親を見る。
「クリスマスイブに接待なんかはしないよ。家庭持ちなら尚更だ。」
「そっか。」
すると部屋から弥生が寝起きで起きてきた。今日はこれから仕事らしい。
「父さん。今日、向かいの俊君も来るって言ってたよ。」
「そうだったな。だから大きなケーキだ。」
夜勤明けの弥生が「clover」で予約のケーキを持って帰ったのだ。
「でも父さんいいの?」
「何が?」
「莉子さん。」
その名前に香は驚いて父親を見る。すると父親は頭をかいて、弥生を見た。
「まだ結婚するとかそういう話じゃないんだ。弥生たちの方が早いよ。」
香は驚いて父親と弥生と交互に見る。すると弥生は少し笑って言う。
「父さん。彼女が居るのよ。」
すると父親は恥ずかしそうに香を見る。
「えー……。」
香は口を尖らせて父親を見る。
「悪い人じゃないみたい。いずれ会わせてくれるわ。」
弥生はそういってくれた。父親もいずれなと言ってくれた。
だが香の気持ちはもやもやしたままだった。ずっと黙っていたこと。隠れるように会っていたこと。こんなこと俊にも言えない。
そして夜になり、俊が来てケーキを食べてもそのもやもやは収まらなかった。
そして夜中になり、香は寝るふりをしてベッドに横になった。すると父親がそっと部屋のドアを開けて、それを確認すると玄関のドアが開く音がした。
それを聞いて香はそのまま服を着替え、夜の町に出て行った。功太郎に会いたかった。その一心だったのだ。
携帯電話が鳴る。功太郎はそれを手にすると、その相手は香の父親だった。
「もしもし。あぁ。うちにいるっす。どうしたらいいんですか。」
すると父親は朝迎えに行くと言った。どんな父親だ。そう思って功太郎はその携帯電話をベッドに投げる。
こんな状態で手を出せない状況なんて生殺しだ。朝迎えに来るということは、泊まらせろということだろう。布団の余分などない。どうしたらいいかと思っていた。
「功君。」
「何?」
香はそんな功太郎の気持ちを知らずに、コンビニの袋を取り出す。そしてそれを功太郎に手渡した。
「何だよ。」
その袋を開けると、そこにはイチゴのショートケーキがあった。
「クリスマスだもん。ケーキ屋さんなのに、ケーキ食べてないんでしょう?」
「そうだけど……。」
「これ、あげたかったの。いつもケーキを売るばかりで、功君は口にしないもんね。」
コンビニのケーキは最近クオリティが高い。これも美味しそうだ。
「……ありがとう。」
素直にそれを受け取った。その時功太郎は不思議な感覚だったと思う。
施設にいたときはそれなりにクリスマスというイベントがあった。サンタがやってきて、菓子が入った袋を手渡してくれたのだ。それにケーキもあったと思う。
だが養子に行ってそんなことはなくなった。プレゼントやケーキなどはなく、ただもう少しご飯が食べたいという願いすら届かなかったのだ。
クリスマスにこんなケーキをもらうのは久しぶりだったかもしれない。
「お前、いい奴だな。」
そういってテーブルにケーキを置くと、くしゃくしゃと香の頭を撫でる。すると香はいたずらっぽく笑った。
「嬉しい?」
「うん。でもそれとこれとは別。」
父親は泊まらせて欲しいと言った。だがそれはやはり出来ない。タクシーでも何でも良いから帰らせたかった。
「香。今日は帰れよ。」
「えー?」
「ダメ。うち布団一つしかないし。」
「一緒に寝ればいいじゃん。」
「ダメ。」
すると香は頬を膨らませる。そしてベッドに上がり込み、布団の中に潜り込んだ。
「お前、出ろよ。」
「やだ。」
「この……。」
無理矢理にでも出してやろうかと思い、その布団の中に手を入れる。すると香の笑い声が聞こえた。
「やだ……くすぐらないでよ。あはは……。」
「お前なぁ。」
すると手の先に柔らかい物が触れた。思わずその手を引く。それは香の胸だったのだろう。布団をはぐと、香が顔を赤くして、功太郎を見ていた。
「わざとじゃねぇよ。」
そのとき香は手を伸ばして、功太郎の手を引いた。そしてその指を口元に持ってくる。
「甘い匂いがするね。功君の手。大好きな手だよ。」
柔らかい物が触れた。しっとりとしている。だがすぐに功太郎はその手をよける。
「タクシー……。」
「功君。」
手を引かれる。功太郎はその手をもう拒めなかった。ベッドに乗り上げると、香の隣で横になる。そして香の頭にキスをした。
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